旅は道連れ、学者の語る昔日と『スコルの提案』
かつて、ポロリア帝国にエルメラ・トレッサーという名の吟遊詩人が住んでいた。彼女はセユリア諸島の生まれで、不遇な幼少期を過ごした。ある日、過去の痛みに苛まれていた彼女は、自分を励ますために『ネバー・ステイ・ダウン』という曲を書いた。その歌詞には故郷の王国の詩的様式が用いられていたが、曲調は当時暮らしていた場所の音楽に合わせられていた。ある夜、別の演者が出演できなくなり、酒場の主人から長めの演奏を頼まれた。彼女は自分だけのために作ったその曲を観客の前で披露した。観客は、まるで壊れた便所を修理しに来た職人を迎えるかのような、惜しみない熱狂をもってそれを受け入れた。この曲はセユリア諸島で全国的な大ヒットとなり、集会などで盛んに歌われるようになった。やがてポロリア帝国のとある学者が、その曲には自分の国の伝統的な詩的様式が使われており、それは我が国の詩人に任せておくべきだと指摘した。セユリア諸島の学者たちは、この曲は自国出身者が書いただけでなく自国の伝統音楽も使われているのだから、人気が高まり始めていたポロリア帝国での演奏はやめるべきではないかと反論した。また、母系制からより開かれた社会へと移行しつつあった近隣の小国リリッシュでも人気を博していた。そこの学者たちは、地図上の国境など無意味であり、この曲の真理は女性にしか理解できないのだから、女性だけが歌うべきだという立場をとった。エルメラは富裕層や重要人物の前で直に演奏することで急速に巨万の富を得たが、やがて『ネバー・ステイ・ダウン』のためだけに知られることにうんざりしてしまった。他の作品も礼儀正しく受け入れられはしたものの、文化的な金字塔となるものは二度と現れなかった。彼女は丘の上の広い土地を買い、周囲に高い壁を巡らせて、自ら選んだ隠遁生活に入った。それから何年も後、文化間音楽に関する論文を執筆していた優秀な学生が、エルメラを説得して短いインタビューにこぎつけた。学者が長年にわたって提起してきた「この曲は誰のものか」という論争について問われたとき、彼女はこう答えた。「この曲は私のものです。私が書き、世界と共有することを決めたのです。歌う人が増えれば増えるほど、私は嬉しいのですよ」。なお、著者は訪問した国のうち約三分の一でこの曲を耳にしたと推定している。
――『タイコロスの年代記』より
一行は現在、麦の王国のまさに麦畑といった地域を馬で走っていた。街道を除けば、見渡す限りどこを向いてもそれしかなかった。果てしなく続く黄金の畑は、日の光を受けて黄金色に輝いているかのようだった。反対方向から走ってきた男女が馬を止め、この先の街道の様子や『ワゴン・ホイール亭』の料理の質について尋ねてきた。ルシンダは先ほど食べた食事を褒め、レザは脱走兵について警告したが、自分たちが遭遇したことまでは言及しなかった。
そのカップルが遠ざかった後、レザは馬を止め、皆の方を振り返った。「ここから先は、特に警戒が必要だ。街道だけでなく、街の中でも、宿の自分たちの部屋の中であってもな。ノロヴィア州に近づいている。明日の夜には国境を越えることになるが、誰が俺たちの会話に耳を立てているか、あるいは誰が俺たちに言いがかりをつけてくるか分からんからな」
「でも、まだ麦の王国内でしょ。どうしてここの人が私たちに文句を言うの?」とクラリッサが訊いた。
「国境なんてものは、地図の上に引かれたただの線に過ぎないからな」とレザは言った。「言語、文化、そして社会的態度は国から国へと滲み出るものだし、二つの国が接する場所に近づくほどその傾向は強くなる。先へ進むにつれて、本物のノロヴィア州民や、彼らと同じ思想を持つ連中に遭遇するのは間違いない。ついでに言っておくが、誰かと別れるときは『さようなら』と言うか、丁寧にいいたいなら『ごきげんよう』と言え。どんな理由があろうと『さらばだ』とは言うなよ。ノロヴィア州の一部では今でも古い方言が使われていて、標準語の『さらばだ』はその方言だと恐ろしく侮辱的な言葉にそっくりなんだ」
