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言葉の痕跡と日々の診察

『神話の時代、エルフたちの間には、思春期を迎える前に四つの言語を流暢に操るようになった神童の話が伝わっていた。この神童デュプロロスは、言語というものが物事を理解する精神の能力を制限しているのではないかという確信を抱くようになった。前夜に酒に酔ったせいで失態を演じたことに罪悪感を覚えつつも、飲酒そのものは後悔していないという概念をたった一言で表現する単語を所持しているのはドワーフだけであり、一般的な精神の持ち主であれば、そのような例をもって彼の主張の証左と捉えた。しかし、より偉大な思想家たちが汲み取った彼の真の意図は、言語とは一定の方法で刺激を処理・分析するよう精神を訓練するものであり、言語ごとにその方法が異なるという点にあった。彼は約十年の歳月の大部分を捧げ、文化的な障壁を取り払い、人生の意味に対するより深い理解へと導くと信じた独自の言語を創造すべく、古代から現代に至る膨大な言語を研究した。彼は数十人の信奉者を集め、自ら『真語(トゥルースピーチ)』と名付けた新しい言語を数年間教え込んだ後、それを他者に広めさせるべく彼らを世界へと送り出した。彼らがその使命を果たしたかどうかは歴史に記録されておらず、エルフたちの記憶にも残っていない。しかしながら、『大激変の時代』において、ゲベダイユム王がその混乱期に民を導くにあたり、王妃の助言に深く依存していたという噂が存在した。そして王妃自身は、真語が己の母語であり、その言語によって未来の側面を窺い知ることができるほどにパターンを見抜き、時間の質 we を理解できるよう精神が形成されたと主張する若い女性から助言を受けていたという。彼女の正体は、実在したとしてすら不明である。しかし歴史が記録するところによれば、当時としては極めて異例に見えた王の一連の施策は、後に彼の王国と臣民に多大な利益をもたらしたことが証明された。おそらく王は運が良かっただけであり、あるいは狂気にとらわれていたのかもしれない。しかし、人間の王の成功を説明するために古代エルフの伝承が引き合わされるのは興味深い事実である。いずれにせよ、他の偉大な思想家たちがデュプロロスの哲学を追究したものの、それ以降いかなる年代記にも真語に関する記述は現れていない』

―『タイコロスの年代記』より

「つまり、彼は私たちの訪問を予期していないということですね?」アバナシーの隣に座っている女性が尋ねた。彼女はセルヴィア人で、中年期に入ったばかりの年齢であり、公務員のシンプルな茶色の衣服を身にまとっていた。生き生きとした目をしていたが、その声には慎重な響きがあった。

「予期してはいないが、君の話を聞けば彼も満面の笑みを浮かべるはずだよ。まあ、彼の場合、それは単なる比喩表現に過ぎないがね」

「なんの書類手続きもなく私が外出するのを上司に納得させてくださったのには、正真正銘驚きましたよ。ですが、彼から与えられた二時間という制限時間は絶対です。もし遅刻したら、斧が振り下ろされるのはあなたの首ではありませんからね」

「心配いらないよ。私たちがここへ来た理由を聞けばすぐに――」

まるでそれを合図にしたかのように、ハンサムな若い《ウォッチ(市警備隊)》の士官が待合エリアに現れた。「ホンネル隊長がお待ちです。すぐにお入りください」と、厳格でありながらも友好的なトーンで彼は言った。二人は廊下を進み、階段を上り、最終的に凝ったドアノブがついたなかなか見事な松の木のドアにたどり着いた。士官は二回ノックしてからドアを開け、中へ入るよう手振りで促した。

「ホンネルの執務室の家具は簡素だった。アバナシーの目から見ても個人的な思い出の品はほとんどなく、壁には何も飾られていなかった。デスクの上には書類だけが、比較的整然とした三つの山に分けられて置かれていた。デスクの後に置かれた大きな椅子は、公務員用としてアバナシーが予想していたよりも豪華で座り心地が良さそうに見え、彼を驚かせた。デスクの前にある三脚の普通の椅子は、おしゃれでもなければ快適そうでもなかった。ファイルキャビネットを除けば、部屋にある唯一の家具は片側の壁に寄せられたソファと、その横にあるごく小さなサイドテーブルだけだった。サイドテーブルの上には小さな鉢植えが置かれていたが、アバナシーにはそれが何という植物なのか分からなかった。

ホンネルは椅子に座っていたが、二人を迎えるために立ち上がった。

「アバナシー先生、……例の件について緊急の報せがあると聞いている。しかし連れがおられるな。私には見覚えのない方だ」

「ホンネル隊長、アロイウィン・ベロリアさんをご紹介させてください。市の『言語・翻訳局』にお勤めの方です。今朝早くに彼女とお会いするまで、私の情報は単なる直感に過ぎませんでしたが、私たちがこれから話し合う件に関して、彼女こそが専門家なのです。ご覧になればお分かりいただける通り、彼女には守秘義務に触れるような内容は何も話していません」

