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旅立ちの夜――路傍の宿と影から現れた少女

「重要な局面で投石器や攻城兵器から幸運にも放たれた石を除けば、両海王国の軽く樹木の生い茂った街道沿いに転がっていた水差しほどの大きさの岩塊ほど、近代において歴史を変えた石は存在しない。その街道は港から首都ダグラスカタウンへと続いており、午前一時を過ぎた頃、輸入された花崗岩を運ぶ一台の荷馬車が通過した。街道の凹凸によって石の一片が脱落し、三日月の僅かな光さえも樹木に遮られた暗がりの中で、誰にも気づかれぬまま放置された。それから一時間後、チョ=コロ王国の使節が別の船で到着し、馬を下ろして首都へと馬を走らせた。彼の道のりは通常であれば四〇分ほどで済むはずであったが、馬が幸先の悪いことに花崗岩につまずいて転倒し、足の骨を折り、使節自身も肩を骨折するという不運に見舞われた。使節は一枚の羊皮紙を携えていた。そこには非常に機密性の高いメッセージが記されており、その日の早朝に書かれたばかりで、彼自身の手で届けることしか許されていないものであった。彼は乗騎を失い、激痛に耐えながらも勇気を振り絞って首都へと歩き始めた。密閉された羊皮紙に何が書かれているかは知らされていなかったが、夜明けのちょうど二時間前に届けることが極めて重要であると言い渡されていた。それから三時間後、ようやく別の通行人――港へと向かう騎手――が彼とすれ違った。使節は男に破格の報酬を払い、馬の上へ引き上げてもらうと首都へと引き返させた。彼は夜明けに王宮の門に到着し、国王の幕僚長との緊急会見を求めた。まもなく王室の側近が到着し、羊皮紙の封印を破った。数分後、側近は使節を凄まじい眼光で射殺すように見つめると、二人の武装警備兵に命じ、治療を受けさせることもなく彼を港へと連れ戻させ、行先を問わず次に発港する船へ無理やり押し込めさせた。しかし、彼らが港に到着した頃には、使節が数時間前に正式な宣戦布告を行ったものと信じ切ったチョ=コロ王国の同胞たちが、すでに全面侵攻を開始していたのである。実際には宣戦布告などなされておらず、この正当性を欠いた戦闘の開始により、チョ=コロの人々は誉れなき奇襲者としての悪名を背負うこととなり、幾つもの中立国が両海王国を支援するべく決起する結果となった。使節のその後の命運は記録されていない。兵士たちに関して言えば、自分たちが不意打ちを導いてしまったことを知ったゲルズール少将は、羞恥のあまり自害したと伝えられている」――『タイコロスの年代記』より


ゴルトゥクの乗騎は実に圧倒的な存在感を放っていた。頑丈な重型引き馬と牛が合体して成長したかのような姿をしていた。体色は灰色で尾は黒く、馬よりも突き出た腹、太く強力な四肢、そして頭部には二本の小さな角が生えている。鞍は分厚い革で作られ、要所要所が鋼鉄で補強されていた。動物の背中の荷から、ゴルトゥクはロープと鎖でできた梯子を取り出すと、それを鞍に引っ掛けて乗騎の上へと登っていった。


門までの道中は至って平穏だった。何人かの子供たちが足を止めてゴルトゥクを凝視していたが、珍しいことではなかった。門を潜り抜ける際、アバナシーは心拍数が跳ね上がり、喉の奥に塊が込み上げてくるのを感じた。生涯の仕事は混乱に陥り、彼は我が家を、生活習慣を、お気に入りの場所を後にしようとしていた。彼は自らの市民権に関する聴聞会に出頭するために戻らねばならず、もしそれが最悪の結果に終われば、知り、愛してきたすべてのものから永遠に追放される前に、最後にもう一度この門を潜ることになるのだ。彼は息を整え、鼓動を鎮めようと最善を尽くしたが、ほとんど効果はなかった。ヘルギは自分の馬を彼の方へ寄せて腕を伸ばし、彼の肩に手を置いた。彼は彼女の手に自分の手を重ね、力強く握り返した。たとえ永遠の追放が現実のものとなったとしても、少なくとも彼女とともに歩む未来が残されているかもしれない。それだけでも確かに大きな価値があった。


