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静かなる救出劇と、不気味な森の足音

「サーガには通常、偉大な英雄的偉業、強大な魔物を討伐すること、あるいは大軍(あるいは小規模な軍勢)を栄光の勝利へと導くことがつきものである。数百年前、『麦の王国』の並外れた才能を持つ語り手が、一頭の素朴な農場の牝牛と、それがとある一日に巻き込まれる、むしろ平凡でありながらなぜかユーモラスな珍道中についての物語を語った。それは人気のある物語となり、彼はその後も、主に牛がやるような単純なことをしながらも常に面白いひねりが加えられた牛についての話を次々と生み出した。やがて他の語り手たちも自分なりの牛の伝説を紡ぎ出すようになった。牛が典型的な出来事を経験するという元の形式を守る者もいたが、有名な戦いに偶然迷い込んだり、王族の結婚式を台無しにしたり、果ては殺人陰謀を阻止したりする牛の物語を語る者もいた。その物語はある程度の人気を他の農業社会でも博したが、世界のその他の地域では、到底理解できない地元の奇習とみなされていた。『麦の王国』では、牛の物語はその文化的遺産の一部とみなされており、今でも折に触れて語られている。そのような語りを聞く機会に恵まれた訪問者は、ぜひ鑑賞することを勧められている。過去に非常に多くの物語が書かれたため、『麦の王国』の語り手の真の力量は、真に独創的な牛についての物語を書く能力にあると言われているのだ」

——『タイコロスの年代記』より


レザは慎重にドアを開け、部屋の暗さに目が慣れるまで出入り口で足を止めた。そこは恐怖と、その生理的な副産物のせいで、何とも言えないいやな匂いが漂っていた。彼は簡易ベッドの上に誰かが横たわっているのを見た。ひどく目隠しをされ、両手は背中に縛られていた。


「私の声が聞こえるか?」と彼は声をかけた。


「私はここよ」と彼女は大声で答え、彼の方を向こうと簡易ベッドの上で体を翻した。「耳に何か詰められていて、目隠しをされているの」


「よし、クラリッサ。彼女を自由にしてやってくれ」とアバナシーが言った。


彼女はその人物にゆっくりと近づいた。「私は友人よ。あなたを自由にしてあげる」彼女はできるだけ大きな声で言いながら簡易ベッドへと歩み寄り、目隠しを解いて巻き付いていた布をほどいた。女の耳には何か詰められていたが、クラリッサは自分の指でそこをほじくり回すのは気が引けた。彼女は少年が言っていた通り緩められていた女の手首の縛り目を切り、自由になったその手が即座に耳へと伸び、そこに詰まっていたものを小さな塊ごと掴み出して床へと投げ捨てるのを見守った。


「あなたの名前は?」とクラリッサが尋ねた。


「私はアンドレアよ」と彼女はためらいがちに言った。「神々に感謝を、ちゃんと聞こえるようになるなんて嬉しいわ」


「あなたを家に連れ帰るためにここにきたの。でも私は責任者じゃない。彼に説明してもらうわ。もう安全だから」クラリッサは安心させるような笑みを向け、アバナシーが入ってくるのと入れ替わりにその場を離れた。


「私の名前はアバナシーだ。テペシュの友人だよ。できるだけ早くサファイア・シティへ連れ戻すつもりだ」と彼は言った。彼女は今や簡易ベッドの上に起き上がり、時折手首をさすったり、耳からさらにゴミをかき出したりしていた。


「あんなに耳垢を詰められても、音が聞き分けられないわけじゃない、何かが起きている音は分かったわ。今すごい物音がしたけど。全員殺したの?」


「あまり選択肢がなかったんだ。奇襲以外のやり方では、君に危害を加える機会を連中に与えてしまう危険があったからね」


「まあ……あいつらのために泣くつもりはないけれど、私を傷つける機会なんてなかったはずよ。私はまるで賞品の仔馬のように扱われていたんだから」彼女は少し言葉を詰まらせた。「ビッグスも?」


「見逃してもらったぞ!」と、ヘルギの刃の先にとどまりながら少年が叫んだ。


アンドレアの表情が和らいだ。「それならよかったわ」彼女が言い返したことで、レザの左眉が跳ね上がった。それから彼女はアバナシーに向き直った。「夫があなたのことを口にしていた記憶はないわね。救出してもらったことに感謝していないわけではないけれど」と彼女は慌てて付け加えた。


