吸血鬼の館で味わう至高の味覚と秘められた夜
「ある場所では、神々こそが絶対的な力を持つと教えられている。もしそうなら、なぜ神々は我々の信仰を気にかけたり、その見返りを与えたりするのだろうか? 神々にとって我々など、羽虫も同然の存在はずだ。また別の場所では、国家や国王こそが絶対的な力を持つと教えられている。もしそうなら、なぜ彼らは世界全土を統治せず、己のちっぽけな領土だけに留まっているのだろうか? 何より、なぜ我々から税を徴収する必要があるのだろうか? 政治や哲学が議論される場では、ひとつの新たな説が定着しつつある。いつの日か、会社こそが絶対的な力を持つようになるという説だ。統合鉱山会社はすでに一部の小国のそれを上回る財力を有し、23もの国家で事業を展開している。『誓約の鋼鉄』は個人の雇い兵から軍隊丸ごとまで、対価を支払える者なら誰にでも供給しており、その戦力は30年の歴史の中で幾度もの戦争の戦局を覆してきた。資金や物理的な戦力を比較すれば、スカイ・ロード・デリバリーなど取るに足らない規模に見えるかもしれない。しかし、最急ぎの報せを迅速に届けるという分野における彼らの主導権は、決して軽視されるべきではない。スカイ・ロードがある首都での業務を停止したところで、政府が崩壊することはないだろう。だが、それは深刻な混乱を巻き起こし得る。彼らのサービスの利用者は年々増加している。会社というものは一般的に、政治的国境や宗教的教義に縛られない。彼らの信仰の条項とは利益を上げることであり、それを追求する過程で、一部の会社が自らの事業において信じがたいほど巧みになっていくのは必然である。会社を含め、いかなる存在が絶対的な力を持つなどと想像するのは誇張かもしれない。しかし、一部の会社が強大な力を有しているのは事実であり、その成長はとどまるところを知らないように思われる」
--- 『タイコロスの年代記』より
二人がようやく到着したとき、道すがら通り過ぎてきた数々の邸宅や屋敷の多さから、そこが市内のゴールデン・ハイツ地区であることはすでに察しがついていた。到着した屋敷は、美学的には少々まとまりのないごった煮のような様相を呈していた。外壁と正面の門には、古代の快楽の女神エクスタシアのフレスコ画や像が飾られている。奥には、ほんの2世紀ほど前に流行したエルフ様式の、大きな3階建てのマーブル造りの本邸が見えた。そのすぐ近くには、ボレアス公国に由来する現代的なルスティカ調デザインの、やや小ぶりな2階建ての木造建築が2棟佇んでいる。財を成すにつれて敷地内に建物を増築していくのは珍しいことではないが、普通は建築のテーマに一定の統一感があるものだ。
外周には多数の市警備隊員が配置されていた。半開きになった正面の門には、さらに多くの警備隊員と、一目でそれとわかる屋敷の私設警備員が数名立っていた。
「全員、女性だわ」アバナシーが馬車から降ろすのを手伝うと、ルシンダが囁いた。
確かに、隊員も警備員もすべて女性のようだった。
二人が門へと近づくと、私設警備員の一人が声をかけようと一歩前へ踏み出したが、市警備隊の警官がその前に立ち塞がり、満面の笑みを浮かべた。
「アバナシー医師、ルシンダさん、ようこそ! 今夜はお越しいただき光栄です。どうぞそのまま本邸の正面玄関へお進みになり、素晴らしい夜をお過ごしください」
「ありがとう、お気遣いに感謝するよ」とアバナシーは言った。
彼の名前が口にされた瞬間、周囲の者たちは脇へと退いた。アバナシーはルシンダの腕を取り、明るく照らされた大理石の小道を歩いて屋敷へと向かった。私設警備員のふたり――どちらも女性で、際立って艶やかな美貌の持ち主――が、二人のために扉を開けた。
屋敷の内装は、外観以上に脈絡のないものだった。調度品や美術品は世界中から集められたかのようで、いくつもの世紀にまたがっていた。邸宅というよりは博物館に近く、それも時代や文化ではなく、「放蕩」というテーマによって分類された博物館のようだった。展示ケースの中には、エスタシーに達することで神性を知ろうとしたドワーフのドリディッシュ=ハニ派の象徴が刻まれた、一角獣の角で作られた喫煙パイプが飾られていた。壁の一面に飾られた大きなタペストリーには、遠い昔にエルフたちによって実践されていた、かなり露骨で情熱的な多産と豊穣の儀式が描かれていた。完璧に中央に並んだ三つの胸と蜂の腰を持つメスリア人の女性の等身大ブロンズ像もあったが、彼女の左側には腕が2本あり、右脚には足が二つ付いていた。さまざまな生地や模様が組み合わされた、あらゆる文化のごった煮のようなクッションが、屋敷のどこからでも手の届く場所に敷き詰められていた。