「ベロリアさん、お会いできて光栄です」ホンネルが言った。「どうぞ、二人ともお掛けなさい」

「隊長」アバナシーは、見た目通りに一切容赦なく不快な椅子に腰を下ろしながら、苦み走った表情を噛み殺して言った。「《ウォッチ》の案件に関連する『HED』という文字について、何かしらの手がかりが得られたかもしれません」

「続けたまえ」ホンネルは無表情に言った。

「『head(頭部)』の誤記なのか、それとも他の単語なのかについての議論や、なぜその文字が大文字だったのかという疑問を覚えていらっしゃるかと思います。判明したのですが、『HED』は何らかのアクロニム(頭文字語)だったのです」

ホンネルは女性の方を見た。「君の部署からは、そのようなアクロニムは聞いたことがないという報告を受けているのだが」

「それは、それが標準語としてかろうじて成立する程度のものだからです。標準語の三つの単語を表してはいますが、そのアクロニムはごく限られた非常に狭い地域で、それも主として社会経済的階層の低い人々によってのみ局所的に使われているものなのです。極めて曖昧でマイナーな表現ですよ」彼女は平静に言った。「『風の海岸』から来た船乗りたちに特有のスラング同様、通常の調査ではまず見つかりません」

「なるほど。よろしい、ベロリアさん、発言を許可します。それはどこからの言葉で、どういう意味なのですか?」

「明確なことは申し上げられないという点を念頭に置いておいてくださいね。特に、私は一切の脈絡(コンテキスト)を与えられておりませんので」彼女はアバナシーに視線を投げかけながら言った。

「彼は私の指示に従っていただけだ」ホンネルが言った。「だが君は市の職員なのだから、ごく僅かな文脈を明かすことはできる。当然、極秘扱いとしてだがね。そのアクロニムはある文章の一部なのだ。『HEDを排除せよ』というね」

セルヴィア人の女性は困惑した表情を浮かべた。「彼はそんなこと教えてくれませんでした」彼女はとぎれとぎれに言った。「恐らく、これは時間の無駄になってしまったかもしれません」

「私にはより多くの情報がある。判断は私に委ねてもらおう」隊長は促すように言った。

「ノロヴィア州をご存知ですか?」彼女は尋ねた。

「麦の王国の近くにある小さな場所か? かつて宗教開拓地だったという?」

「はい。ご存知かもしれませんが、あそこは他種族嫌悪(ゼノフォビア)で知られています。公式には、ノロヴィア内に居住し自由に旅行することを許されている種族は人間、エルフ、ドワーフのみであり、彼らは移動や滞在を認められた、いわゆる『始源の種族』なのです」

「知っている」ホンネルが言った。「あそこの出身者は我が市を訪れた際に問題を起こす傾向があるからな」

「ええ。ノロヴィアの上流階級では一般的に使われませんが、この『HED』というアクロニムは人間(Humans)、エルフ(Elves)、ドワーフ(Dwarves)を表しているのです。ですが、その文章の文脈からすると、この用語は意味をなしません。このアクロニムを使うのはノロヴィア出身の人間だけですから、『人間を排除せよ』などと言うはずがありません。後ろに『さもなくば世界は混乱に陥るだろう』といった言葉が続かない限りは。お分かりいただけますか?」

「理解できたと思う。だが念のために確認させてくれ。ノロヴィア人が人間、エルフ、ドワーフの排除を主張することはまずあり得ず、彼らに害を及ぼす可能性も低い。しかし『HED』というアクロニムを使うのはノロヴィア人だけである。そういうことだな?」

ベロリアは頷いた。ホンネルはデスクから立ち上がった。

「貴重なお時間とご協力をいただき、感謝する。追跡調査が必要になった場合、どこに連絡すればいいかは分かっている」二人は握手を交わした。

Here is the complete chunk again with that clean correction in place:

「さようなら、アバナシー先生」セルヴィア人の女性は不思議そうに彼を一瞥すると、部屋を後にした。

ドアが閉まると、ホンネルは溜息をついた。

「捜査に強い関心を持ち続けてくれていることには感謝するが、これは私が君に頼んだ業務の管轄外だ。守秘義務を守ってくれた姿勢は称賛するがね、彼女に十分な情報を与えられない立場にあった以上、君は彼女の時間も私の時間も無駄にしたのだよ」

「そうは思いません」アバナシーは言った。「そう切り捨ててしまわないでください。あなたのほうで私に隠している情報でもない限り、あの『HED』が何を意味するのか、他に有効な仮説はないはずです」

「君に話していないことくらい、当然あるかもしれん。君は私の部下ではないし、市の職員でさえもない。率直に言って、私は君がすでに必要以上の情報を取り握っていること自体、気分の良いものではないのだ。例の戦装束の絵の具に関する画期的な発見がなければ、今日アポなしで見知らぬ者を連れてきた君を執務室に通すことすらしなかっただろう」

