偏見の図画と夜の拳
「あらゆる人型種族の中で、メスリア人ほど理不尽な敵意と差別を受けている種族はいないかもしれない。彼らの解剖学的構造とその構成器官を基本的に検査してみれば、本質的には人間と同じ機構で成り立っていることがわかる。彼らは標準語を話すが、口の生理的構造ゆえにアクセントには大きな個人差があり、これについては追って議論する。文化的にも、彼らの芸術や法律は、例えばゴブリンやエルフのものよりも人間との共通点が多い。下界の目から見て、すべてのメスリア人が犯しているとされる罪とは、単なる生まれの不幸に過ぎない。人型種族の中で唯一、彼らは左右非対称な存在なのだ。
彼らの非対称性は、すべてのメスリア人の両目が顔の片側に寄せられているという単純な話にとどまらない。むしろ各個体は、寛大に表現しても雑然とした配置になっている。著者の旅の経験から推測するに、観察されたメスリア人の半数ほどは、人間と同じ数の器官――二つの目、二つの脚など――を持っているが、前述の通り識別可能な秩序なく配置されている。残りの半数においては、その数自体が異なる。メスリア人によっては、三つの目がすべて顔の片側に寄っていたり、四つの乳房のうち三つが左側に、一つが右側にあるといった具合だ。一般に誠実で陽気、そして創造性と芸術的才能に恵まれた慈善精神あふれる人々であるにもかかわらず、メスリア人はその外見美だけを理由に、例外なく見下されている。もちろん、例外は存在する。よりエキゾチックなフェティシズムを維持できるほど人口が集中した都市であれば、性的器官が驚くほどあり得ない配置をしたメスリア人を少なくとも一人は雇っていない高級娼館など存在しない。また、武芸に適した肉体配置(四つの腕を持つ者など)という幸運に恵まれたメスリア人であれば、実りの多い雇い兵の仕事を見つけるのは容易だ。しかし、大多数のメスリア人にとって、その非対称性は不当でユニークな呪いであり、その起源は歴史の霧の彼方に失われている」
――『タイコロスの年代記』より
彼が部屋に入ってきた時、ルシンダは受付エリアに一人でいた。アバナシーは大急ぎで戻ってきたため軽く汗をかき、身なりが少し乱れていた。
「鏡の前で身だしなみを整えている間に、冷たいミント水をお持ちしましょうか?」と彼女は提案した。時折、セッション中に激しく泣きじゃくり、部屋を出る前に身づくろいを必要とする患者がいるため、アバナシーは執務室の隅に大きな鏡を置いていた。彼は髪を撫でつけ、服を整え、乾いた布で頭皮と顔、それから脇の下の汗を軽く拭き取った。悪くないな、と彼は思った。ルシンダがマグカップに入った水を持ってくると、彼は半分ほど減るまで一気に飲み干した。
「メモに『大きな進展の可能性あり』とありましたね。何があったのですか?」
アバナシーはため息をついた。「また殺人事件だ。ドナス・レイガーという男を聞いたことはあるか? 建設会社を経営している」
ルシンダは首を横に振った。
「まあ、彼はドワーフで、しばらくこの街に住んでいる。僕が知っているのはそれだけだ。自宅で遺体となって発見された。そして、また犯行声明の紙片があった」彼はその文章を彼女にそんじゅそこらの暗唱の如く伝えた。
「やはり分かりませんね。もし何らかの主張をしたいのなら、なぜ普通に話さないのでしょう? そのメモからは何の伝達情報も読み取れません」
「彼らにとっては、あれが『普通の話』なのかもしれない。彼らの頭の中では、あのメッセージは僕たちが今している会話と同じくらい明快なのだろう。あるいは、僕たちが二重の意味や隠された意味を見落としている可能性もあるが、今回のメモにはそれらしきものは見当たらない。だが覚えておいてくれ、君が解き明かすまでは、僕たちも『染料』が単なるスペルミスだと思い込んでいたんだ」
ルシンダは胸を熱くし、尻尾の先を顎の下に押し当てた。「雷が二度落ちるなんて期待しないでくださいね。私にはまだ『HED』が何を意味するのかさっぱり分かりませんし、この新しいメッセージについても何もお力になれません」
「三人の被害者の特徴に基づいて、犯人の心理についてほんの少しだけ警察に助言できたから、完全に無駄足というわけではなかったよ。だが正直なところ、これは僕の専門分野ではないし、本業の邪魔になっている。ところで、最初の予約まであとどれくらいだ?」
「あと四十五分ほどです。新しい患者さんですから、手を抜くことはできませんよ。デスクの上に受付票を置いておきましたが、要約すると、自己破壊行為や暴力衝動を含む憂鬱症の症状を訴えています」
「手を抜くことなんて決してあってはならないが……そうだな、確かに全力で集中する必要がある。書類を読んで準備をするよ」彼はそう言って執務室へと向かった。