二人が入ってきたのを見ると、セルヴィアンの女性がまっすぐこちらへ歩み寄ってきた。彼女の装いは完全に色とりどりの鳥の羽だけで作られており、豊かな胸元と、膝からはるか上のヒップのすぐ下あたりだけを覆う非常に露骨なもので、真珠のように白い肌と鮮烈な対比をなしていた。多くの同族と同じく非常に細身で、アバナシーが思わず目を奪われてしまうほどに美しく官能的な顔立ちをしていた。
「主賓の方々がお着きになりましたわ」彼女は甘く滴る蜜のような声で言った。「皆様を満たして差し上げられるほど、たっぷりご自身をお持ち込みになられたかしら?」彼女は内緒話でもするように顔を寄せて続けた。「皆様、まさにあなた方を渇望しておいでですのよ」
「誰かと勘違いされているのではありませんか?」ルシンダが尋ねた。
セルヴィアンの女性は、楽しげに温かい笑い声を上げた。「ルシンダさん、屋敷の主は今夜、あなたを讃えて幾つかのパズルを展示するよう特別に注文されたのですわ。そしてアバナシー医師、あなたが恐れを知らず殺人犯の足をすくって逃亡を防いだその特別な功績を記念して、今夜はハムをお出ししておりますの。もちろん、伝統的な手法で縄で吊るされた、最高のグラナディナ産ハムだけを。切り分けるためにマスター・スライサーもお呼びしましたわ。グラナディナのカット技術コンテストで何度も優勝されている方だそうですの。さあ、どうぞこちらへ。すぐにお引き合わせしないと、主催者が私に腹を立ててしまいますわ」
「ひとつだけ」彼女が二人を連れ出してしまう前に、アバナシーは急いで言った。「招待状には馬車がどこへ向かうのかさえ書かれていなかったんだ。主催者が誰なのかも知らされていない」
「まあ、あの方は分別やプライバシーには少々うるさいお方ですの。けれど、あなた方は我が主からというより、ホンネル隊長から招待されたのではなくて? いずれにせよ、この内装でお気づきにならなかったとしても、ここはグラフ邸ですわ。さあ、どうぞおついてくださいな」
グラフ邸とは、人々が息をひそめて囁き合いながらも、めったに公には口にされないヨアヒム・グラフ子爵の邸宅であった。子爵という称号はサファイア・シティでは使われていないものだったが、グラフは1世紀ほど前に消滅した国家からその称号を携えてやってきたのだ。彼はサファイア・シティに存在する数少ない高貴な吸血鬼の一人であり、群を抜いて最も影響力のある人物であった。徹底した快楽主義者であり、この邸宅で何が行われているかについては無数の噂が囁かれていたが、実際に足を踏み入れた者がそれを語ることは滅多になかった。市内でも特に格式の高い高級娼館のうち、たった一軒を除くすべてをグラフが所有しており、彼はまた、法で認められた精神変容をもたらす媚薬やハーブの、市内最大の輸入・販売元でもあった。さらに、輸入した蜂蜜と異国情調あふれるスパイスで作られた、独自の蜂蜜酒ブランド『グラフ特選蜂蜜酒』さえ所有していた。
ルシンダはアバナシーに素早い視線を送った。アバナシーが肩をすくめると、二人はその細身の女性の後に続いた。彼女は他の客たちの間を巧みに擦り抜け、二人へ話しかけようとする者の介入を自然に遮りながら進んでいった。やがて二人は、数々の楽器や艶やかな踊りの衣装で満たされた広い部屋へと行き着いた。部屋には12人ほどの客がおり、全員があるひとりの女性が繰り広げる演舞に見入っていた。
彼女は肌の白い人間で、平均よりも背が高く、光の当たり具合によってブロンドにもダークブラウンにも見える肩までの長さの髪をしていた。その体は高度な訓練を受けた舞踏手のようにしなやかに引き締まっており、今は背中を大きく反らせ、これまでアバナシーが見たこともないような腹部の筋肉をうねらせながら、指先でフィンガーシンバルを奏でていた。猫を思わせるしなやかな容姿を持ち、極めて優雅かつ敏捷に舞っていた。深い赤のベルベットの椅子には、濃い褐色の肌をした女性が全身を完全に透けて見せるメッシュの衣装を纏って腰掛け、踊り子に合わせて小さな太鼓を優しく叩いていた。
