鎧の獣と夜の約束
「マートは重宝する無償の労働力である一方で、識者の間からでさえも、いまだ懐疑の目で見られている。第一の理由は、彼らが一切のエネルギーを消費しない点にある。魔導士たちは、マートの生成とは別次元のエネルギー源へそれを繋ぎ止める(テザリングする)過程なのだと主張する。しかしながら、丸一日休みなく働き、疲労も見せず、いかなる糧食も消費しない構築体に対して、人々が疑念を抱き続けるのは無理からぬことであった。時の経過とともにその繋がりは劣化し、やがてエネルギーを引き出せなくなったマートは機能を停止する。
第二の理由は『学びの時代』にある。アニマンシー学院(霊魂術学院)に多くの魔導士が集められてマートを生成し、割り当てられたタスクを予期せぬ出来事によって妨害するという、さまざまな実験が行われた。その結果、作り手や手法に関わらず、すべてのマートがまったく同じ反応を示したのである。
マートが自我を持たないこと自体はすでに理解されていたが、自律的に思考していないのだとすれば、そしてあらゆる刺激に対して誰もが同じ挙動を示すのだとすれば、その一貫した思考プロセス(それが思考と呼べるものであればだが)の正体は何なのか?
教育の乏しい迷信深い人々は、これをかねてからの疑念の裏付けとして飛びついた。マートは異世界の存在によって遠隔操作・強化されており、いつの日かどこにでも存在するようになったマートが一斉に主人に反旗を翻すのではないか。最悪の場合、門を開いて異界の主を招き入れ、世界を征服させるのではないか、と。
にもかかわらず、この説を信じる人々でさえ、アニメイトされた土や岩の塊(マートの素材としては土が圧倒的に好まれる)に最も危険で汚い仕事を任せることには満足しているようだった――少なくとも、それを所有する余裕のある都市や王国においては」
――『タイコロスの年代記』より
翌朝、アバナシーの目を覚まさせたのは一杯の濃い紅茶だった。昨夜は『エンジェルズ・オブ・グレース』に長居せず、まっすぐ帰宅して遅くまで読書をすることもなかった。それでも、普段起きる時間よりははるかに早い。春半ばだというのに妙に冷え込んでいることに気づき、彼はヘルギに指定された服の下に、下着をもう一枚着込んだ。
前夜のうちに乗合馬車の手配をしておいたのは正解だった。日の出前の暗闇の中で自力で厩舎を探し当てる気など到底起きなかったからだ。御者はアバナシー以上に、こんな早朝から叩き起こされたことに不満そうだった。暗がりのせいで道中は普段より時間がかかったが、予定通り厩舎に到着した。
ヘルギは建物の前に立ち、その足元には大きなキャンバス地のアウトドアバッグが置かれていた。アバナシーは御者に料金を支払って馬車を降りた。
「手伝ってくれて本当に助かるよ。感謝する」
「これがいつものデートの誘い方じゃないことを祈るわ。今日の予定、全部調整し直したんだから」
「それについては本当に申し訳ない。でもメモに書いた通り、本当に緊急事態なんだ」
「狩りの緊急事態、ね」彼女は淡々と言い、ジト目でアバナシーを見つめた。
「ああ。命に関わると言っても過言じゃない。詳しいことは言えないんだが」
「……あなたの仕事関係ってこと?」
「そうだ。それ以上は言えない」
ヘルギは疑わしげな視線を収め、頷いた。「分かったわ。とにかく、私は来たし、必要な道具も持ってきた。クロスボウとロングボウ、どっちがいい?」
「ロングボウは射たことがないから、クロスボウかな。そっちなら何度か使ったことがある」
ヘルギの表情に驚きと呆れが混ざり合った。「ロングボウを射たことがないの? アバナシー、もしかして狩りはこれが初めて?」
アバナシーは頷いた。「メモにもそう書いたつもりだったんだが」
「……何か別の意味かと思ってたわ。まあいいわ、これでもなんとかなる。今からロングボウの扱いを教える時間はないから、クロスボウを使ったことがあるなら儲けものね」