やがてルシンダが患者を中に案内した時、アバナシーは立ち上がって彼を迎えた。青銅色の肌と、膨らんだ筋骨隆々の体格をした男だった。アバナシーの目測では、身長は八フィート(約二・四メートル)にあと数インチ足りないくらいだった。熊の皮で作られたシンプルなチュニックと腰布を身につけ、使い古した革のサンダルを履いている。左肩には数本の小さな傷痕といくつかの新しい切り傷があり、首の右側にはより深刻そうな手負いが見受けられた。剃り上げられた顔の中央には、一つの大きな青い目が居座っていた。
「ようこそ。どうぞ、お掛けください」アバナシーは単眼巨人に声をかけ、カウチを指し示した。彼は患者の状況の詳細に入る前に、新患と交わすいつもの説明を一通り済ませた。
「アルダーバン、あなたが訴えているその悲しみや不満といった感情は、どれくらい前から続いているのですか?」
「成熟し始めた頃から、短気にはなっていた。だが、突発的に暴力的になったのはここ二年ほどのことだ。自分が無価値で、自分のすることには何も意味がないと感じ始めたのもその頃だな。俺は……大半の時間を不幸せに過ごしている。それと……これだ」彼は肩の傷痕を指し示した。「これはせいぜい半年ほど前からだ。その時、何かを変えなければならないと悟った」
「それらは自分で付けた傷ですか?」アバナシーは静かに尋ねた。単眼巨人は頷いた。
「主な収入源は何ですか?」
「追剥だ」単眼巨人は淡々とした口調で言った。「身を隠す場所がたっぷりある、良い辻を探してあちこちを移動している。人々が奪うものすら持っていないほど貧しくなく、警備兵を雇えるほど裕福でもない地域だ。俺は標準語を話せないから、姿を現して雄叫びをあげ、胸を叩き、路上に十分な貴重品を投げ出すまで棍棒を振り回す。奪いすぎないようにしている。全てを奪うと人は戦おうとするが、俺は戦いを避けたいからな」
「戦闘を避けることを好むのですか?」
「ああ、現地の役人が動くまでに数日、時には一週間ほど追剥ができるし、大抵は手ぬるい連中だ。だが殺人を犯せばすぐに兵士がやってくる。あのクソ野郎どもは手強いからな」
「首の傷はそれが原因ですか? 自傷行為によるものには見えませんが」
「いや、それはノロヴィア州のクソ野郎どもの仕業だ。知っているか?」
アバナシーは一瞬言葉を詰まらせた。「麦の王国とポロリア帝国の間にある、あのごく小さな国かい?」
単眼巨人は鼻を鳴らした。「酷い偏見の塊のような連中だ。俺は誰かを襲うためにそこにいたわけじゃない。麦の王国へ向かっていたんだ。街道を避け、夜間だけ移動し、誰かが近づく音が少しでも聞こえれば隠れていた。だが、四人の集団が自警団の監視所のようなものを設置していたんだ。言葉を交わすこともなく奇襲してきた。全員返り討ちにしてやったが、肉の塊にしてやる前に一人がかなり深くやってくれたよ。人間、エルフ、ドワーフ――ノロヴィアで許容されるのはそれだけだ。国境の至る所に警告看板があるが、当然ながら標準語でしか書かれていない。それ以外の種族は攻撃され、追い詰められ、追い払われるか、単なるスポーツとして殺される」
「それは恐ろしいことですね。偏見が存在することは知っていましたが、そこまで蔓延し、暴力的なものだとは思いもしませんでした」
「磔や火あぶりの刑に処された話すら聞いたことがある。あのクソ野郎どもは、まるで見世物小屋でも見せるみたいに、幼いガキどもを連れてきて見物させるんだ。もし自分が何かの病気にかかって死ぬと分かったら、俺はノロヴィアに戻って、奴らに倒されるまでに一人でも多く殺してやるつもりだ」
「その事件が起きた時期は、あなたがこういった陰鬱な感情を抱き始めた時期と概ね重なると感じますか?」
「全然違う。ノロヴィアの件はもう五年も前のことだ。それに、俺は自分より小さな生き物から嫌がらせを受けることには慣れている。奴らは俺の大きさを見て、悪人に違いないと思い込むんだ。まあ、結果として俺は悪人なわけだが、もし追剥をやめていたら何をしているってんだ? どこかの闘技場で短い生涯を終えていただけだろ?」
「あなたは悪人ではありませんよ。ただ、リスクが高く、他人に悪影響を与える行為をしているだけです。もし他人の反応や意見を一切気にしなくていいとしたら、人生で本当は何をしたいですか?」
「絵描きになりたい」単眼巨人は迷うことなく答えた。「好きで追剥をやっているわけじゃない。得意だし、強い者が弱い者から奪うのが自然の摂理だからやっているだけで、夜も熟睡できている。だが、明らかな理由があって、俺の描く絵は酷い出来なんだ」
「明らかな理由?」
「俺の目が一つしかないのが見えないのか? 遠近法をマスターするだけでも難しいのに、まともな奥行きの感覚(遠近感)がないとなると、ほぼ不可能なんだよ」
「なるほど」アバナシーは言った。「とはいえ実のところ、あなたはおそらく私よりも絵が上手なはずですよ。あなたの絵は、見ているもの――あるいは想像しているものを、写実的に描写しようとしていると考えてよろしいですか?」
