消失した遺体と、巡査部長の不穏な聴取
「『見ることが叶わぬもののために支払う、人生で最高の買い物』。これは折に触れて口にされる数々の即興ジョ言の落ちとして使われる表現だが、実のところケントガラス職人ギルドのスローガンである。世界で最も強大なギルドの一つでありながら、ケント保護領内でのみ活動している。当ギルドは、ほぼ完全な透明度を誇るガラスの製造技術を完成させた。厚手のガラス板であっても、歪みも、曇りも、欠陥も一切存在しない。ケント産ガラスの製造に用いられる材料と工程は厳重に秘匿された機密事項であり、ケント摂政はギルドに対し、誓約を破った組合員へ望む限りのいかなる処罰をも科す権利を法的に認めたほどである。ガラスは、現地で豊富に育つ生姜に次ぎ、ケントで二番目に利益をもたらす輸出品である。陸路の旅は往々にして荒々しく険しいものであり、ガラスは壊れやすいため、ケント産ガラスの価格は母国からの移動距離に比例して跳ね上がる。王たちは戦争に勝つためにヴァラルディア鋼を求め、征服の戦利品をひけらかすためにケント産ガラスを欲すると言われている。このガラスは確かにその名声に違わぬ品質を誇る。一方で生姜の方は、胃腸がデリケートな者を大いに苛立たせるかもしれない」
——『タイコロスの年代記』より
アバナシーは、ヘルギに腕を強くさすられて目を覚ました。彼女は苛立った表情でベッドの脇に立っていた。
「起こしてしまって悪いけれど、時間の大事な無駄遣いとは言え、片付けなければならない件があるの」
「どうしたんだ?」彼は寝ぼけ眼で尋ねた。
「町の自警団が戻ってきたの。まあ、あの威張り散らす老兵だけれどね。金魚のフンどもは見当たらないわ。昨夜の戦いの後に何があったかについて、一人ずつ尋問しているのよ」
「戦いの後に? 戦いの後は何も起きていないだろう」アバナシーは困惑しながら言った。
「それなのに、あいつは一人残らず問い詰めるって聞かないのよ。他の皆との話は終えて、今度はあなたと話したいって聞き出さなくてね。起こすのは忍びなかったけれど」彼女は腹立たしげに言った。「明日の朝の出発に支障が出ないよう、さっさと済ませておいた方がいいと思ったの」
「仕方ないな」アバナシーはベッドの上でゆっくりと体を起こした。「靴を履くのを手伝ってくれるか?」
彼女は首を振った。「必要ないわ。あなたの方から出向くように言っておいたから。奴は受付にいるわ。準備ができたら連れてくるけれど」
「そうしてもらえるか」
「分かったわ。話をしている間、私は廊下のすぐ近くにいるから。声を上げてくれれば、千里馬のような速度で駆けつけるわ」
彼は微笑んだ。「そこまでの事態にはならないと思うが、君に羽が生えるという発想は魅力的だな」
彼女は一瞬唇をすぼめると、受付へ向かい、巡査を連れて戻ってきた。「ヘトル巡査部長がお見えになりましたよ」彼女は言った。「私は廊下のすぐ近くにおりますからね。本当にすぐ近くに」と念を押すように付け加えた。
「かたじけない、お嬢さん」ヘトルは恭しく言い、許可を求めずに椅子に腰掛けた。彼はアバナシーを一通り観察した。
「聞いた限りでは、あんたが一番重症だったそうだな。他の連中は数箇所の切り傷や擦り傷、あるいは胃袋の中身を綺麗にぶちまけた程度で済んだが、あんたは寝たきりか」
「頭を強く殴られた後遺症に過ぎませんよ。どういうものかはご存じでしょう」
「ああ、非常によく知っているとも」ヘトルは苦笑いを浮かべた。「ベッドでの安静が一番の薬だが、戦場ではそうも言っていられんからな」
「目が覚めたばかりでまだ頭がぼんやりしているのですが、何か聞き出したいことでも?」
「そうだ。昨夜の戦いが終わった後に何があったか、確認しておきたくてな」
「そうですね、私はその時間のほとんどを床の上で過ごしていましたし、記憶もキツネの尻尾以上にぼやけていましてね」アバナシーは言った。「ですが記憶が正しければ、特に何も起きなかったはずです。あなたが現れ、あなたと宿屋の主人が言葉を交わし……確か法廷弁護士がいましたかね? それからヘルギが私をベッドまで運んでくれました」
