026 鉄棒ぬらぬら
―――人の口に戸は立てられぬ。
もしくは、夫のやらかしを知った怒れる鬼嫁はアダマンタイトすら粉砕する。
それがかつて、賢者の数多く残された名言の中の、迷言とも言われる言葉だが、それはまさにその通りだというべきか。
いや、むしろ秘匿するよりも特定の対応できそうな相手には知ってもらうことで、ある程度の二次災害を防ぐために情報を隠さないためのモノと言うべきか…
「何にせよ、これはすぐにでも関係がありそうな相手へ連絡せよと、所長からの意向で…」
「…つまり、ハクロを召喚した時に使用した召喚陣を紛失したと」
【そのうえ、もしかすると、何かが召喚されているかもと…うわぁ…】
…朝から早々に、学園の客室に呼び出されて何事かと思っていたルドラとハクロ。
そこにいたのは、従魔たちを研究している研究所の所長…アフロデスラー副所長。
どうやら昨晩感じた痛みや謎の知識に関しての原因が、今まさにはっきりと出てしまったようだが、正直言って信じられないような内容だった。
「いや本当に、本来召喚陣は召喚者がいなければ発動しないのですが、それがどういうわけか何かを呼び寄せてしまった可能性もあって…関係ないのかもしれないという微かな希望ならあったのですが…」
「オーガ、スキュラ…無いはずの知識がある時点で」
「「あるのが確定だと…」」
【うわぁ‥‥】
はぁぁぁっと重い溜息が出たが、十中八九間違いない。
確実に、その何かが…今口から出てしまったものが、何らかの要因でこの世界に召喚された可能性があるのだ。
「ちなみにですが、その情報は」
「はい。従魔召喚で得られる情報のように頭の中に…えっと、呼んでもいないのに、召喚されるなんてことってありえるのでしょうか」
「普通は無いです。いや本当に、こちらから相性のいい従魔を呼び出せることはわかってますが、相手の方から逆に召喚されるなんて事例自体が…」
異例の事態ではあるが、ハクロのような従魔が召喚された代物であれば、予想を超えた何かが出てきてもおかしくはないだろう。
【…いえ、恐らくは解析して…私の痕跡を利用してやったものだと思います】
「そうなの?ハクロ?」
【ものすっごく…ええ、本当に外れてほしいのですが、それができる相手に心当たりしかないというか…あ、いますね、そこ!!】
「「!?」」
瞬時にハクロが姿を消したかと思えば、次の瞬間。
ドゴゥウウウ!!
【ーーーっ、やはり、魔法で隠れてましたか】
【おっとっとっと…あぶねぇ、あぶねぇ…オーガに勝るとも劣らない、この力…間違いなく、ハクロか】
【ふふふ、魔法で姿を隠していたのに、よくわかって…あら、糸を使ったのね】
一瞬で部屋の端へ跳躍したかと思っていたら、糸でぎっちぎちに固めた強烈な拳を振るうも、何かに容易く受け止められていた。
何もないはずだった場所に、ゆらりと空間が揺らめくように動き、そしてその姿をあらわにする。
「なっ…知識に間違いが無ければ…オーガに、スキュラ…!?」
ハクロの拳を正面から受け止める、赤褐色の女性。
ハクロが白百合のような美しさを持つのであれば、こちらもまた美女と言って良いような…方向性がワイルドな方の豪快さが目立つが、何よりも額に生えた角が人じゃないことを示している。
二つあったようだが、片方は折れた形跡がありつつ、ギラリと鋭い眼光ものぞかせる、漆黒の瞳の持ち主だ。
そしてもう一人…その後ろに潜んでいる別の者。
一瞬だけ、物語にあるような魔女の姿をした妖艶さを持っていたが、下半身からグネグネと飛び出しているのは、吸盤の付いた触手のようなもの。
確実に人ならざる身を宿している彼女たちの姿は、異質ながらも美しさを持っていた。
【にしてもよぉ、ハクロ。久しぶりに会うというのに、いきなり殴りかかるとはな】
【そうよねぇ、ハクロちゃん、血の気が多いならちょっと吸い上げるわよ?】
【透明になって、不審な行動していたからですよ、ギラン!!!!それと吸うって、貴女の場合は血は吸えないでしょうがリリス!!】
彼女たちの言葉に対して、ツッコミを入れるハクロ。
どうやらオーガの方はギラン、スキュラの方はリリスと言う名前のようだが…この感じからして、間違いないだろう。
「もしかして、ハクロの世界の知り合いか?」
【知り合いと言うか、腐れ縁と言うか、脳筋と魔法馬鹿と言うか…】
【だぁぁれが脳筋だゴラアアアアアア!!】
【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!】
「ハクロォオオオ!?なんかすごいブリッジと言うか、どういう状況!?」
相手をむしろキレさせたのか、ハクロの身体をギランがごりっと持ち上げてブリッジの状態にしてしまう。
背中が人の部分と蜘蛛部分であるが、物凄い仰け反り状態である。
【痛い痛い痛い痛いですよぉ!!やめて、私千切れる千切れる!!脱皮で治りますけどそれまでキッツいからやめ、やめろっていってますよこのぉおおお!!】
【フゲェッツ!?】
ぎちぎちと仰け反っている状態でも、蜘蛛部分は動かせるもの。
瞬時に糸を器用に出して操り、今度はギランを拘束する。
ギチギチギチィイ!!
【オグゴゴゴ…は、放してくださいよ…!!】
【コンノォドアホ…!!これじゃ動けるものも動けねぇだろうが…!!】
【ハイハイ、お馬鹿さんたちは放っておきましょう。…ねぇ、貴方。彼女の主ね】
「ひぇっ!?」
お互いの拘束で動けなくなっている姿を見る中、ルドラの背後にいつの間にか回り込んでいたスキュラ…リリス。
どうやら魔法馬鹿と言われているだけあり、何かと理解しているようなそぶりが見える。
【ふふふ、あのハクロちゃんが襲い掛かってきたときも、その意識の向きどころが違っていたもの。敵意は確かに向けてきたけれども…同時に、貴方に対して瞬時に守るような目を見せたし…気になるから、場所を移しましょ】
「え」
シュルルル!!
「ぐぇっつ!?」
【っつ!?何をするのですか、リリス!!主様に手は出させ】
【大丈夫、ちょっと静かな場所で話すだけよ。えっと、座標は適当に…ここでも使えるのは良いわね、『レテポットリス』】
ハクロが叫び終わるよりも前に、ふぉっといつの間にかその手に持っていた杖を振ったかと思えば、次の瞬間には景色が暗転し、別の場所に切り替わる。
「…え」
【ここで、ゆっくり話しましょうね】
にこやかに、それでいてハクロと同類の異様な力を見せながら、リリスはそう口にするのであった…
【えーっと、穏やかに話すなら、何かつまめるものもあったほうが良いわね。人間用食品はどこへやったかしら…滅んじゃったから、古いのしかなくて…まだましな、缶詰で良いかしら?パンパンに膨らんでいるけれども】
「真っ黒になっているうえに謎の液体がにじみ出まくってて、見た目的にアウトなものなんですけれども!?というか、どっから出したのソレ!?」
攫われたルドラ
あっさりとハクロから彼を攫う時点で、彼女もまたかなりの力があるのだろう
敵意は無いとは思いたいが…次回に続く!!
…ノクターンとかだったらえげつない絵面にもっとできてたのかな、これ