「仰る通りです。ですが、これが筋の通る最初の手がかりなんですよ。あなただってそれはお分りのはずだ」

「筋が通るどころか、真逆ではないか! 君は自分の連れてきた専門家の話を聞いていなかったのかね? 『HEDを排除せよ』と言って、それが『人間、エルフ、ドワーフ』を意味するような人物は、人間の排除など絶対に叫ばない側の人間(ノロヴィア人)だけなのだぞ! おまけに彼らが人間二人とドワーフ一人を殺害した可能性だって低い」

「お粗末な誤導(ミスディレクション)ですよ。本来なら他のオークを殺す時にしか使わないオークの戦装束の絵の具を犯人が使い、人間やドワーフの殺害現場に残したのと全く同じ、お粗末な罠です。今回の場合でお粗末なのは、犯人自身が知っているという理由だけで、私たちも『HED』の意味を理解できると高を括っている点にあります。彼らは、人間、エルフ、ドワーフを憎む何者かの仕業だと私たちに思わせたがっているようですが、かえって自分たちがどこの出身なのかを正確に教えてしまっているのですよ。しかも、それは極めて狭い場所です。私に犯人の精神状態についての意見を求めましたね。では私の見解を言いましょう。これは非常に手際の悪いやり方で、他の誰かに罪をなすりつけようとしている者の仕業です。今回の被害者たちが選ばれたのには個別の理由があるのでしょうが、これらのメッセージは特定のオーク、あるいはオーク全体に対する敵意を煽り、フレームアップ(濡れ衣)を着せる目的で残されたのだと私は考えます」

アバナシーは一呼吸置き、呼吸を整えてから静かなトーンで言った。「ホンネル隊長、二つの賭けをしませんか。一つ目は、次の被害者も人間、エルフ、ドワーフのいずれかになるという点です」

「我が市の人口の少なくとも三分の二はそれらだが? 賭けとしては大したものではないな」

アバナシーはそれを無視して続けた。「二つ目は、探してみれば、被害者の誰もが何らかの形でオークと接点を持っていたことが判明するという点です」

「仮に被害者全員にオークとの接点があったとして、なぜ私たちがオークを疑わないと思うのだ? 馬の足音が聞こえたら、ユニコーンではなく馬を探すのが常識というものだ」

「HED。ごくごく狭い地域のスラングです。これを知っているオークなど皆無に等しいですし、メッセージを残すために使う者など絶対に存在しません」アバナシーは立ち上がった。「私はオフィスに戻らなければなりません。予約を飛ばすと患者に迷惑がかかりますし、最近は少しそういったことが多すぎましたから。ご健闘をお祈りしますよ、隊長」彼は誠実なトーンで言った。

彼はドアを開けて出て行く前に、足を止めた。「もし私の説が正しければ、その犯人はすでにあなたの知っている人物であっても不思議はありませんよ。ノロヴィア人はここでよく法を犯すと、あなたご自身もおっしゃっていたでしょう。普通なら殺人犯は賢く身を潜めるものですが、これほどの敵意を抱き、暴力を振るうことに躊躇がなく、その上まともな罪のなすりつけ方すら思いつかないような愚か者ですよ? 昨夜酒場でゴブリンと喧嘩でも立ち回り、今頃そこの留置場に入っているかもしれませんね」

「もしそのような者が現れたら、知らせてやるよ」ホンネルは言った。彼は立ち上がらなかった。アバナシーは頷き、後ろのドアを乱暴に閉めないよう注意しながら執務室を出た。彼はすでにこの件に時間を費やしすぎており、ホンネルに何かを納得させようとすることに疲れ果てていた。そもそも自分が殺害事件に対する見解を求められたこと自体、馬鹿げているように思えた。自分は捜査官ではないし、捜査官になりたいという欲望もなかった。

空腹を覚えた彼は、街頭の露店で温かい焼き菓子を買い、馬車に乗ってオフィスへ向かった。言語・翻訳局へ向かう前にルシンダへメモを残しておいたのだ。彼が足を踏み入れると、彼女は疲れたような笑みを向けた。

「最初の予約には間に合いませんでしたけど、次の予約まで三十分ありますよ。どうでしたか?」

「どうって……ホンネルだったよ。まさに『ホンネル』な対応だった。『HED』はノロヴィアで使われているアクロニムで、『人間、エルフ、ドワーフ』を意味していた。だがホンネルはそれが事件に関係しているとは思っていないし、正直私ももうどうでもよくなった。私には私を必要としている患者がいるし、こんな挫折感に付き合うために市から報酬をもらっているわけでもないからね」彼は彼女の顔を二度見した。「少し疲れているようだが、体調でも崩したのかい?」