別の赤い椅子にはホンネル隊長が座り、踊り子を凝視していた。その隣の椅子では、非常に豊満な胸をした赤毛の女性が美しいエルフの金髪女性に絡みつき、互いの肌を愛撫し合いながら半ば心ここに在らずといった様子でショーを眺めていた。さらに隣の椅子には、控えめな装いの可憐な女性を膝に乗せたテペシュが座っていた。アバナシーはそれが彼の妻のアンドレアだろうと推測した。その隣には長い黒革のソファーが置かれていた。その両脇には二人の女性が座っており、それぞれタイプは異なるものの、息をのむほど官能的で魅力的な肢体を誇っていた。もうひとつの赤い椅子には、礼服を身に纏ったオスのオークが腰掛けていた。
案内役のセルヴィアンの女性は、踊り子が演舞を終えるのを待ってから、二人をソファーへと導いた。四人の美女の真ん中に座っていたのは、青白い肌に痩せた顔立ち、長い黒髪と氷のような青い瞳を持つヨアヒム・グラフだった。彼は赤いベルベットのジャケットに黒い絹のシャツ、ゆったりとした黒い絹のパンツを身に着け、裸足で寛いでいた。踊り子は二人が到着する直前にソファーへと辿り着き、グラフは立ち上がって彼女の唇にキスを贈った。
「君にはいつも驚かされるよ」と彼が発した声は、アバナシーが予想していたほど低くも不吉でもなかった。
「あなたを幸せにできるなら、喜んで」と踊り子は、アバナシーには見当もつかない遠い異国の訛りで応えた。
「子爵様、澄徹のアバナシー医師と、同僚のルシンダさんをご紹介いたします」アンジェリクが告げると、グラフは踊り子の頬に軽くキスを落としてから二人へと向き直った。
「我が家へよくお越しくだされた」と彼は言った。「本当にお二人をお迎えできて光栄です。何が起きたか――もちろん、真実の方ですが――を耳にしたとき、我が街が恐怖から解放されたこと、そしてお二人が果たされた貢献を祝して、ささやかな宴を開こうと決めましてね。ホンネル隊長に頼んでお二人を招待していただいたのです」
「お招きいただきありがとうございます」とアバナシーは言った。
「お伺いできて本当に光栄です」とルシンダも付け加えた。
「いずれ折を見て、お二人ご自身の口からその物語を聞かせていただきたいものですな。ですが、まだ新しい傷を負っておられるのでしょう。他人に瘡蓋をいじられているうちは癒えぬものです。ですからどうぞ、今夜は心ゆくまでお楽しみください。私の所有するすべてを、お二人のお慰みのために提供いたしましょう」そう言って、彼の視線は踊り子へと向けられた。「まあ、ほぼすべて、ですがね」
「極上の煙草各種に、子爵特製の蜂蜜酒をはじめとする素晴らしいお酒、格別に魅惑的なお相手や、舌鼓を打つ極上の絶品料理もご用意しておりますわ」とセルヴィアンの女性が言った。
「お料理をいただけるとありがたいです」とアバナシーが言った。
「望むままに」とグラフは言った。「アンジェリク、二人が心ゆくまで食事を楽しめるよう取り計らっておくれ。それから、望むならキング・パインも出せるようにね」
「なんてお優しいのでしょう!」ルシンダは興奮気味に声をあげた。「生きているうちにそれを味わえるなんて思いもしませんでしたわ」
「悲しいかな、一度それを味わってしまうと、他のどんな果実も霞んで見えてしまうのですがね。ですが、最高峰のものを知るにはそれだけの代償が伴うというわけです」彼は再び踊り子を見つめながら言った。
アンジェリクに導かれて廊下を進むと、二人は体にびっしりと数字が書かれた、しなやかなエルフの青年の脇を通り過ぎた。彼は下腹部に小さな布切れを纏っているだけだった。
「パズルを解いてみませんか?」と、青年は吐息混じりの声で二人に問いかけた。
「まずはお食事ですわ」アンジェリクが答え、二人を食堂へと案内した。そこには数々の極上料理が並び、客たちが思い思いに料理を取っている大きな晩餐卓と、二つの小さめのテーブルがあった。一方のテーブルの上には、天井の梁から縄で吊るされた巨大なハムが鎮座していた。その下には、非常に厳格な装いをした厳めしい顔つきの男が立ち、彼の前には4本のナイフが並べられていた。もう一方のテーブルの奥、手の届かない場所には、二つの巨大なキング・パインが置かれていた。ひとつはすでに切り分けられて果肉が取り出されており、もうひとつはまだ手付かずのままだった。