「私の仕事は機密を要するものだからね。彼が私の名前を持ち出すとは思わないさ。だが、君を再び見たときの彼の心は喜びで破裂するだろうさ」と彼は答えた。


「テペシュは無事なの? 彼は……何かトラブルに巻き込まれていたりしないわよね?」


「それは興味深い質問だな」アバナシーは彼女の顔を観察するためにほんの一瞬言葉を区切って言った。「実のところ、彼は現在大変な窮地に陥っており、それを晴らせるのは君だけなんだ」


絶望の表情が彼女を襲い、彼女はガックリと頭を垂れた。「私の失踪が、いくつかのことに影を落とすのではないかと恐れていたの……夫の目を盗んで私がやっていたことね。自分のことと同じくらい、彼のことも心配していたのよ。参事会は彼を弾劾するために動いたの?」


アバナシーは言葉を詰まらせた。それは彼が予想していた答えではなかったが、夫が自分との不倫を疑っていることをアンドレアに告げるのは倫理的ではなかった。


「弾劾はされていないよ。彼が殺人裁判にかけられるかどうかを決定するための予備審尋を行っているところだ」


「何だって?!」


彼女の頭がガバッと跳ね上がり、その表情にはパニックと怒りが入り混じっていた。「ばかげているわ! 私は死んでなんいないわ、身代金目当てで捕らわれていたのよ! それに、どうしてこんなことのすべてが私の夫のせいになるっていうの?」彼女は両手で自分の太ももに爪を食い込ませた。


「身代金の要求は一切なかったんだ」アバナシーはやさしく言った。「血塗られたナイフが残されていただけで、君はただ姿を消したのさ」


彼女の喉から啜り泣きが漏れた。「腕に切り傷をつけるならじっとしていろ、喉に切り傷をつけるなら暴れろって言われたわ。ひどい傷ではなかったけれど、血が出たの。連らはそのナイフを血に何度か擦りつけて、それでおしまいだった。私は――ただの儀式的なものだと思っていたのよ」


「連らはそのナイフをテペシュの執務室に仕込んだんだ。その上、君の友人のコルベットがウォッチに対して、君が不倫を疑っていた嫉妬深い夫だという話をテペシュについて語ったのさ」


「あのゴシップ女め!」アンドレアが叫んだ。「二度もよ、二度も彼女に言ったのよ、私がやっていることのいくつかが夫に不倫を疑われるきっかけになるかもしれないって心配だってね!」


「実際に不倫をしていたのか?」とレザが唐突に尋ねた。


「何よそれ! まさか! 私は嘘をつかなければならない別のことにに関わっていただけで、時には夫の疑念を煽ってしまったこともあったと思うわ。だけど、結婚した日から彼にはずっと貞実よ」


「まあ」とアバナシーは言った。「誰も君がただ自分の足で姿を消しただけだとは思わなかったし、身代金の要求がないまま一週間が過ぎてからは、よそ者に誘拐されたという話も現実離れしているように思われた。君は姿を消したか死亡したと考えられ、血塗られたナイフが後者を暗示していたものだから、唯一の疑問は誰がその犯行を行ったかという点だった。君の友人がテペシュを嫉妬深い夫として描き出し、君の使用人の何人かが君の居場所について一貫性のない説明をしていたと証言したため、検察官はそれが不倫の証拠であると示唆したのさ。証拠としては乏しかったが、予備審尋を開くべきだという政治的圧力が存在したんだ」


アンドレアは顔を覆い、静かに泣き始めた。アバナシーは彼女の爪のいくつかに薄い血の痕跡があることに気づいた。


「私の弁護士の見立てでは、実際に裁判が開かれたとして、彼を有罪にするには証拠が圧倒的に足りなすぎるということだ」とアバナシーはやさしく言った。「ほぼ間違いなく無罪になるさ。だが、この一件全体がすでにスキャンダルになっており、彼のキャリアを終わらせるには十分かもしれない。だからこそ、君を家に連れ帰る必要があるんだ」