「昨日の夜、出かけたって言ったじゃないですか」彼女は少し尻尾をぴくぴくさせながら言った。

「ああ、そうだったね。どうだった?」

「最高でしたよ!」彼女は熱っぽく言った。「すごく楽しかったです。ロンダは本当に気さくな人ですし、彼女の試合チームの人たちもみんなすごく良い人たちで。そのうちの一人は、今までに作られたあらゆるシーシャンティ(舟歌)を知っているみたいでした。それで、私たちは『銀の笛亭』っていう結構素敵なお酒屋さんにいたんですけど、ロンダが途中で少し席を外したんです。彼女がテーブルに戻ってくる途中で、どこかのバカが彼女のお尻を触って。その五秒後には、カウンターにいた客の一人が、自分のワイングラスの中にそいつの歯が落ちてきたって苦情を言ってました。文字通り二発ですよ。一発は腹に食い込ませて折り曲げさせ、追撃のアッパーカットです。どこかの運が良い歯抜き医者(歯医者)は大繁盛でしょうね」

「一粒で二度美味しい試合が見られたというわけだ。実に刺激的な夜だったね」

「本当にそうでした。次の休みにロンダと一緒にランニングに行くことになったんです。ボクシングも少し教えてもらおうかなって思ってるんですけど、どう思います?」彼女はニッと笑い、空中に向かって真似事のパンチを繰り出してみせた。

「異様な光景だな」彼は言った。

「なんで異様なんですか?」

「だってそれだと、私が昨日の夜見た三つの夢のうち、二つが実際に現実になったということになる。私にはそんな予知能力の才能はないはずだからね」

「ちょっと待ってください、私の夢を見たんですか? 私とロンダの?」

「彼女が君にボクシングを教えている夢だよ」

「で、もう一つの叶った夢っていうのは?」

「例の『HED』の件だよ、実は夢の中で思いついたんだ。厳密には、その夢の中の出来事自体は現実にならなかったがね。神に感謝だ」

「じゃあ、三つ目の夢は何だったんですか?」彼女は尋ねた。

「それは気にしなくていい」彼は専門家としてのトーンで答えた。「今朝すっぽかしてしまったのは誰だっけ?」

「スリディソーさんです。来週に予約を振り替えましたけど、彼女も納得して受け入れてくれましたよ」スリディソーはメスリア人(メスリアじん)であり、同族の多くがそうであるように、自己イメージに関する悩みに起因する不安症と鬱に悩まされていた。しかし彼女は長年の患者であり、比較的安定していて、精神的な危機に直面している状態ではなかった。

「分かった。仕事に戻るとしよう。《ウォッチ(市警備隊)》の仕事ではなく、私たちの本来の仕事にね。自分の部屋にいるよ」

「大賛成です。今日は結構スケジュールが詰まってますから、覚悟してくださいね」

アバナシーは微笑んだ。彼にとって、それは申し分のない響きだった。

ルシンダが約束した通り、それは非常に密度の濃い一日となった。しかしセッションはどれも概ね順調に進み、彼にとって特に精神を削られるようなものもなければ、患者たちにとって耐え難いものとなった様子もなかった。アバナシーは次にどう行動すべきかを思いあぐねていた。前夜はまともに眠れず、朝早くから動き出してフルタイムの業務をこなした。彼自身、誰かに愚痴を聞いてほしい気分だったが、彼の悩みの大部分は捜査に関連するものであり、それについて話すことは許されていなかった。そして、彼が最も話したい相手であるヘルギは、おそらく忙しくしているはずだった。

彼は机に向かい、ヘリオット(狩り)の件についての感謝を重ねて伝え、またいつ会えるか尋ねる短い手紙をヘルギに宛てて書いた。封をすると、外へ向かう途中でルシンダに手渡した。

「これをヘルギ・ピュアブラッド宛てに届けるよう、飛脚を手配してもらえるかい」

「わかりました、鍵を閉めたらすぐ手配しますね」彼女は手紙を受け取りながら言った。「アバナシー先生、すごく疲れた顔をしてますよ。私よりも酷いかも。私は角を曲がったところにある酒場で強いお酒を一杯引っかけたら、帰って寝ることにします」

「私も似たようなことをするつもりだよ。少し人と話したい気分ではあるんだが、疲労感が会話したい欲望に勝っていてね。日誌を少し更新して、本を少し読んだら、できる限り休むことにするよ」

「たくさん睡眠をとってくださいね。また明日」彼女は言った。アバナシーは馬車で帰路についた。彼の日誌は私的なものではなく、むしろ『便覧』に関するメモが記されたものだった。時折、その謎についての新たな洞察が得られることがあり、何か新しい思いつきがあれば日誌に記録していたのだ。いくつか更新すべき項目があり、一時間足らずの作業となった。集中するのに少々苦労したが、殺人事件についての考察によって分断されることのない、集中した作業に没頭したいと考えていた。

作業を終えると、彼は密かな楽しみに浸ることにした。『ザ・マイナーズ・コール』という地元の刊行物は、元々は鉱業に携わる人々に向けて発行されていたものだったが、二週間に一度新しい章が掲載される連載小説を展開していた。新章には毎回、安価な羊皮紙の小片が同封されており、そこには物語の今後の展開に関するいくつかの質問が記載されていた。美しき乙女はどの求婚者を選ぶべきか? 殺人鬼の次の被害者は誰になるべきか? 大富豪の夫妻が次に訪れるべき異国の地はどこか? 読者は回答を記入した羊皮紙を、出版社オフィスの玄関前に設置された大きな箱に投函する。出版社は投票を集計し、最も多くの票を獲得した選択肢が物語の次の章に組み込まれる仕組みだった。それぞれの物語は、売れ行きに応じて六ヶ月から八ヶ月間連載された後、新しい物語に取って代わられた。

