8話 元魔王は決めたようです
家族全員で食事をして約二週間が経過した。
レイは自分の部屋のベッドに横たわりながら魔王討伐の件について真剣に考えていた。
ロドフは出発の日も、誰を連れて行くのかも全てレイに任せると言っていたはいいものの……
「どうすっかなぁ……出発の日は別にいつでもいいんだが、問題は人だよな」
リーシャを連れていくのか、それとも実の兄のベルを連れていくのか……あるいは国の兵士か。
何度も考え、考えた先に出た答えは否だった。
「確かにリーシャとかを連れて行くのが一番丸いかもしれないが、なんか嫌なんだよな」
何が嫌なのか……どうしてそう思っているのかレイ自身わかっていないのが現状だ。
だからこそこうして悩み、好きな魔術特訓もせず部屋のベッドに横たわっている。
レイは枕をもって顔をうずくめていると、部屋にノック音が鳴り響く。
「誰ですか?」
「わたくしです。リーシャです」
「入っていいですよ」
「失礼します」
レイはベッドから起き上がり、座り込む。
部屋に入ってきたリーシャを見るなり、レイは視線を落とす。
「どうかされました?」
「ずっと……誰を連れていくのかを考えていたんですが、決まらないんです」
「……そうですか。どうして、わたくしを連れていかないのですか?弱いからですか?」
肩を竦めて言うリーシャを見て、レイはすぐに答えた。
「違います……強い弱いとかじゃないです」
「……そうですか」
そう。誰が強くて誰が弱いとかじゃない。
なんならリーシャの強さはこの国随一だ。どうして俺の直属メイドをしているのか正直分からない。
一度、魔王時代に本気で戦ってみたかったレベルでリーシャの強さは認めている。
「仮に兄さんやリーシャさんと一緒にこの国を出たとして、きっと色々な試練があるでしょう。考えたくはないですがそこで二人が取り返しのつかないことになったりでもしたら……俺は、後悔します。きっと……そのせいでしょう。」
視線を落としながら話すレイ。そしてそれを聞いたリーシャは目を真ん丸にしていた。
まさか、レイがそんなことを思ってくれていたなんて思ってもいなかった。
わたくしの主が、そこまで考えてくれていたなんて……
そう思った途端……わたくしの心臓は強く動き、レイ様を抱きしめていた。
「……ッ!?リーシャさん!?」
「ありがとうございます。レイ様……わたくし、誤解していました」
主はそんなことは考えない。魔術や戦闘技術にしか興味がないと思っていたリーシャ。
それでもいいと思っていた。
傍でお仕えできるならそれでいいと本気で思っていた。それでも主は従者のリーシャ、そして兄のベルを強く想っていた。
初めて、リーシャはレイの想いを感じた。
それなのに、レイはそれがどういうことなのかを全く理解できていない様子だった。
リーシャは強く抱きしめながら口にする。
「そういうのを……愛と、言うのですよ」
「……愛?」
愛。魔王時代に無縁だった言葉だ。
正直言われてもピンとこなかった。
(これが……愛ってやつなのか?)
兄やリーシャを連れていきたいという気持ち。連れて行って二人に何かあったらと考える気持ち。
もう答えは出ていたのだ。
レイはそっと、手をリーシャの背中に回して抱きしめる。
「……ッ!?」
(レイ様がわたくしを抱きしめた!?)
驚きのあまり、体が急激に暑くなる。
主が可愛すぎて握りしめたくなるのをぐっと堪えるも……息が少し荒くなってしまう。
これ以上は本当にまずいことになるかもしれないと思い、その場を離れて軽く咳ばらいをして落ち着かせる。
「失礼致しました。」
「いえ……大丈夫です。」
少し気恥ずかしそうにする二人。数秒の沈黙が続き……レイが最初に口を開いた。
「リーシャさん。もし、俺が一人で魔王を討伐すると言ったらどうしますか?」
レイの問いに、リーシャは従者らしく、されど一人の愛する息子と接するように答える。
「わたくしは、反対したいですが……レイ様が決めたことならそれに従うまでです。」
「意外とあっさり何ですね」
「だって……あんなこと言われたら余計なことは言えませんよ。それに……」
先程レイが言っていたことを思い出しながら体をもじもじとさせるリーシャ。
そしてそのまま言葉を続けた。
「きっと、わたくしたちがいたところでレイ様の邪魔になるだけでしょうしね」
「そ、それはないと思いますけど……」
「ありますよ?レイ様は気づいていないかもしれませんが、魔術だけならこの国、いや……どこに行っても基本は負けないでしょう」
それは言いすぎだろ……とぽりぽりと頬を搔きながら苦笑するレイだが、実際は自分でもわかっていた。
(日に日に強くなっていく魔力……この制御が本当に難しいんだよな)
まだレイは十歳。魔力の成長は十五歳でほとんど止まるのだが、元魔王だからなのか、勇者だからなのか……魔力の増大が尋常じゃない。
そしてそれに比例して日々マナの鍛錬をして混ぜ合わせるとかいう神業まで披露している。リーシャもベルも、そして両親も気づいている。
確かにそうなれば子供ながらにしてもしっかりしているレイに全て任せるという判断も下してしまう。
レイはベッドに手をついて天井を見ながら口にした。
「決めました。俺、一人で魔王を討伐しに行きます」
「わかりました」
主の言葉に少しだけ寂しさを感じながらも、深く頷くリーシャ。
そしてそれを見ていたレイは顔を覗き込むようにして話しかける。
「大丈夫ですよリーシャさん。魔王を倒したらすぐ戻ってきますし、絶対に会えないってわけじゃないのですから」
「わかっていますよ……わかってますけど……」
言葉を詰まらせ、目頭に涙がたまるリーシャ。
泣きそうになるリーシャを見てレイは困惑するが、溜まった涙を拭い優しい笑顔になるリーシャ。
「わたくしは……あなた様の帰りをずっと待っていますからね」
「ありがとう。リーシャさん」
優しい笑顔でレイも返す。
この気持ちが分かった今、猶更二人を連れていくことはできない。
それに、連絡手段がないわけじゃない。いざとなれば頼るという事もできる。
魔王から勇者になって、色々なことを学んだ。
環境が違うだけで、こんなにも考えが変わるのかとレイは驚きながら日々生きているが、勇者としての人生も悪くない。そう思っていた。
そして、次の日……レイはこの国を出て行き、魔王を討伐するたびに出るのであった。
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