018 あなたの■■■
―――召喚陣で召喚される従魔は、実は元居た世界の状態に比べて、弱体化している。
それは呼び出した人間たちにはすぐにはわからないだろうが、従魔の身である彼女は理解していた。
おそらくは、長い歴史の中で制御できない従魔をもうちょっとどうにかできないかと試行錯誤して、多少はコントロールがしやすいようにしたのだろう。
魔物たちへの対抗手段を、自らの手で弱体化させるのはどうなのかと言う意見もありそうだが、魔物への特攻を考えるとそこは大した問題にならないのかもしれない。
ただし、並の従魔と違って、ハクロの場合はそのままでは弱体化はほぼ意味が無い。
例えば、半減させる程度の弱体化だとして…元が100を50にするのと、元が一億なのを五千万にするのとでは、大きく半減したとしても地力が結局天と地ほどの差があり…
【…それでも、やはり受けていた分を見ると大きかったのでしょうか】
ぱちんっと指を鳴らして、ハクロはそうつぶやく。
その合図と共に、自身が上に放った蜘蛛の糸が大きく広がり、空に広がっていく。
【試しに…『レイン・ストライク』】
すっと指先を上から下へ、向けると同時に拡散していた糸が分散して雨のように…一気に、街中を襲撃していた魔物たちに降り注いだ。
ズドドドドドドド!!
【【【ギャグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?】】】
「わぉ…すっご…」
ハクロのもう片方の掌の上に載せられながら、ルドラはその光景を見てそうつぶやく。
大魔王と名乗っていただけのことはあり、ハクロの攻撃が先ほどとは桁違いのモノになっているのは、目で見てわかるからだ。
【ふふふ…ええ、やはりちょっと、この姿ではやり過ぎてしまいますね。加減が、いまいち…これだから、嫌でもあったんですよねぇ…】
「加減を考えても、これでか」
一気に滅びつくされる魔物たちの姿を見てそうつぶやくハクロに対し、思わずツッコミを入れるルドラ。
彼女がたとえ加減をしてもしなくとも、これだけの大規模攻撃はシャレにならない。
【主様の言うとおりに、街を傷つけないようにしても…大破壊してしまうのが、大魔王としての力ですからね】
サイズからもそうだが、かなりの強化となっているだろう。
えげつない攻撃が、ハクロのほんの指の一振りだけでも引き起こされ、あのアラクネの姿の時とは桁違い過ぎるが…それゆえに、普段の生活の中ではかなり扱いにくいだろうという事もまた分かる。
【でも、これで一気に片付いたので…あとは、あそこだけですね】
そう言いながらハクロが見たのは、この魔物襲撃事件の原因となった場所。
あそこに何かの道具があり、それでどこからともなく魔物たちが呼び出され、やってきている。
ならばやることは一つ。
【なので、消し飛ばします】
その一言で、確実にこの騒動の終わりが決定したのであった…
―――
「…ははっ、あははははははは!!まさか、まさか、大魔王とは!!」
圧倒的過ぎる力で消し飛ばされる魔物たちの映像を見ながら、男は笑い声をあげる。
ある程度の予想をしていたとはいえ、拾えた会話内容からとんでもない厄災を引っ張り上げてしまったのだと理解してしまい、笑うしかない。
「魔物たちの中の、王、魔王!!そのさらに上の存在がいる可能性は研究していたが、まさかその予想を軽々と超えるとは!!」
自身でやり始めた実験で、ある程度の成果は既に得られていた。
しかし、この大魔王の存在によって、目論見のいくつかが駄目になることも確定してしまい、将来的な被害を考えると、もはや諦めて笑うしかできない。
「あははははっ…はははっ…いや本当に、理不尽の権化か。まさか呼び出す者が出るとは」
アラクネ状態での暴れぶりも凄かったが、大魔王状態の彼女は桁が違う。
単純な質量だけならばいざ知らず、振るう力もまたより大きく上がっているのだ。
「はぁ、この実験がうまく進めば、殿下に良い報告が出来ただろうが…いや、これはこれでありなのか?」
魔物たちを周囲から呼び寄せ、街中で大発生させ、大混乱させる手段。
マジックアイテムのテストとしては今回の件でかなりの収穫を得られたも同然であり…例えここまでしかできなかったとはいえ、大魔王の情報は、扱い方によってはかなり情勢を変えることもできるだろう。
「何にせよ、この実験はもう幕引きだな…バレる前に、さっさと退散するとしよう」
大魔王の存在と言う予想外のモノがあったとはいえ、引き際をわきまえないわけではない。
最後に飛ばされてきた、大魔王の鉄槌で破壊されるマジックアイテムの映像を後にして、男はその場を去るのであった…




