017 アラクナー
「…何だ、今何が起きた?」
遠距離から映し出されていたはずの、トドメの光景。
流石にあの攻撃が直撃すれば大丈夫だろうと思っていたが…ゲイザーたちによる極太の光線よりも早く、もっと別の何かが押し返し、相殺しているように見えた。
「いそげ、さっさと映せ!!くそっ、余波のせいで監視システムが一部壊れているか…!!」
何かで相殺された、その衝撃により周囲の建物が破壊されたが、映像を送り込んでいたマジックアイテムもろともに巻き添えに遭い、一部壊れたようだ。
すぐさま復旧に取り掛かれば、乱れていた映像がじわりじわりと元に戻り始める。
遠距離からの遠隔操作による修理作業のために、完全に直せずひび割れが目立つが、それでもどうにかまともに見えるようになってきた。
「さて、あの従魔が何をしでかしたか…あの攻撃を相殺するなんて、どんなからくりを…おおぅ?」
周囲の巻き上がっていた土煙も晴れ、映し出されたその姿に対して、思わず間抜けな声を上げる男。
無理もないだろう。彼女の姿が、先ほどまでとかなり異なっていたのだから。
いや、それ以上にどれだけのやばいものになっているのか、男は理解してしまう。
周囲にある、魔物たちや従魔、その他様々なものを計測するための計器類があったのだが…それらがすべて、大きすぎる力に耐え切れなかったように、はじけ飛んでいたのだから。
「うぉいうぉい…ま、まじか…この反応、破損具合からしても…あの少年、自分が何を従魔にしたのかわかっているのか…!?」
従魔…召喚者に従う魔、言わずとも魔物に対抗する手段とはいえ、男の研究では魔物と大差はないと言いたくなるようなもの。
だがしかし…これはあまりにも…
「…やっべぇよ、マジでやっべぇよ。道具のテストがだいぶ成功したってのに…最後の最後で、こんなガチの化け物を引き当てるとか…ええ…」
気になっていたとはいえ、下手すれば予想以上のとんでもない代物。
賢者に届かずとも、理解できるだけの知識があるからこそ、むしろ男にとってはそれが不幸だと言いたくなるようなもの。
ひとまずは、自身のその考えが外れていてほしいと願ったが‥‥聞こえてきたその言葉が、無残にも男の想定をぶち抜くのであった。
―――
「ごえっふ、ごほごほっ…!!ハクロ、大丈…んん?」
凄まじい衝撃が襲い掛かり、しばしの間声を出せなかったが、それでもどうにかルドラは意識を戻して、直ぐに確認を行っていた。
魔物たちの襲撃が終わったわけではなく、この激しい衝撃によって周囲の他の魔物たちが引き寄せられないかという不安もあって行ったが…すぐに、異常に気が付いた。
「…ハクロ…いや、ハクロなのか?」
先ほどまで、その蜘蛛の背中に装着されていたはずの鞍に載っていたはずだが…今、彼の場所は違った。
大きな手の上…それこそ、ルドラの身体が乗っても大丈夫なほどのモノ。
そして、その手の主は見た目こそ確かにハクロを感じさせるのだが…より大きく姿が変化していた。
サイズが一回りも二回りもはるかに大きくなっているのはもちろんのこと、着ていた衣服が星々のようなキラメキを残した漆黒のドレスに変貌しており、ハクロの頭には白銀の王冠のようなものがあった。
まるで、巨大などこかの国の女王のような…蜘蛛部分もどこかに失せており、ドレスの腰から入っているスリット部分からは、彼女の触肢であったはずの足が、人の足のように変化していた。
【…ふふふ…大丈夫ですか、主様。いえ、問題ないようですけれども】
「えっと、確かに傷も何もないけど…ハクロ…なのか?」
目だけは周囲を見て警戒して笑っていないが、聞こえてくる声からは彼女のモノであることが確実にわかる。
「その姿は、一体…何か、どこかの国の女王っぽくもあるけど…」
【女王、ですか…んー…あたらずとも、遠からず…ですよ、主様】
ゆっくりとルドラの身体を顔の高さまで持ち上げながら、ハクロは彼に告げる。
【正確に言えば、女王ではなく…大魔王ですけれどね】