「床の上にいた時間、周りに転がる死体や血、内臓の山は気にならなかったのか?」
「そこまでの状況は把握できていませんでした。光が脳味噌を貫く槍のように感じられたので、ほとんど目を閉じていましたから」
「だが、最終的には状況を把握した。法廷弁護士のことも覚えている」ヘトルは少し前かがみになり、身を乗り出したため、椅子が小さくギシッと鳴った。
「そのやり取りは、見るというより耳で聞いていたのです。どこかの時点で惨劇を目にしましたが……どうでしょう、ヘルギに抱えられて酒場を出る時だったかもしれません」
「では、あんたが去る時、床にはまだ死体が転がっていたんだな?」
「ええ、転がっていました……待ってください」彼は一瞬目を閉じ、思いを巡らせた。巡査は無言で座っていた。やがて、アバナシーの目がゆっくりと開いた。「私が去る時に、片付けが始まっていました。死体を運び出し、血を拭き取っていましたよ」
「『彼ら』と言うのは……?」
「宿屋の主人と、その店の給仕の少年です。それとゴルトゥクが手伝っていました」
「死体の中には巨体のもいたし、鎧を着た奴もいたはずだ」ヘトルは言った。「宿屋の主人と給仕の少年だけではかなりの重量物だぞ」
「彼らは……こすり洗いや、小さな破片の片付けをしていたのだと思います。重いものを運んでいたのはゴルトゥクでした」
「で、ゴルトゥクは死体をどこへ運んでいったんだ?」
「見ていません。宿屋の主人が運ぶ場所を指示したのだと思いますが、私は足元の地面が次にどちらへ揺れるかを見極めるのに必死でしたから」
「本当に間違いないか? 望むなら一分ほど考えてくれても構わんが」
アバナシーは眉間にシワを寄せた。「実のところ、昨夜の出来事に関しては何も確かなことは言えません。現実というより夢の中の出来事のように思える部分もあります。ですが、私の記憶にある限りではそれが全てです」
「分かった。なぜ聞くかというと、死体が一具見つからないからだ。この騒動を引き起こした下衆野郎、ランリグの姿が見当たらんのだよ」
「繰り返しになりますが、私は信頼できる証人ではありません。しかし私の記憶では、ランリグの……その、上半身の大部分はただの肉塊と化していました。探すべきは死体というより、肉の肉片なのでは?」
ヘトルは咳払いをした。「それはともかく、彼の残骸らしきものは他の死体と一緒に積み上げられてはいなかった」
「私から付け加えられることは本当にありません。あの遺体の状態では、野獣が部位ごとに切り分けて持ち去ったとしても不思議ではありませんから」
「その可能性もあるな。ともかく、病床の身でありながら話に応じてくれて感謝する。実にありがたい。それと重ねてになるが、あんたがたとご友人方の身に起きた災難にはと同情するよ」ヘトルは立ち上がり、手を差し出しかけたが、考え直して軽く一礼だけをして部屋を出て行った。ドアが閉まり切らないうちにヘルギが入ってきて、背後でドアを閉めた。
「大丈夫だった?」彼女は尋ねた。
「問題ない。知っていることを話しただけだ。何も知らなかったに等しいがね。彼は礼儀正しく去っていったよ」アバナシーは解せないといった様子で言った。
「私とも同じだったわ」ヘルギは言った。「取るに足らない細かい点ばかり不自然に尋ねてきて、戦いそのものについては何も聞いてこなかった」
「まあ、町を出てはいけないと言われたわけでもないし、気に病む必要もないだろう」
「当然よ」彼女はきっぱりと言った。「もう一度寝られる?」
「無理そうだな。だが、何か食べに行きたいかもしれない」
ヘルギは首を振った。「皆と一緒に朝食を食べたでしょ、今日はそれで十分よ。必要な食べ物は何でも部屋まで運んであげるわ」
アバナシーは弱々しく抗議したが無駄だった。彼はヘルギに感謝し、食べたいものを伝えると、彼女は調達に向かった。
少しして、ドアが荒々しくノックされた。