彼らはレザを先頭にして北へと馬を進めた。彼らのルートは午後の遅い時間帯に鬱蒼とした森林地帯を通過することになっており、レザは夕暮れ前には絶対に目的地へ到着しなければならないと強く主張していた。深い木々の天蓋の下では、日が落ちれば足元の道が見えなくなってしまうからだ。森の中には小さな集落と一軒の宿屋があり、そこで一夜を過ごす予定だった。


太陽は容赦なく照りつけていたが、気温は穏やかで、かすかなそよ風が火照った身体を冷やしてくれた。一行の面々はそれぞれ程度の差こそあれ道中の備えをしていたが、中でもルシンダの装いは際立っていた。レースの縁取りが施されたつば広の白いフェルトハットを被っており、日光(そして大半の雨粒)を確実に肌から遮断してくれそうだった。


しっかりと整備された街道を進む彼らは、サファイア・シティへ向かう他の旅人たちと度々すれ違った。一時間ほど走り続けた頃、レザがグループから少し前へ抜け出し、アバナシーを呼び寄せて隣に並ばせた。ヘルギはその隙にゴルトゥクの脇へ駆け寄り、彼の乗騎について知っておくべきすべての質問を浴びせ始めた。


アバナシーが隣に並ぶと、レザは身を乗り出し、低い声で囁いた。


「あのベイツという男を、どれくらい信用しているんだ?」とレザが尋ねた。


「分からないな」とアバナシーは言った。「信用していない、と言った方が正しいかもしれない。つまり、彼を疑うような理由は今のところ何もないんだ。彼は仕事も私生活もすべて放り出して、ろくに知りもしない相手と無報酬で、期限も分からない冒険に出ようとしてくれた。だから、それなりの信頼には値すると思うが……なぜそんなことを聞くんだ?」


レザは鼻で笑った。「今朝の奴の話だ。俺は鵜呑みにしちゃいない。お前が奴を訪ねて同行を依頼し、その数時間後には市の牢獄に入り込み、トルガシュに致死量の毒を盛っただと? そんな芸当、俺のようなプロの稼業であっても計画に数日、下手をすれば一週間はかかるぞ」


「だが、彼には市政府の身分証明書があるし、錬金術師だから毒の扱いにも慣れているはずだ。確かに君の言う通り、あまりにもトントン拍子に進みすぎた気はするが、彼が嘘をつく理由がどこにあるんだ?」


「推測すらできないほど、俺はあの男を知らん。それに世の中には、理由もなく、あるいは本人にしか理解できない理由でイカれた真似をする狂人がごまんといる。お前と同じで俺も論理的な説明を好むが、時にはどれだけ探しても見つからないことだってあるのさ」とレザは言った。


アバナシーは鞍の上で姿勢を正した。「一番単純な説明は、彼が本当のことを言っているということじゃないかな。忘れないでくれ、助けを求めに行ったのは俺であって、彼から押しかけてきたわけじゃない。それに、どちらにせよ議論しても始まらないさ。彼が教えてくれた場所に行かないとして、他にどこへ行けと言うんだ?」


レザは首を横に振った。「選択肢が他にないとしても、納得がいかないものは納得がいかん。まあいい、今のところ俺から言えるのはそれだけだ。どう転ぶか見守るとしよう」


アバナシーは頷き、馬の歩調を緩めて再びヘルギの隣へと戻った。馬上の彼女を眺めるのは驚きだった。まるで馬が彼女の身体の延長であるかのようにしなやかだった。アバナシーの馬が動くたびに彼の身体は上下に揺さぶられ、一日の終わりには鞍に打ち付けられ続けた腰と背中が痛むだろうと分かっていた。しかし、ヘルギの美しい臀部と鞍との間には、隙間など一ミリたりとも生まれなかった。馬の体が動けば、彼女の体も完璧に同期して動く。夜になって休む時も、彼女が疲労を感じることはないのだろう。自分の体が情けない状態になっていることを彼女に白状するのは、あまり気の進まないことだった。


「何か良いものでも見えたかしら?」彼が自分を見つめているのに気づき、彼女が尋ねた。


「君の乗馬の流麗さと気品に見とれていただけだよ」と彼は言った。


「それだけ?」


彼は彼女の方へ身を寄せた。「宿屋のベッドがどれくらい広いかも気になっていたかな」と、彼は低い声で囁いた。


彼女は笑みを浮かべた。「どうにかやりくりしましょう。あなたがこの道のりを生き延びられたら、の話だけどね」


さらに一時間ほど進むと、街道沿いには次第に多くの木々が立ち並び始めた。遥か彼方に森林の姿が見えてきた。レザは道中、『ムハフィズ』に纏わる歴史を語ってくれており、その話が終わると、ベイツが少し手応えを得ながらゴルトゥクと会話を交わそうと試みていた。


