↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/52

第四十五話 繋がる温もりと、家族の形

愛菜の21歳の誕生日当日。

お店の定休日を利用して用意された奥の座敷のテーブルの上には、亮が心を込めて作ったご馳走がずらりと並んでいた。

普段のメニューよりも少しだけ豪華で華やかな夕食。

中央には、三人で分けるのにちょうどいい誕生日ケーキ。

そして――愛菜の席の前には、綺麗にリボンが掛けられたプレゼントの袋が置かれていた。

「開けていい……!?」

愛菜が目を輝かせて尋ねると、亮が優しく笑った。

「もちろんや。愛菜の誕生日なんやからな」

「わぁーっ!」

愛菜は待ちきれない様子で、大切そうに包みを開く。

中から出てきたのは――先日、ヨリと亮が二人で選んだあのお洒落な服だった。

愛菜の表情が、パァッと一気に明るくなる。

「うわぁ……! めっちゃ可愛い……!」

服を自分の身体に当てて鏡を見るように合わせながら、愛菜はニヤリと父親の方を振り返った。

「これ……ヨリさんが選んでくれたでしょー?」

「……」

図星を突かれ、亮は言葉に詰まって思わず口を噤む。

愛菜はそんな亮を見て、悪戯っぽくクスッと笑った。

「だって、父さんにこんなお洒落なセンス、絶対ないもん(笑)」

「おい!」

愛菜がコロコロと楽しそうに笑う。

亮は少し悔しそうな顔をして見せたものの、すぐに開き直って堂々と言い放った。

「……当たり前やろ!」

「え?」

「俺にこんな素敵なセンスがあるわけありません(笑)」

「開き直ったー!」

思わず亮が放った自己否定に、三人でドッと笑い声が弾けた。

愛菜と亮が、ほぼ同時にパッとヨリの方へ視線を向けた。

予期せぬ楽しさに、ヨリは少し驚いたようにパチクリと目を丸くしている。

愛菜が満面の笑みで言った。

「ヨリさん、本当にありがとう!」

亮も温かな眼差しで続ける。

「本当に。素敵なプレゼントを選んでくださって、ありがとうございます」

ヨリは二人をじっと見つめた。

胸の奥が、じんわりと温かなお湯に浸されたように熱くなっていく。

こんなふうに、誰かと気兼ねなく笑い合うこと。

誰かの笑顔のために、心を込めてプレゼントを選ぶこと。

大切な誰かと一緒に、温かく誕生日を祝うこと。

……一体、いつ以来だろう。

ヨリの唇から、ふわりと穏やかな笑みが零れ落ちた。

「……喜んでもらえてよかった」

「一生大事にする!」

「よかったな、愛菜」

「うん!」

また二人の目が、吸い寄せられるように同時にヨリに向く。

まるで前もって申し合わせたかのように、全く同じタイミングでの満面の笑み。

その息のぴったりな親子の姿に、ヨリも思わず吹き出してしまった。

その瞬間――。

(家族って……こんな感じなのかな……)

そんな温かな思いが、ヨリの胸を静かに掠めた。

17年前。

あの日、冷たい海で両親とソヨンを失ってから、ずっと遠ざけて生きてきた「家族」という温もりの概念。

それが今――目の前に確かに存在している。

亮さん。

愛菜さん。

二人のかけがえのない笑顔。

ヨリはその愛おしい時間を、心の中でそっと大切に抱きしめた。

そして、今日という日のこの温もりを――絶対に忘れたくない、と深く心に誓うのだった。

◇

服のプレゼントに大喜びする愛菜を微笑ましく見つめたあと、ヨリはバッグからそっともう一つ小さな小箱を取り出し、愛菜の前に差し出した。

「……愛菜さん。実は、もう一つあるの」

「えっ? まだあるんですか……!?」

愛菜が驚きつつも嬉しそうに箱を開ける。

その中に収められていたのは――光を浴びて繊細に輝く、誕生石の小さなペンダントだった。

「……綺麗……」

愛菜はしばらくの間、息を呑んで言葉を失っていた。

ヨリは少し照れたように、目元を和らげる。

「愛菜さんに、すごく似合うと思って……」

増した愛おしさと切なさを胸に秘め、言葉を続けた。

「……これからも、愛菜さんがずっと元気でいられますようにって」

それ以上は、何も言わなかった。

けれど、その小さなペンダントには、ヨリの偽りのない切なる願いが込められていた。

(どうか、愛菜さんがずっと幸せでありますように)

(あの日、命に代えても守ろうとしたこの笑顔が、二度と曇りませんように)

愛菜の大きな瞳に、じんわりと熱い涙が浮かぶ。

「……ヨリさん」

そっと息を吸い込み――

「ありがとう……っ!」

愛菜はペンダントを手に取ると、すぐに自分の首につけた。

鏡を見る余裕さえ惜しむように、そのままヨリの元へ駆け寄ると――

ぎゅっ。

すっかり大人に成長した背丈で、愛菜は大好きなヨリの肩へと手を回し、しっかりと抱きしめた。

「大好き……!」

不意の出来事に、ヨリの身体が一瞬固まる。

けれどすぐに、17年前もこうして命がけで繋いでいた愛菜の温もりを噛みしめ、背中に優しく腕を回して深く抱き返した。

「……私も、大好きよ」

その瞬間。

愛菜の胸元で、誕生石のペンダントが小さくゆらゆらと揺れた。

ヨリの肩に顔を埋めた愛菜は――ふと、胸の奥から湧き上がる不思議な感覚に包まれていた。

温かい。

とても……息ができるほど安心する。

ヨリにこうして直接抱きしめてもらうのは、これが初めてのはずだった。

なのに――。

(……あれ……?)

この胸の温もり。

落ち着く匂い。

包み込まれるような深い安心感。

どこかで……ずっと昔に知っていたような気がする。

愛菜は静かに目を閉じた。

一瞬だけ――記憶の遠い海の底から、幼い頃に誰かに強く抱き留められていたような、儚い感覚が蘇ってくる。

けれど、それが誰なのかまでは思い出せない。

ただ……愛おしくて、「懐かしい」と感じた。

愛菜はぎゅっと、ヨリをさらに強く抱きしめ返した。

「なんか……ヨリさんにこうして抱きしめられてると、すごく安心する……」

「……そう?」

「うん。不思議なくらい」

ヨリは愛菜の背中を優しく撫でながら、温かな眼差しを浮かべた。

「じゃあ……いつでも抱きしめてあげるわ」

その言葉に、愛菜は心の底から嬉しそうに笑った。

少し離れたところで、その微笑ましい二人を見つめていた亮。

亮の顔にも、自然と温かな笑みが浮かんでいた。

亮とヨリは、静かに視線を交わし合う。

言葉には出さなくても、二人には分かっていた。

17年前のあの冷たい海で、ヨリが命がけで愛菜の手を握り続けてくれたからこそ、今のこの愛おしい笑顔があるのだということを。

(愛菜……お前を救ってくれたのは、目の前にいるヨリさんなんやで……)

亮の胸の奥で、ソヨンへの感謝とヨリへの深い愛おしさが切なく揺れる。

まだ愛菜だけが知らない。

この誕生石のペンダントも。

二人を包む懐かしい温もりも。

17年前のあの惨劇の日から続いてきた運命の糸が、今、三人を静かに、探り合いながらも強く繋ぎ直していることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。