「具体的にはどういう意味なんだ?」とベイツが訊いた。
「俺が確実に知っているのは、それを言ったら鉄拳制裁をお見舞いされるってことだけだ。だから口にするなよ」とレザは言った。
その会話から約一時間後、彼らは同じ方向に徒歩で向かっている遠くの人影に気づいた。レザは皆に注意を促し、一行の少し前方へと馬を進めた。やがて、彼は戻ってきた。
「間違いなく一人だけだ。ローブのようなものを着て、杖かステッキを持って少し前屈みで歩いている。老人かもしれないし、魔法使いかもしれない。魔法使いが一人だけで俺たちほどの集団を襲うとは考えにくいから、どんな状況であれ大丈夫だと思うが、警戒は怠るな」と彼は言った。
速度の差から、彼らはすぐにその人物に追いつきつつあった。前屈みの姿勢は顕著で、それが魔法の杖であれ何であれ、歩行の補助として使っていた。灰色のローブには黒い刺繍が施されており、遠目からでも上質なものに見えた。彼らが近づくと、その人物はこちらを振り向いて足を止めた。レザが拳を挙げると、一行は大きく速度を落とした。
「少し広がれ」とレザは皆に指示した。「アバナシー、話し合いに同行してくれるか?」
二人は、その男の声が届く距離まで馬を進めた。男は白い髪に、切り揃えられて整えられた白い髭を蓄え、見覚えのない象徴が刻まれたチャーム付きの銀のネックレスを下げていた。
「旅の方々、ごきげんよう」と男は、吟遊詩人に負けないほど通る声で言った。
「あなたにもご挨拶申し上げます」とアバナシーは言った。「私たちは日没までに良い宿に着きたいと思っておりますので、あいにくここで長居はできませんでね」
「その旅を邪魔するつもりはなかったのだが、こればかりはどうにもならなくてね」と老人は言い、ローブの裾を引き上げた。片方の足首が、小枝を使った応急処置の副木で縛られていた。「普段ならこのくらいの道のりは平気なのだがね。むしろ楽しんでいるくらいだ。しかし、四マイルほど手前で足首を挫いてしまってな。移動速度だけでなく、旅の喜びもすっかり萎んでしまったのだよ」
「それは気の毒に」とアバナシーは言った。「痛そうですね。生憎と私たちの仲間にヒーラーはおりません。傷口なら湿布くらいはお渡しできますが、挫傷となると痛み止めをお渡しするくらいしかできず、それでは路上で寝込んでしまうことになりかねません」
「いくら私でも、路上でうたた寝をするほど無謀ではないよ」と老人は苦笑した。レザの手がゆっくりと位置を変えた。
「心配なさるな、よいお方。私が『いくら私でも』と言ったのは、秘術の業に長けているからではなく、私の立場ゆえなのだ。お二人ともこの土地の者ではないな? でなければ、私の肩書に気づいてそう呼んでいるはずだ」
「私たちは慎重なだけですよ。仰る通り、この土地の者ではありませんがね」とアバナシーは穏やかに言った。「差し支えなければ、お肩書をお伺いしても?」
「教授だよ」と老人は杖に深く寄りかかりながら言った。「年に一度、ゴールデングレイン大学へ向かい、三ヶ月間講義を行うのだ。普段なら四日ほどの道のりで、歩くのが良い運動になるのだが」
「ゴールデングレイン? では旅の終わりに近いのですね。ですが、日没までに到着するのは無理でしょう」とレザが言った。
「この状態では、たどり着けるかどうかも怪しいものだ。怪我を庇って歩いているうちに身体のあちこちに負担がかかり、ひどく疲れてしまってね」
アバナシーはレザに視線の送ると、レザは肩をすくめて応えた。
「私たちはゴールデングレインへ向かうわけではありませんが」とアバナシーは言った。「その近くを通ります。よろしければ、目的地のごく近くまでお乗せしましょうか?」
ローブの男は、できる限りの丁寧さで一礼した。「旅の方々、感謝いたします。教育の発展のため、そしてこの老人のために手を差し伸べていただき、ありがとうございます」
