6話 元魔王は旅をすることになりそうです
とある地下迷宮にて……玉座に座る一人の人物。
「魔王様……勇者が誕生したというのは本当のようです」
「そうか……千年前の貧弱な魔王より今の魔王の方が強いと……証明する日も近いな」
「報告によると、まだ十歳の子供だそうです」
「まだガキか……」
「はい。魔王様と同じ年齢です」
「そりゃあ……ここに到着するのが楽しみだな」
◇
レイは両親の後ろをついていき、父親がいつも座っている玉座の間へと足を運んでいた。
そして父親であるロドフはその座に座り、頬杖をついてレイに視線を向けて口を開く。
「何故ここにお前だけを呼んだか……わかるか?」
「い、いえ……わかりません」
(まじでなんでなんだ?それに、母上もその周りにいる兵士も少し深刻そうな顔をしているし……)
どうしてここに来たのか、何も思い当たる節がなかったレイは肩を竦めていた。
ロドフはそのまま真摯に告げる。
「覚悟して聞け……お前は魔術の才能がありながら、勇者の力をもって生まれた特別な存在だ」
ロドフの言葉に母親の眉がひくつく。その様子を横目に、レイは頷いた。
「……ベル兄さんからも言われました」
「お前はかなり特別な存在だ。それなのに勇者の肩書に興味もない。そんな所か」
「は……はい。そうですね」
ベルにも以前言った『勇者には興味がない』あの言葉は本心だ。
今も興味はないし、勇者だから何だって話だ。剣術には興味があるが、その肩書には何も惹かれない。それが正直な感想だ。
「お前は……このまま魔術師になりたいのか?」
「魔術師……そうですね。魔術は好きでやっているだけなので……ですが今は剣術も身に着けるように日々鍛錬しております」
「見ればわかる」
威圧的にも聞こえる声を聴いて、レイは少し身構える。
実際、ロドフはかなり十歳ながらにしてここまで強くなっているレイを見て驚愕していた。
(魔力の量は生まれた時からすさまじかったが……内に秘めていたマナが魔力と混じり合っているといった感じか……こんなのは初めて見たぞ……)
本来二つの気は混じり合うことがない。どちらかが反発して力が中途半端になるのだが、レイの魔力とマナは混合するようになっている。
(ま、かなり頑張ったけどな……最初は何もうまくいかなかったけど魔力を弱めたらうまくいくようになったし)
レイは心の中でそう言って、ロドフの咳払いに肩をビクッと動かせる。
「結論から言うぞ……お前は勇者になり魔王を討伐してほしい」
「……魔王、ですか?魔王……魔王……え?」
自分で復唱していて何を言っているのかさっぱりわからない。
魔王は俺で……勇者も俺……俺が俺を殺す?そんな思考になっていた。
ロドフは気持ちを理解したかのように頷きながら言った。
「混乱するのも無理はない。勇者の家系の我々の決まりなのだ……現代の魔王は今こそ脅威になっていないがいずれこの世界を崩壊するほどの力を持っている。それを我が息子に命じるのはおかしな話かもしれないが、どうか分かってほしい」
頭を下げながら懇願するロドフを見てレイは納得した。
(なるほど、新しい魔王が誕生したって事か)
口ぶりからするにまだ猛威を振るっていない段階……それを今のうちに潰せ……ということなのだろう。
レイは手を顎に当てながら考えるようにする。
「レイ……無理にしなくてもいいのよ?」
母は優しくそういうのだが、レイはもう決めていた。
「母上……俺、行きます」
「「……ッ!?」」
思わぬ返答に両親二人は目を見開きながら驚いていた。
困惑しながらも、ロドフは少し嬉しそうに、そして母は少し残念そうにしていた。
母は視線を落としながらもレイに聞いた。
「どうして……行くって決めたのかしら?」
その問いに、レイは唸り声を上げながら答える。
「止める人が俺しかいないのであれば……俺は行くべきだと考えたからです」
「ですが……今は脅威も何も……」
「それは問題の先送りにしかなりません」
「……ッ」
勇者という肩書には興味はないが、新たな魔王が現れたのであればこの眼で確かめなければならない。
どういう奴で、どの術を多用してくるのか。
そしてレイは……魔王時代に戦った勇者の表情を思い出す。
(それに……勇者が何を伝えたかったのか気になるしな)
もしかしたら今回の魔王討伐で何かわかるかもしれない。
今までずっと一人で戦ってきた魔王だったが、勇者違うような口ぶりをして否定しようとしていたが……それと同時に少しだけ魔王に寄りかかるようなそぶりも見せていた……ような気もした。
レイは両手をぎゅっとにぎり……玉座に座る父親に視線を向ける。
「父上……勇者として、この責務を全うします」
「……そ、そうか」
(こうもあっさりと……どういう風の吹き回しなんだ?)
先程まできょとんしていたのに魔王という話題を出した途端一気にやる気を出したように見える。
間違いではないが、両親がレイの本当の正体を知るわけがないのでこれ以上は変に考えず息子を送り出せばいい。
そう考えるのだが、自然と涙が出てきてしまうロドフとアリサ。
思わぬ展開にレイは目を丸くする。
「……え、どういう状況これ」
「十歳にして親元を離れるなんて……少しぐらいは駄々をこねてもよかったのに……」
「だから私はあれほど言わない方がいいと言いましたのに……」
おいおいと泣く両親を見てレイは困惑した様子。
実はこの二人……大の親ばかなのである。
勇者の力を欲しているロドフではあるのだが、可愛い息子二人の人生を勝手に決めるという事は心苦しかった。
(今日珍しく休みが取れたから愛する息子の特訓する姿が見れると期待していたが……こうして話せるだけでも幸せだ……)
(のびのび育ってほしい……でもレイは私の可愛い息子だから旅なんてさせたくない。ずっと一緒にいたい。仕事なんてくそくらえだわ!)
厳格に振る舞っていた父は多彩な息子に負けないようにと抗うため。
いつも陰ながら見守っていた母は本当はもっと一緒に話したい。
リーシャはそんな二人の本性を知っていたというのもあるが、今回は両親に呼び出され魔王討伐を命じると分かっていたからわざと特訓しない提案をしていたのだ。
そんなことを知る由もないレイは両親に抱きしめられ、きょとんとし目をぱちくりさせながら……
(まじでナニコレ)
と、心の中で呟くのだった。
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