27話 現代の魔王
俺は……どうして魔王に生まれたのかわからない。
どうやって生まれたのかもわからないし、気がついたらこの場所に座っていた。
それでも俺は分かる。
自分は最強で、この世界を牛耳る魔王なのだと。
生まれてくる奴は必ず役割っていうものがある。
何かをつくるために生まれてきた奴。誰かを救うために生まれてきた奴。
それがたまたま俺は魔王として世界の頂点に立つ役割だっただけ。
でも、なんとなくわかるんだ。この世界には俺の正反対な人間がいるという事を。
そう、勇者だ。
勇者は魔王とは違って世界を救う人間として生まれてきている。必ず、戦うんだ。
どうあがいてもその結果は変わらない。
だから俺は自分が最強だと分かっていながらも努力した。生まれながらにして魔力の総量も質量も桁違いの俺は魔術を極めた。極めぬいたんだ。
それなのに、今……目の前に現れた勇者は俺と遜色のない魔力量と質量だったのだ。
あり得るのか?勇者だぞ?そんなことがあっていいのか。
気が付けば、俺は勇者に問いていた。
「お前、本当に勇者か?」
勇者なのは見てわかる。それでも、何故か聞いてしまった。勇者は微笑しながら口を開ける。
「それは異常に早い到着だからか?」
「どっちもだ。その魔力量……勇者として生まれてきた人間にしては強大すぎる」
「そうだな……そうかもしれない。でも俺は勇者だ。お前を倒し、世界を救う勇者だ。」
レイがそう言った瞬間……魔王の眉がひくついた。
(なんだこの感じは……)
明確な苛立ちが、魔王は自覚していた。
その理由は……わからない。
どうしてこいつは、こんなことを言ったのだろうか。
勇者の言葉に……感情がこもっていなかった。
まるで、勇者などどうでもいいような……そんな感じだ。
「お前……名前は?」
「レイだ……レイ・ノーヴァ」
「俺はルーナ・ヘラニカだ」
名前を言い、ゆっくりと近づいてくるルーナ。レイは動じなかった。
構えを取ることもせず……ただじっと、近づいてくる魔王を見ていた。
背丈は変わらない。魔王は先に威嚇するように魔力を全開放にする。
レイはにやりと笑いながらも負けじと魔力を全開放にした。するとルーナは笑い声をあげながら言った。
「やはり……やはりそうか!お前!元魔王だな?」
「ああ、そうだ」
「……ッ!?」
魔力を見て確信はしていたが、何も否定することなく……言い訳をするわけでもなく、むしろ自分の正体を自ら明かした現勇者に魔王ルーナは驚きを隠せなかった。
「お前は何がしたい」
「何が?」
「ここにきて、俺を倒すんじゃなかったのか?勇者として、その責務を全うするのではないのか?」
この世界には役割がある。こいつの役割は魔王ルーナを殺す事。
それなのにレイから殺気は微塵も感じ取れない。
ルーナはもしかしたら自分が舐められているのではないかという思考に陥り、威嚇するように声を上げる。
「お前は、俺を舐めてるのか?」
「……」
その問いに、勇者は答えなかった。数秒間……沈黙が続く。しびれを切らしたルーナが魔術を発動しようとした直後……レイは口を開く。
「ここに来るまで、俺はたくさんの人に助けてもらった。ここに来るまでじゃない……俺が勇者として生まれてきた瞬間から……助けられて生きてきた人生だった」
「……は?」
「けど魔王の時の俺は、魔術を極めることしか考えてこなかった。お前もそうなんだろ?」
「当然だ。それが魔王としての宿命……勇者に殺されないように極めぬくのが俺の仕事。お前は負けたんだろ?勇者に、とんだ似非魔王だったんだな」
煽るようにそういうと、レイは少し笑いながら言った。
「そうだな……そうかもしれない。結果的に俺は負けて魔王としての役割は終えた」
「だから何だよ!?それで今回は勇者としての責務を全うするためにここに来たってか?お前はただ運がよかっただけだ!死んだら何も残らない。それが死だ。」
「ああ、俺は恵まれている。だからこそ……わかったんだよ」
ここに来るまでの人との出会い。そして……この現代の魔王を目にして確信したことがある。
それは……レイを殺した勇者の気持ちだ。
「魔王と勇者は正反対の存在で、互いが互いを止めるために殺し合う」
「それが俺達の役割だ」
「ああ、俺もそう思ってたよ。ここに来るまでは……でもさ————」
脳裏にずっとよぎる……勇者の顔。
どこか哀しそうにしていたのをずっと覚えている。
何度も考えた。ずっと……魔王を倒して嬉しいはずなのに、世界は平和になるはずなのに……あの時の勇者はきっと、魔王を倒しても世界は平和になるけど、魔物たちは幸せにはなれないと分かっていたんだ。
そしてもっと言うのであれば……勇者と魔王の関係性。
本来ならわかり合うことのない……混じり合うことなど決してない二人。
しかし、この場所にきて俺は分かってしまった。
レイはルーナに、少しだけ哀しそうな顔をしていった。
「俺だけは……お前のその孤独さを知っているんだ」
「……ッ!?」
それが、レイが出した答えだった。
(そういう事なんだよね……勇者。勇者だけは、魔王だけは……互いの強さ、そして孤独さを誰よりも知っている。分かり合えるという事なんだよね)
レイは心の中でそう呟いた。
この結論に至った時……勇者がどうしてあの時哀しそうにしていたのかを理解することが出来た。
天に与えられた二つの正反対のもの。それを理解できるものは、それを与えられたものだけだという事を。
レイは一歩、また一歩と近づきながら言った。
「俺は……できれば殺し合いはしたくない。だから————」
「悪いが、それはできない相談だ」
「何でだ?」
「それは、俺が魔王だからだ。」
こうなることはなんとなくわかっていた。だから勇者はあの時……あんな顔をしていたのだろう。
勇者になった今だからわかる。同じことを言わていたとしても、俺もルーナと同じことを言っていたと思う。
「そうか……だったら力尽くで分からせるしかないようだな」
殺し合うのではない。自分は倒せないとこの魔王に刷り込ませる。
「やってみろよ!勇者!俺は殺す気で行くからな!」
そう言うと、魔王ルーナは勢いよくこちらへと接近してきていた。
それと同時に、レイは魔術を発動した。
今、最強魔術師同士の戦いが始まる——————。
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