20話 元魔王は勇者の遺品をもらうようです
「あの子供が……リアベル国の勇者か」
「はい。間違いありません。あのダンジョンも一人で攻略しました」
「そうか……本物だろうな」
ビーネとファジアは客室に行く前に話をしていた。
玄関で言葉を交わした時、確かに感じ取った勇者の特質。
ファジアは自分の髭を撫でながら口にする。
「十歳であの魔力とマナ……そしてここ千年の間で一番難しいとされるダンジョンを一人でクリア……か」
「はい。勇者が誕生した今……魔王もまた動き出す可能性が」
「ああ、わかっている。他の国にはない……ここだけの情報を開示する日が来たな」
そう言って二人は客室へと向かった。
◇
「この日を待っていました……勇者様。」
「……勇者、様……」
ビーネとファジアは頭を下げながらそう口にする。
レイは固まったまま言葉を詰まらせていた。
「改めて……この国を救ってくださり感謝申し上げます」
「やめてくださいよ……ビーネさんらしくありませんよ」
「いいえ。これが……勇者様への対応なのです。申し上げた通りこの国は勇者様と出身国以上の交流がありました。我らは勇者に仕える従者なのです」
新たな情報を耳にするが、レイはそこには触れず訂正するように話した。
「言いたいことは分かりました……ですが、やはりビーネさんがそういう態度をするのは違うと思います。あなたはロスカ国の人間ではないですよね?」
「私は今、ロスカ国に身を置いているためあなたが何と言おうと変える気はありません」
それなら何故、この国に来る前はあんな態度だったんだと内心思うが……それがこの国の方針というのならとため息を吐きながら納得するレイ。
なれないながらもレイはファジアの方に視線を向ける。
「それで、俺に何か用でもあるんですか?」
「ええ……あなたに渡したいものがあるんですよ」
「渡したいもの?」
ファジアの言葉に対してレイは肩を竦めた。
そして、ファジアがビーネに視線を向けるとビーネは二つの品をレイに渡した。
「……これは?」
「勇者が使っていた剣……そして、マントだ。」
かなりボロボロになっている剣と、年月が経っているのに対してマントはそれほど汚れていない。
一瞬レイは疑うが、確かに勇者の魂を感じ取る。
(リアベル国には勇者の遺品はないと言っていた……それなのに、どうしてこんな所にあるんだ?いくら交流があるとはいえ、普通は出身国にあるもんじゃないのか?)
そう思考しながら手に取る。
すると……おんぼろだった剣が光り始めた。
「……ッ」
「おお!……やはり!」
「……ものすごい光だ……」
「これは……一体……」
困惑しながら言葉をこぼすと、ファジアは興奮気味に話していた。
「その剣は勇者にのみ扱えるものでして……歴代の勇者が使用した剣です。持ち主によってその剣は姿形を変化させるんです」
レイの魔力を吸収し、ボロボロだった剣が金色の光を帯び変化していく。
その剣は……勇者とは到底呼べない禍々しい剣に変貌していた。
レイはすぐに理解する。
「なるほど……本来はマナを吸収するのが、強大すぎる魔力を吸収してしまったのが原因か」
「確かに……君の魔力なら納得だな」
ビーネの気の抜けた声にファジアは視線を向ける。ビーネはすぐに気づいて軽く咳払いをした。
確かにマナも吸収している。おそらくはマナと魔力。そのどちらの気を吸収したことによりバグを起こしてしまったのだろう。
変貌が終わり、金色ではなく……魔力を流し込まなくてもどす黒い紫色の刀身。
(こんなんほぼ魔王じゃん)
心の中でそう呟くが、ファジア達には関係なかった。
歴代勇者が使用していた剣。本物の勇者だけが扱うことを許されており、レイは見事証明した。
どんな形になろうと、どれだけ禍々しいオーラを纏っていても……レイは勇者なのだ。
レイの剣が完成した直後、共鳴するようにマントが反応しレイの肩にそっと乗るようにかぶさった。
「マントも勇者様が主と認めたようですね。その品を……あなた様に授けます」
「どうして、あなた達がもっているのですか?」
純粋に気になった。レイは率直に聞いた。
言葉を詰まらせながら、ファジアは言った。
「魔王を倒し……勇者が最後に言った言葉をご存じですか」
「……いいえ」
「最後に……あの人はもう二度と剣は持たないといったのです。英雄とあがめられ、地位も名誉も勝ち取った勇者が。悲しそうに。後悔しているような表情だったと、記されておりました。当時出身国のリアベル国ではなく、最も交流が深かったここロスカ国に剣とマントを残し姿を消しました。どうして我々が持っているのかという回答はこうですが、真実は分かりません。」
「……そう、ですか」
レイは視線を落とし、拳を握る。
二人は明確な理由が分からないから怒っているのかと勘違いしてしまうが、レイは違った。
(悲しそうに……後悔しているような表情をしていた?ふざけるなよ)
咄嗟に出た言葉がそうだった。
俺を倒したんだろうが。
どうしてそんな顔をする必要がある。
どうして二度と剣を持たないといったんだ。
どうして……という言葉が頭をめぐる。
が、それと同時に当時の記憶が蘇った。
確かに、俺を負かせた時も哀しそうな表情をしていた気がする。
最後まで……何が言いたかったのかもわからないまま、俺は死んだ。
後悔しているように見えた。
魔王と勇者だ……殺し合いは必須。それなのに……あの時の勇者は戦いを拒んでいるようにも見えた。
それでも最後は俺を斬り、勇者は英雄になった。
考えれば考えるほど、謎めいてくる。
いったいあいつは何がしたかったのか。魔王に何を伝えたかったのか。
勇者になった今も、その謎は謎のままだった。
レイは剣を見つめながら……言った。
「もし、今の魔王が死んだら……どれほどの人間が喜ぶのでしょうか」
「「……?」」
ビーネもファジアも何を言っているんだといわんばかりに首を傾げた。
それでも、曇っているその表情を見てファジアはゆっくりと言葉を綴った。
「全世界の人間が喜びますが……悲しむ人間もいるでしょうな」
「……そうですか」
悲しむ人間……それが誰かわからないが、おそらくはいるのだろう。
レイはぎゅっとその剣を握り……決意するように言った。
「俺が……この剣で魔王を斬ります。そして、勇者になります」
この日……初めてレイが勇者になった日だった。
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