ルシンダはある地点で馬の歩みを緩め、みんなに先へ行くよう手を振った。背の高いスギの木で黒い子リスが枝から枝へとすばしっこく飛び移るのを眺めるためだ。サファイア・シティにもリスは腐るほどいたが、そのほとんどは灰色リスであり、彼女は黒いリスの方がずっと愛らしいと感じていた。彼女は顔いっぱいに満面の笑みを浮かべて一行に追いついた。


街道は次第に狭くなり、頭上遥か高所の枝々が道を覆い始め、頭上に交差するようになった。太陽の光はほとんど届かなくなってきた。


「時間までに間に合うかしら?」ルシンダが尋ねた。


「まず間違いないだろう」とレザは言った。「そろそろ森の深部に入る頃合いだ。予想していた通りの時間帯だな」


頭上で交差する枝々が編み合わさり、緑の天蓋を形作り始めた。日没にはまだ数時間あったが、森が光の大半を遮っていた。それでも街道は十分に整備されており、視界もペースを維持できる程度には保たれていた。あちこちから様々な鳥のさえずりが聞こえ始めた。


やがて太陽が低く沈み、鬱蒼とした茂みが一層深くなったため、彼らは馬の速度を落とさざるを得なくなった。道自体は依然として良好な状態だったが、時折落ちている枝や伸びてきた根が頻繁に現れるようになったからだ。刺激的な散策の果てに、遠くから遊んでいる数人の子供たちの声が聞こえてきた。道の曲がり角を曲がると、そこは集落の入り口だった。


三人の男の子と一人の女の子が、棒切れを使って汚れのついた白いボールを互いに押し付け合ったり弾き飛ばしたりしていた。ゴルトゥクが姿を現すと、男の子たちは棒を投げ捨てて逃げ去った。女の子は微動だにせず、何も言わずにミノタウロスをじっと見つめていた。まるで自分の存在を消そうと必死に祈っているようだった。アバナシーは患者がどんな反応を見せるかチラリと伺ったが、彼の表情は無相変のままだった。


ゆったりとした足取りで三分も進むと、宿屋のある集落のほぼ中心に到着した。「馬たちの世話は私がやっておくわ。ちゃんと手配されているか確かめたいしね」とヘルギが言った。彼らは馬小屋の近くで一斉に下馬し(ゴルトゥクは登る時よりも遥かに素早く降りることができた)、ヘルギが厩務員と話しに向かう間、残りの面々は宿屋の中へと足を踏み入れた。


そこはアバナシーが想像していた通りの、街道沿いの小さな宿屋そのものだった。一晩以上滞在する者など皆無に等しく、数十マイル先に別の宿屋があるわけでもないため、内装やメンテナンスに宿主が気を配っていないのは一目瞭然だった。表には看板すら掲げられておらず、宿に名前があったとしてもどこにも表示されていなかった。一階には簡素な食事スペースとバーカウンターがあった。家具の大半は使い古されて補修された痕跡があり、新しく補充されたパーツを元の色に合わせようとする努力すらなされていなかった。椅子やテーブルの中には、一瞥しただけで小刻みにグラグラと揺れるものもあった。壁には素人が描いた夕日や果物の絵が数枚、雑に剥製にされたイノシシの頭部、小川で水浴びをする妖精(フェイ)を描いたと思われる擦り切れたタペストリー、そして明らかに死んでいる男の雑な肖像画が飾られていた。肖像画の下には標準語をはじめとする複数の言語で、「ツケを払わなかった男」と書かれていた。


バーカウンターの奥では、背が低く小太りの中年男が働いていた。彼は異様なほど体毛が濃く、身なりもだらしなかった。左耳には見苦しいイボがあり、彼が漂わせる美観の悪調和を完璧なものに仕上げていた。アバナシーはバーカウンターへ近づいた。


「部屋の手配は誰に頼めばいいですか?」と彼は尋ねた。


「普段なら俺だが」男は疲れた声で言った。「あんたが『あれ』と一緒に旅をしているなら、誰に話せばいいのか分からんな」男はゴルトゥクの方へ親指を立てて示した。「うちのベッドはあんな巨体の客向けには作られてねえ。長さも足りなけりゃ、体重にも耐えられん」


