30話 勇者と魔王
つまらない。
元魔王と知った時は高揚した。どんな強敵なのだろうと。
それはそうだろう。元魔王で、現勇者なんてそうそう簡単に現れて言いたまじゃない。だから最初は様子見をしていた。
魔力の総量も、質量も俺と何の遜色もない……下手したら俺より上の相手。
出し惜しみはしないつもりだった。
それなのに、なんだよ。
孤独を知っているって。
黙って戦っていればいいんだよ。勇者と魔王は絶対に理解することが出来ない立場なのだから。
下に転がっている死体を眺めながら、魔王ルーナは拳を握り小さく呟いた。
「つまんな」
それは紛れもなく本心で……魔王の目にはハイライトがなかった。
背を向け、ゆっくりと……その場から離れようとする魔王。だがしかし、何か嫌な予感がして再度振り返る。
「……ッ!?」
確かに、腹部を貫通させた。殺したはずだ。勇者と魔王の対決は俺が勝ったはずだ。
また……魔王の時代が来る。そう思っていた。
それなのに……こいつの死体が微かに動いたように感じた。
(気のせい……いや、まだこいつは生きている)
肉体が死のうと……こいつは今、魂で生きているんだと理解した。
ルーナは右手を翳し、その魂を覗き込むように魔術を発動させた。
「お前の殺し合いたくないというその想いを、覗かせてもらうぞ」
(魔術……魔魂相殺)
——————————————————
ここは……どこだ。
真っ白な空間……けど、振り返ると暗闇だ。
「なんだ……これ」
暗闇はどんめりとした空気感で魔力が漂っているのに対し、光明としている真っ白い空間はとても静かだった。
きっと、魔力と魂を表しているのだろう。
一歩、光明した空間に足を運ぶと後ろから声が聞こえた。
『お前は、結局何がしたかったんだ?』
「誰だ……お前————」
白い髪に、青い瞳……それでも、声は俺にそっくりだった。
『お前は俺だ。魔王としてのだがな』
「なるほど。そういうことか」
そこで、ようやく理解が出来た。レイが立てた仮説は正しかった。
元魔王で現勇者のレイ・ノーヴァ。彼はまだ完全な勇者ではなかったのだ。
勇者として半人前……その理由は魔王の自分を捨てきれていなかったから。戦闘もメインは魔術でサブで剣術を使用している。きっと、それがよくなかったのだろう。剣も、マントも認めてくれていたのに、俺が……俺だけが勇者として自分を認めていなかったのだ。
レイは暗闇の方に立っている白髪の自分を見つめる。
『お前は、あの時俺を殺した勇者の気持ちを理解した気になって……今の魔王を救おうとした。その結果がこれだ。いい加減……もうわかるだろ?無駄なんだよ。勇者と魔王が分かり合えることなんかあり得ないんだよ』
「わかってるよ。俺も魔王だったから……かつてのあいつの想いなんてものはどうでもよかった。」
そう、どうでもよかった。
どうして哀しい顔をしているのか、どうして魔王を殺したのに剣を二度と持たなかったのか。
全部……どうでもよかった。
でも、俺が勇者として生まれ変わって……ベル兄さんやリーシャ……両親の温かさを知りビーネさんや色々な国の人間の温かさを知った。
「勇者になって、わからないことが分かるようになった。この海底迷宮に着いたときもずっと考えていた。そんで魔王の顔を見た時に確信したんだ。あの時の勇者の気持ちが————」
『黙れ……お前は魔術を極め続けていればよかったんだ。勇者の生まれ変わりだと?ふざけるな。そんなもの、他人が決めたことに過ぎない』
「それは違う」
『あ?』
「俺は勇者であり、元魔王だ。その証拠が……今なんだろ」
『……』
レイがそう言うと、白髪の自分は何も言い返せなくなっていた。
「そして今、決める時が来たんだ」
『……決める時?』
レイの言葉に、白髪の自分は眉をひくつかせる。
決める時が来た。
半端ものの自分から……今、この瞬間に……魔王と同等の力を手にするか、勇者として生きていくのか。
『わかってるのか!?そうれば、お前が鍛錬してきた時間……そしてこの魔力という力を失うことになるんだぞ!?』
「わかっている。それでも俺は、あの勇者が叶えたかったものを叶えてみたいんだ」
『どうして……そこまで……』
「さぁ……どうしてだろうな。それは今言語化するのは難しい。でも……これだけは言える」
レイはゆっくりと顔を上げ……真摯に告げる。
「俺、あいつと友達になりたいんだよ」
『……は?』
白髪の自分は訳の分からないと言いたげな顔をしていた。
正直、自分でも何を言っているのかわからない。
それでも——————
「魔術を極めた魔王……そして元魔王、もし友達になれたらもっともっとあいつの魔術を強くすることが出来る。そして俺も剣術を極めて、互いが手を取り合う。ここで当たり前だった戦争の時代を終わりにしたいんだ」
『……訳わかんねぇよ。なんだよ……そりゃ』
戦争をなくすために戦争をしないといけないのも……戦わないといけないのに友達になりたいと言っている奴も……全部訳が分からねぇ。
それでも、やはり話している相手が自分だからかな……訳が分からないといっても自然と受け入れている自分がいるんだ。
暗闇が徐々に晴れはじめ……白髪の自分が薄れていく。
「ごめん。魔王としての俺はもう捨てる。これからは勇者として……生きていくよ」
『そうかよ。最後に……聞かせてくれ』
下半身がもう視認できなくなり、白髪の自分が最後に問う。
『魔王としての時間は、幸せだったか?』
その問いに、レイは笑いながら答えた。
「うん。幸せだったよ。悔いなんてない……魔術は俺にとっての全てだった。夢であり、現実で……とても楽しいものだった」
だからこそ、手放したくなくて……ずっと使っていたものなのだろう。
レイがそう答えると、白髪の自分も微笑して……その場から消えていった。
暗闇が晴れ、真っ白とした光明の空間が広がる。
直後、自分の胸からビーネ聖騎士長の国からもらったマントと剣が出現する。
レイはマントと剣に触れながら言った。
「わかってる。ありがとう……俺を待ってくれて」
この時、マントも剣も「ずっと待っていたよ」といっているような気がした。
禍々しかった剣が、美しく……あの時勇者が使っていたような剣の形になり……マントもがっしりと肩を組むように羽織らせてくれた。
次に目を覚ませば、きっと……魔王と再戦することになるだろう。
勇者は今までにない真剣な表情で————
「もう……負けない」
そう言葉をこぼすのであった。
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