彼女は頷き、涙を拭って立ち上がった。「準備できたわ」と彼女はまだ鼻をすすりながら言った。「どうやって戻るの?」


「近くに馬がいる。最初の二日間は慎重に隠密裏に移動する必要があるが、その後は馬を飛ばして急ぐことになる」とレザが言った。


「こいつはどうするの?」とヘルギが尋ねた。「このままにしておいたら、警報を鳴らされてすぐに追っ手がかけつけてくるわ」


「ビッグスを人質にするのも手かもしれないわね」とアンドレアが言った。


「論外だ」とレザはきっぱりと言った。「言ったはずだ、最初の二日間は音を立てずに移動することが最優先だ。いつ俺たちの居場所をバラされるか分かったもんじゃない」


「睡眠薬を持っているわ」とルシンダが言った。「周囲がうるさすぎて眠れないときや、地面が硬すぎて寝つけないときに時々飲むのよ。もし彼に通常の量を飲ませたら……そうね、倍量なら十八時間くらいは眠り続けるはずだ」


「それじゃ時間が足りないな」とレザが言った。


「彼を少し緩めに縛っておけば、目覚めてから縛めを解くまでにさらに半日くらいかかるかもしれないわね」とアバナシーが言った。


「どうしても生かしておくつもりなら、丸一日のアドバンテージがあれば、奴らの仲間が追いついてくる前に、このクソみたいな国から抜け出すにはおそらく十分だろうさ。何の遅延もないと仮定しての話だがね」とレザは苛立った口調で言った。


「その頃には、私たちの足跡も多少は冷めているでしょうね」とヘルギは言った。自分が生かされるか殺されるかを他者たちが決めているのを聞きながら、剣の先にとどまったまま制御不能に身悶えしている若者を横目で見つめながら彼女は言った。


「わかった」とアバナシーが言った。「ヘルギ、彼に水をたっぷり飲ませてくれ。レザ、縛り上げるんだ。ルシンダ、強力な量を飲ませてくれ。ゴルトゥク、外を覗いて予期せぬ者がうろついていないか確認してくれ。それからここを出発しよう」


「殺さないでくれてありがとう」とビッグスが言った。彼の手に持たれたヘルギの水筒が震えていた。


「静かにして飲みなさい。おねしょはしたくないでしょうけれど、一日は水なしで過ごすことになるんだから、体内に水分を入れておいた方がいいわ」


睡眠薬によって彼が完全に気絶すると、彼らは急いで原野を抜け、乗騎が待っている岩棚へと傾斜を駆け上がった。近づくにつれてレザは身を硬くしたが、ペースは落とさなかった。


「ベイツの姿が見えないな」と彼は言った。


「よかった」とヘルギが言った。「言いつけ通り、身を隠しているのよ」


レザはペースを上げ、仲間たちの前へと躍り出た。傾斜の頂上に到達すると、彼は周囲を素早く見渡し、それから武器を抜いて戦闘態勢に入った。他の者たちも武器を取り、レザに目を向けながら走るスピードを上げた。彼は向きを変え、あちこちを見回し、それから急ぐように手招きした。乗騎たちは怯えている様子を見せなかった。


「ベイツがいない」と彼は荒い息の合間に言った。


ヘルギは辺りを見回し、それから身をかがめて地面から何かを拾い上げた。「矢だわ」彼女は言った。端の方に少しだけ血がついていた。「かすめたのね」


「足跡が一組だ」とゴルトゥクが言った。「ここから離れ、あの住居に向かって、かなりのスピードで進んでいる」


「誰かが彼を撃って外したんだ」とレザが言った。「ベイツは奴との距離を詰めようとした。足跡を追え、血の痕に気をつけろ。二本目の矢が命中しているかもしれない」


「クラリッサ、あなたとアンドレアは乗騎の世話をして。身を隠していなさい。誰も相手にするなよ」とアバナシーは言った。彼は他の者たちに加わり、足跡が導くままにゴルトゥクのあとを追った。血の痕跡は見当たらなかった。やがて、住居の方からゆっくりと近づき、そしてそこへ猛スピードで引き返したという二組目の足跡がはっきりと現れた。ベイツを撃った人物の足跡だった。


彼らは小さな外付けのレンガ造りの建物、おそらく道具小屋か物置に近づいていた。足跡はその前を通り過ぎて角を曲がったところで、突然途切れていた。地面には血痕が飛び散っていた。地面にはこん棒ほどの太さの木の枝が転がっており、その先端で血が濡れて光っていた。