セルヴィアンの女性はまず二人をハムのテーブルへと連れて行った。マスター・スライサーは巧みな手つきで、指の長さほどもある紙のように薄い珍味を削り出し始めた。彼はそれらを二枚の小皿に盛り、二人に一枚ずつ手渡した。二人ともグラナディナ産ハムを口にするのは初めてだったが、その評判に違わず、どんぐりと野草のほのかな香りを漂わせ、飼育された豚には到底出せない芳醇で力強い風味を誇っていた。それは間違いなく、二人がこれまでの人生で味わった中で最高の肉だった。
料理を平らげると、アンジェリクは二人をキング・パインのテーブルへ連れて行った。「子爵様から、お二人に『子爵の一皿』をお出しするよう仰せつかっています」と彼女はテーブルの奥にいる男に告げた。
「お一人ずつに、ですか?」男は信じられないというように問い返した。
「お一人ずつに、です」彼女はきっぱりと言った。男は頷き、カットされたパインをテーブルへと運んだ。それは切断の過程で溢れ出る果汁を逃さないよう、湾曲したセラミックの受け皿に据えられていた。片側から小さな塊が削り取られているのが見えたが、給仕は長くギザギザとした刃を取り出し、果実の反対側を上から下まで、親指二本分ほどの厚さで削り切り出してみせた。彼は同じように前述の厚さでもう一筋削り取り、中央に溝があり、両端に小さな窪みがついた銀の皿にそれぞれを盛り付けた。
「パインを食べ終えましたら、お皿を傾けて、端の小さなカップに溜まった果汁をお飲みになってくださいね」とアンジェリクが言った。「食べ方に決まりはありませんわ。極めて礼儀作法に厳しい方ならフォークをお使いになりますが、子爵様を含め、ほとんど皆様はお手で召し上がられます。手が美味しくなるのだと、子爵様はお戯れをおっしゃるのです」
「本当にキング・パインを食べられるなんて信じられないわ!」ルシンダはアバナシーに向かって言った。
「私にとっても初めてのことだよ」と彼も答えた。二人は互いに微笑み合い、黄金色に輝く細長い果肉をそれぞれ注意深く持ち上げ、一口かじりついた。アバナシーは一瞬、その果肉が予想に反してしっかりとした歯ごたえであることに驚いた。柔らかいものと思い込んでいたからだ。だが次の瞬間、脳が果実の圧倒的な風味に支配された。歯が浮くほどの強烈な甘みがありながら、同時にどこか爽やかな酸味も共存していた。噛み締めるたびに溢れ出す果汁が口いっぱいに広がり、その神聖な味わいが舌を包み込んでいく。最初の一口を飲み込み、アバナシーはその強烈な風味に圧倒されて呆然と立ち尽くした。ルシンダもまた、同じように感極まっているのが見て取れた。
「キング・パインを食べる最大の悲劇は、もう二度と他のどんな果物でも満足できなくなってしまうと気づく瞬間ですわ」アンジェリクが静かに囁いた。二人は無言のまま、唇を通過する一口一口を慈しむように、ゆっくりと味わい続けた。アバナシーは一瞬、ルシンダと互いの前で官能的な何かを共有しているかのような気恥ずかしさを覚えたが、再び口内に広がる溢れる果汁の奔流に、すべての思考が吹き飛んでしまった。最後のひとくちを噛み締め、飲み込むと、二人は皿を傾け、底に溜まった果汁を飲み干した。
「言葉に……できませんわ」とルシンダが言った。「誰かにこの味を説明しようにも、言葉が見つかりません」
「無理もありませんわ」とアンジェリクが言った。「見たこともない新しい色を、見たことがない人に説明しようとするようなものですから。お気に召していただけて何よりです。お二人が心ゆくまで堪能されるお姿を拝見できて、心から胸が満たされましたわ」彼女が手元で密かに合図を送ると、金色に輝く絹の下着を纏った小柄な女性が近づいてきた。細身でありながら豊かなヒップを持ち、その顔立ちには見事なメイクが施されていた。特に、深みのある雄弁な瞳の両脇には繊細で複雑な装飾模様が描かれていた。肌は健康的な小麦色で、黒髪はシニョンにまとめられていた。彼女は裸足だった。