現在の物語は、ジャングルの奥深くで古代の遺跡を発見した探検家と、彼の尋常ではないほど知性的で、同じくらい胸の豊かな研究パートナー、その遺跡に住んでいるか守っているかのいずれかである未知の人間族、そして(今回の章の投票結果次第では)幽霊の可能性のある存在についてのものだった。章を読み終えた後、アバナシーは二人の主人公がキスを交わすことには反対票を投じた(プロとして不適切だからだ)。部族に関しては好意的であると推測して友好的な方に投票し、遺跡には何らかの古代の装置が秘められているとした(その方が物語として面白そうだったからだ)。そして謎の声については幽霊に投票した(どれほど博学な人間であっても説明のつかないものが世界にはまだ存在するかもしれない、という考えが好きだったからだ)。

その物語は、彼に一瞬ルシンダのことを思い出させた。彼女が魅力的であること、そして彼自身が彼女を高く評価していることには変わりなかったが、彼は二人の関係を厳密に仕事上のものにとどめるよう常に気を配っていた。彼は彼女の仕事を非常に価値あるものと考えており、恋愛沙汰のために仕事上の関係を危険に晒したくはなかったのだ。この件に関する彼の見解は同時代人の間では珍しいものだったが、ある程度は『便覧』によって形作られたものだった。人間の間では、雇い主が部下と関係を持つことは珍しくなかった。サファイア・シティでは酒場を所有することについて、「どのバーバック(見習い)や給仕女と寝ているかではなく、何人と寝ているかが問題なのだ」という言葉さえあるほどだった。

案の定、そのような思考の巡らせ方は、短時間ではあったものの彼にヘルギの思い出を呼び起こさせた。アバナシーは彼女を非常に魅力的に感じており、前夜に見た彼女の夢の記憶を思い出すと、鼓動が少し早くなった。彼女が手紙に返事をくれるまでにどれくらいかかるか、いつ会う時間が作れるかは分からなかったが、うまくいってほしいと願っていた。彼は書棚から高価な革装丁の本を取り出し、ベッドに横たわった。それは有名なエルフの著者が書いた愛の詩集だった。目が重くなるまで読み進め、ついにほんの一瞬頭を休めるために本を脇に置いた。彼は朝まで目を覚まさなかった。

彼がオフィスに到着すると、入口の脇に《ウォッチ(市警備隊)》の隊員が立っていた。肌が浅黒く、背が高くて痩せ型の男で、まるで地平線上に敵が現れるのを警戒しているかのような鋭い表情と立ち姿をしていた。

アバナシーは鍵を手にしてドアに近づいた。「お断りだ」彼は隊員に向かって言った。

「なんですって?」

「お断りだと言ったんだ。ホンネルが何を望んでいようと、私には関係ない。仕事があるんだ」彼はフロントドアの鍵を開け、足を踏み入れようとした。

「私はただ手紙を届けに来ただけです。受け取って私の邪魔をしないでいただければ、あなたも自分の仕事に戻れますよ」隊員は不機嫌そうに言った。彼は封をした羊皮紙をアバナシーに差し出し、アバナシーは礼を言ってそれを受け取った。隊員は手早くいなくなった。

アバナシーは受付エリアにあるルシンダの机に座り、封を破って読み始めた。

「アバナシー先生、君の説には一理あるかもしれない。三人の被害者は全員、オークの利益になるようなプロジェクトに関わっていた。オークの容疑者は可能性が低いと思われ、我々は現在、ノロヴィア人の線を精力的に追っている。さらに何か気づいたことがあれば連絡してほしい。前回の面談で失礼な態度をとったことを謝罪する」

手紙にはホンネル隊長の署名があった。アバナシーは溜息をつき、机の上に羊皮紙を置いた。彼は自分の複雑な感情を整理しようとしていた。自分の説の正しさが立証されたかもしれないことに満足感を覚えたのは確かだし、自分の論理がホンネルのような豊かな経験を持つ男よりも正確な結果をもたらしたという小さな自負もあった。また、犯人が捕まるかもしれないという希望や、市のオーク住民が必要以上の疑いの目に晒されなくなったことへの安堵も感じていた。それと同時に、彼は自分からこの件一切から身を引くという意識的な決断を下したばかりであり、ホンネルはその決断を知らないとはいえ、この書簡によって再び事件へと引き戻されるような感覚を覚えていた。もしかすると、捜査にさらなる貢献ができるのだろうか?