「ベイツは角を曲がったところで不意を突かれ、枝で頭を殴られたんだ」とレザが言った。


「かわいそうなベイツ」とクラリッサが引きつった声で言った。


「馬の足跡だ」ヘルギが泥の中に膝をつきながら言った。彼女は周囲をじっと見据え、それから厩舎を指し示した。「ベイツを殴った人物は厩舎へ走り、そこからこちらへ馬で戻り、ベイツを馬に乗せてから、あっちの方向へ逃げたのよ」と彼女は指さしながら言った。


「奴の逃げ足はせいぜい三十分から四十分、あるいはそれ以下といったところだな」とゴルトゥクが言った。「急いで動けば追いつけるはずだ」


「あるいは、ビッグスを起こして、この人物がどこに向かっているのか聞き出す手もあるぞ」とレザが言った。


「私たちが与えた倍量では、起こすのはまず無理ね。仮に起きたとしても、おそらく呂律が回らないでしょう」とルシンダが言った。「ベイツを連れ去った人物と繋がっているかすら分からないわ」


「彼女の言う通りだ」とアバナシーが言った。「新鮮な足跡と優秀な追跡者がいるのだから、あいつのところに戻って時間を無駄にしている暇はない。戻って馬に跨がれ」


彼らは見晴らし台へと駆け足で戻って鞍に飛び乗り、アンドレアをクリヴィントンの馬に乗せた。


「お前たちの十馬身後ろをついていく」とゴルトゥクが言った。「もし誰かに遭遇したら、私がお前たちを追いかけていたと主張しろ。そうすれば私は別の方向に曲がるから、奴らは私を追うことになり、お前たちは追跡を続けられる」


「一番マシな選択肢だな」とレザが言った。「それに、荷車は置いてきた場所に放置せざるを得ない。荷車がなくても、お前の乗騎はついていくのがやっとだろうからな」


ヘルギはすでに住居の方向へと飛び出しており、他の者たちもそれに倣って競うように走った。彼女は足跡を確認するために一時的にスピードを落としたが、すぐに馬を前へと促した。彼らは彼女に追いつこうとしたが、彼女は五馬身ほど先を走り、かつて自分たちがやって来た細い土の道へと彼らを導いていた。突然、彼女は減速し、鋭く方向転換すると、通ったことのない狭い小道へと右折していった。


アバナシーは安堵の息をもらした。ゴルトゥクが人目に触れるようなメインストリートに向かっているわけでもなく、レンガや石畳によって敵の足跡を追跡できなくなるような場所に向かっているわけでもなかった。彼の知る限り、彼らはさらに人里離れた地域へと向かっていた。


小道はいくつかのモミの木の合間を縫うように続いていた。ヘルギは低く垂れ下がった枝を身をかがめてかわしながらも、手のひらでそれをピシャリと叩き、仲間たちの注意を確実にそこへ引きつけた。彼女はさらに先へとスピードを上げ始めていた。彼らの馬は彼女の馬には遠く及ばず、彼女は非常に熟練した乗り手だった。もし彼女を見失えば、ヘルギの一族が使う独特な蹄鉄のデザインが残した風変わりな足跡を追うレザの能力頼みになってしまうところだった。


彼女が姿を消し、茂みや時折現れる木々による遮蔽が増えるエリアへと入っていくまで、そう時間はかからなかった。足跡はやがて、小さな木製の小屋と、すぐ近くにみすぼらしいぼろっちい離れがある非常に小さな開けた場所へと彼女を導いていた。彼女が追っていた馬はスピードを落としており、足跡は小屋へとまっすぐ向かっていたが、その姿は見当らなかった。彼女が馬を進めると、小屋のドアが開き、もじゃもじゃの白い髭と手入れされていない長髪に埋もれた老人が、両手を上げて出てきた。


「お前さんが追ってる男なら、ここで止まったよ。馬の背中に別の男をくくりつけてたが、まあ、だからこそ追ってるんだろうさ。一分ほどかけてそいつの手首を縛り上げると、俺に袋を寄こせって要求してきやがった。若くて刃物を持ってたからよ、袋を渡してやったら、地面に銅貨を数枚投げ捨てやがった。もう一人の野郎の頭に袋をかぶせて縛りつけると、また走り去っていったよ。ここに来たとき以外の出入り口は一本道だ。俺が知ってるのはそれだけだね」