「いいや、便所の壁にあるような落書きを目指しているんだ。頭が体の二倍大きくて、股間の物がさらにその二倍大きいような奴さ。時々、腕を一本増やしてみたりもする」
「アルダーバン、あなたが痛みを抱えていることを率直に表現してくれましたし、それにどう対処してきたかについても打ち明けてくれましたね。多くの人は、ここに来るという最初の一歩を踏み出せるほどの勇気や自己認識を持っていません。だからこそ、私はあなたが来てくれたことを心から称賛します。ですが、たとえそれが普段の表現方法だとしても、会話の中で怒りや皮肉を使うことは逆効果になります。もう少しの敬意を持って素直に話していただければ、私としてもあなたのためにより多くのことができますよ」
「分かった。素直に話しているつもりだったんだがな。正しく見えないものを、なぜ好き好んで描く必要があるんだ?」
「あなたは追剥の過程で旅をすると言いましたね。どれくらい遠くまで旅をしたことがありますか?」
「俺が行ったことのある最も離れた二点間に線を引くとしたら、三百度(約480キロ)くらいになるかもしれないな」
「なるほど。サファイア・シティ、麦の王国、そしてノロヴィア州はその線上のどこかにあるわけですね。私は芸術の専門家ではありませんが、世界のこの地域における絵画とは、まさにあなたが想像している通りのものです。人々は絵が対象を忠実に描写していることを求め、それが精巧であればあるほど良いとされます。ですが、世界の他の地域にはまったく異なる絵画のスタイルが存在することをご存知ですか?」
「別のスタイル? それは一体どういう意味だ?」
「一例を挙げましょう。ヴェスプッチアという国を聞いたことがありますか?」
「金持ちが支配していて、世界中を金持ちが支配できるように世界征服を企んでいる、あのバカでかい国か?」
「概ねその通りです。およそ十年前、ヴェスプッチアの非常に評価の高い画家が、新しい芸術の手法を試み始めました。彼は素晴らしい技術を持っていましたが、対象をできる限り忠実に再現しようとするのではなく、描こうとしているものに『およそ似ている』形状や形態を絵の具で作ったのです。彼の新しい絵を見ても、ただ一目で『これはリンゴだ』と言うことはできません。たくさんの赤色を含んだ丸い形に気づき、それが草かもしれない緑の海の中にあるのか、あるいは鉢かもしれない茶色の形の中にあるのかを観察するのです。何が描かれているのか、見る側の心が詳細を解き明かさなければなりませんでした。明確に定義されているというよりは、非常に抽象的な性質のものだったのです。数年のうちに彼の新しいスタイルは流行し、今やヴェスプッチアでは大ブームとなっています。もちろん、そこでも今なお写実的なキャンバスを描く人はいますが、肖像画を除けば、文化的なエリートや富裕層は新しいスタイルの絵を買っているのです」
単眼巨人は沈黙した。その巨大な目がアバナシーをじっと見つめた。彼は荒い息を何度か吐き出し、左手の指で膝をトントンと叩いた。
「海向こうの金持ちどもが、下手くそな絵に大金を払っていると言いたいのか?」
「いいえ。下手な絵ではないのです。画家たちは写実的なものを描こうとして失敗しているわけではありません。彼らは対象を緩やかに示唆するだけの形態を、意図的に描いているのです。あなたはここ市内に住んでいるのですか?」
アルダーバンは首を横に振った。「ここから一日ほどの場所に洞窟があって、息抜きをしたい時やしばらく身を隠したい時に使っている。今日はそこから来たんだ」
「今夜はここに泊まるのですか?」
「ああ、俺のサイズに合うベッドがいくつかある安い木賃宿を見つけた。明日戻るつもりだ」
「わかりました」アバナシーはそう言って、デスクの中の紙片に手を伸ばした。「住所を書き留めておきます。標準語で書くのであなたには読めませんが、暗記できるようにとても分かりやすい道順も教えましょう。もし道に迷ったら、身元がしっかりした人にこの紙を見せれば、正しい方向を教えてくれます」
「あんたのその『話す魔法』ってのは凄まじいな。俺が文字を読めるようにはしてくれないのか?」と単眼巨人は訊ねた。
「確かに素晴らしいものですが、残念ながら他国の言語を読めるようにはしてくれません。さて、あなたをお送りする場所はゴールデン・ハイツにあります。街の裕福な地区で、そこにはいくつかの画廊があります。この特定の画廊は、今お話ししたようなスタイルのヴェスプッチア作品を専門に扱っています。そこへ行って、中を見渡してみてほしいのです。何かインスピレーションを得られるかもしれません」
アルダーバンは少し考えた。「分かった。悪くないな。試してみよう」
「素晴らしい。では、自傷行為について話し合いましょう……」
―
アバナシーの残りの就業時間は特別変わったこともなく、オフィスを閉める時間がやってきた。
「今日の残りの時間は何か予定があるのかい?」彼はルシンダに尋ねた。
