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032 深淵のモノも隠すモノ

―――元の世界の滅亡と言うのは、かなりあっけないものだ。


 それは、この世界に来てから割とすぐに…ひと月も経過しない間に起きたようだ。


【…なるほど。それでは、わたくしたちの元居た世界はもう】

『ああ、間違いない。つい先ほど、滅亡を確認した。全ての生命体が死に絶えたどころではなく、世界そのものが消滅し…ゆえに、その世界で召喚か解除されても、元に戻る場所は無いぞ』

【大丈夫ですわ。未練もないですし、残しているものもなにも、無かったですもの】


 この世界にある、通信用のマジックアイテムの一種らしい代物。


 それに対して軽く自身の持つ魔法技術を注ぎ込んで、魔改造をしまくった記録水晶からの連絡通信に、リリスは応えていた。




 今の時刻は深夜であり、誰もが寝ている時間帯。


 なおかつここは、寮の室内の中の、彼女専用の壺部屋なので聞き耳を立てる者もいず、話すのにはうってつけだろう。


 その話し相手こそが…


『…だが、それでもまさかあの大魔王三体を従魔にするとはな。人間の主で、良かったのか?』

【問題ないですわよ。ハクロがあれだけ心を開く相手ですし、わたくしたちの力に溺れる様子は見せていませんもの。いえ、むしろ強大な力を理解しているからこそ、下手に扱う気も無いようですけれども…悪魔の貴方が作り上げたわたくしたちが、そう簡単に邪神溢れるような相手を主にすると思いまして?】

『そう言われると、思えないな。いやまて、邪()じゃなくて邪()?聞き間違えてないよな?』

【うふふふ…どっちでも意味が取れますわよ。あの世界の愚物は邪神すらも、欲望の犠牲にしましたし…】

『悪魔ですらやらないことを、平然とやろうとしていたあの世界の人間怖いな…』


…そう、大魔王が生まれるきっかけとなった、悪魔である。


 個人的なつながりは持ったままであり、時折こうして連絡を取ることもある。


 そして今回は、この報告をしておこうと思ったのだ。





『まぁ、なんにせよだ。大魔王が揃って、人間の厄介になるのは驚きだな。その人間の主に今度、苦労をかける分の同情のお見舞いでも持っていこうか?』

【何故、わたくしたちが苦労をかける前提ですの?】

『自分の胸に聞け』

【えっと、わたくしのバストサイズはひゃ】

『そういう意味じゃねぇ!!どこぞのメイドが聞いたらえぐりにくるぞ!!』


 ツッコミが入るような冗談も言いあいつつも、軽くおしゃべりのひと時をリリスは楽しむ。


 助けられたこともある悪魔だからこそ、信用もしているからだ。


【まぁ、別に良いですわ。そんなことはさておき、今後はわたくしたちは主を得た身…誠心誠意、その力を尽くしていきつつも、しっかりとどのような殿方なのか見定め、対応していきますわね。元の世界の人間たちとは比較にならないほどの、良い心の方なのは間違いなくて、それだけは確実に良かったですわ】

『確かになぁ…悪魔の立場ではあるが、あの世界の人間共は悪魔よりも悪過ぎたというか、他の世界の人間を見ても比較にならないほどひどすぎたというべきか…本当に何で、ああなったのやら』


 悪魔にそう言われるほど、あの世界の人間は酷すぎた。



 何故ああも邪悪過ぎる存在になったのか、皆目見当もつかないようだ。


 

『そう思いかえすのも、もはや無意味か。滅ぼしたのであれば、世界が消滅した以上は、二度と復活することもあるまい。…不死鳥の生き血を搾り取って不老不死になろうとした輩もいたようだが、世界の消滅には抗えないだろうよ』

【本当に、何をしでかしているのだと言うのはともかく、それは朗報ですわ】


 あの世界の愚者が消え失せたのであれば、それは非常にいい知らせである。


 もしかすると復活するかもしれないという、これまでの所業を考えて抱いていた不安も、これで解消されるというもの。


 二度と復活しないという太鼓判が、信頼のある悪魔に押されたのであれば間違いあるまい。


【ふふふ、良かったですわね。あとで皆に共有しつつ…ゆっくりと、今後はこの世界での生活を楽しめますわね】

『ああ、楽しむがいいさ。その世界に行く予定はないが、あの世界での様々な悲劇を味わった分、良いことがあるように願っておくよ』


 悪魔なのに、良心的なのは良い事なのか。


 とにもかくにも、この日の通信は緩やかに終わるのであった…

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