019 悪意もさじを投げだしたくなる、理不尽さ
―――さて、この世界において、国が一つだけなんてことは当然ない。
いくつもの国々が存在し、魔物たちへ対抗するための従魔を持つ者たちを育成したり、その従魔の力を持って他国への侵攻に利用したり、あるいは何かしらの兵器を開発して戦争を吹っ掛ける…まぁ、人間の愚かさはどこの世界でも同じだということだろうか。
「…それで、今回アルバニア王国でのテストは済んだようだが…一つ良いだろうか、ドクターヴィガルよ」
「はっ、なんでしょうか、ゼストリア殿下」
…その国々の中でも、軍事的な面で著しく発展している国…ガルバンゾル帝国。
中心部である帝都の王城内、第2皇子の部屋にて今、とある報告が行われていた。
「今回の試験運用…周囲の魔物たちを転送する戦略兵器。従魔による対抗手段や、使用後の魔物たちの殲滅手段などの課題が残るとはいえ、色々と良い結果は得られたという点は良いだろう」
ずらずらと書かれつつも、しっかり要点を理解しているからこそ、この国の第2皇子ゼストリアはとある問題も見つけ出す。
「…今後、確実にアルバニア王国で同種の道具の仕様効果は格段に他国に比べて落ちるとあるが」
「…はい、テスト自体はほとんど問題はございませんでしたが…特大の、理不尽の権化という障害物が同時に発見されまして」
「それが、『大魔王』か」
異界からの、魔物への対抗手段従魔。
しかし、それと同時に従魔自身がどこの何なのか明確化されていないこともあるが‥飛び切りの厄災ネタとして、ぶっ飛んだ事情を持ったものがいることもある。
今でこそ、召喚陣の改良が進められたことで、あまりにも危険すぎる従魔は選ばれて出てくることが無いようにされているという話もあるが…
「時たま、偶然か、あるいは意図をもっての干渉か、より大きなものも出るが…魔王を超えての大魔王って、どんなヤバい奴だよ」
「ははは…こちらの映像記録もご覧いただいたほうがよろしいでしょう」
そう言いながら、ドクターヴィガルは懐から、記録水晶を取り出す。
あとからじっくりと、データを見なおすためにも記録は正確に撮る必要があり、バックアップでいくつか用意もしている。
その中の一つを今回持ってきており、得られた記録映像を壁に投影した。
「これが、例の従魔か…元がアラクネ、大魔王時はアラクナー…どっちの形態でも、並の従魔とは桁違い過ぎるというか…いやはや、とんでもないものを呼び出したな」
映し出されているのは、ハクロの姿。
アラクネ時の姿で魔物たちと戦い、変化して大魔王の姿としての戦闘光景があらゆる角度から、撮影されていたその光景がまざまざと映し出される。
「戦闘終了…テスト運用していたマジックアイテムが破壊されてから、元のアラクネの姿に戻ったな。長時間維持ができないのか?」
「いえ、偽装しているだけのようです。そもそもの話として、あのサイズでまともに生活ができないのもあるのでしょう」
「確かに、巨大だったな…まさか、それだけのために力も大きく抑えているのか」
魔物たちの転送も止まって、周囲の状況が落ち着いたところで、サイズが縮小し、元の姿に戻る光景。
大魔王の姿の方が明らかに強力なのだが、日常生活においては不便過ぎるのもあるのだろう。
「だが、それでも強大な…巨大な力と言うほうが、見た目的に正しいか?こんなものがあの王国にあると考えると厳しいか」
明らかに格上過ぎる存在がいる時点で、まともに相手ができるわけもない。
本来であれば、このテスト完了後に利用していくはずだったが…当面の間、大魔王がいる場所で扱うことはできないだろう。
「他の結果は悪くはないが、アルバニア王国への侵攻は当面、皇帝陛下に見せてもお蔵入りだろうな…」
はぁぁっとため息を吐く王子。
他国では成果は得られるだろうが、どう考えてもまともに相手してはいけない場所が出来たという事実が重すぎる。
「…ちなみにだが、ドクターヴィガル。彼女をこちらに取り込むようなことはできないか?」
「無理、としか言えないですな。まぁ、唯一消す手段としてはあくまでも従魔のカテゴリにいる以上、主を…あのルドラと言う少年を殺害すれば、消え失せるでしょうが…従魔が消えるまで、わずかに時間があり、その間に‥」
「瞬時に大魔王の姿になって、世界をマッハで滅ぼすリスクもあると。…これ、この少年が主として制御できているだけ、奇跡なのではないか?」
強大過ぎる力が、まともな人間に操れるはずもない。
それが大魔王が相手であれば言うまでもないはずなのだが…何をどうしてか、彼女は従魔だとしてもルドラに対して従っているため、その力が人類全体へ向けられることはない。
ある意味、物騒な武器の安全装置として役目を持っており…こればかりは、下手に手をださないほうが良いだろう。
「だが、それでも手を出す馬鹿は出るだろうな。…巻き添えにはなりたくないから、愚か者共だけに向くように工作くらいはしておくか」
その力を狙わないわけがない。
けれども、今はまだ、どうすればいいのかわからないのであれば、下手な爆発を引き起こされないように策を練っておくしかないだろう。
先を見越して、直ぐに敵対することが無いためにも…今はまず、今回の騒動に関しての全責任を擦り付ける相手に矛先が向くように仕向けるのであった…
「…ところで、皇帝陛下の容体はどうだ?将来的にその座を奪う気はあるが、今亡くなられても困るからな…兄弟の誰かが陥れるために罠を仕掛けていたりとかは?」
「今のところは、誰も仕掛けてないとのこと。そもそも皇帝陛下が今回倒れられたのは、色仕掛けの暗殺者にひっかかったふりをしようとして、ぎっくり腰になった挙句に階段から転げ落ちて、床が抜けて、すっぽ抜けた剣がシャンデリアにあたって落下して…いや本当に、なんでこれで生きているのでしょうか」
「さぁ?…いや本当に、何でだ?我々の立場の関係上、幼き頃から暗殺者に狙われることがあれども、何をどうしたらあの生き汚なさを手に入れられるんだ‥‥?」
敵味方双方からも、厄介感はある
まぁ、ルドラが手綱を握っているのならばいいのだが…
次回に続く