「ここはサファイア・シティへ続く主要な街道沿いでしょう」とアバナシーは言った。「人型以外の客が泊まるのは、決してこれが初めてではないはずですが」


「当たり前だ。今夜はドワーフが三人泊まってるし、先週はセルヴィアンの女がいた。長年やってりゃ大抵の種族は見てきたさ。そして長年の経験から、うちのベッドがどれだけの重さに耐えられるかも分かっている。ミノタウロスに耐えられないのは確実だ。俺にできる精一杯の対応は、部屋に綺麗な干し草を運び込んで床を少しでも快適にすることくらいだな。言っておくが、馬小屋で寝かせるのは無しだぞ。馬が怯えるからな」


「そんなことを頼むつもりはありませんよ」アバナシーは厳しいトーンで答えた。「本人と話してきます。いずれにせよ、部屋が必要なことには変わりありませんから」男はただ頷き、仕事に戻った。アバナシーは静かな角へ移動し、ゴルトゥクに近くへ来るよう手招きした。


ミノタウロスは彼を直視した。「部屋は貸すがベッドでは寝られないか、部屋の貸し出しは拒否するが馬小屋で寝るのは歓迎か。今回はどちらだ?」


「それは……まあ、最初の方だな。ベッドで寝るのを明言して禁止されたわけではないが、小さすぎると言われた。ベッドを取り払って綺麗な藁を運び込み、床を快適にしてくれると提案されたよ。君はどうしたい?」


「それで構わん」とミノタウロスは言った。「藁が本当に綺麗なら、これまで泊まってきた他の場所に比べれば良い気分転換になる。規格外の客をもてなしてくれる宿がどれほど少ないか知ったら、お前も驚くだろうな」 アバナシーが葛藤し居心地悪そうにしているのを見て、彼は付け加えた。「お前の視点から見れば『規格外』ということだがな。私の視点から見れば、お前たちは全員極めて小柄だ。お前たちが寝ている間に、風で吹き飛ばされないようポケットに石を詰め込んでやろうかと時々思うくらいだ」


アバナシーは微笑んだ。「分かった、それじゃ綺麗な藁にしよう」彼はカウンターに戻り、部屋を予約した。


「食事も出しているのですね」欠けたり柄がバラバラだったりする食器やカトラリーの山を見つめながら、彼は言った。


「毎晩出しているさ、妻の外反母趾が悪化するまではな。あいつが立っているのに疲れたら厨房は閉める。その後はパンと、残っていれば塩漬け肉、あとはタマゴのピクルスくらいだ」


「実はタマゴのピクルスは好きなんですよ」とアバナシーは答えた。


「ならあんたのために言っておくと、俺が潰れて妻とその外反母趾と一緒に寝床に入るまでは厨房は開いているぞ」


アバナシーは即席の夫婦カウンセリングを始めてしまいそうな衝動を抑え、代わりにヘルギが店内に入ってくるのを嬉しく眺めた。現在一階に座っている客は多くなかったが、男たちの多くと数人の女たちが振り返って彼女を見つめた。


「みんなの準備ができたら一緒にかっちりした食事を摂りたいけれど、今はまずお腹に何か入れておきたいわ」と彼女は言った。「それに、それに合わせる蜂蜜酒もね」


彼らはある程度のプライバシーが保たれ、すぐに倒れてきそうにないテーブルに腰掛けた。アバナシーが宿主の妻だと推測した女性が注文を取りに来た。彼女の見た目は夫よりほんの少しだけマシな程度だったが、態度は夫よりも大幅に改善されていた。勿論作り笑いであることは明白だったが、少なくとも礼儀正しさと愛想を装おうと努力はしていた。温かくすぐに用意できるシチューと、蜂蜜酒を注文した。


「再び旅に出た気分はどうかしら?」ヘルギが尋ねた。


「何とも言えないな。旅に出た理由に対する苦悩のせいで、自分の感情が自分でもよく分からなくなっているんだ」とアバナシーは答えた。彼女は彼の上腕にそっと手を置いた。


「まだ初日すら終わっていないというのに、もう失敗することを考えているの?」彼女は優しく彼をからかうように尋ねた。「これは無駄骨に終わるかもしれない。けれど言っておくけれど、私はこれまでの人生でたくさんの成果をあげてきたわ」


