013 駆け抜ける白蜘蛛
―――魔物の出現に、街中の人々はパニックになる。
それは当然のことであり、そもそも魔物であろうとなかろうと、平穏な日常の中に劇薬をぶちまけられたら誰だって嫌であろう。
「うぉぉぉい!?やっべぇ、魔物がでたぞぉぉ!!」
「ゴブリン、ポイズンバッドバット、アイアンウルフ…!!」
「逃げろ逃げろ、今は全力での避難だぁぁぁぁ!!」
混沌と混乱の中にあっても、流石魔物がいる世界の住人と言うべきか、「命大事に」をモットーにして、自分たちは確実に抗えないことをすぐに理解しながら避難を開始する。
魔物がいる世界だからこそ、従魔がない自分たちがどれだけ非力であり、それゆえにどこまで守れるのかを分かっているともいえるからこそ、出来る行動でもあるのだ。
それゆえに、必死になって避難場所へ…こういう予測不能な街中で突如魔物が出現した時でも、直ぐに安全な場所を探し求めることができる。
「今なら、王城からすぐに従魔騎兵団が出てくるはずだ!!」
「待っても全滅するなら、学園の方へ!!あちらにも、従魔を持っている生徒が多いぞ!!」
避難場所として、彼らが直ぐに選択したのは学園の敷地内。
あそこならば、従魔を持っている生徒たちが多く、魔物へ対抗するための守りを固めることができるだろう。
それに、あちらの方でも異常を察知して、鎮圧のために出てきているのであれば助けの手がすぐそばに来てくれるはず。
その考えをもって全力で逃げる人々だが…当然、魔の手はそれでも容赦なく迫ってくる。
【ギュベァァァァァア!!】
【ゴヨォォォォズ!!】
「んなぁっつ!?アイアンローラーズ…クソダンゴムシやろうどもが!!」
一般市民たちの逃走の中、背後からゴロゴロと転がってくる棘付き鉄球のような生物…アイアンローラーズ。
その鋭い棘で刺すか、あるいは引き潰すか、どちらかで人の生命を確実に絶つ殺意の高い魔物であり、その殺意が今まさに、人々の命を絶とうとした…その瞬間だった。
【『フィンガーネット』!!】
シュルルルギヂィイイイ!!
【【ギョゴベァアズ!?】】
「…へ?」
迫りくる棘鉄球に潰されそうになった瞬間、どこからともなく網縄のようなものが投擲され、鉄球団子共を捕縛する。
【か~ら~の…フルスィインッグ!!】
【【ギョゴベァアアアアアアアアアアア!?】】
ぐぃいッとひっぱられ、網目に絡み取られた団子たちにはなすすべもない。
ぶぉんぶぉんと勢いよく振り回され、お互いにぶつけられる。
グッシャアアアアアアンッツ!!
【ふぅ…素手で触るのは無理でしたが、どうにか無力化できましたね】
「まだこういうので良かったけど…今は避難が先だ!!皆さん、従魔騎兵団学科からの救援です!!避難指示を受けて、従ってください!!」
人々が目を向ければ、そこにいたのは団子を振り回したとは思えないほどの、美しい白百合のような細腕をした、玉真珠のような美しさを持つ白蜘蛛の姫と言って良いような、存在。
その背中には誰かが乗っているようであり、言葉からすれば従魔とその主と言うことなのだろう。
ただ、助けられた人々からすれば従魔の方にばかり目が向いてしまうのは仕方がない事であった。
【主様、数が多すぎて中々きついですね。できるだけ戦闘を避けるために、相手の行動を阻害する糸玉も作ってますが…きりがないです】
「確かに、かなり多いな…」
ハクロが自身の糸で網を作って、相手を捕縛する方法などの手段で、極力ヤバい相手とのガチ戦闘を避けながら、ルドラたちは逃げ遅れた人々の避難対応に当たっていたが、いかんせん魔物たちの襲撃数が多い。
あっちで大変そうならすぐに駆け付け、動けなくしたら今度は別の場所で襲われて、ネバネバの糸玉で身動きできなくしたり、網で捕縛したり、あるいは自分自身の力で自滅するように誘ったりするが、かなりきつい状況。
従魔騎兵団学科の皆も魔物との直接戦闘を避け牽制したり、素早い動きで逃げ回ったり、適当にがれきを投げつけまくって妨害して避難を手助けするなどの手段を使うが…魔物たちの魔の手は緩まない。
「というか、全体的に構成がおかしいな?魔物たちの出現時、大抵は1~2種類ほどが大量にって言う話があるのに…」
見る限り、明らかに今回の魔物たちの襲撃はその種類が多すぎる。
さっきの鉄球団子といい、スライムゴブリン蝙蝠兎ウナギ虫…種類をいちいち言うのが面倒なので近いものを連想するが、それでも状況としてはおかしい。
【んー…確かに、魔物たちの方もおかしいですね。彼らの言葉がこう、変というか】
「というと?」
【何かこう、喋り方がバラバラなんですよ。まるで別々の場所で過ごしていた魔物たちの、群れ形成時の感じと言うか…】
ぴくぴくと耳を動かしながら、ハクロがそう告げた言葉に、ルドラは考える。
従魔のみでありながら人と会話できる彼女だからこそ、魔物の方の言語も聞き取れているようだが…今の襲撃によって飛来してきている魔物たちに対して抱いた疑惑。
「…まさか、全部バラバラの場所から、やってきている?でもそんなものがどうやって?」
種類が多く、統一されていない魔物の襲撃。
ハクロから得た情報も含めて導き出されるのは、全員が本当はこの場所ではないどこか別の場所から、まとめてやってきた可能性。
【あの、従魔召喚の儀式で使われた、召喚陣のようなものがあったりしないですかね?アレだったら、別の場所からやってきてもおかしくはないと思うのですが】
「いや、あれはあれで一種類一体ずつだからこんなには…でも、それに近いものがもしかしてあるのか?…ハクロ、街中で一番高い場所、行けるか?上から見て、魔物たちの発生源を特定すれば、分かるかもしれない」
【わかりました!!えっと、良い場所は…】
この異常事態に対しての、解決策への光。
それを二人は今、導き出そうとしているのであった…
事態の原因が見えてきたころ
しかし、物事はそう簡単に解決はしない
さて、どうなるか…
次回に続く!!




