31話 メイドのリーシャとベル兄さん
リアベル国を出たリーシャとベル。
行くのはもちろん、勇者……レイ・ノーヴァの元だ。
ベルは剣を腰に掛け、リーシャはメイド服のまま出発。
「リーシャさんは剣を持たないのですか?」
ベルが小首をかしげて聞くと、リーシャは肩を竦めながら言った。
「わたくしは自分の魔力で剣を生成するので必要ないのですよ」
「そういえばそうでしたね……レイと同じ魔力もマナも使える数少ない人……」
「わたくしをレイ様と同じにしてはいけませんよ……」
視線を逸らしながら言うリーシャを見てベルは何も言わず歩みを進める。
「器械の方はどうですか?場所とか変わってないですか?」
「はい。問題ないです……意外とここから近いですが、行き方がかなりシビアですね」
「……シビア?」
ベルは唸り声を上げながら聞き返すのだが、リーシャhじゃ手を顎に当てながら何か考えるようにしていた。
(なるほど……魔力を目に集中させてこの痕跡をたどればいいのですね)
レイがそうしたようにリーシャも魔力を目に込めてその後を追うように歩く。
リーシャの魔力は多くも少なくもない普通の魔力量だ。
当然なれないことをすれば魔力の消費も激しくなってしまう。
「ベルさん……わたくしの魔力量じゃ一日にどれだけ進めれるか正直分かりません」
「大丈夫ですよ。どれだけ時間がかかってもその場所には絶対に行きます。レイがただでやられているはずがありません」
ベルは真摯にそう告げる。リーシャも頷き、その場所へと向かう。
魔物が襲えば基本はベルが戦いリーシャには目的地を優先してもらっている。
これが一番手っ取り早い。
この魔力の痕跡とやらはどうやら一歩でも間違えばその痕跡は消え下手すれば最初からやり直しをすることになるとリーシャが言っていた。
歩みを進めば進める程当然道は険しくなり、魔力の痕跡も濃くなってくる。
(……くっ、魔力が濃くなっていくにつれて魔力の消費が激しくなってくる)
「大丈夫ですか!リーシャさん……少し休憩をしま————」
「わたくしは平気です」
そう言いながらポケットから魔力回復薬を取り出しグビッと飲み干す。
もう何本目かわからない。相当辛いはずだ。それでも何もできない自分が情けない。
ベルがそう考えているとは裏腹に、つらい表情をしながらもリーシャはただ……レイの事を考え、想っていた。
(レイ様はこんなお辛いことを平然とこなしていたなんて……さすがわたくしが選んだ主様です)
出会いこそは最悪だった。けれど……今こうしてあなたに仕えているのが何よりも幸せなのです。
(すごいなほんと……やっぱりレイがもたらす何かはとてつもなく意味のあることなんだとしみじみ思ってしまう)
兄として生きてきた。弟の手本になるように……いつも弟は魔術の鍛錬しかしていなかったが俺のことを敬いよく慕ってくれていた。
そこには強い弱いなんて関係ない。兄弟として接してくれていた。
それが何よりもうれしかったし、きっとそれがあったから嫉妬もしなかったんだと今では思う。
実際、今は勇者をではなく……弟を助けに行くという動機で動いている。
ただ……それだけなのだから。
意外と早く、出発した日に目的地に着いた二人。
「これは……何でしょうか」
「迷宮……ですね」
二人が目撃したのは海底らしき場所に迷宮があるというなんとも不思議な場所だった。
もう、二人は気が付いていた。
この迷宮の最奥に……レイ・ノーヴァがいると。
その魔力、マナを感じる。そしてもう一つ……レイ・ノーヴァと似たような邪悪な魔力を感じ取る。
「この奥に魔王がいますね」
「ええ……用心していきましょう」
「はい」
そう言って、二人は海底迷宮に足を運んだ。
海底迷宮の中を進んでいると、ひしゃげた死体がずらりと並んでいた。
おそらく魔物だろう。そしてそれを倒したのは勇者、レイ・ノーヴァだと二人はすぐに気づく。
「レイ様が倒してくれたおかげか……魔物は一人もいませんね」
「本当に大丈夫でしたか?入る前に少し休んでも……」
「魔物がいたら正直まずかったのでしょうが……これなら問題ないでしょう」
少し息が上がっているが、魔力の動きもマナの動きも乱れてはいない。
その様子を見ながらも振り返るように視線を逸らし、その先に進む。
そしてベルの後ろを歩いているリーシャが声を上げる。
「わたくしはレイ様の所に着いたら……すぐに走って向かいます。たとえ魔王がいおうとも」
「俺も、そのつもりですよ」
立ち止まらず、されど振り返らず……ベルも同じ思いだとそう伝える。
階を進めていくうちに魔力がこくなり、ベルは鼻を塞ぎながら進む。
直後……二人の全身に鳥肌が立つような寒気が走った。
「「……ッ!?」」
一体、なんだこれは。
明らかに先程までの雰囲気とは異なる何かが……海底迷宮全体を覆っている。
「こ……これは……」
リーシャがそう言葉をこぼすと、ベルが続けざまに口を開く。
「マナだ……ってことは!?」
とてつもなくドデカいマナだ。この状況でそれを出せる人間はただ一人。
勇者、レイ・ノーヴァだ。
「レイ様!?」
声を荒げながらリーシャは走り出し、その後ろをついていくベル。
(邪悪な魔力が完全に消え……その代わりに内に秘めていたマナが爆発的に増幅したってことなのか!?)
そんなこと、あり得るのか?
確かに勇者の素質を持っているにしては魔力が多かったのは確かだ。
それでも、そんなこと聞いたことがない。そう言うものだと思い込んでいたから。
でも、もし仮に……これが本当にレイなのだとしたら、今……この瞬間に本物の勇者になったという事だ。
階を下り、レイがいるであろう階にたどり着く二人。
「……レイ!」
「レイ様!!」
二人が大きな声を上げながら近づく。
すると……黒髪の青い瞳だったレイの容姿が……白髪に変わっていた。
どこか神々しく感じるその姿に二人は見惚れてしまう。
しかし、それと同時にその前に立っている魔王に目が行く。
「観客か?」
そういながら魔王ルーナは振り返る。
二人の到着にすぐ気づいていたレイだったが、魔王ルーナの方に視線を向けながら口を開く。
「兄さん……リーシャさん。手は出さないでください」
その言葉に、二人はただ固唾を呑み込み頷くことしかできなかった。
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