18話 元魔王はダンジョンボスと戦うようです 後編
「ハァ……ハァ……ハァ」
息切れするビーネ。
魔術の使用が出来ない……というわけではないが、魔力を全て速さに変えて戦う。それが彼女の戦闘スタイルだった。
今の数回の動きだけで魔力はそこをついていた。
首もはねた。本来ならこれで戦いは終わりのはずなのに……まだこの魔人は息があった。
(どうして首をはねられても生きているんだ)
この回答だけが……ビーネの頭の中に巡った。
すると、クスイの体は紫色の肌に変色し……斬られていたはずの首も生えていた。
額の十時から角が生え、魔人というより魔物……というものに近くなっていたと思う。
ビーネは絶望のあまり膝から崩れ落ち……意識を失いかけていた。
(レイが……レイがいるのに、私の魔力が枯渇したせいで……すまない……すま……ない)
その場に残ったのは形態が変化したクスイ。
あたりを見渡しながら、口を開く。
「あ~あ……せっかく、俺の本気を見せようと思ったのに」
先程の声とは違う。どすのきいた声がこの部屋全体に響き渡る。
意識を失っているビーネに近づこうとするが、その足がピタッと止まる。
ゆっくりと後ろを振り返ると……そこには動けるはずのないレイの姿があった。
「……ッ……てめェ、どうやって」
「しってるか?魔術の中にも普通の人間じゃ扱えない禁術というものが存在すると」
「バカな……まさかお前、空間魔術を使ったというのか!?」
「いいや、少し違うな」
にやりと笑みを浮かべながら、話すレイ。
使用したのは空間魔術のさらに上の魔術……時空魔術。
指をパチンと鳴らし、種明かしする。
「どうだ?お前には無理な芸当だろう」
「どうしてお前がそれを使えるんだ……」
「さぁ、どうしてだろうな?俺は勇者だが、この歳にして魔術を極めているといっても過言ではない」
誰にも見せることがなかった魔術。
勇者だと自覚するまではただ魔術を極めて好きに生きようとしていた。
魔王時代の経験と記憶……これが主だったが今なら断言できる。
(確実に、魔王の時より今の方が強い)
レイはそう確信していた。
時空魔術でやられる前の肉体と入れ替え、こうして立っている。
不審に思ったクスイはそれを薙ぎ払うかのように走り出す。
レイはそれをわかっていたかのような表情をし、両手の人差し指で十字をつくる。
瞬間……雷が地面を駆け巡り、青い炎がレイの前に出現し、唱えた。
「……炎雷」
地面に広がった雷が一気にクスイめがけて収束し、青い炎から紫色の炎に変化した炎が勢いよく接近する。
「バカかよ!俺ァ受けた攻撃をお前に直で流し込む術を持ってるンだぜ」
「それがどうした?」
「……ッ」
何気ない言葉のはずなのに、一気に鳥肌が立つようにぞわっとする体。
レイは炎を放ったのと同時に剣を抜き構えを取る。
(いったい何を考えてやがる……大丈夫だ。こいつの攻撃を俺はさっきのように跳ね返せばいい)
そう分かっているはずなのに、体が思うように動かない。
生存本能が告げている。こいつから今すぐ離れろと。
しかし、抗った。
俺には関係ねェ……そういうように俺も構えを取っちまった。
どうして俺がこの場所で千年も生きているのか、誰が俺をつくったのかわからねぇ。でも、ここに生まれ落ちた時、ここを守れ、ここが俺の場所だと告げられているかのようだった。
だから俺は、その命に全うするようにここに来る敵全員を葬ってきた。
なんで……今更こんなことを考えているのだろうか。分からない。
でもきっと……そう思考した時点で俺の負けだったんだ。
気が付けば……瞬きをする暇なく、クスイの体は真っ二つにされ、重力魔術も……跳ね返す術も使えないまま、その場から崩れ落ちた。
レイは、何もしていない。
ただ攻撃を振りかざしただけ。
斬った直後、そこから更に攻撃を仕掛けようとしたがその場から動かないクスイを見てレイは動きを止めた。
(……恐怖か……)
レイはすぐに理解していた。
どうしてクスイが反撃してこないのか。
反撃してこないのではなく、できなかったのだ。
与えた恐怖が……思考を、体を鈍らせ……術を使おう、魔力を使おうとするときにはもう、遅かったのだ。
勝ちを確信したレイは禍々しい魔力を解き、剣が金色の光に戻る。
剣を鞘にしまい、崩れ落ちたクスイの元へと近づく。
「すげぇな……まだ息があるなんて」
「……どうして、俺が……負けた?」
「勝てる訳ねぇんだよ。俺にはな」
優しく言葉をかけ、頭に手を置くレイ。
何も、言葉を発しなかったが……クスイはこの瞬間に気が付いた。
あんただったのかよ……並外れた魔術。そして剣術。
千年前、俺をつくったのは魔王様、あんただったんだな。
『すまなかったな。クスイ。強かった』
『ッハ……魔王様に言われるならこれ以上ない嬉しさだな』
『どうして俺が勇者なのかとか……聞かないのか?』
『わりィが俺ァそういうのには興味がねェンだ。ただ俺をつくったのは誰か。それが知れただけいい……今はもう魔王ではなく勇者なんだろ?』
何もない空間で、ただただ楽しく会話をする前世の魔王、そしてクスイ。
クスイの発言に魔王は頷くと……レイの姿になった。
『すまない……またいつか、お前を作ってやる』
『ああ、楽しみにしてるぜ』
今までにない、初めて見せた優しい笑顔をクスイは見せると……体が塵となり、消えていった。
レイは最後まで頭に手を置き、その塵が消えてなくなるまで手を翳し続けた。
そしてこのダンジョンのボス、クスイが死んだことにより……出口に繋がる扉が開く。
「……終わった」
レイはそう独り言ち、しばらくそこで座っていた。
戦闘の疲れを癒すように……自分の作ったおもちゃが消えてなくなった喪失感。
情けをかけるわけではないが、このちょっとした気持ちは……心の中にしまっておこう。
しばらくし、レイはビーネを担いでこのダンジョンを後にした。
◇
兵士たちが待つ拠点にて……
「おい!誰か来るぞ!」
「あれは……レイ様と、ビーネ聖騎士長!」
「ダンジョンの方はどうなったんですか!?」
「ああ、それに関してだが……もう問題ない。私とレイでクリアした」
ビーネがそう告げると、兵士全員が喜びの声を上げた。
レイとビーネは視線を合わせ、微かに微笑む。
「さすが聖騎士長!」
「Sランク冒険者が二人もいるんだ!負ける訳ねぇぜ!」
興奮が収まらない兵士に対し、ビーネはため息交じりに言う。
「お前たち、帰る準備をしろ。国へ報告をしに行くぞ」
「「「ハッ!」」」
ビシッと背筋を伸ばし、兵士たちは拠点の片づけをし……国へと向かった。
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