彼はその雑念を払い、同時に拒絶の意を示すかのように頭を振った。彼には自分を必要としている患者たちがおり、ホンネルに提供できるものはこれ以上何もなかった。ノロヴィア人で満たされた部屋に放り出されたところで、彼にはトリュフ豚ほどの嗅覚もなく、犯人を特定することなど不可能だ。彼は執務室に入り、彼の体型に合わせて縮むカウチに横たわった。そして自分がもう一方の椅子に座り、アバナシー先生として、葛藤する感情をどう整理すべきかアバナシー患者にアドバイスをしている姿を思い浮かべた。これは彼が時折使う手法であり、かなり効果的だった。

彼のセルフカウンセリングの時間は、ドアを叩く音によって中断された。受付エリアに鍵がかかっている以上、ルシンダ以外に考えられなかった。

「お入り」彼はこれから始まる業務へと意識を向け直しながら呼びかけた。

「おはようございます、先生」彼女は入ってくると言った。彼女は彼の机に近づき、ホンネルのメモを置いた。「すみません、私の机の上に置いてあったので、私宛てのものだと思ってしまって。覗き見るつもりはなかったんです」

彼は手を振った。「構わないよ。もうその件は終わりにしているからね」

彼女は頷いた。「今日は予約がいっぱいですよ。それに今夜、例の特別なお約束もあります。守秘義務を強く希望されていた患者さんです」

アバナシーは一瞬考えた。「ヴァンパイアかい?」彼は尋ねた。ルシンダは頷いた。サファイア・シティでは、同意を得た者からのみ血を吸い、他者をヴァンパイアに変えない限り、ヴァンパイアの存在は(ギリギリではあるが)容認されていた。それでも彼らは自らの正体を可能な限り隠したがるため、新しい患者はオフィスに誰もいない状態にすることを要求してきたのだ。夜陰に紛れ、アバナシーと二人きりでのみ面談を行う。その代わり、通常の二倍の料金を支払うと申し出ていた。秘密保持の必要性と日没後の面談という明確な必然性を理解していたアバナシーは、その患者の要求を受け入れていたのだ。

「昼休みは六十分ではなく九十分でスケジュールを組んでおきましたよ」ルシンダが気を利かせて言った。

「ありがとう」彼は感謝を込めて言った。

一人目の患者は、エルフの女性に絶望的な恋をしているドワーフだった。一年前、彼が最初にアプローチした際、彼女は礼儀正しく拒絶した。その一年後、彼は酒に酔った勢いで再び彼女に想いを伝えようとした。今回は彼女の拒絶もより厳しいものとなり、背が低く、太くて短い指をし、ダンゴっ鼻の男など絶対に愛せないと彼に告げたのだ。彼はコンプレックスと摂食障害を抱えるようになり、鍛冶場で「不注意で」何度も自分の指を打ちつけ、何よりタチの悪いことに、自分に全く関心がないことが明白な相手への執着を断ち切ることができずにいた。少なくとも、二度目の拒絶の後は彼女に近寄らないでいただけマシだった。

アバナシーの治療によって摂食障害は治まり、彼の指が「事故」に見舞われなくなってから数ヶ月が経っていた。しかし彼は今もそのエルフに思いを寄せており、彼女が惹かれるような男の容姿をしていない自分を憎んでいた。自己イメージの問題に関してはある程度の進展が見られたものの、その女性に対する執着を治療するのは難航していた。前回、アバナシーは彼がそのエルフ女性のどこに惹かれているのかリストを作成させ、そうした魅力は一人の女性だけのものではないと指摘できるようにした。アバナシーはドワーフに社交的になり、外出して他の女性と出会い、そして何より彼女たちを例のエルフと比較しないよう促したが、実りはほとんどなかった。今日、アバナシーは原点に立ち返るつもりだった。つまり、そのエルフ女性には単に気がないのであり、それを明確に伝えてきたのだということ。患者自身が自ら課した惨めさの中で生きるのではなく、自分の人生を歩み、幸せを見つけるべき時が来ているのだと。

午前のセッションは順調に進み、昼休みの時間を迎えた。彼は短時間外に出て屋台を探し、鹿肉のソーセージ数本とコップ一杯の果汁ジュースを食べた。残りの時間はオフィスのカウチで丸くなり、仮眠をとって過ごした。

午後のセッションも、カウンセリングを始めてまだ二ヶ月のゴルゴンであるセレティアを除けば、ごく標準的なものだった。彼女は鎖骨まで届くフルフェイスのヴェールを着用して移動しなければならず、強風が吹いてもめくれないよう服にボタンで固定していた。ゴルゴンは数が少なく、その主な理由は、発見されると他のほとんどの種族から絶えず狩られ、殺されてしまうからだった。そのため、彼女には一緒に過ごせる同族の知り合いがほとんどおらず、非ゴルゴン側も視線ひとつで自分を石に変えてしまうような者と同席することを好まなかった。彼女は深刻な孤独と孤立感を抱えており、虐殺されるのを恐れてサファイア・シティから出ることができずにいた。家から一歩外に出る際、彼女は頭の蛇たちを家に置いていくため、頭の周りに巻きついているはずの彼らがいないことに心もとなさを感じていた。