彼は微笑んだ。「僕たちが探しているものは見つかる気がするよ。ただ、自分が自発的にここにいるのであって、自分の仕事と人生が完全に崩壊するのを必死で防ごうとしてここにいるわけじゃなかったら、どんなに良かっただろうと思うんだ」


「あなたが自発的にここに来ることなんて絶対にないわ。数週間や数ヶ月も仕事を止めて冒険に出るような人じゃないもの。これがすべて終わったら、二度とこんなことはしないかもしれないわね。だからこそ、今を最大限に楽しむのよ。一番良い部分を満喫して。あなたが座っているその危険な椅子の今にも崩壊しそうな状態みたいに、一番最悪な部分にもユーモアを見出すの。この瞬間を経験して。もし失敗したとしても、後で落ち込む時間はいくらでもあるんだから」


「それは……凄まじく洞察に満ちているね。実に素晴らしい助言だ。それが僕の口からではなく、君の口から出たことに少し嫉妬してしまうよ。ありがとう、愛しい人」


「出ていく時に私の助手にお金を払ってちょうだい」と彼女は答えた。その時、蜂蜜酒が運ばれてきて、少し遅れてシチューが届いた。少々油っぽく、肉も少し筋張っていたが、そこまで悪いものではなかった。二人は静かに語り合いながら食事を進めた。


ヘルギの手が突然、蜂蜜酒のジョッキから腰へと移動した。一人の痩せた少女が、視線を落としたまま彼らのテーブルへと忍び寄ってきたからだ。彼女の顔立ちは十分にかわいらしかった。このような小さな集落であれば美人と見なされるだろうが、都市部ではそれほど注目を集めない程度だろう。スタイルもそれなりに悪くなかったが、着ている服はそれを際立たせるようなものではなかった。荒仕事に適した簡素な服を着ており、それはかなりの修羅場を潜り抜けてきたように見えた。


「あなたの旦那様は優しくて親切そうな方ですね」と、少女はアバナシーから背を向け、ヘルギに向かって言った。「あなたを尊重して扱っていらっしゃる」彼女の声は柔らかく軽やかだった。


「そうでしょうね。あなたが影から長いこと私たちをじっと見つめていたんだから」とヘルギは冷ややかに言った。


「申し訳ありません、奥様。どうかお気を悪くなさらないでください。切羽詰まった状況でなければ、お邪魔立てなどいたしません。私はここで暮らしているのですが、宿屋の夫婦が私を働ける歳になったと考えているのです。近いうちに私を働かせようとしていて、ここから逃げ出さなければならないのです」


ヘルギはアバナシーを不快にさせるような、冷淡な笑い声を漏らした。「あなたの年齢で、まだ働き始めていないのだとしたら、私の部族ならあなたを狼の餌にしているわね」


「奥様、私は箒を持てる年齢になってから、毎日ここで少なくとも十二時間は働いています。労働を恐れているわけではありません。ですが、彼らが言っているのは……その、夜の相手をする女の子にしようとしているという意味なのです」


ヘルギの表情が和らいだ。一瞬だけ怒りの色を浮かべたが、アバナシーはそれが自分自身に向けられたものだと気づいた。「そういう生き方で生き生きとする者もいるけれど、多くの者はそうではないわ。あなたはそのような生き方を望んでいない、だから助けを求めているのでしょう」


「望んでいません。日本では毎日、誰かが私のお尻をつねったり、胸に手を触れようとしてきます。男の人なら、私が大騒ぎしたり叩いたりすれば顔を赤らめて放っておいてくれますが、同じことをする女の人たちは自分が何も悪いことをしていないかのように振る舞ったり、私を厄介事を探している者扱いするのです。それに宿主夫婦は、客の機嫌を損ねないために、私がその大半を耐えることを期待しています」


「誰にとっても健全な環境とは言えないな」とアバナシーは言った。「自分の身体や、手に起こることを自分でコントロールできないというのは、多くの問題を引き起こす」


ヘルギは静かに手を伸ばし、彼の手に自分の手を重ねて力強く握りしめた。彼女が会話を引き継ぎたがっていた。


「あなたはどうして欲しいの――」彼女は言葉を切り、アバナシーは再び彼女が一瞬見せた自己への怒りを目にした。「私たちがどう助けられるか教えて。それと、あなたの名前もね」と、彼女は付け加えた。