「今夜、ボクシングの試合を見に行きたいと思っているんです。近所に住んでいる女性がいて、メインイベントのすぐ前に彼女の試合があるんですよ。何度か会ったことがありますが、とても頭が切れて魅力的な人なんです。彼女が戦うところは見たことがありませんが、戦績は九勝一敗ですって。かなり強いそうですよ」
「それは楽しみだね。彼女が勝つといいね」アバナシーは言った。
「先生はどうされるんですか?」
「まだよく分からないんだ。正直なところ、今日のセッションの一部分が頭から離れなくてね。もちろん具体的な話はできないが……そうだな、ノロヴィア州というのを聞いたことはあるかい?」
「なんとなく。以前のボスがノロヴィアの人たちに治癒のポーションを大量に売っていたのを知っています。なんでも、サファイア・シティにやってくると毎度喧嘩ばかりして、見たところ勝率はかなり低かったみたいです。私の元ボスには普通に接していましたけど、私にはすごく不躾でしたね。彼らをぶちのめしてくれた誰かには、密かにいつも感謝していました」
「彼らが他種族を嫌っている(ゼノフォビア)とは聞いていたが、まさかそこまで酷いとは思わなかったよ。国境には人間、エルフ、ドワーフしか歓迎しないという看板を出しているそうだ。それ以外の者は追い払われるか、その場で殺されることすらあるらしい」
「忌々しい! どうして私たちはあんな連中と戦争にならないんですか?」
「あの国は、彼らのやっていることがサファイア・シティへの直接的な脅威にならない程度には離れているからだろうね。それに、我が市の軍隊は他国で戦争をするほど大きくはないという事情もある」
「あ、ちょっと待ってください――今分かりました。あの媚び売りどもが私に不躾だったのは、私が人間じゃないと思ってたからなんですね」彼女は尻尾を顔の周りでパチリと振った。
「そうかもしれないね」アバナシーは静かに言った。
「ふん。今夜の試合で近所の彼女が勝ったら、ボクシングのレッスンをお願いしようかしら。万が一、またノロヴィア人に遭遇した時のためにね」
アバナシーは微笑んだ。「ボクシングのレッスンは実用的で楽しそうだが、今日聞いたことや君が前の職場で見かけたことからすると、ノロヴィア人は喧嘩慣れしている。自分から進んで争いを持ちかけるのはお勧めしないよ」
「どうでしょうね」彼女は鬱陶しそうに言った。「これで私たち二人ともノロヴィア人に腹を立てているわけですね、まったく嫌な奴らです。ところで先生、しばらく誰かが涙が出るまでぶちのめし合うのを見に私と一緒に行きませんか? ストレス解消になりますよ」
「それは楽しそうだね。しばらく試合なんて見に行っていないからな。どうだろう、何時頃に行きたいんだい?」
「ここから三分刻みで三時間後(三時間後)くらいですね。一旦家に帰って夕食を食べて、身づくろいをして、もう少し良い服に着替えていきます。場所は『切哀坂アスレチッククラブ』です」
「そのために良い服に着替える必要があるのかい? 切哀坂には高級な場所なんてなかったと思うが」
「ブティック風の娼館が一つ二つあるくらいですかね。でも、いえ、すごく素朴な場所ですよ。ただ近所の人に会った時にだらしない格好だと思われたくないだけです。先生はお好きな服装でどうぞ」
「分かった。図書館に行きたいと思っていたから、両方こなす時間は十分にある。それじゃあ、アスレチッククラブの前で待ち合わせしようか?」
「バッチリですね。では三時間後に」
アバナシーは頭を冷やす時間が必要だったため、歩くことにした。ノロヴィアの憎悪と残虐性だけでなく、自分がそれをほとんど知らなかったという事実が彼を悩ませていた。サファイア・シティの目と鼻の先というわけではないが、かといって世界の最果てというわけでもない。サファイア・シティが大きく異質な例外なのだと、彼は自分に言い聞かせた。軽度から中度の異種族嫌悪は、世界の他の地域では例外ではなくむしろ日常なのだ。仮に単眼巨人の言っていたことがすべて事実だとしても、ノロヴィア人が他種族に対して最も敵対的な人々というわけではない。少なくとも彼らは自国の国境内に留まっている。他の「低級な」存在を積極的に奴隷化し、虐殺しに行く連中とは違うのだから。
彼は水筒の水をごくごくと飲み干してから図書館に入った。関連がありそうな本を三冊見つけ、居心地の良い椅子に座って読み始めた。ノロヴィアで最も人口が多いのは人間だが、少数のエルフやドワーフもそこを故郷と呼ぶことを選んでいた。ノロヴィア人はエルフが人間より先に存在していたと信じており(これは世界の大部分で共有されている信仰だ)、そのため彼らに敬意を払っていた。ドワーフは人間の後に現れたのかもしれないが、何らかの目的を持って作られたことは明白であり、ノロヴィア人からは一般的に「世界の建造者」と呼ばれていた。人間、エルフ、ドワーフは、真の神々が世界を受け継がせるべく意図した「始源の種族」とみなされていたのだ。
