9話 元魔王は勇者になることにしました
翌日。父ロドフのいる玉座の間に足を運んでいたレイ。
「それで、考えはまとまったのか?」
「はい」
玉座に座り、上から見るロドフをレイは真摯に見つめる。
「私、レイ・ノーヴァは魔王を討伐することをここに誓います。」
「ありがとう。レイ。して……誰を連れて行くのかも決めたのか?」
「自分一人で、行かせてください。」
「……ッ」
レイの言葉にロドフは驚愕するのだが、すぐに笑みを浮かべる。
「一国の王子が一人で旅に出る。これは非常に危険で止めないといけないのだが……こちらが魔王討伐願いをしている時点で矛盾しているな。わかった。お前ならいい。」
「ありがとうございます。」
周りにいた兵士、そして兄、リーシャと母親のアリサは称えるように拍手していた。
(ほんとに、おっきくなったなぁ。レイ……)
(ご立派です……レイ様!)
(私の可愛い息子が……こんなにも逞しくなって、涙が止まりません)
レイの発言は一国に瞬く間に拡散され、城を出るころには国の人間たちが総出で門出を祝っていた。
「結構な人ですね」
「そりゃそうでしょうよ。王子が国を出て行って魔王を討伐しに行くんだよ?見に来るって」
「そうですよ。立派なお姿を目に焼き付けて貰わないとですね」
「ハハハ……大袈裟な」
苦笑するレイだが圧倒される数を前にして少し緊張する。
そしてベルは布に包まれた何かを持ちながらレイに言った。
「これ、レイにあげるよ」
「……これは?」
「まぁ開けて見なよ」
笑みを浮かべながら渡してきた兄を見て、覆い被さっている布を取る。
レイはそれを見て目を真ん丸にしながら驚き、ベルの方へと視線を向けた。
「いいのですか?こんな大切なもの……」
「いいんだよ!俺が持ってるよりずっといいと思うし、それに俺はついていってやれないからな。せめてものってやつだ」
渡されたのは剣。兄であるベルのものだったが、旅に出る弟に譲渡することを決めていたそうだ。
そして、レイはそれをぎゅっと握りしめていった。
「ありがとうございますベル兄さん!大切に使いますね!」
レイはそう言いながら懐に差す。
そしてリーシャは涙ぐみながらも笑顔で言葉を送った。
「レイ様……寂しくはなりますが、この国、世界の勝利の為に……頑張ってくださいね」
「任せてください。それと、これを」
「これは?」
レイはリーシャに丸い小型の機械のようなものを渡した。
不思議そうに見つめるリーシャだが、レイは笑みを見せながら答える。
「これは俺の魔力が込められた器械です。簡単に言えば俺の生死が分かるってやつですね。そちらからの連絡は取れませんが、俺が死にそうなときにその位置を知らせてくれます」
「……こんなものを……」
「昨日急いで作ったんですよ。まぁ帰ってきたらただのゴミですが、一応渡しておきます」
「ありがとうございます。レイ様だと思って肌に離さず持っておきますね!」
リーシャは敬愛の眼差しでレイを見つめ、頭を掻きながら苦笑する。
あとは、目の前にいる父親と母親だけ。
父親とは目を合わせるだけにし、視線を落としている母親の元にゆっくりと駈け寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「……ッ」
「母上……いや、お母さん。ありがとう。」
「……愛していますよ!!!レイ!!」
耐えきれなくなったアリサはレイを強く抱きしめる。
しばらく抱きしめ、心が落ち着く感覚を味わう二人。
「それじゃあ、行ってきます。」
「はい。帰りを待っていますからね」
そう言って城の扉を開き……外で待っていた民たちと目が合う。
「頑張って!レイ様!」
「勇者様!」
「この世界を頼みましたよ!」
色々な人が叫び、エールを送ってくれる。
そんな人々を見ながら、レイは思った。
(すげぇな……この国の人たちは温かい。勇者が築き上げたものなんだろうな)
そう心の中で思った直後、魔王だったころの死に際を思い出した。
勇者が俺を切った時、哀しそうな顔をしていた。
あの真意は今も分からない。
けれど、確かにお前は俺を討ったことでこの国の平和。世界の平和が訪れたんだよな?
この世界に生まれてわかったことはあるけどわからないことの方が多い。
それにやはり気になるのは、勇者が言っていたあの言葉だ。
『……俺も気持ちは分かる……方だと思ったけど、どうやら違ったようだ』
気持ちが分かるというのは何だったのだろうか。
勇者と魔王。相まみえることのない真逆の存在なのに、何を伝えたかったのだろうか。
勇者は終始何かをしようとしていた。
その答えがこの旅で分かるかもしれない。
勇者が俺に何を伝えようとしていたのか。勇者の俺ならきっと……わかるはずなんだ。
そして、門までの長く、短い道のりを歩き……リアベル国を出た。
次に向かう場所はもう決めてある。
旅に必要な冒険者証明証をもらうため、冒険者ギルドがある国……アクタビア王国へ向かうのであった。
◇
レイが国を出て行ったすぐ、ベルはレイがよく使っていた庭に足を運んでいた。
少し小汚いベンチに座り、空を眺める。
自分は勇者になるんだと思いながら生きていたが、実際は弟が勇者で……才能も何もかも負けた。
それなのに不思議と悔しい気持ちというのはなく、誇らしいと思っていた。
「兄としては最悪だな」
そう独り言ち、軽く溜息を吐く。
視線は空を向いていたが、誰かが来ていたのを察し……声を上げる。
「やっぱり、リーシャも来たか」
「ええ。考えることは同じですね」
「……五歳も下の弟がこの国を出て行ったなんていまだに信じられないよ」
「ベル様は冒険者にならないのですか?」
リーシャは何もない所を見ながらそう質問し、空を見ていたベルはリーシャに視線を向けながら言った。
「ならない……かな。昔は冒険者ってかなり優遇されてたらしいけど、今は冒険者以外の道もある。それに、俺にはそういう才能はないからね」
「そうですか……」
歯切れの悪い会話が少し続いたが、気まずいという感情はわいて出てこなかった。
むしろ、二人はレイのことをよく知るものとして……いつもはここにいるレイを思いながら話していた。
ベルは指をさしながら言う。
「あそこでさ、レイが魔術を自分に投げて膨大な力に耐えきれずに爆発してさ……」
「ええ、アリサ様の窓ガラスが割れたんですよね」
「そうそう……他にもレイの魔力が禍々しすぎてここら辺の草木が枯れたりしてさ……」
「ええ、レイ様がやってきた数々が全てそのまんま残っていますよね」
「うん。母上なんてレイにすごい甘いからさ、割れた窓ガラスは修復されたけどその破片は大事に保管してあるとか前聞いたんだよ」
「アリサ様らしいですね」
ベルとリーシャは、しばらく話し……レイという存在が大きかったんだなと気づく。
一緒に稽古し、鍛錬し、時にはレイの魔術に驚く。
そんな普通じゃない普通の日常が、二人にとってとても大きなものだったのだと……気づいた。
そして……二人は思う。
(レイ……お前ならきっとやれるぞ。何かあればすぐお前の元に駆け付ける。兄ちゃんは応援しているぞ……でも)
(レイ様……いっしょに行けなかったのは寂しいですが、レイ様なら確実に成し遂げることが出来るでしょう。ですが……)
((できるだけ早く帰ってきて)くださいね)
二人の思っていたことが初めて一致した瞬間だった。
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