28話 魔王暦から英雄暦へ
魔王暦1000年……勇者が誕生した。
名前はカルラ・ルシルフ……彼は生まれた時から最強だった。当時魔物が蔓延る時代、彼が生まれ屋事により四方の魔物は焼け死んだ。
そこから彼は勇者として強制的に生きていくことになった。
同じ人間のはずなのに人間らしい暮らしなど許されなく、魔王を討伐するために剣術を叩き込まれ……一人で旅を出ることになった。
「何で俺がこんなことを……」
彼は毎夜そう思っていた。旅に出て、新しい街に行く旅小さな子供から同い年くらいの子供が遊んでいるのを見てやるせない気持ちでいた。
俺も遊びたかった。お手玉をしたり、凧揚げをしたり……みんなの普通を味わってみたかった。
そして自分のボロボロの手を見て諦めた。そんな毎日だった。
けれど、旅をしていくうちに嫌だという感情は徐々に消え失せていった。
「力が必要なら言ってくれ。俺はこの時代を終わらせるためなら何でもする。」
「勇者さん……あなたにしかできないことなのかもしれないけど、頼ることも立派なお仕事だからね」
街の人間や国の偉い人は皆カルラ・ルシルフという勇者に力を課そうとしていた。
「どうしてそこまで……」
彼はそう口にすると優しい笑顔を向けながら人々は言う。
「君が頑張ってくれるからだよ」
「誰もが無理だと思っていた魔王討伐を……お前さんのような勇敢な人が頑張ってるのを見てると、俺達も何かしなきゃって気になるんだよ」
最初は……勇者だからだと思っていた。でも違った。
「勇者だからじゃない。一人の人間として、君を尊敬し、君を手伝いたいとみんながそう思っているんだ。」
「……ッ!?」
人々の本心を知った時、胸がいっぱいになった。
きっと俺は、魔王を討つために生まれてきた人間だ。お手玉をすることも、凧揚げをすることも許されない。剣を握り、魔物を討つことを今までしてきた。
今、この世界で俺より強い人間は存在しない。それなのに……一人だと思っていた俺がこんなに人々に支えられて生きていたんだなと考えるだけで、言葉にできない気持ちが込み上げてくる。
その時、彼は思った。なら、魔王はどうなのかと。
勇者と同じ、生まれた時から魔王で魔物たちの英雄の魔王が。独りじゃないはずがない。
彼もどこかで、誰かとあそんだりしたかったのではと考えるようになった。
わかっている。これは自分が勝手に思っているだけで向こうは破壊の限りを尽くしこの世界に君臨する魔王なのだと。しかし、魔王と勇者という対極の存在でありながらも、独りというのは同じ。分かり合えるのは互いのみだ。
勇者は生まれつき勇者で友人と呼べる人間もいなかった。
もし、なれるのなら……魔王となるのが一番いいと思った。世界的にも、彼的にも。
でも、やはり世界はそう甘くなかった。
勇者が魔王の場所にたどり着いたとき……魔王はやはり魔王だった。
魔術を極め、この世界を蹂躙するための力を魔王は有していた。
「来訪者か……何人もの人間、魔物を葬ってきたが……お前は少し違うな」
「俺は勇者!魔王!お前を倒し……世界を救う人間だ!」
剣を抜き、先を向けたまま口にする。
「どうしてこんなことをする!人間だけでなく魔界の人間も殺し……お前は何がしたい!」
「何がしたい……か。愚もんだな。俺は全ての生物の頂点だ。その責務を全うしているだけ」
全ての生物の頂点……これは紛れもなく事実。
勇者のマナをもってしてもこの邪悪な魔力には勝てないかもと思ってしまう程に強大だった。
それでも、勇者は口にする。
「それでお前は……幸せなのか?」
勇者は幾多の国に訪れ、人の優しさに触れた。
勇者はもう知っている。殺し合いだけが全てじゃないと。
勇者はもう知っている。いつか必ず幸せな時が訪れると。
だから、心から出た言葉が……これだった。
魔王は勇者のその言葉に首を傾げる。
「は?」
当然の反応だろう。魔王なのだから、理解できないのも分かっている。
「お前を庇う奴も……仲間もいないじゃないか」
そこからはもう、覚えていない。分からないなら力で分からせるしかない。
そう思いながら戦った。
いつの時代も、平和の為に戦わないといけない。これが最後の戦いだと信じてやまない。
でも……この時、俺達二人は分かり合えないのだろうと悟った。
それでも、諦めきれなかった。
勇者の最強の一撃が魔王の最大攻撃を一刀両断し、そのまま魔王の体を貫通させる。
魔王は困惑した様子で勇者を見ていた。
「俺は色々な人に助けられてここに来た。家族や仲間……これは俺だけの力じゃない。」
本心からの言葉だった。今まで独りだったからこそ、人々のやさしさに触れ、幸せと感じる瞬間が多くなった。
「……わからんな」
魔王は少し口ごもりながら言っていた。幸せとは何か、独りで何がいけないのかという思いがそこにはあったような気がした。
「だろうな。でも……お前の言っていた面白い戦い。少しだけわかった気がするよ」
「そうだろう?誰かを殺すという快感は面白く、気持ちいものなんだ」
殺すという快感ではない。この頂に達したものにしか戦えない純粋な戦闘。
今までの戦闘は退屈で仕方なかったが、この戦いは少しだけ違った。自分の存在証明になった。
俺が負けるはずがないだろう。背負ってる業のデカさが違うのだから。
結局、最後まで俺の思いは魔王に伝わらなかった。
もし……100年後か、1000千年後に魔王が現れるのなら、次の勇者にはどうか……殺し合いではなく、互いが手を取り合い、互いが分かり合える世界をつくってほしいと心から願う。
そのためだったら俺は何でもする。
ここから俺は剣を握ることはないだろう。その代わりこの俺の剣が、姿形を変え、世界を変えるその時まで俺の……俺達の、勇者の思いが途絶えることはない。
そこから約千年後の英雄暦1064年……レイ・ノーヴァ、現代の勇者が誕生した。
彼はカルラ・ルシルフという勇者の思いに気づき対話を試みているが、現代の魔王は聞く耳を持たず……魔術の衝突が確実となってしまった。
元魔王で現勇者の最強魔術師と、今までの憎悪が積み重なって出来た歴代最強の魔王。
(そうか。勇者……お前は、俺と友達になりたかったのか)
レイはそこで、あの哀しそうな顔の真相に気が付いた。
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