「澄徹のアバナシーと申します。どういたしまして」レザが合図をし、残りの仲間たちを呼び寄せた。
「オラフ・ハスカー教授と申します」老人はどこか誇らしげな響きを声に込めて言った。
「教授はしばらく俺たちと一緒に馬に乗ることになった」とレザが言った。
「教授ですって? 大歓迎よ、一緒に行きましょう」とヘルギが言った。オラフは彼女を見上げ、その顔をぱっと輝かせた。
「足首を挫いたときは、今日はついていない日だと思ったのだが、どうやら私の判断は早まりすぎていたようだ」
馬から降りたヘルギの顔に小さな微笑みが浮かんだ。「乗るのを手伝いますわ、教授。ですが、甘い言葉を並べても何の得にもなりませんからね」
「肥やしを積んだ車の後ろに乗せられるだけでもありがたかったというのに、まさかあなたと同乗できる幸運に恵まれるとは、どれほど信じがたいことか想像してみてください」老人は依然として顔をほころばせながら言った。
少し苦労しながらも彼らは教授をヘルギの馬に乗せ、彼女も再び跨った。一行は再び前方へと進み出し、アバナシーはいつものように彼女の隣に並んで馬を走らせた。
「教授、専門は何を教えていらっしゃるのですか?」と彼が訊いた。
「歴史だよ。『伝説の時代』を専門に教えている」
「ここで大学レベルの講義としてそれが教えられているとは驚きました。麦の王国の教育制度は非常に実用主義的だと聞いておりましたので」
「まったくその通りだよ。私の学生たちは商人なのだ。現代史は別の教授が教えているが、私はいくつかの紛争の古代のルーツ、信仰体系、宗教、そして地政学的状況について教えている。それに、こうした歴史に通じていなければ、あらゆる取引の核となる会話において不利になってしまうからね。もし商人が『それはスコルの提案のようなものだ』と言われたとき、スコルとヴェールの女の物語を知らなければ、どう返答すればよいのだね?」
「それは確か、オーガが……誰かの母親に暴行を働く話でしたか?」とアバナシーが訊いた。
「少し違うな。オーガの領主スコルはヴァラルディア鋼でできた剣を欲していたのだが、それを所有しているのは五十リーグ以内で盗賊頭領コドナただ一人だった。スコルは彼のもとへ出発したが、その性質ゆえ、道中で略奪や強奪を繰り返しながら進んだ。コドナのもとに到着する前日、彼は小さな村を破壊し、五枚のヴェールを纏った女を捕らえた。部下が彼女を恩賞として欲しがったが、女は誰かがヴェールを剥ぎ取ろうとすれば、自分の舌を噛み切って窒息死してやると宣言した。スコルはコドナへの取引の品に添えれば素晴らしい付け足しになると考え、彼女に手を触れぬよう命じて先を進んだ。盗賊頭領は彼らを客として迎え、慣習となっているヤクの発酵乳の酒が振る舞われた後、スコルはコドナにヴァラルディア鋼をいくらか譲ってくれないかと尋ねた」
アバナシーは鞍の上で少し姿勢を変えた。オラフが語るにつれ、物語の断片が記憶によみがえってきた。
「コドナは返礼に何を差し出すのかとスコルに尋ねた。スコルは部下に持ち込ませた品々や旅先で略奪した選りすぐりの品、そして例のヴェールの女を引き出させた。コドナがその女にはどんな特技があるのかと問うと、スコルは自分が知る限り使い道は一つしかないと答えた。コドナはその提案を検討し、二杯目の酒――今度は彼の個人蔵から出された酒を飲んだ後に返答すると告げた。酒が振る舞われると、スコルと部下たちはのたうち回り、泡を吹き、胃や腸の中身をぶちまけ始めた。コドナの『個人蔵』は毒薬だったため、彼らは皆、激痛の中で息絶えたのだ。盗賊頭領はそのヴェールに見覚えがあり、その女が自分の妹だと気づいていたのだよ。もし彼女が戦闘で捕らえられ、手知らずのまま人質として提示されていたなら、彼はそれを正当な取引条件とみなしただろう。だが、たとえ口に出さずとも、コドナが自分の妹と交わうべきだというスコルの示唆は、到底許しがたい侮辱であり、道義上、死をもって応えざるを得なかったのだ。だからこそ、私たちは無礼で容認しがたい提案のことを『スコルの提案』と呼ぶのだよ」
