25話 勇者の強さにもう驚かなくなりました
私は何をしているのだろうか。
十歳の勇者に出会って私は……Sランク冒険者らしいことは出来ただろうか。
答えは否。常に足を引っ張り、常に助けてもらっている。それなのに私は……海底迷宮までの道のりをボディーガードといいついてきている。
まったく、おかしな話だ。
自分で気づいている。私は、ボディーガードをするためについてきているのではない。レイ・ノーヴァという男の強さを間近で見ていたい。その強さを私の剣術にも活かせるのならと……ただの我儘でついてきているのだ。
本当にレイは私の事を足手まといなんか思っていないのだろう。
どれだけ私が言っても、君は否定するのだろう。
最初に君の強さを見た時……私は驚いた。同じSランクなのに、十歳の子供なのに……こんな子供に負けるのか。同じSランクなのに強さがまるで違う。嫉妬したよ。
でも……気づけば私はその強さの虜になっていた。次はどんな戦い方をするのだろうか……次はどんなすごい魔術を見せてくれるのか……と。一度は夢見る魔術師……私もそのうちの一人だ。
魔術師以外の人間は生まれながらに魂というものを持っている。でも私はそのどちらも持っている……のに、剣士だ。魔力を持っていても、魔術は使えなかった。
魔力を身体能力強化に使い、速さを上げることしかできない。
最初は試したさ。でもできなかった。
けど、今私の目の前にはその両方を扱える人間がいる。我儘も言いたくなるのは自然だろう。
そしてその強さにはもう驚かなくなった。
どうしてか……勇者からなのか、圧倒的な力を何度も見てきたからなのか。
答えは分からないが私はこう思っている。
ない物ねだりだったんだと。
人は生まれながらにして空は飛べない。一度は鳥をうらやましいと思った事はあるがそれ以上は望まない。
だってできないんだもん。できないものをずっと嘆くのは愚の骨頂。
けれど、魔術というものが主流になった今……この世にできないものなんてなくなった。
「大丈夫ですか?ビーネさん……少し休みますか?」
「ああいや、大丈夫だ」
ビーネは出発してから今に至るまで、ずっと考えてはやめてを繰り返していた。
レイは心配そうにビーネを見るが、それ以上は何も聞かず前を向き歩き進める。
(私としたことが……レイといるといつもの私じゃなくなる)
これが悪い事とは思わないが、調子が狂うのは確かだ。
ビーネは切り替えるように顔を振った。
「それで、どうだ?もうそろそろのはずだが……」
「順調ですよ。近づくほどにどんどん魔力も濃くなっていっているので!」
「そうか……」
魔力……やはり、気になってしまう。
これだけは、解散する前に聞いておきたい。
ビーネは野暮だと分かっていても、勝手に口が先走っていた。
「その……答えにくかったらいいんだが……」
「?」
頬をポリポリと掻き肩を竦めるビーネ。レイは小首をかしげていた。
「君は……君は一体何者なんだ?」
「何者……」
何者かといわれ、レイは少しなんて言うか戸惑ってしまう。
短い言葉だったが、何を聞かれているのかはなんとなく理解できた。
(つっても……何を言っても信じないと思うけど)
心の中でぼやきながら、レイは視線を逸らし口にする。
「俺は……ただの魔術バカの勇者ですよ」
「そうか……そうだな。すまない。変なことを聞いた」
人より少し魔術の事を知っていて、人より少しだけ……勇者の事を知っている元魔王。
そこから二人は会話をすることなく、海底迷宮の手前まで到着していた。
「つきましたね」
「案外早かったな……予定では明日のはずだっただろ?」
「ですね……まぁ細かいことはいいじゃないですか」
レイはそう言って、海底迷宮があるであろう場所に立つ。
ここの場所は何の変哲もない、ただの道だ。
近くに海が広がって入るが、ぱっと見ではとても海底迷宮があるとは思えない。
当然……ビーネは懐疑的な目を向ける。
(一見何もなく見えるが、間違いなくここだ。俺の真下から膨大な魔力を感じる)
レイはその場でしゃがみ込み、手を地面に触れながら言った。
「少し、離れていてください」
言う通りにし、ビーネはその場から数メートル離れた。
それと同時にレイは魔力を流し込んだ。
すると……地面が神々しく光り、ビーネは思わず目を瞑ってしまう。
恐る恐る目を開けると魔方陣が展開されていた。
「こ……これは……」
「間違いなく、魔王がいる場所……海底迷宮ですね」
「……ッ」
展開された魔方陣が勢いよく開き、海底迷宮に続く階段が出現した。
ビーネも肌間で感じていた。
異質な魔力が逆撫でするような感覚。
今すぐにでもこの場から逃げ出したいと本能が告げている。
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海底迷宮最奥……魔王の神殿にて。
「来たか……勇者が」
「はい。どうなさいますか……また刺客を」
側近の男が魔王に提案をする。
魔王は鼻を鳴らしながら答えた。
「無駄だ。秒で瞬殺されたあいつだ……いくら刺客を送ったところで意味がない。だが、この海底迷宮は楽しんでもらおうか」
「と……いうことは」
にやりと笑みを浮かべながら、側近と魔王は目を合わせた。
「ああ、ありったけの魔物を放り込む。迷宮らしく……魔王らしく勇者に立ちはだかるとしようじゃないか」
自分と同い年の勇者が攻め込んでくると知った時、俺は心が躍った。
やはり魔王と勇者は切っても切れない関係なんだと。どちらかが生まれればどちらかが共鳴するように誕生する。
だが、今回は同時にだ。
こんな奇跡みたいな展開はあるのだろうか。
生まれながらにして最強の魔王……そして人類の希望を背負って立ち向かう勇者はいったいどんな顔をしていて、どんな強さをしているのか……楽しみで楽しみで仕方がない。
魔王は玉座から立ち、両手を広げながら口にする。
「この戦いで、魔王の時代か……勇者の時代かが決まる!待っているぞ!勇者!」
そう言って、魔王の笑い声が神殿全体に響いた。
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