彼女は足元のバッグを開け、ゴソゴソと探ると木製のクロスボウを取り出した。塗装やニス塗りはされておらず、木そのままの色合いをしている。彼女からそれを受け取ったアバナシーは、使い込まれてはいるものの、実に精巧で手入れが行き届いていることを見て取った。
「素晴らしい道具だね。ありがとう」
ヘルギは満足そうに頷いた。「きっと役に立つわ。あいにくロングボウより有効射程がかなり短いから、獲物にかなり近づいてから撃つ必要があるけどね。ボルト(矢)には鎮静剤が塗ってあるから、一撃で仕留められなくても獲物の動きを鈍らせることができるわ」
「肉に味が移ったりしないかい?」
「大丈夫。植物由来のもので、効果もすぐに切れるわ。睡眠薬というほど強力じゃないけど、少しは状況を有利にしてくれるはずよ。……それと、これも持っていって。とどめを刺すのに必要になるかもしれないから」
彼女は再びバッグに手を突っ込み、手頃な大きさの重厚なハンティングナイフと、その鞘を差し出した。最後にベルトを彼に手渡す。
「左側に予備のボルトを差し込むスロットがあるわ。もっとも、再装填する余裕はないと思うけど。右側のループは鞘用よ」
「分かった。それで、具体的にはどうやって狩るんだい?」
「街の外に、ちょうどいい場所があるの。鬱蒼とした森林地帯で、駆け抜けられるほどの幅がある小道が一本だけ通っている場所よ。そこに私が動物を追い込んで、あなたの方へ走らせる。あなたはそこで待ち伏せして、目の前に来たら射ち込めばいい」
「……最後にクロスボウを射ってから随分とブランクがあるんだ。立派なキバを生やした猛獣が突進してくるようなのだけは勘弁してくれよ」
ヘルギはくすっと笑った。「あの場所で何か見つけられるかどうか自体、運次第ね。何が出てこようと、出てきたもので勝負するしかないわ」
「まあ、危険をかわしたり飛び退いたりする練習なら嫌というほどしてきたからな。本番で外しさえしなければいいんだが。ところで、現場にはどうやって行くんだい?」
ヘルギはバッグを持ち上げた。「馬で行くのよ。厩舎で手配する手間が省けるように、あなたの分の馬も連れてきたわ。名前はアラパノ。初心者にもおとなしい良い子よ」
「至れり尽くせりだな。本当にありがとう」
「緊急事態だって言ったのはあなたでしょ。さあ、乗りましょう。長旅になるから、出発は早ければ早いほどいいわ」
アバナシーは彼女の後について厩舎の中に入った。彼女の乗馬には見覚えがあった。その馬は馬房には入れられておらず、ただ繋ぎ柱に繋がれていた。その隣には、彼女の馬ほど気品はないものの、十分に質の良い別の馬が繋がれていた。
アラパノはアバナシーを十分によく受け入れているようだった。ヘルギの選択は正しかったのだ。二人は厩舎を出て、市の境界へと向かって騎乗した。はじめは慎重に進み、地平線から太陽が覗き始めると速度を上げた。アバナシーは道中の早い段階では静かにしていた。まだ静かな眠りを楽しんでいる人々への配慮でもあり、暗闇の中で目の前の道にしっかりと注意を払う必要があったからでもある。陽が昇り、街が普段の活動を始めると、彼はヘルギと会話を交わす余裕が出てきた。
ありがたいことに、彼女は今回の即興の狩りの事情について、彼がそれ以上話したがらないことを尊重してくれた。二人は好きな食べ物や料理、市内の飲食店について語り合ったが、街の端に達するとヘルギは急に話題を切り替え、包括的な狩猟のアドバイスを与え始めた。やがて二人は、より木々が鬱蒼と生い茂る森林地帯へと到着した。
「確認しておきたいのだけど、あなた自身の手でこの獲物を仕留めなければならないのよね?」
「残念ながら、そうなんだ」彼は答えた。「そうでなければ、このプロセス全体がずっと簡単だったのだがね」
「まあ、さっき言った通り、何か見つけてあなたの方へ追い出してみるわ。獲物があなたの方に向かったら、私も獲物もかなり大きな音を立てるはずよ。いつ構えればいいかは分かるでしょう。でも、私は狩猟用マート(ハンティング・マート)より少しマシな程度の役割しか果たせないわ。そこからはあなた一人よ」
