24話 勇者は命を狙われているようです
瞬きをする暇なく、黒いスーツを着た男はレイに接近し魔術を発動した。
「……ッ!?」
(こいつ……今消えた?)
自身の拳に炎魔術を纏わせ、振りかざす。
レイはすぐに反応し避け、体を後方に流した。それと同時に、ビーネが斬りかかる。
「……ッち、杖で守ったか」
「いい腕だな……だがやはり勇者には到底届かない力だ」
その言葉を聞いた直後、ビーネは怒りに身を任せ剣をふるった。
刹那……なすすべなくビーネは飛ばされてしまう。
「ビーネさん————」
「よそ見……厳禁」
「ッ!?」
雷魔術を足に纏わせ紙一重でよけるレイ。どうやら、この男は勇者に用があるらしい。
「素晴らしいな。勇者というより魔王というのがしっくりくる。その歪な魔力、そしてその魔力量……十歳の人間にはありえない代物だ」
「俺に何の用だよ」
男の言葉に耳を貸さず、自分が聞きたいことを聞くレイ。男は鼻で笑いながら答えた。
「君の命……というより、その勇者の素質とやらを俺がもらい受けよう」
「あ?んだよそれ……そんなことが出来る訳————」
「できるんだよ。知ってるか?この世には不可能なんてない。魔術がその証拠だ。現に君は……魔王までの道のりの魔力が消えて驚いていただろう?」
「てめぇの仕業だったのかよ」
「そうだ……俺を殺さなきゃ、あの道は復活しな————」
言い切る前に、レイは走り出していた。
瞬きをする余裕なんて当然なかった。どの攻撃にも対応できるように、男は入念に準備していた。
それなのに……気が付けば男の顔の目の前に、レイの手が覆いかぶさっていた。
「なら殺すまでだ」
殺意マシマシの攻撃。青い炎が男を襲う。
今までにないほどの怒り、そして自分でもどう言い表していいかわからない感情……それらを発散させるためにレイは魅せしめるように攻撃した。
勇者として、間違った行動をしただろうか。
人を殺すという選択。その躊躇のなさに、兄や両親……リーシャはどう思うだろうか。
でも、なぜか殺さなくちゃいけない。そう思ったんだ。
こいつを野放しにしていたらいけない。こいつと長い時間戦ってはいけない。そう思った気がした。
きっとそれは……間違いでもなんでもなかったんだろう。直感が殺せとそう言っていたからだ。
おそらくこの男はSランク冒険者に匹敵するほどの力を持っているだろう。
それならば……出し惜しみをする必要なんてない。
吹っ飛ばされた男はむくりと起き上がる。
首は確かにはねた。それなのに……黒い靄がかかり壊れた首が再生していた。
レイの選択は間違っていなかった。
畳みかけるようにレイは再度走り出す。無数の魔方陣を展開し放出。男はそれらを簡単によける。
「どうした。勇者の力は使わないのか」
「るっせぇ!」
両手の人差し指で十字をつくり、炎雷を発動した……はずだった。
「……嘘だろ!?」
男はそれらを吸収し、こちらに放つ。
「言っただろう?この世にできないものなんてないと」
レイはベルからもらった剣を抜き、こちらに接近してきている炎雷を一刀両断する。
先程までいた場所に、男の姿がない。レイが魔力で動きをとらえようとしたが……男は魔力を消してレイの背後に接近してきていた。
「……しまっ!?」
「気づいてもおせぇぞ?勇者の力、よこせ————」
杖を振り、最高光線魔術を四方八方から展開し……レイを襲った。
しかし、そん攻撃がレイに届くことはなかった。
「バカな!?どうやって……」
この男は見えていなかった……その光線を全て弾き、レイのボディーガードとしてビーネが立ちふさがる。
「すまないが、うちの王には指一本触れさせない」
「このアマが!」
「……ビーネさん!」
「すまない。遅くなった」
目にも留まらぬ速さ……光線よりも速く動いたことにより男は動揺する。
「あり得ない……何が、起きたというんだ」
「お前は、この世にできないものはないと言っただろう?」
ビーネ本人も気づいていない。レイと出会ってから、戦いの中で常に成長している。
速さも、太刀筋も……全てが数段階上がっているのだ。
(まさに……神速だ)
男の様子がおかしくなり、数多の魔方陣が展開される。
「だったらもっと速い光線を出せばいい!」
「ビーネさん!」
「わかってる!」
金色の光線が、赤黒い光線へと変貌し……レイはすぐ合図を送った。
ビーネは構えを取り、剣を鞘にしまう。
レイは体内にセットしてある勇者の剣とマントをすぐに装備した。
直後として降りかかる赤黒い光線。
しかし……勇者の装備の前では赤子同然だった。
「……え、うそ~ん」
「「……まじか」」
これにはこの場にいる全員が驚いていた。
レイのマントが全て返していたのだ。そして極め付きには泥がレイの頬についていたのを拭き取る始末。
男は逃げ出そうと、その場を一歩……また一歩と後ろへと下がっていく。
レイは禍々しい勇者の剣を振りかざし……男は真っ二つになった。
何かがバキッと割れる音が聞こえ、そこから男が再生することはなかった。
「この剣……まじですごくないですか?」
「ああ……さすが勇者の剣だ……」
二人は男を倒したことよりも、剣の威力……そしてマントの有能さに驚愕していた。
(一振りでこの威力って……俺と戦った時の勇者はまた違った強さをしていた……もしかしてこれは)
レイは一つの答えにたどり着いた。
使い手によって剣のステータスが丸々と変わるのだと。
レイはすぐに剣をしまうのだが、マントは魔術の対象から外れていた。
体内に入れようとするとマントの端で顔をぺちぺちと叩かれる。
「わーった。やめろやめろ。しまわないでやるから」
そういうとぺちぺちは止み、レイの肩にべったりとくっついた。
レイは溜息を吐きながらもビーネに視線を向ける。
「なんか……よくわからない戦闘でしたね」
「ああ……そうだな。それで、道とやらは復活したのか?」
ビーネは苦笑しながら言い、レイは頷いた。
「戻りました……とりあえず向かいますか」
「わかった」
どうして勇者の素質というものを狙っていたのか、あの男の企みを聞き出す前に殺してしまった事を少し後悔する。本当に今の戦闘は何だったのだろうか。いろいろと情報量が多く重なり二人は不完全燃焼のような感覚を感じながら歩みを始めた。
この日、レイは勇者として一歩……成長した。
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