26話 勇者は一人で無双するようです
リアベル国……レイ・ノーヴァの部屋。
リーシャとベルが足を運んでいた。
「元気しているでしょうか……レイ様」
「大丈夫ですよ。レイなら心配いりません」
そう声をかけながらも、拳を握るベル。
何もない、静かな空間から拳を握る音だけが鳴っていた。
リーシャは薄暗いレイの部屋の椅子に座り視線を落とす。
「今頃、レイ様は何をなさっているのでしょう」
家族全員が気になることをリーシャは口にする。
ベルは苦笑しながら言っていた。
「案外、ロスカ国とかに行って魔王の手がかりとかを聞いているかもしれませんね」
「……だといいんですが……その、わたくし達って口止めされてたじゃないですか。ロスカ国の事とかを……」
「そうですね。父上曰く……勇者というものは答えを自分で暴くものだといっておりました。俺達が思っている以上に……レイはすごい人間ですよ」
「わかっていますが……」
わかっている。そんなことは。レイが生まれてからすぐ。
私は得体の知れないレイという生命体にいつの間にか惹かれていた人間だ。
そしてそれはきっと、ベルも……レイ様と出会った人物皆がそうだと確信している。
それほど、レイ様はすごい人間なのだ。
落としていた視線を上げ、ベルを見ながら言った。
「そうですね。わたくしの考えすぎ……過保護ですよね」
「まぁ、あなたは特にそうでしょうけど……それにレイは何かあった時を想定しています。そしてそれを俺達に託している。それだけで十分じゃないですか」
至極真っ当な意見を言うベル。リーシャはレイからもらっていた小型の器械を胸の前でぎゅっと握る。
その器械はレイが出発する前に貰った物。レイに何かあったら信号を送り場所を知らせるというもの。
リーシャはそれを、ずっと肌に離さず持っていた。
「そうですね。わたくしたちは……あの人を信じる。それが仕事です」
「ええ……そうです」
優しく頷き、カーテンを開けるベル。窓からの日差しを二人は眺めていた。
◇
「それじゃ、また」
「ああ……ここまで同行出来たこととても嬉しく思う」
「それはこちらもです。あなたには色々なことを学びました」
「私が何を……」
レイのお世辞にビーネは視線を逸らす。
海底迷宮に到着した二人は最後の言葉を交わしていた。
「……ッ」
レイはさっと右手を差し出す。ビーネはその手を見て、次にレイの顔を見た。
「本当に、ありがとうございました。次会う時は魔王を倒した後だと思いますが……」
「君なら意外とすぐ倒してけろっと帰ってきてそうだな」
「ハハハ……どうでしょう」
差し出された手を優しく握るビーネ。そしてレイの顔を見ながら真摯に言った。
「信じてるよ。レイ。」
この言葉がレイの重荷になるかもしれない。
それはビーネも承知している。それでも……この言葉を言いたくて仕方がなかった。
今から死ぬかもしれない大きな戦いをする勇者に信じてるよなんてフラグにしかならないかもしれない。
それでも、レイは優しい笑顔で返していた。
「はい!信じて待ってください!」
レイは階段を下り、その姿が見えなくなるまでビーネは見送っていた。
「頑張れよ。勇者……人類を救ってくれ」
姿がなくなり、展開されていた魔方陣が消え……ビーネは小さく呟いた。
◇
階段を下ると、異質な魔力を強く……濃く感じるようになった。
さすが魔王というべきか、レイの魔力と異質さや禍々しさは似ている。
「すげぇ魔力……俺とタメ張れるんじゃねぇか?」
レイも負けじと制御していた魔力を開放するようにしようとするのだが……周りにいる巨大な魔物たちが目に入り、キャンセルした。
別にビビっているわけではない。ただ自分が魔王をしていた時よりもこの魔物たちが巨大になっており驚いただけだ。
「やっぱ時間の流れってやつなのかな。ここでもし、久しぶり!とか言ったらどうなるのかな」
な~んて、意味の分からないことを口にしながら一体の巨大な魔物の足音が海底迷宮に響いた。
振り返ると、巨大なゴブリンが殺意むき出しで接近してきていた。
レイは右手を前に出し、魔方陣でその攻撃を防ぐ。
そしてそのまま青い炎を放出しゴブリンを丸焦げにする。
すると、周りにいた巨大な魔物たちが魔力に反応するようにこちらに接近してきていた。
(あ~そうだったわ。確か一体の魔物を攻撃したらそれに反応するように作ったっけ……我ながら厄介なものをつくるなぁ)
そう心の中でぼやきながら、ベルからもらった剣を抜く。
深呼吸して、構えを取るレイ。囲うように攻撃を仕掛ける魔物たちだが、それと同時にレイは宙へ浮いた。
(剣に魔力とマナを込め……そこに魔術を流し込む……)
金色に光り輝いていた剣が、魔力によってどすぐろい紫色へと変貌する。
そして……魔術を流し込んだことにより青い炎が剣を纏った。
「おっし!成功した!」
もう片方の手で雷魔術を発動し、両手を塞ぐことなく炎雷を起こすことが可能となる。
直後……落雷と炎で伸びた刀身により巨大な魔物たちの首や胴体が真っ二つにされ、そのフロアの敵はすぐにいなくなった。
「ま、最初はこんなもんか」
自分の手をぐっぱしながらその先へと進む。
ここは海底迷宮……進むにつれ海底と同じ重さを担うこととなる。
それは、魔術を使用して無にすることは不可能。道を一つでも間違えれば……最初からやり直さないといけない。これが……海底迷宮といわれる所以。
(何で俺、こんなんつくったんだろ)
ジト目になり、溜め息を吐きながらレイは先に、先に進んでいく。
現れる敵を難なく倒し、一人で無双する状態へと突入している。
今はもう、ビーネもいない。魔王しか見ることが出来ないこの力、盛大にふるっていた。
殺意を込めるわけでもなく、ただただ魔術を使い……剣術を使う。
レイはこの状況下なのに、純粋に戦闘を楽しんでいた。
「やべぇ……たのしい」
不敵な笑みを浮かべながら次々と敵をなぎ倒していく。
気が付けば……最奥へと到着していた。
その間、およそ十分もかからなかったと思う。
普通の人間がこの海底迷宮に来たら何日、何週……下手したら何か月とかかるダンジョンを、この勇者は十分程度でクリアしていたのだ。
「意外と早く着いたな」
そうぼやくと……魔王神殿の扉が開き魔王の姿があらわになる。
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