ヘルギは頷いた。「ありがとう。残りの捜索隊もすぐ後ろに続いているけれど、私たち自身も、この男の雇い手である一人の恐ろしい荒くれ者に追われているの。その男は娯楽のためにあなたを惨殺しかねない奴よ。この先三十分は中にこもっていたほうがいいわ」彼女は馬を小道へと向けた。


「残り一日中、中にこもることにするさね」と老人は彼女に向かって声を張り上げ、彼女が馬を走らせるのと同時に小屋のドアがガタガタと音を立てて閉まった。


他のメンバーの蹄の音が近づいてくるのが聞こえたが、彼女は待たなかった。レザは彼女の足跡が開けた場所の外へと続いていることを見抜くだろうから、小屋で時間を無駄にすることはないはずだ。彼女は馬を前へと促した。


アバナシーが後ろのミノタウロスの姿を見失うまで、そう時間はかからなかった。「ここでゴルトゥクを見失うわけにはいかないんだ」彼はルシンダに向かって叫んだ。「残りの皆は先に進んでくれ」


「あなたを置いていくわけにはいかないわ」レザが蹄の音をかき消すように叫んだ。


「アンドレアを守り、ベイツを奪還することが最優先だ」アバナシーは言い返した。「それに、私にはゴルトゥクがついている。お願いだから、ヘルギに追いつくようにしてくれ!」


レザは一瞬躊躇してからペースを上げた。アバナシーは馬を回して引き返そうとしたが、ゴルトゥクが追いついてくるまでの間、動物に少し小休止をさせるほうが楽だと気づいた。そう待たずにミノタウロスが姿を現した。彼の乗騎は、短時間であればギャロップで走る馬に何とかついていくこともできたが、長距離の追跡には耐えられなかった。その巨体の割には驚くほど素早く動いたが、それはスピードではなく持久力の生き物だった。下を向きながら足跡を見つめ、ゴルトゥクは馬に乗りながら片手で何かをもぐもぐと食べていた。


近づいてくると、彼はアバナシーに気づいてスピードを落とした。慌てて食べていたものを何でもサドルバッグに突っ込み、口を拭った。アバナシーには血の痕跡が見て取れた。


「ヘルギの足跡を追おう。見つけるのは難しくない。君を一人きりにしたくなかったんだ。誰かに鉢合わせしても、賞金稼ぎのふりをするさ」とアバナシーは言った。


「ありがとよ。魔法使いのふりをしたほうがいいぜ、さもないと俺が縛り首にでもされてない理由を怪しまれるからな」とゴルトゥクは後ろの小道を振り返りながら言った。


「もし魔法を見せてくれと言われたら?」


「そのときは『人間を真っ二つにする』手品を見せてやろう」


「それもそうだな」とアバナシーは言った。「まだ口のあたりに血がついているぞ。何か食べるものが見つかったのか?」


ゴルトゥクは答えなかった。彼はまだ視線をそらせたままだった。アバナシーは他のメンバーからあまり引き離されたくはなかったが、ゴルトゥクが何を食べていたのかを目撃してしまい、いくつかの懸念を抱いていた。彼は返事を待った。


「見つかったさ」とミノタウロスはやっとのことで引きつった声で言った。「そろそろ皆に追いついたほうがいいな」


「ゴルトゥク、私は君のセラピストだ。裁くのが仕事じゃない。今見たと思ったものが本当なら、それは私たちの治療関係やその他の何にも影響しない。だが、知る必要があるんだ」


ミノタウロスは深い溜め息をつき、それからアバナシーに無表情な目を向けた。「あいつが俺のキンタマを噛み千切りやがったからよ、だから俺もあいつのを噛み千切ってやったのさ。他の部位もな。道中のために少し取っておいてもいる。あいつにまともな埋葬なんて値しないし、少なくともこうすれば人生で一度くらいは役に立つ目的に奉仕できるだろ。もっとも、お前らがそのことで問い詰められたりしたのは気の毒に思うがね」


「そこでリスクを冒したわけだが、私はそれをスリルを求めたというよりは、必要性と多少の怒りに駆られたものと見ている。それでも、君に対して好意的な人間であっても、君が人肉を食べていると知ったら感情を変えてしまうかもしれないということは自覚しておかなければならない」


