4話 元魔王は魔術と剣術を極めるそうです
弟のレイは魔術の才どころか……剣術や戦闘技術に関する全ての才能がずばのけていると思う。
その点、俺はダメだ。
ノーヴァ家の長男として生まれ、剣術の才能はあったものの弟に比べたらちっぽけなもので……本当にそれだけだった。でも、不思議と弟を恨んだりしていない。
むしろ誇らしいと思っている。
父親や他の偉い人間たちからは影でこそこそと言われているらしいが、剣術に才能があったから勇者になれるかもしれないと思っていただけでそんなものがないとわかれば「まぁそうだよな」程度しか思わなかった。
実際、弟が剣を握って初めて勇者しか習得できない技……剣技『虚空斬王』を使い、勇者と分かった瞬間少しだけほっとした自分がいた気もする。
そう思うと……少し自分が情けないと感じ、弟に申し訳ないなと……思ってしまう。
俺は弟との戦闘後、自室に戻って少しだけ泣いていた。
◇
あれから数週間が経過した。
レイはいつも通り、城の使われていない庭を利用していた。
竹刀を握り、何度も振っては魔術の研鑽も欠かさず常に魔力を弱めたり強めたりしていた。
「剣を握りながら魔術の使用って結構難しいんだな」
そう。これがなかなかうまくいかず、竹刀を持った途端魔力の操作が結構雑になるという課題を抱えていた。
レイは勇者との戦闘を思い出しながら竹刀を振る。
「ん?なんで勇者は魔力も使えないのに最後の技を使えたんだ?」
そこで一つの疑問が浮かび上がる。
ああいう技は普通魔力を通し、術式に刻み放つはずだ。
となれば……人間界のやつらも魔力に似た何かを使えたはずだと考えるのが妥当だろう。
そう考えれば竹刀を握った途端に雑になる魔力も納得がいく。
「一番いいのは……その魔力に似た何かを解明して、魔力に置き換えることが出来ればいいんだけどな」
レイはそう呟きながら竹刀を振るのをやめて傍に置いてある水筒を手に取り水を飲む。
すると、後ろから人の気配がしてレイは振り返る。
「……またいたんですか」
「いますよ?わたくしはレイ様の直属メイドなんですから」
白い髪をなびかせ、太陽の明かりで赤い瞳がキラキラと輝くこの女性。
リーシャというメイドだ。
前回の兄との戦闘は別の用があっていなかったが、基本俺の傍にいるメイドでここでの特訓も離れてだが見ているらしい。
「それで?どうしたんですか」
「いえ……レイ様が何かお困りの用でしたので、わたくしにできることがございましたら何なりと……」
綺麗なお辞儀をするリーシャ。表情は見えなかったが声でなんとなくわかる。
「ま……まぁ今は大丈夫ですよ」
「ほんとですか?わたくしの事が————」
「はいはい……いつものはやめてくださいね」
「いつものってなんですか!わたくしはずっとあなた様の事を想っているのですよ!?」
「嬉しい嬉しい……ありがとうございます」
「ん~!信じてない!」
さっきの綺麗なお辞儀、立ち振る舞いとは裏腹にお尻をぷりぷりとさせ乙女のように駄々をこねるリーシャ。
この人はとんでもなくレイに溺愛してしまっているのだ。
兄であるベルや他のもの達には普通……というかかなり塩らしい態度なのだが、レイにだけべったりなリーシャ……レイからしたら少し違和感があった。
レイは今はまぁいいかといわんばかりの溜息を吐いて竹刀を持つ。
「困りごとってわけじゃないんですけど、兄さんと俺の魔力って違いますよね?」
レイは普通に聞いた。魔術が得意な子供がいう戯言、と受け取ってもらえればいい。
リーシャは目をキラキラと輝かせ「さすがです!」といいながら答える。
「さすがですレイ様!そんなこともお分かりなのですね!厳密にいうと……ベル様は魔力ではなく魂と呼ばれるものを使用しています」
「……マナ?」
初めて聞く単語にレイは小首をかしげる。
「マナってどうやって使うんですか?」
「ん~そうですねぇ……説明が難しいんですけど言ってしまえば精神統一のようなものですね」
リーシャは人差し指を唇に当てながら言うのだが、レイは傾げていた首がさらに傾く。
(精神統一?どういうことだ?要するに悩まずに戦えって事なのか?)
そのまんまの事を考えながら竹刀を握ると、リーシャもウキウキで竹刀を持ち出していた。
レイは困惑した様子でリーシャを見るのだが……
「リーシャさん?いったい何を?」
「言葉ではなく実際にやってみた方が早いかと思いまして」
「あ……そっか。リーシャさん魔術も剣術も得意でしたね」
「あまり得意というわけではないですけどね」
少し気恥ずかしそうにいうリーシャをみてレイは軽くジト目を向ける。
それと同時にこんなにも身近な人に聞ける人がいたじゃないかとレイは自分の視野の世間瀬にキレていた。
竹刀を持ったリーシャはこれまたすごく、目つきが鋭くなり……レイに対する態度がまるで嘘かのように表情が強張っていた。
そして……ものすごくはやい五連撃を繰り出す。
「とまぁこんなかんじですかね?」
「お~!すごいです!」
レイはパチパチと手を叩きながら褒め、リーシャは頬を赤らめながらでへでへと照れる。
その様子を横目に、レイはすぐに分析する。
確かに今、魔力は感じたがマナと呼ばれる別の何かの方が割合は多かった。
「レイ様は魔力が桁違いに多いのでそれを制御することが出来れば剣術も難なくこなせると思いますよ」
「なるほど……魔術も同時に出そうとしていたのが邪魔してたって事ですね」
そう言って、レイは深呼吸をして内に秘めていた魔力をゼロに近い状態まで弱める。
(ゼロにする必要はないけど、マナが何なのかを確かめるためにやってみるか)
徐々になくなっていく魔力を見て、リーシャは目を見開いて驚愕していた。
(すごい……今までのはあくまで同時発動しようとしていたということですか?この人はいったい……何を目指しているのですか)
次の瞬間、リーシャが繰り出した五連撃を出す事に成功する。
「お!すげぇ!なるほどな!」
レイはこの時瞬時に理解していた。
魂というのはやはり精神統一に近いものだ。邪魔なものが入れば入る程動きに無駄が生じる。
言ってしまえば慣れれば魔術との合わせも可能というわけだ。
(そりゃ何も知らない状態で両方同時に使おうとするとできないわけだ)
まずは剣術……マナというものについて知り、魔術との混合もその後だ。
レイはきょとんと眼を開けているリーシャの方に視線を向ける。
「リーシャさん……俺のマナの量はどれくらい……って、なんでポカンとしているのですか?」
「……い、いえ……さ……さすがレイ様だなと……」
「……?」
意味の分からない返答が帰ってきて首を傾げるレイ。
リーシャはこの時、魔術と剣術のどちらの才能があるのに驚きつつ、一生この人についていくと心の中で決心していた。
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