「待ってくれ――狩猟用マートなんてものが存在するのかい?」
彼女は笑った。「まあ、昔一度だけ見たことがあるわ。他にもあるかどうかは分からないけど、あまり多くはないでしょうね。獲物を追跡することもできなければ、食用になる獲物と毒を持つものを見分けることもできない。それに、スピードと正確さを要する武器を扱うことも絶対に無理よ。もし鹿がハンマーを振り下ろされるまでじっとしているなら、狩猟用マートの市場は大繁盛でしょうけどね。実際、彼らにできることといえば――少なくとも私が見たものはそうだったけれど――大きな音を立てて獲物を追い出し、あなた自身が仕留められるようにすることだけよ。だから誰もそんなものを耳にしないのさ。ほとんど役に立たないからね」
「興味深いな。だが、少なくとも狩猟用マートにはできない重要な仕事を、君は一つできるじゃないか」彼はニヤリとして言った。
「どんなこと?」
「僕が巨大な雄鹿の角に突き刺された時に、医療処置をしてくれることだよ」
彼女は微笑んだ。「お互いのために、そうならないことを祈りましょう。あ、見て――あそこが考えていた場所よ。あっちへ百ヤードほど行ったところ。ここに馬を繋がないと」二人は馬を降り、アバナシーもヘルギと同じように馬を木に繋ごうとし始めた。「私にやらせて」と彼女は言った。「うちの馬には解きやすい結び目を教えてあってね。待つように訓練されているけれど、命の危険を感じたら解いて安全な場所へ逃げるようになっているの」アバナシーは興味深そうに彼女が結び目を作るのを見ていた。
突然、彼女は彼のアタマではなく肩を掴んだ。「その植物や、それに似たものには絶対に近づかないでね」と、彼の身長より二フィート以上高く、白い花で覆われた緑の低木を指差しながら言った。
「近づかないよ――でも、なぜだい?」彼は尋ねた。
「それは『ヴァンパイアズ・ベノム(吸血鬼の毒)』よ。その樹液は酷い火傷を引き起こすの」
「聞いたことがないな。だが近づかないようにするよ」
「確か、一部の人々は……アカザ と呼んでいたかしら?」
アバナシーは一瞬眉をひそめた。「待ってくれ、ジャイアント・ホグウィード のことかい?」彼女は頷いた。「ああ、それなら聞いたことがある」と彼は言った。「樹液が皮膚から日光を防ぐ能力を奪うため、日光に当たると今言ったような恐ろしい火傷を引き起こすんだ。実物を見るのは初めてだよ。警告してくれてありがとう」
「よし」と彼女は言った。「待ち伏せのポイントまで案内するわ。うまく身を隠して。私は小道を上って、何か獲物をあなたの方へ追い込めるか試してみる。十分で済むかもしれないし、四時間かかるかもしれない。辛抱強く、静かに、そして警戒を怠らないで」
「善処するよ」と彼は答えた。二人は背の高いトウヒの木の下にある、葉の茂った低木の群生へと歩いた。ヘルギはその低木を指差し、小道を上へと歩き始めた。アバナシーには彼女の意図が分かった。森は密生しており、小道のひらけたスペースこそが、動物が逃げるのに最も明らかなルートだったのだ。彼は低木の中に腰を下ろし、隣の地面にクロスボウを置いて、楽な姿勢を取ろうとした。遅まきながら、座るための柔らかいものを持ってくればよかったと思った。
最初の時間が一番きつかった。待つというのは退屈極まりないものだった。低木の中でじっとしているのは至難の業だった。苛立った彼は、瞑想をすることにした。ヘルギが立てるあらゆる音によって瞑想状態から目覚め、獲物を射るのに間に合うだろうと考えたのだ。彼は呼吸法を行い、ゆっくりと穏やかでリラックスした精神状態へと没入していった。
どれほどの時間が経過したのかは分からなかったが、突然、彼は激しい騒音に気づいた。彼の意識は静寂から引き戻され、遠くで響く大きな音とともに、自分が低木の中にいることを強烈に自覚した。彼は小道の上方に視線を向けた。何かが激しい音を立てて突進してきており、そのすぐ後ろをヘルギが何かを叫びながら猛追していた。彼の集中力が研ぎ澄まされた。