彼女は背伸びをし、アバナシーの耳元で何かを囁いた。アバナシーの目が丸くなった。
「それは……解剖学的・物理的に可能なことなのかい?」と彼は感嘆の声を上げた。
「間違いなく可能ですわ、ですが言葉で説明するよりお見せした方が早いですわね」と彼女は答えた。
「私……正直言えば興味津々だが、つい最近お付き合いを始めた女性がいてね。まだそういう話を詳しくしていないんだ……彼女がどう思うか分からないから」アバナシーは狼狽しながら言った。
彼女は微笑んだ。「素晴らしいお相手に出会えたのなら、それを乱さないのが一番ですわ。きっとうまくいきますわよ」彼女はルシンダの方へ歩み寄り、耳元で何かを囁いた。
「そんなに早く?」ルシンダが問い返した。「どうすればそんなことが起こるの?」
「説明する時間があれば、その間に二回は起きてしまいますわ」と女性は艶やかに微笑んだ。
「それが本当かどうか、もの凄く確かめてみたいわ」とルシンダは言った。
女性はルシンダの腕を取った。「厨房でちょっとしたものをお見せしてきますわ。すぐに戻りますから」と、彼女はアンジェリクとアバナシーに向かって言った。
「ここでは実にたくさんの魅力的な出来事が起きているようだね」隣の扉からルシンダが連れ出されるのを見送りながら、アバナシーがコメントした。
「ええ、そうですわ」とアンジェリクは言った。「もちろん、現実には他のどこでもそうであるように、ここでは時に難しく不愉快な事態も起きますの。この世に楽園など存在しませんから。ですが、子爵様が提示される刺激のペースについていくことさえできれば、ここには他では決して味わえない至上の快楽が存在しますの。かつて子爵様と一緒に丸二日近く煙草を嗜んだことがございますが、奏でられる音楽が目に見えただけでなく、空間に浮かぶ音符を物理的に手で掴んで並べ替え、新しく創り出した音楽を聴くことさえできましたのよ。まさに言葉では言い表せない体験でしたわ」
「ここではその言葉が頻繁に使われていそうだね」とアバナシーは言った。
「その通りですわ」セルヴィアンの女性は微笑んだ。ちょうどその時、豊満で豊かな胸と、愛嬌のある歪んだ笑みを浮かべた赤毛の女性が近づいてきた。彼女は身に着けている赤いスカートよりも長いヒールがついた赤い靴を履いていた。何らかの赤いメッシュ網で作られたブラジャーを着用しており、その中には赤い木苺がぎっしりと詰まっていた。
「ラズベリーはいかが?」と彼女は明るく尋ねた。アンジェリクは彼女のブラジャーに手を伸ばし、数粒摘み取った。
アバナシーは首を振った。「たった今キング・パインを初めていただいたばかりで、まだその余韻に圧倒されているんだ」
「無理もないわね」と赤毛の女性は言った。「味覚が回復したら、いつでも私を探しにいらして」
ルシンダと金の絹の下着を纏った女性が、厨房の扉から戻ってきた。ルシンダの顔は、アバナシーがこれまでに見たことがないほど朱に染まっており、両手は少し震えていた。彼女の瞳は潤んでおり、力なく垂れ下がった尾が肩にかかっていた。
「お二人にお会いできて光栄でしたわ」ともう一人の女性が言った。「私、その辺りを漂っておりますので、もし必要になりましたらいつでもお呼びくださいね」そう言うと、彼女は去っていった。
「お二人ともおもてなしを楽しまれたようですし、子爵様が一つだけお耳に入れておきたいとおっしゃっていた簡単な業務上の件がございますの。どうぞこちらへついてきてくださいませ。子爵様のもとへご案内いたしましたら、あとはご自由に散策なさってください」とアンジェリクが言った。
「もちろんです」とアバナシーは答えた。ルシンダは何も言わず、どこか遠くを見つめて呆然としていた。アバナシーは彼女の腕を取り、二人はアンジェリクの後について音楽室へと戻った。
「これまで味わったものを楽しんでいただけたかな」とグラフは言った。先ほどの踊り子が今は彼の膝の上に座っていた。「ズドライツァ、愛しい人」と彼が呟くと、彼女はアバナシーの姿がより直接見えるよう、わずかに身を引いた。彼女の喉から、猫の撫で声のようなゴロゴロという音が漏れた。
「素晴らしい体験でした。心尽くしのおもてなしに心より感謝いたします」とアバナシーは言った。
