21話 勇者は決意するようです
レイはその日、ものすごい待遇を受けた。
食事も豪華で、ベッドもものすんごくふかふかもふもふ。
夜になり……レイはベッドに横たわりながら考えていた。
「俺が勇者……か」
わかってはいたことだが、やはり実感がない。
もっと事細かく言うのであれば、今日の出来事で自分が勇者だと自覚し始めている感じだ。
それはそうだ俺に対する態度、そして勇者と交流が深かったという話や功績を目にした。
極め付きは、貰った剣とマント。勇者のものだとすぐにわかる。
ファジア曰く俺という存在は徐々に広まっているらしい。勇者が魔王を倒すために旅に出たと。
まだSランク冒険者だと知られていないが、巷では最近Sランク冒険者になったあの子供が勇者なのではという憶測も経っているらしい。非常に困った。
「とりあえず……この剣とマントはいつでも装備できるように魔術でしまっておくか」
そう呟き、おいていた剣とマントを魔方陣の中にしまう。
レイがその魔方陣を発動すればいつでも自動的に装備できるという便利な術だ。
そしてレイは体を起こし、窓を眺める。
「寝れねぇな」
独り言ち、それと同時に勇者の表情とファジアが言っていた言葉が脳裏にちらつく。
どうして哀しそうな顔をしたのか。どうして二度と剣を持たないと言っていたのか。
そしてレイに、何を言いたかったのか。これを突き詰めるために剣を握り魔王を倒すと誓った。
不純な動機なのかもしれない。世界の平和を取り戻すためにとか、かっこいい理由じゃない。
むしろ世界とかどうでも良かった。
ただ、純粋に勇者が何を言いたかったのかが気になっただけ。
もしかしたら勇者になり、行動していたらその答えが見つかるかもしれない。
今まで曖昧だった感情や動機が固まってきているのが分かっていた。
魔術を極めればいい……とかほざいていたが、きっとそれは逃げだったのだろう。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。
その死を……俺は一度経験しているのだから。
「あんな思いはごめんだね」
段々と意識がなくなっていく感覚……熱い感覚がが徐々に広がっていったと思ったら急激に寒くなるあの嫌な感覚。
そして何より痛い。死を経験しているからこそわかる。
完全に意識が消えるのは数十秒後、それまで痛みがある。一瞬で痛みがなくなる?あんなのは嘘だ。
俺が証明する。
しかし、そんなものすらどうでも良くなるほどの感情。あれは本当になんなのかが気になるのだ。
気が付けばレイは部屋を飛び出し、城の近くにある丘に足を運んでいた。
その丘からの景色はものすごくよく、いい眺めだった。星空が静かな街を照らし、レイは咄嗟に言葉をこぼしてしまう。
「綺麗だなぁ……」
しばらく街を眺めていると、後ろから気配がして振り返る。
「ビーネさんじゃないですか」
「奇遇だな……眠れないのか?」
「そうですね。少しアドレナリンが出ているですかね」
「そうか」
ビーネはレイの隣に座り、敬語ではなく普通の喋りに少し安堵する。
「いつものビーネさんに戻りましたね」
「まぁ……あれは、社交辞令という奴だ。今だけは盟友として素でいさせてくれ」
「全然ずっとそのままでもいいですけどね」
恥ずかしそうに話すビーネにレイは笑顔で返した。
そして、ビーネはレイを見るまでもなく星空を見ながら口にする。
「よかったよ。君がこの国に来てくれて……我々は勇者を探していたからね」
「魔王を倒すためにロスカ国に来たのではなかったのですか?」
「もちろんそれもあるが……魔王を倒すなら勇者だろ?そしてこの国は勇者と交流が深かった国。そういうことだ」
「勧誘したのは建前で本命は国に来てもらう事だったんですね」
「許してくれ」
なんともうまい戦法だ。断られやすい事を先に言い、あとから本命を言う。ドア・イン・ザ・フェイス……一本取られた気分だ。
「別に、勧誘したのは建前じゃない。本心ではあるがな……だがまぁいいさ。」
肩を竦めるビーネを見て、レイは何も言うことなく視線を逸らす。
数秒が経ち、レイは口を開いた。
「ビーネさん。俺……わからなかったんです」
「?」
「俺はなんのために生まれてきて、なんのために勇者になったのか……」
それは、本心から出た言葉だった。
でもなぜか今はこう思ってしまう……あの時の答えを知るために生まれてきたのではないかと。
「でも今日、ここの国に足を運んでわかった気がするんです。だから本当に感謝しています」
「それはいいすぎだ……といいたいところだが、素直に受け取っておくよ。こちらとしても足を運んでくれたことに感謝しているわけだしな」
ビーネは微笑しながらそう言った。
レイは少し驚いていた。あしらわれると思っていたが普通に受け取られて逆に少し気まずさすら感じていた。
なんのために勇者になったのかなんて言っても知る由もないのに、だが口に出していったことによりレイの決意、覚悟に繋がったのは確かだ。
「君は、本当にこの先一人で行くつもりなのか?」
「……?そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「いや、魔王を倒しに行くのなら仲間が必要なんじゃないかと思ってね」
不思議そうにしているレイに対し至極当然の言葉を投げかけるビーネ。
レイは声を唸りながら答えた。
「う~ん……そうですねぇ。考えてはいますが今の所ないですね」
「そうか……また振られてしまったな」
「ビーネさんは国の聖騎士長なんですから安易に国から離れることはできないはずでは?」
「ハハハ……確かにな」
しばらく談笑が続いたのち、ビーネは就寝するといってこの場所から去っていった。
レイはそれを見送って、少しだけ街を眺める。
「生き方は決めた……もう悩んだりしない。もう自分が元魔王だなんて思わない。勇者として……生きていく」
固く決心して、レイは自分の部屋へと戻った。
もう俺は、二度と元魔王だなんて思わない。勇者らしく生きていく。
出し惜しみはしない。明日、ファジアから大事な話があると聞いている。
おそらくは魔王関連の事だろう。それを聞いたら俺はすぐ、その場所へと向かう。
すぐに片を付けて自分の故郷に帰る。それが、俺の目標であり生き様だ。
帰りを待っている家族やリーシャに会いたい。
きっとそれは、向こうも同じことを思っている事だろう。
そして……劇的な一日が幕を閉じた。
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