その他の種族は、始源の種族の劣化(近親交配や混血によるもの)、始源の種族の堕落(偽りの神々、悪霊、悪魔などによるもの)、あるいは獣の望ましくない進化のいずれかであると考えられていた。オークやゴブリンは、言葉の模倣や道具の使用を覚えただけの動物の例としてよく挙げられていた。
ノロヴィア州はもともと宗教的な開拓地であり、「始源の種族」という信仰はその教義の一部だった。時が経つにつれて信仰の指導者たちは腐敗し、スキャンダルにぐらつく十年の後、最も悪質な違反者は火あぶりの刑に処され、残りの指導者たちは追放された。世俗的な統治が確立され、古い信仰は違法とされ、すべてのノロヴィア人は適切と思われる形で信仰する(あるいは信仰しない)自由を持つべしと公布された。しかし、異種族嫌悪はその頃にはすでに社会構造の隅々にまで織り込まれていた。多くの人々が新しい信仰を見つけたが、種族間の寛容や調和を説く神々を崇拝する者がいたとしても、彼らは極めて注意深くそれを隠していた。
すべての本が、ノロヴィアは六十年前の世俗革命の前から他種族に暴力を振るっていたという点で一致していた。しかし、現代のノロヴィアに関する記述は様々で、暴力を限定的なものとする本(「見せしめの短い追跡を伴う、手ひどいお仕置き程度」とある)もあれば、稀なものとする本(「公開斬首は行われるが、極めて稀であるため、大半のノロヴィア人は目撃したことがないと主張できる」とある)や、過去のものとする本(「他種族はノロヴィアを回避して旅することが望ましいが、急ぎ足で悪意なく通り抜ける者であれば、罵声、冷ややかな視線、時折投げつけられる糞の塊以上のものを恐れる必要はない」とある)もあった。情報が古くなっている可能性が非常に高かったため、アバナシーは『タイコロスの年代記』を参照する手間を省いた。
時間が押し迫ってきたため、アバナシーは本を返し、乗合馬車に乗って切哀坂へと向かった。かつて市は相当な費用を投じてこの地区の正式名称を変更しようと試みたことがあったが、提案された新名は全く定着せず、最終的に市議会は諦めたのだった。この地域は地形上の問題を多く抱えており大型建造物には適していなかったが、小型の家屋を建てるには最適だった。市の最初の居住者の多くは単身生活を送る採掘業の男たちだったため、この条件が見事に合致したのである。そこに住む人々は独身者か家族と離れて暮らす者たちであり、それがこの地区の愛称の由来となった。人口が増加するにつれて、採掘作業員たちを対象とした小さな酒場や娼館がこの地域に立ち並ぶようになった。
後年、市が拡張するにつれて、多くの採掘作業員が移住していった。裕福な者や大きな家を維持できる家族持ちは他の地区へ移動して定住した。貧しい者は移動時間を減らして作業時間を増やすため、鉱山のより近くへと移り住んだ。その結果、この地区には単身者に最適な小家屋が売るほど余ることになった。時を同じくして、あらゆる背景を持つ人々を受け入れるというこの街の評判が世界中に広がり続けていた。サファイア・シティへの移住理由の第一位は経済的な機会であったが、受け入れを求めてこの街を目指す人々も増え始めていた。
ある地域では、赤い髪は孤独な人生を約束された望ましくない特質とみなされていた。また別の場所では、重労働に耐えうる筋肉を持ち合わせていない男性は無用者とみなされ、妻を迎える希望すら持てなかった。さらに別の場所では、女性の体が大きくない場合、出産時や飢饉の時期に簡単に死んでしまうと考えられ、結婚の込み入った話など存在しなかった。大きな尻を珍重する文化もあれば、それを忌み嫌う文化もあった。引き締まった体を健康の証とみる者もいれば、太った体を富の証とみる者もいた。世界中のあらゆる場所に、自分の所属する社会に馴染めない人々が存在し、その一部がサファイア・シティへの旅を始めていた。
小さく(したがって手頃な価格の)家屋が豊富にある切哀坂は、こうした新しくやってきた人々の多くが定住する場所となった。そこはあっという間に市内で最も多様性に富んだ地区となった。小さな酒場や娼館は相変わらず活発に営業し、満足のいく税収を生み出していた。そのため、そしてそこに住む住民の多様性を誇示し保護したいという望みから、《ウォッチ(市警備隊)》はこの地区に強力な駐在体制を敷いていた。低家賃地域であるにもかかわらず、サファイア・シティで最も安全な場所の一つだったのである。
馬車は、切哀坂の基準からすれば大きい部類に入る小さな平屋建ての建物の前で彼を下ろした。建物の名称は上部の縁に色あせた青色で描かれており、手前の小さめの看板には、塗り直されたばかりの黒い塗料で単に「HHAC」とだけ書かれていた。薄暗い黄昏時で、いくつかの松明が灯されていた。ルシンダはその一つの近くに立ち、行き交う人々を眺めていた。
