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番外編・後輩の頑張り





「どーぞ、アキ先輩」


 有無を言わさずにアキ先輩に押し付けたのはイチゴオレ。アキ先輩の大好物だ。


「んん?? 悟君どうしたの?」


 帰ってくるなり押し付けられた大好物に戸惑い気味だけど、イチゴオレはちゃんと懐に入れるところがアキ先輩らしい。

 毎度コレでつってる俺が言う事じゃないけど、アキ先輩大丈夫なのか心配になってくる。まさか高校二年の先輩に向かって、お菓子をくれる怪しい人には気をつけて下さいね。なんて言いたくなる日が来るとは思わなかったけど、それはアキ先輩だから仕方ない。


「何か変な事考えてない?」


「いえいえ、全く考えてないですよ。やだなぁ」


「ん~…」


 疑って、じぃっと俺を瞳に映す。

 この体勢ってキスしやすいんじゃないかなぁ、なんて邪念が脳裏を掠めた所で、比良先輩の手の平が目の前を通り過ぎた。

 相変わらずタイミング悪く色々ぶった切ってくれる先輩だよな。


「ふふ」


 で、笑うし。

 こっちの考えてる事なんてお見通しと言わんばかりの余裕のある笑み。見た目は綺麗だけどやっぱ中身は最悪だ。俺にとっては大魔王でしかない。

 なんだこのラスボス。負ける気はないけど最強にしか見えない。

 今流行のチート勇者も真っ青な大魔王か性質悪ぃ…。


「アキ。早く食べないと終わっちゃうわよ」


 さらりと俺を無視して、机の上に昼食を並べだす比良先輩。誰かこの人に教えてやってくれ。俺的には良い雰囲気だったのに、それを平然とぶった切っておきながら人を無視するのはどうだろうかとかさ。


「そだねー。悟君はもう食べた?」


 鞄からお弁当を出しながら、飲み物しか持っていない俺に聞いてきてくれるアキ先輩。けれど、もう食べました、と俺が発するよりも早く。


「相田なら食べてからこっちに来てるわよ」


 ――…と、容赦なく比良先輩が会話の糸を叩き切っていく。

 何だ?

 何なんだ??

 いつも容赦ないけど、今日はやけに会話をぶった切るよな。こうやって、わざと俺とアキ先輩の会話を露骨に切る事なんてないのに。

 この場合、露骨じゃないならよく切りすぎる、という話もあるんだけど、これはこの際置いておく。


「そうなんだ。相変わらず食べるの早いねー」


 比良先輩の乱入には気付かず、アキ先輩の視線はお弁当とイチゴオレに釘付けだ。食べ終わるまで、俺を見る事はないんだよな。

 仕方なく、俺は適当に椅子を借りて腰を下ろすと、ストローを口に含みながら二人の会話に耳を傾ける。

 ついでにアキ先輩のお弁当をチェックしてしまったのは……いつか作って欲しいな、なんて願望があるせいかもしれない。


「…あれ? 肉系増えました?」


 だから気付いてしまう変化。

 勿論バランスも考えられているけど、もう少し大きな弁当箱に同じものをつめたなら、十分男の腹も満たされるぐらいのボリューム感。


「ちょっとねー。レパートリーを増やしてる最中なんだー」


 へへ、と人差し指で頬をかくアキ先輩。

 わかりやすく照れるその姿も俺のツボなんだけど、アキ先輩が顔を下げている上の方では、俺と比良先輩のにらみ合いが続いていた。



「墓穴かしら?」


「弟君の為ですか」


「懐いた弟は可愛いみたいよ」


「下心がなければ警戒はしませんよ」


「ふふ。空回り中みだいね」


「その一端を担ってるのは比良先輩でしょう」


「どうかしら?」



 気分的には氷点下まで下がりそうな寒い雰囲気に包まれていたが、やりとりは勿論小声。アキ先輩に聞かせるわけがない。


 そんな緊迫した空気の中、全く気にしていないアキ先輩が勢いよく顔を上げると、


「悟君、食べれるならこれ食べてみてくれる?」


 と、これから食べる予定だったお弁当を差し出してくる。


「いやいや。それだとアキ先輩のお弁当が…」


「パンがあるから大丈夫よ」


 食べたいけど、流石に昼食をとるわけにはいかないと踏みとどまった俺の耳に、比良先輩の声が届く。

 比良先輩が楽しみもなくそんな事をするわけはないのだが、珍しく。本当に珍しく何かをしている印象はまったく受けなかった。

 本当に珍しくだけど。


「アキ先輩の弁当は美味いから嬉しいっすけど、パンだけじゃ足りなくなりません?」


 比良先輩が買ったらしく、バラエティにとんで色々の種類のパンが並べられてたけど。量だけ見れば、五人前ぐらいはあるんじゃないかと思える。


「大丈夫~。寧ろ最近試作品でげふんげふんしてるから、食べてくれると超がつくほどありがたいー」


 ……本当は色々つっ込みたいけど。

 ニヤリ顔をしてる比良先輩にも殺意が沸くけど。

 けれど、それら全てを奥に追いやる程に、アキ先輩の弁当は魅力的過ぎて、俺は肩をがっくりと落としながらいただく事にした。

 相変わらず美味い。

 っつーか将来的にはこれで食ってけるんじゃないかって腕前にレベルアップしてる気がする。元々美味かったんだけど、目的がつけば尚更上達が半端じゃないっつーか。元々凝る人だから尚更かもしれない。


「美味いっす」


 感想を待っているアキ先輩に一言。すると、どこかホッとしたように表情を緩める。


「ん。男の子にそう言ってもらえると安心するよね!」


 食べさせてもらったのは俺の方なのに、ここにいない誰かの事を言っているであろうアキ先輩を見てると…。




 胸が痛む……。





「ふふ。白旗かしら」




 ――と、少し人がへこんだっていうのに、心底嬉しそうに言葉を挟む比良先輩にマジでイラッとくるけど、こんな程度の事で俺が白旗をあげるはずがない。

 この程度なんて、鈍い、鈍すぎるアキ先輩相手じゃ許容範囲内。


「アキ先輩。味見でよければいつでも!

 この程度の弁当なら2.3個でも余裕ですよ」


 健全な男子高校生の胃袋を考えれば本当に余裕。


「試食もげふんげふんになるなら俺に下さいよ」


 寧ろ下さい。

 俺の紛れもない本音だ。


「んー。試食はまだ下手だよ?」


「全然オッケーです」


「んん」


「腹すくんで、寧ろありがたいですよ」


「んんんー」


 悩んでるアキ先輩。もう一押しかな…と思えばフッと笑った比良先輩が一言。


「完成してから悩むぐらいなら、初めから相田に食べさせた方が無駄がないわね。無駄がなければその分色々なものに挑戦できるんじゃない?」


 何か裏がありそうな比良先輩の一押し。

 けれどアキ先輩はその言葉に納得したのか頷くと。


「そうだね! 悟君、明日からお弁当作るから食べてみてくれると嬉しー」


 と、すごく嬉しい事を言ってくれる。

 それに嬉しいのはアキ先輩じゃなくじゃなくて俺だから。まぁ、それについては色々思う所はあるし、試食係りというポジションだけど、それでもオイシイ位置につけた事は間違いない。


「勿論。俺の方からお願いします!」


 まぁ…。

 アキ先輩に見えないように笑ってる魔王が気になるんだけどさ。






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