彼女は彼に向かって叫んでいた。「隠れていて! 撃っちゃダメ!」彼の位置に向かって突撃してきていたのは、ヨロイマジロだった。サファイア・シティの近くには存在しないものの、アルマジロは他の多くの地域に生息しており、食用にされたり、無視されたり、病気の媒介者とみなされたりしていた。ヨロイマジロはそれらと親戚関係にあったが、いくつかの重要な点で異なっていた。体長は大幅に大きく、成体はクロコダイルほどの大きさがあった。その名の由来となった装甲は非常に分厚く、頭の中央には九インチの角が生えていた。そして最も特筆すべきは、トカゲ科の中でも素早い部類と同等の速度で移動できるほど、はるかに迅速だという点だった。
彼はすぐに、このボルト(矢)ではヨロイマジロの皮を貫くには不十分かもしれないと推測した。これは分厚い装甲を持った完全な成体だ。この弓の張力がどれほど強いかは分からなかったが、もしヘルギが撃つなと叫んでいるのであれば、これは装甲板を持つ怪物ではなく、鹿や熊を倒すための武器なのだろうと踏んだ。
彼はできる限りじっと低木の中に留まり、ヨロイマジロが自身の右側を通り過ぎて小道を下っていくのを見過ごすこともできた。逃げることもできた。あるいは、射ることもできた。彼は自身の課題の緊急性と、ヘルギが立ち会っているという事実を意識していた。彼女にいいところを見せたいという欲求も自覚していた。ヨロイマジロを倒せば、彼の目的はすべて達成される。しかし、あの動物に角で突かれれば、それは叶わない。
ヘルギが追跡を続け、距離はすでにかなり縮まっていた。「じっとしていて! 撃っちゃダメ! あなたの横を通り過ぎさせるわ!」と彼女は叫んだ。それが論理的で安全な選択だった。ヘルギにヨロイマジロを追い払ってもらい、自分を守らせる。彼女は経験豊富なハンターであり、獲物の後方から安全な距離を保って追いかけており、危険に晒されている様子はない。対して自分は初心者なのだ。一方で、今日残された時間の中でこれ以上の獲物を見つけられる確率は低かった。
彼はゆっくりと右へ軸足を向け、獣が自分の目の前を通り過ぎるまさにその場所へと正面を向けた。尻と足首の筋肉を緊張させる。左目の端にヨロイマジロの姿が飛び込んできた瞬間、彼は全身の力を込めて前方へ跳び出した。前方への運動エネルギーにより、彼は垂直な角度でその生物へと激突した。まるで木に体当たりしたかのような衝撃だった。この装甲板には一切の柔軟性がなかった(これが、小型の従兄弟たちのようにヨロイマジロが丸まってボール状になれない理由の一つだった)。しかし、彼は狙い通りのことを成し遂げた。衝撃の瞬間、両手を伸ばしてその生物の角をしっかりと掴み取ったのだ。横からの衝突と頭部への突然のひねりにより、その生物を横転させるのに十分だった。
アバナシーはすばやく角から手を離したが(しかし十分な速さではなく、角が手ろのひらを滑って浅い切り傷を作った)、ベルトへと手を伸ばした。両手でクロスボウのボルト(矢)を一本ずつ掴むと、絞り出せる限りの力を振り絞り、その生物の柔らかい下腹部へと突き立てた。ヨロイマジロは咆哮を上げ、彼が驚くほどの速度で態勢を立て直した。アバナシーは身を躱す間もなく、初期の衝突の衝撃ですでにズキズキと痛んでいた左肩に、その巨体が激突した。
いまや、自分に指示を出す声ではなく、荒々しく原始的な勝ちどきの叫びを上げるヘルギの声が聞こえた。ヨロイマジロは小道を下って撤退することを決め、ヘルギがそれを猛烈に追撃した。彼の脇を通り抜ける際、彼女は彼に向かって叫んだ。「動ける!?」
「ああ!」彼は叫び返したが、その声ほど確信は持てていなかった。
「なら、私を見失わないようにして!」そう叫びながら、彼女は小道を下る動物を追い続けた。アバナシーはよろめきながら立ち上がった。手についた浅い傷からは、予想以上の血が流れていた。両肩、特に左肩が激しく痛んだ。胸も痛むが、そこまで酷くはない。ありがたいことに足は問題なく、平衡感覚も大丈夫そうだった。荒く深い息を一つ吐くと、彼は小道を下り始めた。遠くにヘルギの姿が見えていた。