「それは知りませんでした」とアバナシーは言った。「初等学校の頃に一度その物語を読んだ記憶はありますが、あまり覚えていないようですね」
「ここでは初等学校でそんなことは教えないよ。農業にはほとんど役に立たないからね。才能ある子供たちが商人向けの教育コースに振り分けられて初めて、交渉理論や礼儀作法、文化的習慣といったことと一緒に教わるのだ」
「『伝説の時代』の物語が事実だと信じていらっしゃるのですか?」とアバナシーが訊いた。
「もちろんすべてではないが、多くのものはそうだよ」
「ですが、あまりにも奇想天外なものもあります。ほとんど信じがたいような」とヘルギが言った。
「お若い方、時には真実ほど荒唐無稽なものはないのだよ。ポドゥスカ人の王アンゲルドの物語を知っているかね?」
ヘルギは眉をひそめ、しばし考え込んだ。「確か……三人の妻がいたという方でしょうか?」
教授は鼻で笑うような音を立てた。「それは物語のごく一部に過ぎんよ」
「ですが、私の故郷からは遠く離れた場所ですし、少なくとも一世紀は前のことですよね? 二世紀くらいでしょうか?」
「ちょうどその間くらいだな。およそ百五十年ほど前だ。王アンゲルドには確かに三人の妻がいた。彼の三つの城のそれぞれに、三人の妻がな。そしてそれぞれの妻との間に、三人の子供を儲けた。彼の城はすべての部屋に三つの扉がつくよう設計されていた。場合によっては、無駄な扉の向こう側に何かを置くためだけに、建築家に幅五フィートほどの小さな部屋を作らせなければならなかったほどだ。アンゲルドの子供たちが結婚できる年齢になると、彼は一度に三人ずつでなければ結婚させないと主張した。三組同時の結婚式というわけだ。アンゲルドが老衰で亡くなり、棺の中の棺、さらにその中の棺――つまり三重の棺に納められて埋葬されるまでに、そうした三重結婚式が何度か執り行われたのだよ」
アバナシーはこれに対し、首を振って目を丸くする以外に反応のしようがなかった。
「さて」と教授は言った。「その物語は奇妙に思えるだろう? まるで童話のようだ――何でも三つ揃えにした王様の話などな。そして、彼の執着に関する数々の記録や、あまりにも巨大で広大な家系図、側近や臣下、彼を知る者たちの膨大な証言があるにもかかわらず、これは伝説となっていくのだ。『伝説の時代』から現代までの時間――それと同じだけの時間が再び経過したとき、未来の時代の人々は、この物語を単なる創作として振り返るだろう。もしかすると象徴性を探ろうとするかもしれない。『この物語における“三”という数字の意味は何か? 語り手は何を伝えようとしていたのか?』とな。だが、そこには伝説も象徴性もない。ただ実際に起こった事実というだけなのだよ」
アバナシーはゆっくりと頷いた。「仰りたいことは分かります。ある程度の時間が経過してしまうと、事実と創作を区別するのはより難しくなりますからね」
「その通りだ。そして、もし私たちが王アンゲルドの生涯のような歴史的事実を単なる物語として片付けてしまうとしたら……一体どれほどの物語を歴史的事実として受け入れてしまっているのだろうな? それもまた、自分で考えてみるべきことだよ」
「ですが、なぜ王アンゲルドはそれほど奇怪な振る舞いをしたのでしょうか?」とヘルギが訊いた。
「彼は王だったからね」とオラフは言った。「誰も彼に疑問を呈さなかったのだ。彼がいつしか予言を受けたのか、精神的な欠陥があったのか、あるいは誓約や呪いをかけられていたのか、推測することはできる。だが、その真実はすでに失われてしまった。確実に言えるのは、彼が実際に何を行ったかということだけだ。時が経つにつれて、その確実性すらも薄れていくのだろうがね」
