29話 勇者は魔王に敗れるようです
勇者、レイ・ノーヴァが魔王と対峙している同時刻……その兄のベル・ノーヴァはいつもの鍛錬所で剣を置き正座をして精神統一をしていた。
(平和な日常……それは前勇者と、レイが今戦っているおかげだ)
この日常は決して当たり前じゃない。
勇者が、勇者たちが当たり前にしたんだ。
その場所にいなきゃいけないのは本当は俺なのに……
考えちゃいけないことが次々と浮かび上がってくる。
精神統一をすることで魂は徐々に増えていく。しかし、レイが勇者だと発覚してからは俺のマナは増幅していない。
毎日精神統一も修行もサボったことはない。けれどどんどん減っていく。最初は勇者がレイで悔しい、妬ましい……そんな気持ちが出ているのではと思っていた。でも違った。
単純な話、俺はもう戦う理由がなくなってしまったんだ。
(モチベーションの低下……ってやつなのかな)
当然、弟の事は誇りに思っているし尊敬している。俺が思っている以上に弟は最強で……一人で戦った方がいい人間だ。それはもう前にガチで戦った時にわかった。
今までは俺が家族を守って……勇者になると……その一心で剣をふるってきたがそんな瞬間はもう来ないのだろうと思ってしまった。もちろん、これはいけないことだ。いざって時に動けず、足手まといになってしまう。
でも仕方のない事だろ?俺より優れた人間が現れ、それが弟で……剣の才能も魔術も……何もかもが上で……そんな人間が目の前にいれば自然と心の炎は尽きてしまう。
まただ……またダメな方向にいってる。
集中しろ。
集中だ……今までできてただろ。
ベルが心の中でそう思いながらも精神統一をしていると……城全体に高い音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
慌てて目を開けるベル……聞いたことがない音だ。警告音にも聞こえるその高鳴りに一目散に走る。
何か胸騒ぎがする。
嫌な予感だ。
(まさか……まさか、レイの————)
この国を出る時にリーシャに渡していた一つの器械。
レイが瀕死の時にアラームが鳴り、場所とその状態が映し出されるという器械が……今、この瞬間に鳴り響いたんじゃないかと、ベルはそう思った。
結果、その嫌な予感というものは的中していた。
高鳴りが鳴る方へと走り、その場所はレイの部屋だった……その扉を開け、漠然としながらも手が震えているリーシャの姿が目に入る。
「リーシャ!」
ベルが大声でリーシャの事を呼び、ゆっくりとこちらを振り向く。
「べ……ベル……様」
「一体何が!?」
「この音は何ですか!?」
家族や兵たちが次々と集まり……リーシャの持っている器械に目が行く。
そして、レイとベルの父親、ロドフが口を開いた。
「まさか、レイが……ピンチなのか!?」
ロドフの言葉にも……何も反応しないリーシャ。
きっと、レイの状態を見て驚愕しているのだろう。
ベルは急いでリーシャの元に行き器械に覗き込む。
「う……嘘……だろ……」
「ベル……そこにはなんて————」
リーシャが驚愕しているのも無理はない。
そこに書かれていた内容は……
「魔王と戦闘のち……レイは、死んだとの……こと」
「「……ッ!?」」
ベルの発した言葉に両親やその場にいた兵たちが驚きを隠せない様子でいた。
あの最強の勇者が……魔王に敗れたのか。
旅に出てひと月程度しか経っていないのにもうそんな場所にいるのか。
他にも驚くことはあったがやはり一番の驚きは何よりも……レイ・ノーヴァの死だった。
「あ……ありえない……」
ベルはそう言葉をこぼす。
そう、本来ならあり得ることのない出来事なのだ。
この器械はレイがピンチの時にアラームが鳴る仕組み。レイが嘘をついているとは思えない。
だとすれば……
(一撃で葬られた……って事なのか?)
自ずとそう解釈するのが普通だろう。
しかし、そう考えてもやはり信じられなかった。
弟の死を受け入れられないじゃない。あいつなら……レイなら何か裏があっての事なんじゃないかって考えてしまう。
そして、体が勝手に動き出す。
「おい!ベル!どこに行く!」
「決まっています……レイを、弟を助けに行くんです」
「そんな!無茶ですよ!」
「勇者だからじゃなく……一人の家族、一人の弟として、助けに行きます」
ベルが強くそう口にすると、両親は何も言うことなく……固唾を呑み込むだけだった。
「わたくしも行きます」
「……リーシャさん……」
「わたくしも……ベル様と同じです」
今までにない強いまなざしでロドフを見つめる二人。
「わかった……危険といっている暇はないな。ベルとリーシャだけで勇者の救出に向かわせる!よいな?」
「「「ハッ!」」」
ロドフが言葉強くそういうと周りにいた兵士たちは敬礼をしながら声を上げる。
そして、ベルとリーシャは勇者レイ・ノーヴァの救出に向かった。
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互いが走りながら魔術を発動する。
両者から放たれるのは炎魔術……レイが青く鋭い炎魔術に対し、ルーナは力強い赤い炎魔術だった。
最初の攻防を制したのはレイ。青い炎が赤い炎を貫き、ルーナが青い炎を弾く瞬間に懐に侵入して拳を入れる。
直後……それをわかっていたかのようにその拳をよけ、レイの後ろから魔術を発動する。
羽織っていた勇者のマントが瞬時に反応して体を捻ってよける。
「ふ~ん……口だけじゃないって事ね」
魔王ルーナがそう口にして、にやりと笑みを浮かべながら口にする。
「わかるよ。何でもかんでも魔力に頼るその癖……俺とそっくりだ。もっと言うなら魔王は基本そういう生き物なんだろうな」
「あ?なんだよ。テメェが元魔王で勇者だから全部お見通しってか?」
「そういうことになるな」
刹那……瞬きをする暇なく接近し、レイの腹部に手を翳しながら魔術を発動するルーナ。
「死ね」
(さっきの魔術は俺を油断させるための一撃で……本命はこっちか!?)
先程の赤い炎……ただ魔力を練って放った魔術とは違い、今放たれようとしている魔術は洗礼された魔術だ。
間違いなく、この一撃をもろにくらってしまえば死んでしまう。
「一つ言っておくが先代……時代が進むにつれて魔王も進化してるって事を忘れんな」
「……ックソが」
この攻撃はもう避け切れない。
こうなれば……もう、賭けるしかない。
魔王ルーナが放った攻撃がレイの腹部を貫通し……勇者レイは何も成すすべなくその場で倒れこんだ。
ドサッという音が響き、倒れこんだ勇者を見ながら魔王ルーナは独り言つように呟く。
「つまんな。同じガキだから……もう少し楽しめると思ったのに。興ざめだな」
そして背中を向けた。
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