5話 メイドが甘やかしてくるのですがどうしたらいいかわかりません
魔術と剣術……本来は二つに一つ。
魔術を極めるものは剣術を極める必要はないし、その逆も同じだ。
だがしかし、稀にそのどちらの性質を持ちながら生まれてくる人間がいる。
英雄暦1000年が経過した時に急激に増え始めていたがそのどちらも極める者はいなかった。どちらの性質を持っている人間は自分に合った戦い方を見つけ、片方だけを使用するものが多かった。
リーシャもそのうちの一人、どちらの性質も持っているが剣術が自分に向いていると考え剣術を極めた人間。
しかし元魔王で勇者の力を持ったレイは……その両方を極めるポテンシャルを持っているというわけだ。
が、当然現実はそう甘くないのだ。
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自室にいたレイは今日も城の庭に行こうと竹刀を持ち部屋を出ようとしていた。
扉に手をかざし、開けると目の前にはリーシャが立っていた。
「おはようございます!レイ様!」
「おはようございます……リーシャさん。相変わらずですね」
「当然です!従者たるもの主の安全が第一ですから!」
ふふんと鼻を鳴らしながら高々というリーシャを見てレイは苦笑する。
いつも通りのやり取りをしてその場から離れようとするのだが、右にずれるとリーシャも右にずれ道を塞がれてしまう。
「あの……どうしましたか?」
「いいえ?何がですか?」
「いや無理がありますよ」
レイがそういうとリーシャは冷汗をたらし、慌てている様子。
「きょ……今日くらいはお休みになられたらどうでしょうか?」
「どうしてですか?」
「……ッ」
何かを隠すようにするリーシャにレイは怪しむのだが、ここ最近魔術と剣術の特訓続きだったしたまには休むのもありかと考えて渋々頷いた。
「……わかりました。今日は休もうかな」
「……!?ほんとですか!そ、それじゃあ二人っきりで部屋の中へ———」
「あ、そうだ……ちょうど今日は父上も母上もこの城にいると聞きました。よかったら城を探索がてらあいさつ回りしましょう!」
ズコッとさせながらもリーシャは泣きながら了承した。
「(……だから特訓はやめさせたのに)」
リーシャは今日は……今日だけはレイの特訓を中止にさせたかった。
できるだけ長い時間一緒にいたいという思いも当然あったが問題は別にある。
二人きりになれず少し視線を落としながらもレイの後ろをがっちりとついていくリーシャ。
「おはようございます!」
「おはようございます。レイお坊ちゃま。今日は珍しいですね」
「はい!ためにはお休みも必要と思ったので散歩でもしようかなと」
「いいですね!それでは私はこれで」
ぺこりと頭を下げてその場から離れていく執事のフキ。
(挨拶って気持ちいいんだな)
魔王時代の時とは正反対な暮らしをしている現在。この生活も悪くないなと思う元魔王様。
城の散策をあまりしたことがなかったレイ。自分の部屋と兄の部屋……あとは洗面所とトイレと白の庭しか知らないのだが当然のようにこの城はものすごく広かった。
兄は今剣術の稽古をしている頃なので邪魔しないように顔を出すのをやめ、リーシャとレイは城の外のベンチに座る。
「結構歩きましたね」
「そうですね……レイ様は人柄もいいので皆さんも気持ちいいでしょう」
「そうですかね……」
「はい。わたくしが保証します。もし仮にそうじゃなかったとしてもわたくしがそうさせます」
「……ちょっと怖い」
引きながらいうレイを見てリーシャは「何か問題でも?」というような顔をするリーシャ。
(まじでこの人じゃやりかねないから怖いんだよな)
頬をぽりぽりと掻きながら視線を向けていると、リーシャはポンポンと自分の膝を叩いてレイを見ていた。
「……?」
「こちらに頭を乗せてください」
「はい?いいですよ……恥ずかしいですし」
「そんなこと言わずに……来てくださいな」
にっこり笑顔で言われ、レイは気恥ずかしそうにしながら視線をあちこちに飛ばし、誰もいないことを確認して膝に頭を乗せる。
「……ッ」
ムニッとする感触がし、甘い香りがふわっとする。初めての感覚にレイはかなり困惑していた。
(なんだこれは……めちゃくちゃ恥ずかしいけど、悪くない)
「どうですか?」
「……いい、感じです」
「それはよかったです」
視線をお腹の方に向けてリーシャの表情は分からないが、声を聴いただけでデレデレしていると分かる。
そしてリーシャはレイを膝に寝転がせるだけじゃなく、頭を撫で始めていた。
「……ッ!?」
ビクッと体を動かし動揺しているレイを見てリーシャはにっこり。
もうずっとにっこりしていてさっきから表情が変わっていないような気もする。
(ふふっ……やっぱりレイ様はまだ子供……こういうのにはドキドキするんですね。可愛いです)
本日もものすごい溺愛っぷりを見せるリーシャ。
数分その時間が続き、恥ずかしさに耐えきれなくなったレイは起き上がろうとして……リーシャの大きなたわわに顔をぶつけてしまう。
「あん……もう、大胆ですね。レイ様ったら」
「ほんとにごめんなさい」
「レイ様なら大歓迎ですよ?」
「うるさいです」
レイは頬を赤面させながらも抵抗する。
(ほんとに……俺が元魔王だって知らねぇだろ。ほんとだったらもう……)
あれ?魔王だった時代も……女性経験ないどころか関わってすらないんじゃないのか?
ずっと魔術に没頭していた人生……女性なんて本当に眼中にないも同然だった。
だが今はっきりと分かった。俺は女性にめっぽう慣れていない。
これはまずい……と思ったが、別にこの城にずっといるんだし女性の事なんて考えるだけ無駄かと思考する。
「あ……あれって」
「……ッ!?」
レイは前方から歩いてくる両親の姿を見て、リーシャは少し警戒していた。
「父上!母上!おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「おはようレイ……今日はいつもの特訓をしていないのね」
「はい……今日は休みですので……」
母親は視線を落とし、少し気まずそうにしていた。父親であるロドフはじっとレイを見つめ……口を開く。
「少し話がある……ついて来い」
「……?わかりました……」
レイは小首をかしげながらも了承するのだが、隣にいたリーシャは慌てながら話そうと口を開くタイミングで……
「おぬしの意見は聞いていない」
「……ッ」
「……どうされたのですか?」
二人のやり取りを見て、レイはベンチから降りて聞いた。
だがしかし、父親も……誰も答えてくれず、ただ後ろをついていくしかなかった。
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