ゴミ溜めと青空
妹が生まれた日のことを、今でも鮮明に覚えてる。天気は晴れ。クソみたいな国の、クソみたいな町で妹は生まれた。だけどその日は今までのどんな日よりも、晴れやかで気持ちの良い日だった。
ふかふかのほっぺ、抱き締めると何故か甘い匂いがして、いつもは泣きじゃくる癖に、俺が抱っこすると機嫌が良くなるのが可愛くて、可愛くて。
妹は絶対に俺が守る。そう誓った。
妹が七才になる頃、両親が流行り病で次々に亡くなった。自分達の生活が苦しい中、誰かを助ける余裕なんて誰にもなくて。その上流行り病に罹った両親と暮らしていた俺達は、町では腫れ物扱いだった。
両親を亡くし、住む家も失くし、俺は幼い妹とゴミ溜めのような場所で日々を過ごした。
パンを盗んだ。
金を盗んだ。
盗みもスリも数え切れないくらいやった。
罪悪感なんてものを感じる余裕もなく、只々必死に、毎日を生きていた。夏は暑さで死にかけて、冬は寒さで死にかけて。いっそ死んで楽になりたいと、何度思ったか分からない。それでも踏み止まれたのは、妹の存在があったからだ。
妹は絶対に俺が守る。そう誓ったからだ。
でも痩せ細った腕じゃ金やパンは盗れても、簡単に力で捻じ伏せられる。人攫いに妹を連れて行かれそうになったときも、必死にしがみついて、叫ぶことしか俺には出来なかった。
泣いて助けを求める幼い妹に俺は叫んだ。
「大丈夫だ!絶対に助けてやる!絶対に兄ちゃんが守ってやる!絶対に!絶対に……!」
殴られて鼻から血がドバドバと溢れて、蹴られた腹がズキズキと痛んだ。それでも必死にしがみつく。
可愛い可愛い俺の妹。
生まれた日のことを、今でも鮮明に覚えてる。
天気は晴れ。
クソみたいな国の、クソみたいな町で生まれた。
だけどその日は今までのどんな日よりも、晴れやかで気持ちの良い日だった。
目が眩むほどの快晴、澄み切った青空。
皮肉にも今日と同じ空の色。
視界が歪む。頭を殴らせたせいか。鼻血を出し過ぎたせいか。それとも、涙のせいか。
「返して、ください……」
ふかふかのほっぺが大好きだった。
「返してください……!」
抱き締めると何故か甘い匂いがする。
「返して……ください!!」
俺が抱っこすると機嫌が良くなるのが可愛くて、嬉しくて、たまらなく……愛しくて。
「返して……」
お前さえ居てくれたら、どんな地獄でも、俺は。
必死にしがみついていた腕の力が抜けていく。
____あぁ、神様。
父と母を亡くしたあの日から、信じることをやめた神様に気付けば俺は縋っていた。
どうか、どうか、どうか___
次の瞬間、目の前に現れたのは神様じゃなかった。




