33話 勇者が元魔王とバレてしまったようです
魔王ルーナの言葉に、ベルとリーシャは驚愕していた。
魔王……それは世界を脅かす邪悪な存在。
勇者の家系と言われたノーヴァ家で、現勇者のレイが……元魔王と聞いてしまえばそれは至極当然の反応だろう。
「いい機会だから教えといた方がいいんじゃねぇのか?お前が元魔王で自分も元々は世界を脅かしていたってよ」
「……」
口渇に言う魔王……レイは何も言い返すことなどしなかった。
それどころか、少しだけ笑っているようにも見えた。
「何がおかしい」
魔王ルーナは目元をひくつかせながら言った。
するとレイはリーシャとベルの方へと視線を向け……優しい笑顔で言う。
「実は……この人の言う通り、俺は元魔王なんです」
「レイ……」
「レイ様……」
その優しい笑顔を向ける時はどんな時か二人は知っている。
自分を取り繕うために……レイは笑うんだ。
それは二人が魔王討伐のパーティメンバーに志願した時も、レイは優しい笑顔で断っていた。
本当なら来てほしかったのだろう。でもそれと同時に巻き込みたくなかったのだろう。
二人はそれを知っていた。誰よりも近くで見てきた二人だからわかる。レイという勇者はものすごく優しい人間なのだと。
それでも……魔王と聞いて、少しは驚いたが恐怖するまで驚いたかというとそうではない。
レイは少し視線を落として魔王の方へと向こうとするが————
「驚かないよ。レイ……君は今勇者だ」
「ベル……兄さん」
「そうですよ。レイ様。わたくしは今のレイ様を見ています。それに生まれた時から持っていたものすごい魔力量……実はそうなんじゃないかって少しだけ思っていた所です」
「……リーシャさん」
まさか、そんな言葉を言われるとは思わなかった。
罵倒を浴びせられたり、失望されるものだと思っていた。
でも……二人は突き放すどころか寄り添ってくれた。
「お前ら……それでいいのか!?こいつは俺と同じ魔王で、世界を—————」
「関係ないです。弟の今の姿を見て、あなたはまだ同じことを言うのですか?」
「……ッ」
魔王の視線は自然にレイの方へと向く。
魔王とは程遠い……神々しさすら感じさせるそのなりを見て何も言えなかった。
「だから何だというのだ。こいつは元々魔王で世界を脅かしていた人間だ。それが今の時代で勇者をして世界を救う人間になっている。ふざけた話だ」
声を荒げてそう言っていると、後ろにいたリーシャが一歩……前に出て口を開く。
「わたくし達は、レイ様が勇者だから慕っているのではありません」
そう。レイが勇者じゃなくても、元魔王じゃなくても、元魔王でも……きっと同じ。
一拍置いて、言葉を綴るリーシャ。
「わたくしは……わたくし達は、レイ様だから慕っているのです」
「リーシャさんの言う通りです。俺は最初に言ったはずです。勇者としてではなく、弟を迎えに来たと。元魔王とか関係ない。大事なのは今なんです。そして現勇者であるレイが魔王を討つのではなく友達として救いたいと言っているのなら、俺達は全力で手伝うだけです」
ベルはそう言いながらレイの方を優しい顔で見つめる。
二人の想いがレイに強く伝わり心の底から思う。
(この二人を信じてよかった)
そう思った。
跪いていた魔王は立ち上がり、傷もすっかり完治していた。
「あ~そうかよ。わーったよ。」
なんともあっさりという魔王にレイは怪しさを覚えながら注視していた。
「んじゃ、こいつら二人を殺せば……その野望も費えるな?」
案の定……魔王はそう口にして幾多の魔方陣を展開し始めていた。
二人は身構え戦闘態勢に入る。
「なぁ、もうやめねぇか?」
剣を構えるわけでもなく、戦闘態勢に入るわけでもなく……レイはそう言葉をこぼす。
その場にいたもの達はきょとんとした表情になるが、レイは構うことなく話し始めていた。
「お前が俺に敵う事なんてないってわかったし、どうしてそこまでするんだ」
「それは——————」
それは魔王だから。そう言うのは簡単だったが、どこか違う気がした。
何度も立ち上がり、自分のできることは尽くして戦ったが全て打ち砕かれた。
そして今も尚……それを否定したくてまた戦おうとしている。
答えは簡単……プライドだった。魔王としてのプライドが、俺をそうさせていた。
きっと、こいつはそれもわかっているのだろう。
「俺は魔王だ。魔王以外の何物でもない。俺を否定するものは全て殺すまでだ。だが……お前は違った。」
違った。違ったんだ。こいつは否定するどころか、受け入れようとしている。
魔王で、破壊する以外脳がない生き物を……真正面からぶつかり受け入れようとしてくれている。
何度も説明はされたが理解できなかった。
いや、違う……もしかしたら俺は、理解できなかったのではなく……理解したくなかっただけなのかもしれない。
「元魔王なら俺の気持ちもわかるはずだ。お前の何が、そうさせたんだ」
今までにない真剣の表情でレイを見つめていた。
レイは口ごもることもなく、優しい笑顔を向けて口にする。
「今まで関わってくれた全ての人たちのぬくもりだよ。まぁ何言ってんだって感じだろうけど……結構マジだ。実際、俺もお前と同じことを思っていたし、自分が強くなることしか考えてなかったわけだし」
この時代に生まれ落ち、数々の人間と交流してきて……こういう生き方もあったんだなと理解することが出来た。
けれど、同じようにお前も思えって言うのは違う。実際に見て、感じていくしかない。
「はじめはさ、どうして俺を倒した勇者が哀しい顔をしていたのかわからなかったんだ。でも、今なら断言できる。俺は違ったけど、今までの勇者も俺達魔王と同じで独りだったんだと思う」
「……ッ!?独り……」
「そ。互いに孤独で分かり合えるのは互いしかいなかったんだ。強さ、境遇……それが何よりの証拠だろ?」
魔王ルーナは、どこか腑に落ちたような顔をしていた。
きっと、この孤独も全てが同じじゃないというのも知っている。
ただ……勇者も心のどこかで孤独を感じていたのは確かなのだろう。
魔王を討伐できるのは勇者で、それを打ち負かすことが出来るのは魔王……それだけで全ての証明が可能だ。
魔王は軽く笑い声をあげながらレイに視線を向ける。
「それで、お前は和平協定を結びたいって言っていたな?」
「まさか……結んでくれるのか?」
「ああ、いいだろう。お前のその絵空事に付き合ってやる。」
魔王がそう口にすると、リーシャとベルは笑顔を見せていた。
そして、レイは魔王に手を差し伸べ……魔王はその手を取った。
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