彼女は金属糸が織り込まれた紫色のトップスを着ており、特定の角度に振り向くたびに松明の光を受けてキラキラと輝いた。腹部は露出しており、それは彼女の腰のラインを魅せるためでもあり、背中で尻尾を心地よく自由に動かせるようにするためでもあった。足首まで届く長い紫色のスカートを穿いており、片側には膝の高さまでスリットが入っていた。靴は足首にストラップを巻きつけるタイプの三インチ(約八センチ)の黒いヒールだった。コーディネートを完璧なものにするため、彼女は尻尾の先端に紫色のリボンを結びつけていた。長い黒髪は結ばれず、飾りもなく垂らされていた。
アバナシーが馬車から降りると、彼女は明るく微笑んだ。「来てくれて嬉しいです」と彼女は言った。
「ルシンダの言う通りだったよ。格闘スポーツを観戦するのはストレス解消になるかもしれない。智恵を得るのはいつでも嬉しいことだが、図書館に行ったら気分が晴れるどころか余計に腹が立ってしまってね。まあ、その話はいいか。今日の君は本当に素晴らしいよ! とてもファッショナブルだ。リボンも完璧だよ」
彼女は頬を染めた。「ありがとうございます。直前になって思いついて付けたんです。とにかく、チケットはもう買っておきましたから――あ、財布に手を伸ばさないでくださいね、高くないですから。もう前座の試合が始まっていますから、良い席を探しに行きましょう」
アバナシーは感謝してチケットを受け取り、二人は中に入った。内部は外観と同じくらい殺風景だった。観客席は、クラブが観戦イベントを開催する時にだけ出される木製の折りたたみ椅子だった。リングは使い古されており、ロープの一本は他のロープと色が異なっていた。天井から吊るされた光石はこの広さの部屋には小さすぎたため、壁には松明が並べられ、戦略的に配置された鏡が光を増幅するのに一役買っていた。ざっと見回したアバナシーの目測では椅子は九十脚あり、擦り切れたベルベットロープの向こう側には、プラカードが置かれた豪華そうな椅子がさらに二列、計十六脚並んでいた。現在その席に座っているのは二人だけだった。
二人は中央付近の四列目に二つの席を見つけた。「ここに悪い席なんてなさそうですね。部屋がかなり狭いですから」とルシンダが言った。
アバナシーは頷いた。「それでも、一列前に行くごとに、とびきり背の高い人が前に座る確率が一度分減るからね」
最初の試合は退屈なものだった。両ボクサーともお互いの様子見に時間をかけすぎ、打ち合いが足りなかった。五ラウンドが終わった後、観客からの拍手はまばらで、ジャッジの判定にも誰も関心を示していないようだった。
二試合目は真逆だった。頑丈そうなエルフと、寸胴で樽のような胸をした人間が、ゴングが鳴った瞬間から襲いかかり、まるで自分の配偶者と一緒にベッドにいるところを見咎めたかのように、お互いを激しくぶちのめし合った。エルフが鮮やかなアッパーカットを叩き込み、人間を目を剥かせた状態で床に沈めるまで、わずか三十秒余りしかかからなかった。
続く二試合が進むにつれて席は埋まり始め、観客とファイターの熱気も高まっていった。アバナシーは勝負を楽しんでおり、ルシンダも同様のようだった。一分間に数発しかパンチを放たない忍耐強いノックアウト・アーティストと、数秒ごとに腕を振り回すインファイターによる五ラウンドの死闘の末、ジャッジはインファイターに勝利を配した。
ルシンダは首を横に振った。「あの男の人、一発逆転のラッキーパンチが来ないと気づいて、もっと攻撃的になるべきだったと思います。でも、次は私の近所の人です!」彼女の興奮は肌で感じられるほどだった。
しばらくして、アナウンサーがチャイムを数回鳴らすと、観客は静まり返った。彼の響き渡るバリトンボイスが部屋を満たした。声を遠くまで届ける技術に長けているのは明らかだった。「紳士淑女の皆様、今夜のセミファイナル(最後から二番目の試合)を迎えます! リングに入場するのは、五勝無敗の戦績を誇るボクサー。身長五フィート四インチ(約一六二センチ)、体重一四四ポンド(約六五キロ)。麦の王国のシェルビー・タウン出身、ヴィルヘルミナ・“田舎育ち”・グスタフ! 対する相手は、九勝一敗の戦績。身長五フィート七インチ(約一七〇センチ)、体重一三五ポンド(約六一キロ)。サファイア・シティのブルックサイド出身、ロンダ・“調律師”・笛吹!」
二人の女性がリングに上がった。ルシンダの近所の女性は、顔面を殴られるトレーニングをしているにしては、格別に魅力的な顔立ちをしていた。彼女の体つきは力強さを感じさせるのに十分なほど引き締まっていながら、女性らしいしなやかさを保っていた。金髪のショートヘアで、トップスとショーツは赤だった。対する相手は背が低く、頑丈で、筋肉質で平板な体型をしており、青いトップスと黒いショーツを身につけていた。外見からして、アバナシーは背の低い方の女性が二人のうち明らかに力で勝っていると推測した。もし彼女のアゴの打たれ強さが体の他の部分と同じくらい頑丈なら、ノックアウトするのは困難だろう。ロンダが敗れた場合、ルシンダが落胆しすぎないことを彼は願った。