「ヘルギが起きていると言っていたぞ」ゴルトゥクの声がした。アバナシーは中へ入るよう促した。
「今日は大勢が見物に来るな、まるで博物館の展示品になった気分だ」と彼は微笑みながら言った。
「一番美しい者を最初に向かわせたのさ。だから俺が最後の客というわけだ」ゴルトゥクはくすくす笑った。
「ベイツはまだ見に来ていないがね、実は。それに君は前の訪問者よりずっとマシさ。あの巡査部長のヘトルが来て、つまらん質問をしてな。君のところにも話しに行ったかい?」
ゴルトゥクは短く視線を逸らした。「ヘトルというのはどちらだ? 血を見て床に夕食をぶちまけそうになっていた奴か?」
「いや、年配の方で責任者の男だ。戦いが終わった後に何があったかについて聞きたがっていた。君とは話さなかったのか?」
「何だと? ああ、話した。あんたの言う通り、何の意味もない退屈な質問ばかりだったな」
「彼は死体が一つ見つからないと言っていたよ。あの全ての騒ぎを引き起こした間抜けな男だ」
ゴルトゥクは肩をすくめた。「一晩中屋外に放置され、上半身の半分がスープのようになったんだぞ? 残りは喰われたと考えるのが普通だ」
「私もそう思ったよ。獣が残飯を持ち去ったのは間違いない」
ゴルトゥクは床を見つめた。
短い沈黙の後、アバナシーが言った。「それで、ノロヴィア州に入る件についてどう思っている? あの夢がまだ鮮明に記憶に残っていて、正直なところ、私にはまだ不安があるんだ」
「あんたがたには俺が必要だ、重要なのはそれだけさ。どうせ俺にとって世界の半分はノロヴィア州の劣化版みたいなものだしな、知っているだろう。殺されはしないかもしれないが、常に凝視され、敵意を向けられ、襲われる。唯一の違いといえば、お尋ね者のように夜間に移動し、街道を避けるという事くらいだ。気に入らんが、気に入らん事などこれまでにも山ほどやってきた。みんなで何とかするさ」
アバナシーは頷いた。「分かった。前にも言ったが何度言っても足りないよ。手を貸してくれて本当にありがとう」
「あんたには既に十分世話になっている。それに診察室に戻ったら、話し合うべきことが山ほどあるからな」
「言っておくが、私の診察室はただの場所に過ぎない。セッションが必要ならいつでも始められるぞ。今日は万全の状態とは言えないがね」
「後でいいさ。今は目標に集中する必要がある」ゴルトゥクは立ち上がりながらきっぱりと言った。「ただあんたの様子を見に来ただけだ。食べたら寝ろ。できる限り睡眠をとるんだ」
「そうするつもりだ。明日足手まといになりたくないからね。ああ、君の傷の具合はどうだ?」
「何の傷だ?」ゴルトゥクはニヤリと笑いながら尋ねた。
「良い兆候と受け取っておこう。よし、会えてよかったよ」ゴルトゥクは頷き、背後でドアを閉めて出て行った。
ヘルギが温かい食事を持って戻ってきた。その匂いに、アバナシーは一瞬でそれまでの倍の空腹を感じた。彼は彼女に感謝し、椅子から自分を見つめる彼女の前で勢いよく平らげた。
「足らなくはなかった?」最後の一口を食べ終えると彼女が尋ねた。
「完璧な量だったよ。眠りにつくには十分な満腹感で、胃が痛むほどでもない」彼は彼女に微笑みかけた。「看病してくれてありがとう」
「当然よ。私が原因でもないのにあなたがベッドに縛り付けられているのを見るのは、気分の良いものじゃないわ」彼女は小さく口元を緩めて言った。
「まあ、そんな形で死ぬなら、少なくとも顔に笑みを浮かべ、心に歌を抱いて逝くことになるさ」
「怪我をしている時に死ぬなんて話はしないで」彼女は真面目なトーンで言った。「縁起が悪いわ」
「分かったよ。だが明日にはキング・パインのようにすっかり元気になっているさ、見ていてごらん」
「もっと寝ればそうなるわ」彼女は身を乗り出し、彼に優しくキスをした。
「今にもまどろみに落ちそうだ」
「よし。時々静かに様子を見に来るわね。後で夕食が食べたくなる頃に目が覚めるでしょう。何か必要なものがあれば、廊下の先の受付より遠くへは行かないで。あそこに頼んで私たちの誰かを呼ばせれば、何とかするから」
