17話 元魔王はダンジョンボスと戦うようです 中編
「……風斬神空撃」
ビーネがそう唱え、直後クスイに数多の斬撃が飛ぶ。
「……ッ!?」
一発、胸に深い斬撃が直撃した。
しかし、クスイはその攻撃を一度受けると見破ったかのように軽々と避けた。
「……そんな、バカな!?」
「残念……俺ァ負けなかったぜ?剣士さんよォ」
その言葉に動揺し、もう一度放とうとするのだが……
ドンッ——————
鈍い音が響き渡る。
クスイの拳がビーネの腹部に直撃した音だった。
重力魔術で強化されている拳。そして磁石のようにビーネに殴る直前重力魔術をかけ、普通の打撃の数倍、数十倍の威力がビーネを襲った。
吐血し、悶絶するように倒れこむビーネ。
(今のは……やばいのをもらってしまったな)
「んで、あいつは何してンだよ?」
先程飛ばしたレイの方向に視線を向けるが、その場所にレイはいなかった。
「……いない?」
(逃げた?いいや、そんなこたァありえねェ……第一俺を倒さなきゃここから出られない)
すると、地面に倒れこみながら不敵な笑い声をあげるビーネ。
「フフフ……ハハハハハ……この私が、やられ役を担ったんだ。殺さなきゃただじゃ済まねぇぞガキ!」
「わかっていますよ!」
(なんだ?どうしてお前がここにいるゥ!?いつだ?どのタイミングで……)
思考を巡らせ一つの答えにたどり着くクスイ。
◇
この場所に来る前の扉を開ける前の会話。
「ビーネさん。何個か俺のハンドサインを覚えてくれませんか」
「……?どうしてまた急に」
「なんか、いやな予感がするんです。ここの敵は一筋縄じゃいけませんよ」
「まぁ、そうだとは思うが、一応聞こう。どんなハンドサインだ?」
小首を傾げながら聞くビーネ。
レイはすぐに答えた。
「俺が人差し指を上にあげたら一斉に総攻撃。もし俺が吹っ飛ばされながら人差し指を下にしたら、ビーネさんは迷わず攻撃をしてください」
「……それって……はぁ……わかったよ。君の指示に従おう」
ビーネは最初から分かっていたのだ。
自分が囮役になるという事を。
◇
わかっていて尚、了承した。
その理由は簡単で、レイが……レイなら、この男に勝てると思ったからだ。
レイはこの時、初めて剣を抜いた。
兄、ベルからもらった大切な剣。
金色に光り……そこにレイの禍々しい魔力が混ざり合う。
「さぁ……魔魂の初陣と行こうか」
「てめッ……最初からこれが狙いだったのか!?」
初めから狙いではなかった。
マナと魔力が混ざり合う魔魂は常に意識していた。
しかし、それを剣に込めるとなれば別だ。
それも……レイの禍々しい魔力を封じ込めるほどのマナを練るのは不可能。それではどうするか……マナを剣に封じ込む魔力を流し込めばいい。
金色に光っていた剣はどす黒い紫色の剣へと変色していた。
クスイが大剣を振りかざす前に……レイが剣を振りかざした。
綺麗に真っ二つにされるクスイだったがすぐ重力魔術で体をくっつけさせる。
「面白れェ!どうりで強ェわけだ!てめェ……勇者か!」
「ああ、そうだ!」
レイがそう答えると、宙に無数の大剣が出現し……それを飛ばしてきていた。
禍々しい魔力を纏った剣で全て弾く。しかし、弾いた先から次々と止むことなく放たれる大剣。
(クソ、キリがない……避けても追尾してくる。うまく近づけない)
右手で剣を握り、左手で操作魔術を利用し飛んでくる剣に魔力を流し込み追尾機能を消していた。
何個かの剣がレイの術にかかり、重力魔術で逆にクスイに飛ばしながら接近。
一気に懐に侵入したレイはすかさず斜め十字の斬り方をした。
(こいつ……うめェ!魔力の行き渡りを少しでも遅らせるために一刀両断ではなくわざと二回斬りやがった……)
微かに重力魔術での修復が遅くなったクスイ。
そのタイミングを逃さなかった二人はハンドサインと共に走り出した。
レイは左手で回復魔術をビーネに投与し、全回した彼女の斬撃が再度飛び交う。
一瞬遅れて修復が完了したクスイだが、斬撃を避けるのに精一杯でレイの攻撃を避けることが出来なかった。
「雷斬……神風!」
剣に雷の魔術を纏わせ、威力、速さ……ともに最高火力で最高速度。そしてこの一撃にかけて攻撃をしていた。
修復が出来ても数秒かかる程の攻撃……確かにクスイはくらった。
そう……くらったんだ。
そのはずなのに……
吐血し、倒れこんでいたのはレイの方だった。
「……ガハッ」
「レイ!どうして……何をされた!?」
目を見開きながら驚愕するビーネ。視線をクスイの方に向けると声を上げながら笑っていた。
「ククク……ガハハハハハハ!とっておきってやつァ……こういう時に残しておかないとなァ?」
切れていたはずなのに、無傷の体。
ビーネはすぐに答えにたどり着いていた。
「……クソ……反射攻撃か!」
「大正解~!攻撃を受けた直後重力で変化させたんだよ。俺に受けた攻撃を全て、こいつに返すようになァ」
結果、レイは大ダメージを受け、地面に寝転がっているというわけだ。
クスイは両手を広げながら声を上げる。
「勇者とはいえ所詮はガキだ!千年生きた魔人には敵わねェんだよ」
「クソ……」
鞘に手を翳し、構えを取ろうとするが見切られていたのか一気に距離を詰められてしまう。
「てめェの攻撃はもう見切っちまった。芸がねぇんだよ芸が」
振りかざされた大剣を受け止めるが、耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。
(芸がない……か)
確かに、私は芸のない剣士なのかもしれない。
それでも……Sランク冒険者なんだ。
速さしか取り柄がなくても、速さだけで勝負してきたんだ。
これだけは負けたくない。負けてたまるか。
そう思ったのが、速さだった。
ふらつきながらも立ち上がり、剣を握るビーネ。
何かを悟ったのか、クスイは真剣な表情になっていた。
直後……ビーネの速度が瞬く間に上昇した。
避けるのに成功したが、頬を掠め……血が滴る。
「見え……なかった」
歯を食いしばり、苛立ちを見せながら振り返るが……それと同時にビーネは次にアキレス腱を斬っていた。
「……ッぐ」
跪くクスイ。
前に立つビーネに見下される。
「俺を……俺を……見下ろすンじゃねェ!」
無数の魔方陣が出現し、そこから重力で強化されたであろう剣が放たれる。
ビーネは見切っているかのようにそれらすべてを避けきり、背後に回り首をはねる。
ぽとっと首が落ちるのだが、まだクスイには息があった。
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