「私の民は歴史を口承に大きく頼っています」とヘルギは言った。「ですが、事実と創作を区別することには非常に慎重です。私たちの歴史家はおとぎ話を語ることを禁じられていますし、同様に語り部が歴史を語ることも許されません。良いシステムですよ」
「実際のところ、かなり優れたシステムだよ」オラフは頷きながら言った。「羊皮紙にペンを走らせ、好きなことを書き、どんな名前や肩書でも署名することは誰にでもできる。君たちの一人がでたらめな本を書き、著者に私の名前を騙ることだってできるわけだ。だが、歴史を一握りの階級に限定し、単なるおとぎ話を別の階級に委ねる口承伝統は健全なものだよ。口承伝統の問題点は、歴史が増え続けるということだ。常に増え続け、減ることは決してない。だから後続の世代ほど、より多くのことを記憶できる必要があり、さもなければ過去の記憶が失われてしまう。そして、誰かが間違いを犯したり記憶力が衰え始めたりすれば、その誤りが受け継がれて事実になってしまう。完璧とは言えんが、私は好ましく思っているよ」
「私は本に囲まれて育ちましたからね」とアバナシーは言った。「誰でも本を書けるという点については同感ですが、読み手として、その本の出所や著者の資格を知る責任があります。私が知る限り、歴史ある確かな文献に惑わされたことはありませんよ。まあ、笑ってしまうほど時代遅れのものを除けばですが」
オラフは手を挙げた。「『タイコロスの年代記』の価値について議論するつもりはないよ」彼は断固とした調子で言った。「そのような論争が、実際に血を見る事態に発展するのを私は目にしてきたからね」
「分かりました」とアバナシーは言った。「次の話にしましょう」
「では、もう一つ例を挙げよう。君はダルロニアをご存じかね?」
「リア保護領の『ダル=ロニア』のことですか、それとも『黄金の都市』のことでしょうか?」とアバナシーが訊いた。
「後者だよ」
「いいえ。ですが、彼らが勝手にその名前をでっち上げたことくらいは知っています。あるいは神か何かが授けた名前だったか。リアにおいては、ダル=ロニアは『川の近く』を意味しており、実際のところその都市も川の近くにありますからね」
「名前の由来はともかく、『黄金の都市』について多少なりとも知っているようだな」
「それほどでもありません」とアバナシーは言った。「黄金で舗装された通りだの、便所に絹の布が置いてあるだのといった、よくある噂程度ですよ」
「それは誇張の上の誇張だが、真実の核は含まれている。ダルロニアは神権政治の都市国家なのだ。彼らの宗教では、この物理的な世界全体が、私たちの頭上にある別の存在領域にそっくりそのまま複製されていると教えている。何の苦労も重荷もない素晴らしい場所で、人々は親切で、あらゆるものが輝きを放っている場所だとね」
「聞き覚えのある宗教の半分くらいと同じような話ですね」ヘルギが鼻を鳴らした。
「いや、英霊の殿堂や雲の上の楽園といった類のものではないのだよ。来世というわけでもない。彼らはそこがこの世界の鏡のような場所であり、そこへ行くために死ぬ必要はないと信じている。この世界は……まあ、頭上の世界の歪みとまでは考えていないようだが、一番近い例えとしては、上質な鏡ではなく調理用鍋の裏に映った自分の姿を見るようなものだな。少なくとも、私が彼らの信仰を理解している限りではね」
彼は話を中断し、腰のフラスコから水を一口飲んだ。「だから、下界にあるすべての街には、頭上の領域に複製が存在する。もしこの世界の集落が、頭上の集落を完璧に模倣することができれば、二つは融合すると信じられているのだよ。この世界の街にあるすべてのもの、すべての人が、頭上にある全く同じ街と一つになり、そこでの安らぎと調和の中で永遠に生きるのだ。覚えておいてほしいのだが、これは上の領域が絢爛豪華で贅沢な場所だと教える信仰なのだよ。したがって、それを模倣するためには、ダルロニア自体も絢爛豪華で贅沢でなければならない。通りが黄金で舗装されているわけではないが、そのほとんどは上質な大理石で作られている。ドアノブは通常は銅だが、時にはオニキスや赤鉄鉱で作られることもある。そして実際、絹の布が置かれた便所も実在するが、それは上流階級の持ち物だな」