アバナシーが感謝を伝えると、彼女は彼を休ませるために出て行った。まだ疲労が残り、腹も満たされていたため、彼は間もなく眠りに落ちた。
彼が目を覚ました時、それは空腹からではなく、便所に行きたくなったからだった。人に手伝ってもらいたいことではなく、受付がある場所よりも廊下の少し先、反対方向にあるだけだった。彼はゆっくりと体を起こし、おそるおそる脚を床につけた。立ち上がりながら小さく声を漏らしたが、まだ平衡感覚は完璧ではなかった。一分後、彼が試みの一歩を踏み出すと、ドアをノックする音が聞こえた。
「ベイツだ。入ってもいいか?」
「ああ、恐ろしいほど絶妙なタイミングだな」
ドアが開き、ベイツが入ってきて彼の脇に寄った。
「まだ平衡感覚に問題が?」
「そうなんだ。目的地まで手を貸してもらえると助かる」
「その状態でどこへも行くべきではないと思うが、もちろん手伝おう」
「すぐ廊下の先なんだ、それに待ったなしでね」アバナシーは下を見つめながら言った。
「ああ。それなら簡単な道のりだ。さあ、行こう」彼はアバナシーを自分に寄りかからせ、二人はゆっくりと廊下へ出た。ドアのすぐ隣には椅子があり、その上に小さな本が置かれていた。
「私の寝息でも聞いていたのかい?」アバナシーは尋ねた。
「まあ、起きるのを待っていたんだが、ほとんど同じようなものだな。タイミングは偶然じゃないさ」二人はゆっくりと進み、アバナシーが壁に寄りかかり、ベイツがそれを支えた。
「ヘルギに頼まれたのかい?」
「いやいや、利他的なボランティアとしてここにいるわけじゃない。俺の存在は完全に利己的な理由によるものだ。あんたと話をする必要があるんだが、部屋に戻るまで待たなければならんな」
「構わないよ。寝ているのを聞かれていたのは気にしていないが、今の用事を足している間、ドアに耳を押し当てて立つのは勘弁してくれよ」とアバナシーは言った。
「そんなつもりはないさ。廊下で待っていて、あんたがドアを開けるのが見えたら迎えに行くよ」
「助かるよ」便所のドアまでたどり着き、アバナシーがゆっくりと中へ入っていくと、ベイツは廊下の方へ向かった。アバナシーが再び出てくると、クリヴィントンが戻ってきて彼を部屋まで連れ戻し、ベッドに落ち着かせた。
「数分ほど話せるくらいには気分が回復したかい?」と彼は尋ねた。
「私の理解では、今日の私に許されているのは話すことくらいだからね。腰掛けたまえ」とアバナシーは言った。
「ありがとう」ベイツは椅子に座ったが、ベッドに近すぎると感じたのか、三十センチほど後ろへ引いた。
「皆もすでに尋ねたとは思うが、念のために私からも聞かなければならない」アバナシーは言った。「何か気づいたことは——」
「いや。血が出るべきでない場所からの出血はないよ。通常の、予想通りの排泄物だけだ」ベイツは嘲るような笑みを浮かべて言った。
「結構だ。内出血は対処するのが極めて困難な問題だからね」
「脳震盪も同様だと聞くがね」ベイツは言った。
「それはともかく、明日には乗馬できるくらいには回復するはずだし、君もそうだ聞いて嬉しいよ。それで、話というのは何だい?」
「その……俺が悪かったのかもしれないと思ってな。つまり、俺がやるべきだった……いや、俺のせいだ」彼は咳払いをした。「昨日の件について謝罪しに来たんだ。俺があんたにもっと交渉の時間を与えていれば、戦わずに済んであんたが怪我をすることもなかったかもしれない。ただ、あの状況が好転するとは思えなかったんだ。だが、それを判断するのは俺の役目じゃなかった」
「まあ、戦いを回避するために私にできる限り多くの時間を与えるのは、常に良い考えではある。だが君の直感は正しかったよ。戦いはすでに始まっていた。まだ誰も最初の攻撃を繰り出していなかっただけだ。私はレザが先手を打つと思っていたが、君だったというわけだ」
「面と向かって文句を言ってきた者はいないが、俺が暴力を開始したことに不満を感じている者もいるんじゃないかと勘ぐってしまうんだ」