「クラリッサと呼ばれています、奥様。明日ここを発つ時、私を一緒に連れて行ってください。何週間も、一緒に旅ができる適切な人たちが現れるのを待っていたのです。言ったように、あなたの旦那様は親切ですし、あなたのパーティーには強い戦士たちがいます。私は小柄ですから、どなたかの馬の後ろに簡単に乗ることができます。ここで厨房の仕事をしていましたから料理もできますし、キャンプで鍋やフライパン、その他のものを掃除することもできます。服の洗濯もできますし、補修が必要なら裁縫も得意です。馬の世話も、薪集めも、夜間の見張り交代もできますし、お役に立てることなら何でもします」


「私たちはトラブルに向かっている可能性が高いわ」とヘルギは言った。「あなたを巻き込むような危険ではないわね。最終目的地がどこになるかも決まっていないのよ」


「ああ、そんな――つまり――」少女は適切な言葉を探してあちこちと言葉を濁した。「あなた方のグループのメンバー候補として考慮していただけるだけでも光栄ですが、そのような冒険の生活も私には向いていません。大きな町や都市、可能性に満ちた場所に着くまで一緒に旅をさせていただければ十分です。そこから先は一人でどうにかします」


「どこかに家族がいるか仕事が見つからない限り、逃げ出そうとしているのと同じ状況に陥るかもしれないわよ。しかも、少なくともわずかな保護を与えてくれる宿主さえいない状態でね」とヘルギは静かに言った。


「私は労働を恐れていませんし、いくつかの技術もあります、奥様。仕事は見つけます。豚に餌をやったり牛の乳を搾ったりする方が、彼らが私にさせようとしていることよりずっとマシです」


ヘルギは彼女をじっと見つめた。「勿論、私達同士で話し合う時間が必要だわ」と彼女は言った。「けれど、もう一つ質問があるの」 彼女は少女の方へ少し身を乗り出し、その瞳に鋼の意志を込め、声にもそれを滲ませた。「明日あなたを連れて行くとして、私達を追ってきてあなたを取り戻そうとする者はいるかしら?」


「いいえ」とクラリッサは露骨に安堵しながら言った。「それでも、奥様、できれば目立たないように発ちたいです。宿主夫婦から、恩知らずだとか、惨めに戻ってきて仕事を乞うことになるだろうとかいう説教を聞かされずに済みますから」


ヘルギは頷いた。「あなたが彼らにどんな別れを告げるべきかは、あなたが決めることよ。今夜遅く、私達の決定を伝えにあなたを探しに行くわ」


少女は緊張したように微笑み、同意の頷きとお辞儀の中間のような仕草をした。「ありがとうございます、奥様。お二人とも、ありがとうございます」 そう言うと彼女は周囲を見回し、テーブルから離れて部屋を出て行った。


ヘルギはフラスコから長々と酒を飲むと、アバナシーを見た。「どう思う?」


「そうだな、他の皆とも話し合ってみたい」


「その必要はないわよ。これはあなたの遠征なのだから。私達はみんなあなたについて行っているの」


「そうかもしれないが、皆が持っている知恵を利用しないとしたら愚かというものさ」


「そういうあなたの口の上手なところが好きなのよ」と彼女は優しく言い、彼に素早くキスをした。「でも、私はあなた自身の意見を聞いているの」


「そうだね、ここから抜け出したいという彼女の言葉は本気だと思う。追手が来ないという答えも嘘ではないだろう。彼女は質問に対して心底安堵していたからね。だからこそ、君が代わりに何を聞いてくるのかと何を恐れていたのか疑問に思うよ。ここから去る理由についての彼女の話に関しては……ここの労働環境が彼女の主張通りに酷いものなら、もう少しトラウマの兆候が見られてもおかしくはないと思う。それでも、他の人より立ち直りが早い人もいるし、街道沿いの宿屋で働く少女の生活が快適なものではないだろうということは、想像に難くない。連れて行ってあげてもいいんじゃないかな」


「私も彼女が話のすべてを語っていないという感覚はあるわ。けれど私達は見知らぬ同士だし、人には秘密を持つ権利がある。私達に危険を及ぼさない限り、手助けすることに不満はないわ。それにキャンプの周りに手が余分にあるのはいつだって助かるものね」とヘルギは言った。


「分かった。夕食の時にみんなで話し合おう。今は少し休みを取りたいな」


「ここの家具の品質を見た後じゃ、私達の部屋の快適さを体験するのが待ちきれないわね」と彼女は無感情に言った。







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