「俺に言わせれば」前方を走っていたベイツが大声で言った。「金持ちの狂人の集まりだな。誰が赤鉄鉱でドアノブなんて作るんだ? それを一つ売れば、俺がどれだけの期間食っていけるか分かってるのか?」
「その部分は確かに異様だな。美しい都市であることは間違いないが、実に途方もない量の財産がくだらないものに費やされている。だが、これには明白に肯定的な側面もあるのだよ。彼らは、都市とは単なる通りや建物だけでなく、そこに暮らす人々も含めて成り立っていると考えている。だから、街全体が理想の複製と融合するためには、この世界の人々もまた、上の世界の人々と同じくらい高潔にならなければならないのだ」
「それが良い結果につながると信じたいところだが、人生の経験上、行き着く先は『人前では善人を装い、陰で汚い揉み消し工作をする自己満足な金持ちの集団』ってだけだと思うがな」レザが割り込んだ。
「十分な母数を集めれば、殺人犯、暴行魔、泥棒、そして偽善者が見つかるものだ。どんな集団もそれからは免れん。だが、『黄金の都市』で過ごした私の同僚によれば、そこでの礼儀正しさと品格の高さは、彼がこれまで出会ったどんなものとも違っていたそうだ。彼が接した人々は、最後の一人に至るまで、自らができる最高の自分として生きようと努めて居たのだよ。……おっと、脱線してしまったな。要するに、君たちがダルロニアについて何を知っているか確かめたかったのだ。君たちが知っていたのは嘘の残響、歪みの歪みに過ぎなかった。しかしダルロニアは今、私たちの時代に実在している。その気になれば、君たちはそこへ行って自分の目で確かめることもできるのだ。それにもかかわらず、『黄金の都市』は君たちにとって単なる噂に過ぎず、しかも信頼すらしていない噂なのだ。今から一世紀後、あるいは五世紀後の人々は、ダルロニアについて何と語るだろうか? そのような場所が実在したことすら、彼らには不可能に思えるのではないだろうか?」教授は尋ねた。
「ですが、私たちには記録保管者や日記作家、歴史家などがいます」とアバナシーは言った。「彼らが私たちの時代の真実を保存できますよ」
「『伝説の時代』にも、そうした人々は全員存在していたのだよ。昔の物語がどこから来たと思っているのかね? もちろん、その時代が終わってからずっと後になって、娯楽のために作られた創作物もある。だが、そうした物語の多くは日記作家や記録保管者の手によるものだというのに、その真実性はほとんどの人にとって疑わしいものに見えるのだ」
「先生の講義で単位を取れる自信がなくなってきましたよ」とアバナシーは言った。「事実と創作を見分けるのは難題ですね」
オラフは微笑んだ。「幸いなことに、私は学生たちにどの物語が真実かを判断するよう求めてはいない。私の仕事は、彼らをそうした物語に通じさせることだけだからね」
一行は馬を進め続け、教授は様々な物語や珍談を語って聞かせた。やがて、彼を降ろす予定の辻にたどり着いた。
「ここからなら一人で行けるよ」とオラフは言った。「この方向に少し行ったところに簡易宿泊所があってね。南京虫の餌食にさえならなければ、そこで一晩体を休めることができる。明日の晩には大学に着くだろう」
「ご一緒できて楽しかったですわ」とヘルギが言った。
「ええ、お教えいただきありがとうございました。大変考えさせられる話ばかりでした」とアバナシーは言った。
「乗せてくれてありがとう」ヘルギの手を借りて馬から降りながら、オラフは言った。「君たちを楽しませることができたのなら幸いだ。いわば、夕食代の代わりに歌を披露したようなものだな」
「よい旅を」とベイツが言った。
「諸君もな」オラフは一行に手を振ると、ゆっくりと歩み去っていった。一行は彼の後ろ姿をほんの少し見送ってから、再び自分たちの途についた。




