031 鬼の思うもの
―――カァァン、カァァンッっと音を立てて、工房の中で火花が飛び散る。
打ち直し、何度も繰り返し、叩き、鍛え、形作り、鳴り響く金属音が心地良い。
【ふぅ…この世界にも、鍛冶ができる場所があるとはな】
「まぁ、一応従魔騎兵団学科以外にも、騎士を目指す人たちもいたりして、武具や防具の修理をすぐに対応できるようにと言うことで、扱える人ならば扱って良い場所として解放されているけど…満足そうだな、ギラン」
【くくく…満足も何も、オレは元々こっちの方が天職だからな、我が君】
【ええ、そうですわね。ギランは人間たちに轟雷の角を奪われるまでは、元の世界で名の知れた轟雷の魔剣を作れた鍛冶師だったのよ、我が主】
【むぅ…私の作るものとは、モノそのものが違いますが…良いできなのは間違いないですね】
一息をついたオレ…オーガのギランの前に来たのは、同郷のリリスに、ハクロ、そして…この世界において、オレたちの主になったらしい我が君である。
(…へへっ、作品を褒められて悪い気はしねぇが、まさかこんなことになるとはな)
その様子を見ながら、彼女は心の中でそうつぶやきつつ、この状況になったことに関して少しばかり思い返していた。
…こうなったのは数日前のこと。
元居た世界から、リリスの魔法によってハクロの場所を突き止め、この世界に訪れたのは良い。
なんやかんやあって、ブドウのようにぼっこぼこになったリリスとルドラが戻ってきて、大人たちと色々と相談した結果…
「…今回の召喚は異例とはいえ…一応は、従魔としての経路がつながっているらしい。だから…」
【下手に野放しにせずに、この世界にいたいのなら、主様の従魔として仕えないかってことになりましたね。私としては、そこの淫乱雌蛸はすぐにご退去してほしいところですが…】
【ふふふ…残念ながらね、私たちが元居た世界はもう滅亡しつつあるのよ。多分、あと1、2年もしないうちに世界そのものが消える可能性がある場所へ、好き好んで戻ろうとするかしら?】
美貌が台無しになるほどの、というかよく喋れているなと言えるほどのボコボコ具合なのに、笑うのはまだ余裕があるのではなかろうか。
(…元の世界に帰らずに、この人間を主にする、か…ふむ)
その言葉に、ギランは少々考えこむ。
ここにいる面子…人間以外の、リリスにハクロ、二人とも同郷であり、元居た世界がどのようなものなのかは十分理解しているつもりだ。
あの世界の欲望深すぎる世界の汚物どころではない人間たちの手で…いや、そうでなくとも世界としての寿命がもう徹底的に使い潰されていたために、後は消えるしかない状態だった。
なので、当然元の世界に帰る意味はない。
【というか、ふと思ったんだが…オレたちの元の世界が無くなった場合、存在できるのか?元の世界の消滅と共に、一緒に消えるなんてことは…?】
【そこは大丈夫よ。世界にとどまったままだったら、一緒に消えるけれども、出てしまえば理から外れて存在はできるって、悪魔さんから聞いたことがあるわ。あの世界の人間、滅ぼす前にいっそ、別の消滅三秒前レベルの世界に全員転送できないかしらと相談した時にね】
さらっと何をしでかそうとしていたのだろうか、この蛸は。
まぁ、それでも一応は大丈夫ではあるらしい。
【とはいえ、召喚陣を利用しての異界渡りだから不明な部分も多いですわね。主無しでこの世界にとどまれないことも無いですけれども…そうねぇ、安定しないから、数ヶ月ぐらいでボンッてなるかしら】
【はぁえっ!?ボンッ、って何だよ!?どう考えてもやばいだろ!?】
とんでもないリスクが一緒に背負わされていたらしい。
後でこの蛸、触手全部切り落として食べさせるべきか。
とにもかくにも、そんな理由があるのならば、主を得るべきだろう。
滅びゆく世界から出た先で、ボンッのリスクは回避したいのは当然のことであり、その主としては…
【召喚陣のパスで、つながっているのはこの…あら?】
【---主様に、そんなにくっつかないでほしいのですけれども】
ギュウウウウウウウウウ
「ギブギブ、ハクロ、死ぬ、色々と…」
【おーい、蜘蛛女…そいつ、それだと息絶えるぞ】
いつの間にか、ハクロが抱えていた主…ルドラと言う人間。
それが物凄く大事なのか、リリスが紹介するよりも先に、ハクロがすでに全力で抱きしめており、渡すまいと抵抗しているように見えた。
【そこまで大事なのか…その人間が】
【ええ、私にとっての主様ですし、そこの淫乱ドスケベ蛸がつくのも全力で拒絶したいですし…】
【悪口、余計に酷くなってないかしら?】
みちみちと自身の胸に取り込むようなレベルで大事にする様子は、むしろその人間の方を心配するレベルになる。
蛸女はどうでも良いとして、ハクロに関して…彼女の過去を、知らないわけがない。
と言うか、この場にいる三大魔王全員、お互いの境遇は知っている。
そのうえで、ハクロが人間をここまで大事にする姿と言うのは、意外としか言いようがない。
(ふーん…そのうえで、主として慕っているか…興味が湧いたな)
あの世界において、人間は世界の汚点であった。
この世界のものであればまだ多少はマシなのかもしれないが…それでも人間なことは人間である。
それなのに、そんな人間に対してハクロが慕うとは…何かあるのかもしれない。
【なら、仕えて良いか…。それじゃ、これから頼むぜ、我が君】
元居た世界に未練があるわけでもなく、面白いものがあるなら異世界で主を得て過ごすほうが良い。
そう考え、ギランはルドラを主として仕えることにしたのであった…
なお、ボンッとごまかしてますが、
エッグいことになるので、そこは詳しくしない
なんにしても、次回に続く
…どこかの悪魔が干渉したことがある模様。