「誰が君の行動に苦情を言っていたか当てられるかい?」
ベイツは床を見つめながら、ゆっくりと首を振った。「まあ、予想はつくがね」
「君の予想は外れだよ。誰もそんなことは言っていない、クリヴィントン。君がやったことに対して負の感情を口にした者は一人もいないんだ。さっき言ったように、君が戦いを始めたわけではない。君は戦いが避けられないと察知し、先制攻撃という優位を我々に与えてくれただけだ。実際のところ、君の攻撃の独創性とタイミングには称賛の声すら上がっていたよ。君が何人かの目を眩ませていなければ、戦況は全く違うものになっていたかもしれない」
「本当に? 大した仕掛けじゃないんだがな。効果のほとんどは成分によるものだ。俺は袋を焼き切るために小さな炎を召喚しただけで、中の物が宙に舞って汚い仕事をしてくれたのさ」
「私は本物の失明魔法が使われるのを見たことがあるが、戦局を劇的に変える力がある。君のものは本物の魔法ではなかったかもしれないが、同じくらい役に立ってくれた。よくやったよ、クリヴィントン。称賛に値する対応だった」
「だから皆、俺のことをマスター・ベイツと呼ぶのさ」と彼は言った。
アバナシーは呻き声を上げた。「私にすでに頭痛があるのを分かって言っているのかい? それに、誰かが君を褒めている最中に口を挟むのは不作法だよ。ともかく、君の助力には感謝しているし、君が十二分に自分の役割を果たしているという私の意見は皆も共有していると知っておいてほしい」
「ヘルギも?」
「彼女は君のユーモア感覚にはあまり耐性がないかもしれないが、非常に現実的な性格だ。君の貢献を認めているよ」
「へえ。正直、この会話がこんな展開になるとは思わなかったな。肩の荷が下りたよ」彼は一目を置き、それからアバナシーをじっと見つめた。「あんたの仕事はいつもこうなのかい? あんたの……『お喋りによる療法』を使うと、人はこんな風に感じるのか?」
「そうなることもある。毎回ではないがね。私が正しく仕事を行っていれば、患者が毎回何かを下ろさなければならないほど重荷を抱えていないことを願うよ。だがそう、彼らが努力し、私がそれを助ければ、時にはそんな風に感じられることもある。ただし、これは簡単な会話だったということは覚えておいてほしい。息子の目の前でバジリスクによって石に変えられた話をしている患者を相手にする時は、ずっと過酷な議論になる」
「だろうな。うぇっ、それって実話かい?」ベイツは顔をしかめて尋ねた。
「実話だ。だが、それ以上はその件について話すことはできないがね」
「そうか、あんたの職業倫理には守秘義務が含まれていると言っていたな。自分で課したそのルールは、かなり重荷に見えるよ」
「私が考え出したルールではない、従っているだけだ。一つ一つに目的があり、患者の利益になるよう設計されている。十分に検証されたものであり、脱線すれば相応の報いを受けることになる」
「あんたがそのルールを検証したのか、それとも他の誰かが? あんたのような仕事をしている人間なんて見たこともないが」
アバナシーは顔をしかめ、頭に手を当てた。「すまない、クリヴィントン。本当にそろそろ寝直さなければならないようだ」
「ああ、もちろんだ。長々としゃべり散らかしてすまなかった」ベイツは急いで立ち上がった。「いろいろと気分を楽にしてくれてありがとう。仲間が自分に腹を立てているかもしれないのに黙っている、なんて考えるのは辛いからな」
「誰も君に腹など立てていないよ。皆のところへ行って楽しく過ごしてくるといい。ここからは事態がもっと厳しくなる一方だからね」
「あんたのその見立てが外れることを祈るよ。良い夢を」ベイツは言ってドアを閉めた。アバナシーは彼のかかとが廊下の先へ遠ざかっていく音に耳を澄ませた。彼は息子を石に変えられた患者のことを再び考えたが、その思考を手放し、心を空にした。深い呼吸を繰り返すと、彼はすぐに再び眠りに落ちていった。