「それだけの価値あることをお二人は成し遂げられたのだから。君たちの物語を語ってくれとは頼まないと約束した通り、何も聞くつもりはない。だが、その最終章が今まさに書き綴られている最中であることを伝えておきたくてね。あの椅子に座っている男はテペシュ・ゴールダンと、彼の美しい妻アンドレアだ。テペシュは市議会に席を置いており、先日の不祥事によって滞っていたオーク関連のプロジェクトを迅速に推し進める手助けをしてくれることになっている。彼はまた、ノロヴィアに対する制裁措置も提案する予定だ」
アバナシーは、まるで初対面であるかのようにテペシュに向かって頷いて見せた。テペシュが自分の患者であることを匂わせるような振る舞いは一切できなかった。
「さらに我々は、オークのコミュニティと密接に協力し、手を差し伸べることで、彼らがサファイア・シティで大いに歓迎されていることを確信してもらえるよう努めている。ゴルドゥルカン・ブラッドアイは指導者として、そのメッセージを同胞たちに伝え、この街を自分たちのふさわしい故郷とするために我々が積極的に動いていることを知らせてくれるはずだ」
アバナシーはそのオークに向かって礼を示すと、オークはアバナシーに向かって精巧な身振りをしてみせ、それから自身の二本の牙の先端にそれぞれ二度触れた。
「君たちが捕らえた悪党は、この街を特別なものにしている要素を握り潰そうとしていた。君たちは彼の企みの足をすくって(ハムの肉を削ぐように)挫いてくれた」――部屋の周囲からクスクスという忍び笑いが漏れた――「そして今、彼が我々を弱体化させようとしたまさにその場所で、我々がより一層強固になるよう、他の者たちが動いているというわけだ」とヴァンパイアは語った。
「それを聞いて大変嬉しく思います」とアバナシーは言った。
「見ての通り、この物語はまだ続いている。そして君たちのために、階上に個人用として使える部屋を用意してある。私の館の使用人に頼めば誰でも案内させるよ。ここには同好の快楽主義者や、優れた技術を持つプロフェッショナルが溢れている。良い道連れを見つけて、ハッピーエンドを自らの手で書き上げたまえ」
「お心遣い深く感謝いたしますが、私には……あいにく現在、他にお付き合いのある方がおりまして。もしかするとルシンダが、興味を惹かれれば個人的にお伺い立てるかもしれません」まだ意識が完全に戻っていないルシンダは、何もコメントしなかった。
「ふむ、生身の肉体に興味がないのであれば、立ち去る前に死せる肉(極上のハム料理)を心ゆくまで堪能していかれたまえ。私の手の者に、持ち帰り用の極上のサンドイッチを作らせることもできる」
「そのお言葉に甘えさせていただきます。明日からまた仕事に戻らねばなりませんし、これほどの出来事の後では、最高峰の料理が務めへと気持ちを戻す助けになるでしょう」
「素晴らしい! お会いできて本当に光栄だった。将来、何か力になれることがあれば、いつでも遠慮なく呼んでくれたまえ」アバナシーは再び主催者に感謝を伝え、ルシンダを脇へ連れ出した。
「私は明日、どうしても頭をすっきりさせておかなければならないのだが、ここは……刺激が強すぎる。過剰な刺激だよ。家に帰って心を空っぽにし、明日の朝には患者たちに集中できるようにしなければならない。もう少し食べてサンドイッチを作ってもらい、失礼しようと思う。君も明日の朝は仕事だということを念頭に置いてほしいのだが、一緒に帰るかい、それとも残るかい?」
彼女は少しの間、躊躇した。「明日の仕事には遅刻しないわ。でも、こんな機会が次にいつ訪れるか分からないでしょう? 私はここに残って、もう少しこの快楽を堪能することにするわ」
「分かった、それならいいんだ。自分の限界は自分が一番知っているだろうからね。やりすぎないように。では、また明日の朝に」彼女はアバナシーを軽く抱きしめ、二人は別れた。
アバナシーが食堂に立ち、目の前に並ぶ極上の珍味の数々を思い描いている頃、ルシンダは子爵の息をのむほど官能的なゲストたちへと視線を彷徨わせていた。二人は共に、自分たちの前に差し出された溢れんばかりの富と快楽の深さに想いを馳せ、これから享受しようとしているものへの幸運と感謝に胸をいっぱいに満たしていた。




