32話 勇者として覚醒したようです
「観客か?」
そういながら魔王ルーナは振り返る。
二人の到着にすぐ気づいていたレイだったが、魔王ルーナの方に視線を向けながら口を開く。
「兄さん……リーシャさん。手は出さないでください」
レイは初めから二人を呼ぶように器械をセッティングしていた。魔王と戦う前、海底迷宮に到着していた時から仕組んでいた。
それはどうしてか……
単にこの流れを読んでいた……というわけではなく、自分の兄とずっとそばにいてくれた人には、自分の生き様を見てほしかったからだ。
(結果的に刺されて瀕死になったけど……まぁ結果オーライでしょ)
魔王ルーナは鼻で笑いながら煽るように口を開く。
「フッ……勇者に覚醒した自分を見てほしいってか?確かに今のお前は先程のお前より脅威だが……魔術師か極めていなかったお前に勇者の剣が扱えるのか?」
「よく言うぜ魔王……さっきの俺と俺の会話を見てたくせに」
「「……?」」
レイの発言を聞き、魔王の眉はひくつく。
リーシャとベルは(俺と俺?)と頭の上にクエスチョンマークを点けながら首を傾げていた。
(俺と俺って……どういうことだ?確かにレイの髪の毛の色は変わっている。二重人格だったのか?)
(それだけじゃないはず……レイ様の魔力はゼロに等しく代わりに魂の質量、総量が尋常じゃなく跳ね上がっている。何か関係しているのでしょうか)
二人はほとんど同じ考えを持っており、レイの事をただただ見ているだけ。魔王ルーナは後ろにいる二人を見ようとはせず、視線をレイから外さなかった。
感が言っている。今、ここで目線を外してしまえば負けてしまうと。
確かに、俺はさっきの勇者の会話を見た。
本心だという事も分かった。
だが、俺の心は動かなかった。やはり俺は、戦いの中でしか楽しさやこの生きがいを表現できないと悟った。
今目の前にいるのは覚醒した勇者。おそらく魔王という肩書、力、そのすべてを捨てた。
「わからないな。どうして捨てた?」
「もういらねぇからな。一つでいいんだよ」
(んでその一つの力でお前を救えるならそれでいいんだよ!)
直後、レイは剣を魔王に向けながら勢いよく走り出した。
(速い……!?)
魔王ルーナはぎりぎり反応し後ろに後退しながら魔術を発動した。
しかし、今のレイに敵うはずもなく剣で難なくはじき返されてしまう。そのままレイは魔王の懐に侵入し、剣を振りかざす。
ギィィィイイイイン————————
魔方陣と剣がぶつかる音が全体に響き渡る。
「俺はお前を殺さない……前の勇者が叶えたかったことを、俺が叶えるんだよ」
「何度でも言ってやる!それは無理だ!俺達が勇者であり魔王である限りは叶うことなど幾千年の時が経とうとあり得ないんだよ!」
「だったら、俺がその勇者になってやるだけだ!」
魔方陣を弾き、レイは地面をこすりながら後退する。
魔王はその瞬間を利用し弾かれた魔方陣から無数の魔術を展開し放った。
「お前にこの量が裁けるのかよ!?勇者!」
展開されたのは自然魔術から思いつく限りの魔術を発動されている。常人じゃ到底弾くこともできない魔術だろう。
ベルもリーシャもただそれを見ているだけしかできない。
自分が手を出しても何もできない。足手まといだと自覚している。
全身が震えひりひりする感覚が二人を襲っていた。
しかし、レイは薄く笑いながら剣を一振り……瞬間——————
「なっ!?そんな馬鹿なことが……」
無数に広がっていた魔術は勇者のたったひと振りの攻撃で一刀両断され虚空へと消えていた。
「お前の攻撃が当たることはもうない」
白い髪の毛をなびかせながら、十歳とは到底思えない言動と威圧でその場を圧倒していた。
しかし、今のレイの発言は魔王ルーナも納得してしまう程で何も言い返すことが出来ずにいた。
ひりつく空気感の中、レイは魔王に向かって手をひょいっと動かす。
「舐めるな!」
そう言いながら魔王は勇者に接近する。
炎で生成した剣を握り、レイに振りかざす。龍がブレスを吐くようにその剣から炎が放出される。
レイはそれを避け、宙へと舞った。
それを見た直後、にやりと笑みを浮かべ……魔王も宙へと移動した。
「かかったな!」
魔王がそう口にし、炎の剣を再度振りかざす。
(なるほど……俺が避けることにかけてもう一度炎で上と下から挟もうってわけだ)
悪くない作戦だが……今の勇者には無駄だ。
「……ッ!?嘘……だろ?」
レイはその場で回転しながらふとことからベルから貰った剣を取り出し、マナを込めて攻撃する。
勇者の剣で攻撃をされ、魔王は魔方陣で守るが破壊される。続けざまに攻撃されるベルから貰った剣が本命だと気づくが防ぐこと出来ずに直撃してしまう。
「……ガハッ……」
誰がどう見ても……今の勇者は無敵だと思わせてしまう。
ベルとリーシャは恐怖すら覚えていたが出発する前に渡した剣を使っているのを知って、ベルは涙していた。
「……レイ……」
そう言葉をこぼす。
レイは片膝をつけた魔王の元へゆっくりと歩く。
「わかっただろ。お前が俺に勝てることはない。今すぐ負けを認めて協定を結ぼうぜ」
「……けるな」
「?」
ごにょごにょいっていてよく聞き取れなかったレイはしゃがみ込んで耳を近づける。
当然魔王はそれが煽りに見え、咄嗟に魔術を発動するが剣で弾かれてしまう。
「……ッ!?」
(どうして俺はこんなに弱い!たくさん鍛えたはずだ。すべてを魔術に注いだはずだ。それなのに……どうして)
心の中で怒号するように呟き、拳を握る。その様子を見ていたレイは分かっていたかのように口を開く。
「わかるよ。俺も昔はそう思っていたから」
「……お前に何が分かる」
「わかるさ……だって俺も魔術を極めたと思い込んでいた側だからな」
そう。思い込んでいたんだ。
でも……今だから言えることがある。
「でもさ、魔術だけじゃ……どうにもできないって気づいたんだよ」
「お前に何が分かる……全部知った気になって、全部わかると口にして!俺の事何もわかってねぇくせに!」
魔王がそう言葉をこぼすとレイは何も言わなかった。
そして魔王は跪いたまま視線を落とす。
(何かあるはずだ……こいつの弱点が……)
そう思い、脳裏に浮かんだのは後ろにいる二人だった。
そして魔王はにやりと何かを企んだ顔をしながらこう口にする。
「それはお前が……元魔王だからかよ?」
「……ッ!?」
「元……魔王!?」
魔王ルーナの言葉に、ベルとリーシャは驚愕する。
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