十分ほどで、彼は彼女に追いついた。彼女はその場に留まっていたため、彼は近づくにつれて速度を落とした。ヨロイマジロはさらに三十フィートほど先で横倒しになり、動かなくなっていた。
「鎮静剤が効いたわね。ボルト二本とも当てられたの?」彼は頷いた。「だから止まったのね。ヨロイマジロの経験はあまり多くないけれど、このサイズの獲物なら、おそらくまだ意識はあるはずよ。とどめを刺せるけれど、気をつけて。あの角で一突きされたら、今でも重傷を負うわ」
「それで、一つ気になるのだが……この肉は食べても安全なのかい?」
ヘルギは頷いた。「小さいやつらとは違うから、ハンセン病(らい病)を媒介することはないわ。肉の味はそこまで良くないけれど、背に腹は代えられないでしょ」
「それで、一体どうやってこれを持ち帰るんだい? かなり重いんだが」彼は肩を痛そうにさすりながら言った。
彼女は微笑んだ。「もちろん、ここで簡単な解体をするのよ。コツは仰向けにひっくり返して、下腹部を切り開くこと。あそこなら抵抗はほとんどないわ。装甲板も市場で売れるけれど、それを剥がす時間はないし、馬のところまで二往復することになっちゃうからね」
彼は再び荒い息を吐いた。「人間らしく、苦しませずに終わらせたいが、自分も切り刻まれたくはない。どうやってとどめを刺すのが一番いいかい?」
「すでに横倒しになっているわ。ゆっくりと脇を通り過ぎて、十分な距離をとって。通り過ぎても動かなければ、左手で角を掴んで頭を固定し、ナイフで喉を掻き切るの」彼女は突然、彼の右手から血が滴り落ちていることに気づいた。「それでまだ刃物を握れる?」
彼は頷いた。「血がたくさん出るだけの浅い傷さ。大丈夫だよ」彼は鞘から狩猟用ナイフを抜き、小道を下り始めた。作業はすぐに終わった。
肉を収穫するのに、さらに四十分がかかった。ヘルギは大きな布を取り出すと、手と腕から血を拭き取り、それを彼に投げつけた。「それでもまだ仕留めたばかりの血の匂いがするけれど、他の肉食動物を引き寄せないためには、少しでもマシな方がいいわ」
彼は体を拭き、肉を詰めた革袋の一つを持ち上げた。もう一つはヘルギが担いだ。なかなかの重さで、彼の両肩は激痛の悲鳴を上げた。馬に負担を移せるまでの距離が短かったことに、彼は心から感謝した。
馬たちは二人が残していった場所にそのままいた。出発の準備をする前に、ヘルギは水筒の水で彼の右手を洗い、簡単な湿布をあてて素早く包帯を巻いた。「戻ったらちゃんと診てもらいなさい。あなたが言ったほど浅くはないわ。今日が終わるまで放置するのは駄目よ。感染症のリスクが高すぎるわ」
「ありがとう」
「言っておくけれど、無鉄砲だったけれどすごく賢かったわ。ヨロイマジロは恐ろしい獲物というわけではないけれど、少し尾尾ひれをつければ、素晴らしい語り草になるわね」彼女は微笑みながら言った。
「二度とこんなことをしないで済むといいのだがね。今日は大きな問題に対する一時的な解決策に過ぎないのだから」肩の痛みが頭痛を引き起こし始め、彼は顔をしかめた。
「近いうちにまたこんなことをして、あなたの体が持つかどうか怪しいものね。でも、今日はよくやったわ」
「いや、本当に君の助けがなければ何もできなかったよ。だから、ありがとう。事情を説明できなくて申し訳ないが、ただ……君が助けてくれたことで、今日誰かの命が救われたかもしれないということだけは知っておいてほしい。大袈裟ではなくね。僕に言えるのはそれだけだ」
「『澄徹のアバナシー医師』が突進してくるヨロイマジロに身を投げ出すという見せ場が見られただけで、十分に来た甲斐があったわ」
彼は微笑み、役者のような一礼をしてみせたが、馬の上へと体を引き上げた瞬間、痛みで歯を食いしばった。彼は自分が、大半の時間を非常に快適な椅子に座って過ごせる仕事に就いていることに、深く感謝せずにはいられなかった。