ブックメーカー(賭け屋)が最終的な賭け金を集めるための短い間が置かれた後、ゴングが鳴った。ルシンダの尻尾はピンと垂直に立ち、両手をきつく握りしめていた。最初、二人の女性は互いに周回し、ヴィルヘルミナは距離を詰めようとし、ロンダはいくつかのフェイントで彼女を牽制した。ロンダにはリーチの優位性があり、それを利用するつもりだった。彼女は数発のパンチを繰り出したが、背の低い方の女性はそれを容易にブロックした。一分後、彼女は痺れを切らした様子でさらに多くの打撃を放ち始めたが、それらもすべてヴィルヘルミナにブロックされた。すると、背の低い方の女性が素早く踏み込み、弧を描く大きな右フックを放った。ロンダはバックステップでかわそうとしたが追いつかず、拳がアゴを浅く捉えた。彼女は一歩後退した。
弱みを見せたと察したヴィルヘルミナが一歩踏み込み、ボディへ連打を叩き込んできた。ロンダはガードを固め、できる限り円を描くように身をかわした。彼女の足元は少し覚束ないように見えた。ヴィルヘルミナが猛追し、ロンダは後退し続けた。攻撃こそ最大の防御と考えたのか、ロンダは全身の力を込めて右の猛振りを繰り出したが、体勢を崩してわずかに左へつまずいた。ヴィルヘルミナは試合を終わらせる確実なカウンターパンチを叩き込もうと足を踏み入れた。しかしその瞬間、ロンダの顔に突然ニヤリとした笑みが浮かんだ。彼女は素早く軸足を回転させてカウンターの拳を潜り抜け、左アッパーカットを叩き込んだのだった。ヴィルヘルミナが一瞬呆然としたところへ、ロンダの鋭い右ストレートが突き刺さり、彼女を仰向けに倒れ伏せさせた。レフェリーが間に割り込み、ゴングが鳴り響いた。試合は一ラウンドすら持ちこたえなかった。観客は熱狂的な歓声を上げた。ルシンダは悲鳴を上げて手を叩いた。
「君のお友達は、死んだふりをして罠に嵌めるのが得意なようだね。あの手口で何度逃げ切れるのやら」アバナシーが言った。
「そうですね、彼女は半分くらいの確率でやるんです。だから本当に効いている時でも、みんな罠だと思って腰が引けちゃうんですよね。逆に罠を張っている時に、本当に効いているんだと思わせることもできますし。ロンダのやることは誰にも読めないんですよ」
二人は最後の試合まで残った。しかしそれは拍子抜けな結末だった。超重量級同士の対戦だったが、一ラウンド目に偶然のバッティング(頭突き)が発生し、選手の一人が眉間から目に血を流し、脳揺盪を起こして仰向けに倒れたため、「無効試合」の裁定が下されたのだった。消化不良の観客は長居することなく、潮が引くように退散した。ベルベットロープが外され、リングサイド席の人々も席を立った。偶然にもその中に、最後の試合が見たくて残っていたロンダがいた。彼女に気づいたルシンダは、アバナシーの脇を素早く通り抜けて通路へと向かった。
「ねえロンダ! 最高の試合だったわ!」彼女は声をかけた。
「ありがと。最後の試合は後味が悪かったけどね」
「本当よね。気づいていたか分からないけど、私たち――」
「――近所同士よね」ロンダが言った。「まあ、じゃなきゃブルックサイドで働いてるかだけど。前にも見かけたことあるわ」彼女は通路から出て、ルシンダのすぐ後ろの座席列へと足を踏み入れた。
「私、そこに住んでるの。時々、朝ランニングしてるのを見かけるわ」
「雨が酷く降ると、他で走らなきゃいけないのよね。あの小川はすぐ増水するし、ぬかるみの中は走れないから」ロンダは言った。「あなたを見るたび、きちんとしたお仕事に向かってるんだろうなって思ってたの。服装からしてね。いつもの服もよく似合ってるけど、今日のコーディネートは本当に最高よ」
「本当? 喜んでもらえて嬉しいわ。時々自分でも迷うのよね。私の目の色って特定の服と衝突しちゃうから。でも全身紫にすると、大きな果物みたいに見えないか心配で」
「果物は美味しいじゃない」ロンダは微笑みながら言った。「でも絶対に果物なんか見えないわよ。その服は大当たりだから、私を信じて。もっと自分を表現した服のあなたを見られて良かったわ。で、堅い仕事っていうのは当たってる?」
「まあ、そうね。つまり、すごく真面目な仕事が行われている場所ではあるけれど、私はただの受付兼助手なの。でもドアをくぐって入ってくる患者さんが最初に会う人間だから、先生は私にプロらしく見える格好を求めているの」
「お医者様? いいわね。もし私がまた試合で負けることがあったら、割引で手当てしてくれるかしら」ロンダが言った。
「そういう外科医みたいな先生じゃないんだけど――」
「冗談よ。私はもう負けるつもりはないわ。ところで、お名前は? 私はロンダ」
「ルシンダよ」二人は握手を交わした。
「ルシンダ、私のチームが祝勝会で飲みに行くんだけど、一緒に行かない?」
