008 ひと時の平穏と嵐の前
―――召喚から2週間。
従魔たちがこの世界に召喚されてそれだけの時間が経過すれば、彼らも生活に慣れて来て、多少は緩んだところが見られたり、あるいは適応して色々と自分に都合よく利用したりなど、他の姿が垣間見えるようになってくるだろう。
そしてそれは全ての従魔に言えることであり…彼女もまた、例外ではない。
【ふぅ…私も、落ち着いた感じですね。こうやって、ゆったりとのんびりお茶を飲めるのは楽ですよ…ふへへ…】
「と言いつつ、お茶で酔っ払ってるのはどこのどいつだよ…」
えへへへぇっとしまりのない顔で、室内でだる~んっと力を抜きまくっているハクロの姿を見て、ルドラは呆れた声を出す。
アラクネ…蜘蛛の魔物でもあるゆえか、どうもコーヒーやお茶と言った類で、酔っぱらう性質もあるらしい。
酒と違う点としては酒臭くもなく、なおかつ短時間しか効果が無いようだが、それでもこうやって時たまなってしまうのは仕方がない事だろう。
【ん~酔っぱらってないですよ、主様~。私はいたって、平常で~~~す。ふふふ、主様主様ぁ】
「絡み酒は明確な酔っ払いだろ!!」
ぎゅうぎゅうとルドラを抱きしめて、にこやかに言うハクロ。
一応理性は多少は働いているのか、しっかりと顔は外側の方に向けさせており、どちらかと言えば頭よりも胴体の方を胸に寄せる形で抱きしめている。
「…はぁ、この手は使いたくなかったけど…えいっ」
プシュッ
【え、何…ふぉぅっづ!?】
懐からルドラが取り出した、小さなスプレー。
それを軽く押せば、中から出てきたミスとがハクロの鼻先にかかり…瞬時に彼女は正気に戻る。
【ひっぐぅうううう!!主様、それ本当に、駄目ですぅううう!!】
「まったく、よく効くなこのハッカスプレー」
鼻を抑えて涙目で悶絶するハクロ。
主たるもの、従魔の弱点も把握しておくべき。
例えば暴走した時とかでもすぐに静められるように、何が効果があるのか調べておくのは当然のことであり…ハクロもまた、彼女の弱点をルドラはしっかりと学んでいた。
「ついでにこれ、かつての賢者が考案した虫よけ薬でもあるらしいけれど…効果があるってことはやっぱり虫の類になるのかな?」
【ひぃいいいいいい!!】
【ひぅ…本当に、すみませんでした、主様】
「まったく、次やったら直接、今度はレモノップを押し込むよ。ほら、隣室のタイランドフルーツゴーレムから収穫できるアレ」
【いやほんっとうにやめてください主様!!あの酸っぱさは死にますって!!】
ぷんすかぷんっと怒るハクロだが、ちょっと可愛らしく見える。
わかりやすいというかなんというか、一緒に過ごしている間に、ハクロに関しての様々な情報を知ってしまう。
まぁ、弱みを握って言うことを聞かせるという手段も従魔に有効らしくもあるが、やり過ぎるのも厳禁ではある。
そんなこともありつつも、今日も学園の授業。
本日の授業は、模擬戦も交えつつ…先週に身体測定もあり、従魔たちを測ったからこそ、創られたものを受け取るものもあった。
「それが、騎乗するための鞍だ。従魔騎兵団学科たるもの、従魔に騎乗するための装備はしっかりとしたものでなければな」
そう、各自に配られたのは鞍。
各々の従魔に合わせて作られており、どのような状態であっても安定した体勢で跨れるように、しっかりと装備できるものが用意されたのだ。
【なるほど…これは中々、しっくりきますね】
「そんなに邪魔にならない?」
【大丈夫です。これで主様を乗せやすくなりましたからね】
ハクロにも当然用意され、その白い蜘蛛の背中に装着された。
ふわふわの毛並みなのでそのまま座っても問題はなかったのだが、有るのと無いのとでは、安定性がかなり違うだろう。
周囲を見れば他の従魔たちも装着しており、背中だけではなく肩や頭にも装備している者たちが見える。
「よし、各自従魔に装備できたな?具合を確かめるために、運動場を軽く走ってこい。何か問題点があればすぐに出してこい」
先生の指示に従い、直ぐに皆はその場を駆け出した。
「調子はどう?」
【んー、邪魔にはなりませんし、しっかりと主様を乗せている感じがしますね。直に乗ってもらっても、糸で固定できるので大差はないのかもしれないですが、手綱の方も軽く腰回りに巻き付いているだけで、違和感は薄めです】
トテテテっと軽快に、それでいて風を切るように駆け抜けるハクロにルドラは声をかけたが邪魔にはなっていない様子。
軽く跳躍したり、急加速や急停止も試してもらったが、鞍の具合は良さそうだ。
他の従魔たちも様子を見たが、各々の主を乗せて走る様子は楽しそうでもある。
「まぁ、こういうのも良いな…」
そこでふと、ルドラの頭によぎるのは、幼き日の思い出。
あの大空を飛翔した竜の背中にも憧れており…空からの光景を見たくもあった。
でも、今騎乗しているのはアラクネ…竜とは程遠い、フワフワとした蜘蛛の背中の上。
「…これはこれでありか」
【何か言いましたか?】
「んー、ハクロの背中に乗って駆け抜けるのも悪くはないってな」
【ふふふ、ありがとうございます】
ルドラの言葉に対して、にこやかに笑って答えるハクロ。
そんな彼女の笑顔を見て、竜とは違う結果に有っても、十分すぎることかとルドラは思うのだった…
「…ああ、やはり可憐だ」
「あの、王子…何ですか、そのゴリゴリに極悪なサイズの水晶玉は」
「マジックアイテムだが?毛穴の先まで確実に撮影できるとか…」
…そんな平和な時間が流れている一方、彼らから離れた場所で、その様子を撮影している者たちがいた。
「はっきり言わせていただきますが、ちょっときもいかと。報告からまだそこまで時間も経っていないというのに、どれだけの写真を現像して…」
「彼女が美しいのが悪い。見ろ、裏女子生徒会からも入手したバニーな蜘蛛だぞ!!」
「い、いつの間にそんな怪しい組織とお知り合いに…!!」
…どうやら平穏な時間は、すぐに崩れ去りそうな予感をさせるのであった。
悪質化してないだけましなのか
そんなことをツッコミ入れる人はいるのか
そろそろ波乱が…次回に続く!!
…濃くしたいなぁ