セレティアの置かれた状況が変わる見込みが薄かったため、そのセッションは難航した。アバナシーにできるのは症状の緩和を助けることだけで、彼女の生活の質を向上させるような治療計画はまだ考案できていなかった。前回、彼は知り合いの他のゴルゴンと文通を始めてみてはどうかと提案したが、セレティアは配達人やその他の人々に自分たちの正確な居場所を知られたくはないはずだと指摘した。今回、二人は彼女が『標準語』のレッスンをしてくれる家庭教師を探すことについて話し合った。彼女は標準語を少し知ってはいたが、それを話す誰かと意味のある関係を築けるほどではなかったからだ。

「最後の予約が終わりましたよ。あとは例の謎の患者さんだけです」ルシンダは最後の面談が終わった後に言った。「お帰りになる前に、何か必要なものはありますか?」

「ああ、頼むよ。外の受付のドアの鍵を開けたままにして、私の執務室への内側のドアを少し開けておいてくれ。そうすればヴァンパイアがすぐ中に入って人目を避けることができるし、私がどこにいるかもすぐ分かるだろうからね」

「了解しました。頑張ってくださいね! アンデッドにならないでくださいよ」彼女はくすくす笑いながら言った。

「明日になればわかるさ」彼は答えた。彼は椅子に深く腰掛け、机の上から新患の問診票を取り出した。そのヴァンパイアは、時折聞こえる音――時には話し声、時には酷いギシギシという不快な音やバリバリという噛み砕く音――に悩まされていた。それが彼の睡眠を妨げ、全体的に苛立ちと挫折感を与えていたのだった。

患者の到着まであと二十分あったため、彼は翌日診察予定の患者のファイルに目を通した。彼はふと、そのヴァンパイアがどれほどの期間アンデッドとして生きているのだろうかと考えた。これほど根本的な変化を経験した者、特にそれが本人の望んだものでなかった場合、誰もが重い荷物を背負うことになる。

突然、彼の顔面、鼻と口の周りに凄まじい圧迫感が襲いかかった。背後から一双の手が押しつけ――いや、引き寄せていた。何らかの革製の覆いが彼の顔に押しつけられていた。最初に空気を求めて息を吸い込んだ瞬間、彼の喉と肺はまるで火がついたかのような激痛に襲われた。背後にいる何者かは強力で、彼が前に傾くのを防いでいたが、彼は机の下で足をバタつかせることができた。数回蹴りを見舞わせた後、彼は隠されたボタンに足を命中させることに成功した。ボタンの中央から小さな中空の針が飛び出し、彼の脚に刺さって小量の液体を注入した。

優秀な《加速のポーション》は、いくつかの条件を満たしていなければならない。第一に、即効性があること。結局のところ、速さを求めている状況において、ポーションが効き始めるのを呑気に待っていられる余裕など通常存在しないからだ。次に、全筋肉系、そしてそれらの筋肉の動きを統括する脳の部位にも作用しなければならない。そして最後に、心臓に過度な負担をかけるリスクを最小限に抑えるため、効果時間が極めて短いこと。アバナシーの静脈を駆け巡る液体は本質的に《加速のポーション》であったが、持続時間を大幅に犠牲にすることで、大幅な速度向上を実現したものだった。しかし速度は筋力とは異なり、あいにく彼は自分の顔からその手を引き剥がすことはできなかった。だが、話すことはできた。

口を覆う布のせいで彼の声は著しく籠もっていたが、完全に消えたわけではなかった。背後の刺客にも、不明瞭ながら彼の言葉は届いていた。『語り石(スピーキング・ストーン)』は、彼が口にしたすべての言葉を背後の人物の心の中へ直接届ける働きをした。そして今、アバナシーが通常の五倍近い速度で捲し立てていたため、『語り石』は処理しきれないほどの超スピードで刺客の精神に映像と思考を強制的に叩き込んでいた。アバナシーは単に助けを求めたり命乞いをしているわけではなかった。彼は複雑な概念を表す一連の単語を暗記しており、記憶を頼りにそのリストを全力で暗唱していたのだ。それは暴力を振るう患者を一時的に行動不能にするために彼が考案した防衛策だったが、これまで実際に使う必要に迫られたことはなかった。

彼の喉と目は焼き尽くされるように痛み、鼻からは汁が溢れ出していた。右に振り向き、両手を伸ばして刺客の右手首を引っ張る時、通常の速度で動くのにはかき集められる限りの自制心が必要だった。相手の握力は強力で、すぐさま体勢を立て直してきた。その時、爆発的な速度を利用して、アバナシーは左へと旋回し、両手で相手の左手首を引き下げた。それは拘束を振り払うのに十分な速さであり、アバナシーは身体を横へ弾き飛ばし、椅子から転げ落ちて床へと叩きつけられた。彼の口はもはや塞がれていなかった。