ゴルトゥクは唸った。「人間系種族の肉が俺にとって目新しいわけじゃないってことは知ってるだろ。ミノタウロスが特に人間を食べるなんて珍しいことじゃない。だが、言いたいことは分かるから、この話はここだけの秘密にしておこう」


「もちろん。これをミニ・セラピーセッションだと思ってくれ。もっともセラピストとしてではなく、個人的に尋ねるが、本当に彼の睾丸を食べたのか?」


ゴルトゥクは頷いた。「ほとんどのミノタウロスの部族にとって、睾丸は食事の中で最高の部位とされている。あれは力の源だからな、当然その力が欲しいのさ。それに食感の観点からも、噛んだときに口の中でプチッと弾ける感覚が最高にたまらないんだ」


アバナシーは中立的な表情を保ったまま頷いた。「まあ、他の連中に追いつかないとな」彼は馬を前へと進め、ゴルトゥクがそれに続いた。小道が狭かったため、彼らは一列縦隊で進んだ。ゴルトゥクはそれ以上何も言わなかった。


レザたちはアバナシーと別れた後、すぐに開けた場所へとたどり着いた。ヘルギの足跡を追ったが、しばらく彼女の姿は見えなかった。ようやく、小道の途中で立ち止まっている彼女の姿が遠くに見えた。彼女が手を挙げると、彼らはペースを落とした。近づくと、彼女は自分の指を口元にあてがった。彼らは彼女のところにたどり着くまでトロットにペースを落とした。


「恵みか呪いか分からないが、しばらくの間はそれがどちらなのか分からないわね」と彼女は言った。「数分先、小道のあの曲がり角のところに道路があって、そこに何らかの軍のパトロール隊がいるの。偶然にも、そこで休憩することにしたみたいよ。飲食したり、靴擦れやタコの手入れをしたりしているわ。テントや寝袋の気配はないから長居はしないだろうけれど、急いで移動する様子もないわね。あいつらを通り過ぎることはできないわ」


「それがどうして恵みになるんだ?」とルシンダが尋ねた。


「私たちが追っている騎手も、あいつらを目撃している可能性があるからよ。頭に袋をかぶせた別の男を馬に横たえせたまま、ヘラヘラと笑って手を振りながら奴らの前を通り過ぎるわけにはいかないもの」とヘルギは言った。「パトロール隊が停止する前に通り過ぎていたとしたら、私たちを引き離されてしまうから呪いだわ。でも、もしこの辺りのどこかに身を潜めて立ち往生しているなら、それは恵みよ」彼女は一瞬言葉を切った。「アバナシーはどこ?」


「ゴルトゥクと一緒に残ると言ってきかなかったんだ」レザは周囲を見回しながら答えた。「あいつの足跡は引き返していたか?」


ヘルギは首を振った。「私が見た限りではね。あの防具のギラギラした輝きが見えた瞬間引き返したの。何が起きているか確認できるまでブラシの中を徒歩で進んで、それから自分の馬のところに戻ったわ。パトロール隊に二十フィートまで近づいてから小道の脇に身を隠した可能性もあるわね。あるいは、パトロール隊が到着する前に通り過ぎたから、足跡がそのまま続いているだけかもしれないわ」


「じゃあ、ベイツと一緒にそのへんに隠れているかもしれないってこと?」とクラリッサが尋ねた。


「かもしれないわね」とヘルギは言った。「茂みはそれくらい密集しているもの」


「パトロール隊は何人だ?」とレザが尋ねた。


「十四人数えたわ。私たちが相手にするには多すぎる人数よ」


「ヌールを飛ばしてクリヴィントンを探させたらどうだ?」とクラリッサが尋ねた。


「そうするさ」とレザは言った。「だが、もし彼が枝のキャノピーの下に隠されていたら、あいつに見つけられないかもしれない。それに、もし見つけられたとしても、近くにいることが分かっただけで、突撃したくなるとは限らない。私たちが近づきすぎたら、あいつはクリヴィントンの喉を掻き切り、茂みに放置してパトロール隊の脇を堂々と通り過ぎるだけでいいんだからな」