「ぜひ行きたいわ!」彼女の顔がぱっと明るくなった。「ただ――その、あなたの試合が楽しみで上司を誘って見に来ていたの。彼に聞いてみないと――ちょっと待っててね」彼女は数席離れた場所でたたずんでいたアバナシーの方へ歩み寄った。アバナシーは二人の会話を邪魔しないよう配慮していたのだ。
「ロンダがチームの祝勝会に誘ってくれたんです。ここで解散しても大丈夫ですか?」
「どうせここで解散する予定だったろう? 私は今日の仕事の疲れを癒やすために一眠りしたいし、何か面白い物語でも読もうと思っていたところだ。気にせず行って楽しんできなさい」
「ありがとうございます!」ルシンダはすでに足早に離れながら言った。「気を付けて帰ってくださいね!」彼女は振り返って叫んだ。
「君もね。明日の朝は仕事があるのを忘れないように」
アバナシーは、ロンダと共に去っていくルシンダを見送りながら微笑んだ。彼の助手はすっかり憧れの眼差しを向けているようだったが、その憧れの対象がそれに値する人物であることを彼は願った。彼は建物を出て、馬車で帰路についた。
自宅でくつろいだ後、彼は『紛争の時代』に書かれた本を取り出した。それは彼が宣戦布告された国の著名な作家の一人によって執筆された、特定の国王とその王国に対する辛辣な風刺本だった。信じられないほど的を射ていて爆笑を誘う内容であり、将校階級だけでなく、文字が読める数少ない一般兵の士気を著しく低下させたと言われていた。その国王は様々な理由で戦争に敗れたが、歴史家たちはこの風刺本も一役買ったと好んで語っていた。アバナシーは少量のワインを嗜み、何度か声を上げて笑い、心地よく落ち着いた気分で床に就いた。ルシンダが楽しい時間を過ごしていることを願いながら、彼はやがて眠りに落ちていった。
彼は夢を見た。ルシンダが空き時間にボクシングを学び始め、ロンダが彼女を指導している夢だった。もう一つの夢では、彼とヘルギ・ピュアブラッドが無人の小さな孤島で船酔いに遭い、全くやることがなかった。まあ、ほとんど何も、だが。
そして次の瞬間、彼はノロヴィアの国境にいた。左側にはルシンダ、右側にはゴルトゥク・ブラッドホーンがいた。本道の両側に大きな看板が二つ立っていた。上部中央には赤の領域で「歓迎」を意味する文字が躍り、その下には黒い文字で、一語ずつ改行されて「人間。エルフ。ドワーフ。」と書かれていた。
彼はゴルトゥクを見たが、ミノタウロスの顔は彼から背けられていた。ルシンダは怯えきった表情を浮かべていた。理由は分からなかったが、どういうわけか彼は二人をあの場所へ導かなければならなかった。彼が数歩前進すると、茂みがガサガサと鳴った。三人の男と一人の女性が足を踏み出してきた。彼らの服や鎧は周囲に溶け込む緑色をしていた。二人は剣を抜き、残りの二人はクロスボウの狙いを定めていた。一人はルシンダに、もう一人はゴルトゥクに。
「待ってくれ、看板は見た。中に入るつもりはない」アバナシーは両手を挙げて言った。
「あいつ、尻尾が生えてやがる」男の一人が言った。「人間には尻尾なんてねえ」
「それにあの化物を見ろよ」女性が剣でゴルトゥクを指さしながら吐き捨てた。
「今すぐ立ち去るよ、失礼した。邪魔して悪かったね」アバナシーは後退しながら言った。ゴルトゥクは動こうとしなかった。ルシンダが向きを変えて走り出そうとした瞬間、男の一人がクロスボウを発射した。太矢が彼女の後頭部に突き刺さり、彼女は地面に倒れ伏した。ゴルトゥクは怒りの咆哮を上げて一歩踏み出したが、もう一発の太矢が彼の喉を打ち抜いた。空気を求めて喘ぎながら彼がつまずくと、女性が襲いかかり、彼女の剣が彼の腹部に深く突き刺さり、続いて首を切り裂いた。
アバナシーは膝から崩れ落ち、視界がぼやけていった。
「今度からは」女性が言った。「クソ看板をよく見やがれ」彼女の刃が跳ね上がり、それが振り下ろされた瞬間、アバナシーは冷や汗をかいて目を覚ました。
状況を把握するのに少し時間がかかった。心臓は早打ちし、呼吸は荒くなっていた。何か――何かがあった。自分は友人たちを恐ろしい場所へ連れて行き、守ることができず、彼らを死なせてしまった。ルシンダの頭骨に太矢が激突したあの嫌な衝撃が再び脳裏に蘇り、彼の目に涙が溢れた。だが、それだけではなかった。彼が気づくべき、理解すべき何かがあったのだ。
その瞬間、彼自身も頭を撃ち抜かれたかのように、突如として閃きが訪れた。あまりにも奇妙で、おそらく自分の想像の産物なのかもしれなかったが、あるレベルにおいてそれは筋が通っていた。辻褄が合ったのだ。彼は紅茶を淹れるために火を起こし、入浴に向かった。皮膚についた不潔な汗を洗い流し、お風呂の心強い温もりを感じたくてたまらなかった。外はまだ暗かった。自分の直感を確かめられるようになるまでまだ何時間もかかるだろうが、もし自分の考えが正しければ、ホンネル隊長のところへ持っていく素晴らしい手がかりになるはずだった。