「へぇ、大魔王…魔王っ!?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかったが、それでも容赦なく、従魔とのつながりは召喚の時からあるからこそ、その情報が流れ込んでくる。
「種族…アラクネ、から偽装種族解除…!?種族名…『アラクナー』…大魔王、種?」
理解はさせられる。しかし、それに感情が、頭が、何もかもがすぐに追いつくわけではない。
混乱しそうなルドラを目にして、ハクロはふふっと微笑みを浮かべた。
【ええ。正確に言えばもうちょっとアレなのですが…】
―――
…「魔王」。その言葉だけならば、この世界に無いわけではない。
魔物たちの中には群れを成す者もいるが、その頂点の座でまとめ上げていった結果、全ての魔物を一気に操れるようになる存在が時たま出現することがある。
かつてこの世界にいた賢者も、そう言った存在に出くわし、魔王として呼称を決めたからこそ知られるようにはなった。
しかし、魔物にしても、従魔にしても、人にしても…全てにおいて、上には上がいるという言葉があるように、魔王にもまたその上が存在する。
―――
【従魔も、この世界の魔物に対抗する手段で総称されていますけれども、異界では魔物と言っても差し支えなかったりしますね。…そのうえで、私の元居た世界では人間は全て滅んで…魔物しかいないので、まとめる存在もすぐに決められて…ええ、主様。私はそこで、大魔王の称号を得ていたのですよ。3人いましたので、三大魔王でしたが…】
「んなっ…!?」
ハクロの言葉に、驚愕するルドラ。
彼女のあまりにも人を知らなすぎるというか、常識の無さは人間ではないからこそという理由があったと思ったが…人間がすでにいない世界であれば、人を知らなくても無理はない。
いや、そんな事実よりも今、告げられた大魔王と言う話そのものが一番大きすぎる。
「そんな、馬鹿なっ!?従魔を召喚する召喚陣、あれは歴史上、改良を施されてきたからこそ、魔王だとかそんなものが出ないようになっているとかいう話は聞いているんだけど!?」
そう、魔物に対抗するための召喚陣。
あれは一種のセーフティロック…フィルターと言うほうが正しいのだろうが、そのようなものが施されており、あまりにも危険すぎるものは弾かれるようになっていたりする。
歴史の中ではそれを外したがゆえに、一国が滅びる大惨事が起きたという話もあるようで、人はしっかりと学んでいたはずだが…その中で、こんな大魔王が呼び出されるというのは聞いたことが無い。
【ふふふ…そこはまた、後で説明しますよ主様。…ちょっと、この姿のままだと抑えられなくなるので…今は、こちらの早期解決にかかりましょうか】
そう言いながらハクロが周りを見渡したのを見て、ルドラも今の状況が何ら変わっていないことに気が付いた。
まだまだ魔物たちの襲撃が続いており、先ほどの光線で一部が巻き添えになって焼失したようだが、それでも終わったわけではない。
「わかった、詳しい話はまた後で良い。というか、絶対に色々聞くから、今はこの状況をどうにかできるなら、やってほしい」
【はい!!主様のご命令とあればやりましょう!!】
姿が変わっても、大魔王と言う何かヤバそうなネタが出てきても、その返事を聞いてルドラはハクロの中身としては変わっていないと感じ取る。
むしろ、より一層ヤバい力が出そうな気がしなくもないので、ちょっと判断が早すぎたかなとわずかな後悔をしそうになるのであった…
「えっと、追加で命令だけど、可能な限り街を破壊したりしないで」
【あー…えっと、その…善処しますね】
「既に諦めてないかソレ!?」
…中身は変わっていないようだが、規模的により一層やらかしそうな不安も湧き上がってくるのであった。
色々突っ込みたいところがあるが、今はこの状況をどうにかしなければいけない
気になるところがあっても飲み込んで、じっくりと後で聞けば良い話
多分ちょっと、被害が出るかもだけど…次回に続く!!
…ある意味理不尽の権化