「私たちの相手をして戦うか、それとも人質を殺して逃亡するか二者択一だとしたら、論理的な動きは後者になるわね」とヘルギは言った。


「批判するわけじゃないけれど」とルシンダが言った。「どうしてパトロール隊の脇をそのまま馬で通り過ぎて、奴の足跡が続いているかどうか確かめなかったの?」


「お前たちの一部、特にあなたやゴルトゥクが兵士たちに近づきすぎないように確実にしておくことが重要だったからよ。だから引き返してあなたたちを止めに戻ったの。質問もされずに通り抜けることはできたと思うけれど、五分後にその人たちの前をまた引き返して通り過ぎたら、質問されたり、より厳しい詮索を受けたりしたかもしれないからね」


「賢明な判断だったな」とレザは言った。


「あなたたちの馬には休息が必要だし、私の馬も休憩を嫌がらないわね」とヘルギは動物たちを見やりながら言った。「茂みの中で待機できそうな場所を探しましょう。クラリッサ、ゴルトゥクとアバナシーが到着したときに捕まえらえるように、道路のところに留まっていてちょうだい。私が馬たちの世話をするわ。誰か一人はパトロール隊がいつ移動するかを確認できるくらい近くに寄っておくべきね」


「それは俺が引き受けよう」とレザは言い、馬から降りて自分の馬を小道から外へと誘導した。驚いたことに、三十フィートほど進むと開けた場所が目に入った。そこに足を踏み入れると、レザは灰がいっぱいに詰まった炉の跡に気づいた。その周囲には、間違いなく腰掛けるためのものと思われる大きな丸太がいくつか並べられていた。


「休憩するには悪くない場所だな」と彼は言った。「パトロール隊を見張ってくる」彼は肩からヌールを下ろした。「友達を探してこい」と言いながら前方を指し示し、彼女を空へと放った。それから彼は再び茂みの中へと戻り、音を立てないように苦労しながらかき分けて進んだ。


十五分後、クラリッサがアバナシーとゴルトゥクを開けた場所へと案内してきた。ヘルギはアバナシーに軽く抱きつき、状況を説明した。


「君の言う通りだな」と彼は言った。「私たちがこの人物を追い詰めたら、あいつにとっての明白な解決策はベイツを殺してパトロール隊を通り過ぎることだ。ミノタウロスが私たちと一緒にいると知っていれば、私たちが兵士たちに近づかないこともあいつには分かっている」


「それに」とゴルトゥクが言った。「あのパトロール隊はいつ移動し始めるか分からない。あいつがベイツを殺して五分後にパトロール隊がいなくなり、めちゃくちゃ怒った一団が奴を追いかけることになるかもしれないぞ」


「まあ、もうすでに追われているわけだけれどね」とクラリッサが言った。


「別の問題が発生しているかもしれない」とアバナシーが言った。「向こうで大勢の馬の足跡がする音が聞こえたんだ。私たちを追跡しているのかどうかははっきり分からなかったが、私たちが移動してもその音は小さくならなかった。この周辺に一団の騎手がいる。ただ通りかかっただけかもしれないし、あるいは私たちの足跡をたどっているのかもしれない」


「私たちは散々な言い訳程度の小道を移動してきたからね」とヘルギは言った。「もっと良い道があるのに、わざわざ大勢の乗騎を連れて通りたいとは思わないような道よ」


「近道でもない限りはね」とルシンダが言った。「もしパトロール隊が停止している理由が、第二陣の兵士の到着を待っているからだとしたらどうだろう? 交替のためか何かでね」


「それなら、連中が足跡に注意を払っていないことを祈るしかないな。私たちの足跡はここで途切れているし、今となってはどうすることもできないからね」とアバナシーが言った。


「足跡は足跡さ」とゴルトゥクが言った。「誰かを追跡しているのでなければ、小道から外れている足跡を一つ残らず調べて回ったりはしないさ」彼は開けた場所を手で示した。「当然、人間はここで温かい火にあたろうとやって来るんだから、私たちの足跡が急にここで途切れているのが最初というわけじゃない。私たちを追っているわけでもなければ、誰も気にやしないさ」


「私たちができることは、レザが戻ってくるのを待ちながら、休息を取って食事をすることだけだ」とアバナシーが言った。「誰かが私たちを尾行しているなら、すぐに分かるさ」

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