第17話 成金王子アラファト
「続いて、魔石についてです」
テレビ画面が切り替わった。
そこに映し出されたのは、少し小太りの男だった。
高級そうな服を着て、髪型もきっちり整えている。
「今回、専門家としてお越しいただいたのは、荒木さんです」
「よろしくお願いします」
アキラがコーヒーを飲みながら画面を見る。
「……あ」
「どうしたの?」
ユウが振り返る。
「あれ、知ってる」
「え?」
「成金王子アラファトだ」
「成金王子?」
ユウが首を傾げる。
「あぁ。あいつ、アゲダマ戦記で有名だったんだ」
アキラはテレビから目を離さない。
「ゲーム内の個人ランキング3位」
「そんなに凄い人なの?」
「いや」
アキラは笑った。
「あいつ自身はしょぼい」
「え?」
「財力が凄いんだよ」
アキラは楽しそうに説明する。
「アラファトはアゲダマ戦記で、かなりあくどい商売をやって大儲けしたんだ」
「へえ……」
「ゲーム内通貨を使って、プレイヤーを買収したり、ギルド同士を争わせたり、とにかく金を使いまくってた」
「それでランキング3位?」
「装備だけならな」
アキラはニヤニヤする。
「一度、あいつの取引に乗ったふりして、全部ひっくり返すドッキリを仕掛けたことがある」
「何それ……」
「そしたらマジでキレてな」
アキラは笑いながら首を振った。
「その後、何度か暗殺部隊を送られた」
「暗殺部隊!?」
「ゲームの中でな」
「怖いよ!」
テレビの中では、アラファトが真面目な顔で話している。
「スライムは、衣服などを溶かす特徴があります」
「……」
アキラがテレビを見る。
「ゴブリンは、比較的知能が低い魔物です」
「……」
「チョリキは、巨大化したイノシシのような魔物です」
「……」
アキラはコーヒーを飲んだ。
「当たり障りのないことしか言ってないな」
「そう?」
「もっと知ってるはずだ」
アラファトは魔物の特徴について説明している。
だが。
魔石については、ほとんど触れない。
「魔石には特殊なエネルギーが含まれている可能性があります」
その程度だった。
アキラはテレビをじっと見た。
「……こいつ」
「何?」
「また大儲けしようと企んでるな」
「どうして?」
「魔石について何も言わない」
アキラは笑う。
「ゲーム内で商売してた奴が、今さら無料で情報を公開すると思うか?」
「なるほど……」
アラファトの話は続く。
だが、アキラが待っているものは出てこない。
魔石の色。
魔石の価値。
魔石の使い道。
魔石を使った錬金術。
そういった情報については、一切語らなかった。
「やっぱりな」
アキラは呟いた。
そして、少し考える。
「……鑑定」
アキラは画面に映るアラファトを見た。
だが。
「やっぱり無理か」
「何が?」
「テレビ越しじゃ鑑定できない」
ゲームなら、画面に映ったキャラクターのステータスを見ることなどできなかった。
現実になった今でも、それは同じらしい。
「じゃあ、あいつのレベルは分からないんだ」
「そういうこと」
アキラは画面のアラファトを観察する。
「それにしても……」
小太りの体型。
高級そうな服。
テレビに映る露出した手や顔。
「大した戦闘力はなさそうだな」
「見ただけで分かるの?」
「俺が今まで戦ってきた魔物や自分の身体と比べれば、なんとなく分かる」
アキラは立ち上がった。
「さて」
「?」
「今日も狩りに行くぞ」
アキラは昨日作ったミスリルの柳葉包丁を手に取った。
腰には新しく作ったカーボンの鞘。
ユウの槍も、棒の部分はマグネシウム。
そして槍先はオリハルコン。
「新しい装備の性能を試してみたい」
ユウも槍を持つ。
「そうだね」
「あ」
アキラが思い出したように言った。
「オリハルコンの形状変化だけど」
「うん」
「今の魔力だと、1日1回が限界だからな」
「そうなんだ」
「魔力を10使うからな」
ユウはスマートフォンを見る。
【魔力:19/19】
「昨日は1回使ったから、今日はまだ大丈夫」
「そういうこと」
ユウが少し考える。
「あ、私、もう1つ思ったんだけど」
「何?」
「昨日のLINE」
「??……」
アキラの顔が曇る。
「クラスのグループLINE?」
「うん」
ユウはスマートフォンを見せた。
そこには大量の通知。
「私たちのグループに、アキラも追加してほしい」
「……」
アキラは画面を見る。
通知。
通知。
通知。
さらに通知。
「めんどくせぇな~」
「でも、みんなアキラに聞きたいことがあるみたいだよ」
「俺はゲームの攻略サイトじゃないぞ」
「でも詳しいじゃん」
「……」
アキラは黙った。
そしてテレビを見る。
画面では、まだアラファトが魔物について説明している。
「……まあ」
アキラはため息をついた。
「情報交換くらいならいいか」
「じゃあ追加するね!」
「おい、待て」
「もう押した」
「早っ!」
ピコン。
アキラのスマートフォンに通知が入った。
【クラスグループに追加されました】
「……」
直後。
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
「うわ……」
アキラの顔が引きつる。
「もう始まった……」
スマートフォンの通知が、猛烈な勢いで増えていく。
【アキラ大帝様様! 魔物について教えて!】
【スライムって本当に服溶けるの?】
【魔石って何に使うの?】
【レベルってどうやって上げる?】
【安全な魔物っている?】
【今日学校どうなる?】
【食料どこで手に入る?】
「……」
アキラはスマートフォンを伏せた。
「狩りに行こう」
「逃げた!」
「狩りのほうが楽だ!」
ユウは笑いながら槍を持った。
「じゃあ行こう!」
2人は新しい武器を手に、玄関へ向かった。
その頃。
テレビでは、成金王子アラファトが、誰にも知られない笑みを浮かべていた。
魔石について語らなかった理由を知る者は、まだ誰もいなかった。