彼は這い上がって立ち上がった。市内のあらゆる玉ねぎが一気に目の前で剥かれたかのように涙が溢れ、洪水期の川のように鼻水が流れ出た。皮膚の至る所が、まるで天然痘とトコジラミの最悪な組み合わせに襲われたかのように激しく痒んだ。彼は机を刺客との間に挟む位置へ移動し、その間も絶え間なく捲し立て続けた。

見極められる限りでは、相手は人間の男性だった。月もない夜よりも深い漆黒のフード付きロングローブを纏っていた。体格はがっしりとしており、大きな手をしていたが、ローブとフードのせいでそれ以外の詳細のほとんどは隠されていた。その手にはまだ革の覆いが握られていたが、アバナシーがもはや自分の手中にいないという事実を彼の脳はまだ処理できていなかった。『語り石』が送り込んでくる膨大な映像と言葉を、必死で解析しようとしていたのだ。

ポーションの効果が切れるまで、アバナシーに残された時間は三分を切っていた。逃げ出すことも頭をよぎったが、この男が誰であろうと、緊急用の安全装置が配置されていないような場所で再び自分を追い詰めてくるに違いなかった。逃げ出したの、水を飲みたい、痛む場所や痒む場所すべてに塗布する軟膏を見つけたい、その足の速さを生かして《ウォッチ(市警備隊)》の事務所まで走り抜きたいという衝動は強烈だったが、この男から目を離せば、再び命を狙われ、今度は生きていられないだろうと彼は確信していた。

彼は暗記していた単語リストの思い出せる限界まで達したため、再び最初から暗唱を始めた。彼はソファの横にあるサイドテーブルを持ち上げると、デスクの向こう側へ走り寄り、ローブの男の頭上でそれを粉々に打ち砕いた。男は防御しようと腕を上げかけたが、アバナシーの圧倒的な速度と『語り石』による混乱のせいで、頭を守ることはできなかった。男は呻き声を上げ、倒れないよう踏ん張りながら数フィートよろめいた。

アバナシーは素早くデスクの引き出しを開けた。そこには雑多な文房具や、食材の切断・手紙の開封に使うごく小さなナイフが保管されていた。この暗殺者を逃すわけにはいかないと悟った彼は、ナイフをひっ掴むと、男の足元を蹴り飛ばした。男は顔面から床に倒れ込み、アバナシーはその上に跨がり、前後逆の体勢で彼に乗りかかった。彼がローブを捲り上げて男の脚を露わにすると、絶え間なく言葉を朗読しながら(時折咳き込んだり、無駄と知りつつ鼻をかもうとしたりしながら)、素早く相手の右脚の腱(アキレス腱)を切り裂いた。男は微かに抵抗したが、防御を組み立てられるほど思考を整理できていなかった。数回の素早い一閃で、アバナシーは左脚の腱も同様に切り裂いた。

厳しく禁じられている転移(テレポート)の術でも修得していない限り(そして彼は明らかに殺人鬼であるため、絶対に不可能とは言い切れなかったが)、ローブの男がどこかへ逃げ去ることは不可能だった。アバナシーはついに逃走したいという衝動に屈し、オフィスのドアに鍵をかけるためだけに足を止めた。鍵を握りしめたまま、彼は三ブロック先にある装飾用の噴水へと走り、「助けてくれ!」と叫びながら駆け抜けた。彼は頭全体を噴水に突っ込み、激しく振って洗った後、顔を上げて荒い息を吐いた。再び頭を没させ、肺が破裂すると思うほど水を飲み干してから、空気を求めて顔を上げた。

どしゃ降りの中の捨て犬のようにずぶ濡れになり、その倍も惨めな姿をした彼は、確実に人がいるであろう場所を目指して走り続けた。喘ぎ声の合間に「助けてくれ!」と叫びながら。残された速度の効果はすぐに切れようとしていた。通りを曲がった瞬間、彼は道の向かい側に《ウォッチ》の女性隊員がいるのを発見した。彼が彼女に向かって走っていくと、彼女の目が大きく見開かれ、まるでスローモーションのように彼女が剣へ手を伸ばすのが見えた。彼は仰向けに地面へと身を投げ出し、両手を天にかざし、オフィスの鍵を彼女へ差し出した。

「ホンネル隊長を呼んでくれ……」彼はできる限り通常のペースで話そうと努めながら言った。「私のオフィスに殺し屋がいるんだ……澄徹のアバナシーだ……これがオフィスの鍵だ……今すぐそこに殺し屋がいるんだ。ローズマリー・レーンだ……聖職者(クレリック)が必要なんだ……お願いだ、助けてくれ……死にたくない……」

剣を抜いた彼女は、空いた方の手で鍵を引っ手繰った。「殺し屋はまだそこにいるのか!?」

「そうだ……」アバナシーは言った。「聖職者が来ないと私は死んでしまう……頼む、助けてくれ……」

次の瞬間、世界の時間が加速した――それとも、彼自身が遅くなっていたのだろうか?――そして突如として、彼は漆黒の闇に包まれた。意識を失う直前のコンマ数秒間、自分を包み込んでいるのはあの暗殺者のマントの深い黒なのだろうか、と彼は漠然と考えた。









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