16話 元魔王はダンジョンボスと戦うようです 前編
扉を開けた先は少し薄暗かった。
だが……その奥に誰かがいるのを二人はすぐに感じ取る。
魔力を目に集中させるのだが、二人の見え方は少し違った。
(なんだこの禍々しい魔力は……この奥には一体……何がいるんだ)
ビーネは姿こそ見えなかったが敵の凄まじい魔力を感知していた。
(やべぇな……これ)
レイは全てが見えていた。
姿、魔力、背丈……そのすべてを見通し、一言。
「人です」
「……ッ!?」
レイの言葉にビーネは目を見開く。その直後……薄暗かった部屋が周りの炎で明るくなり、奥にいる何者かの姿があらわになる。
レイの言った通り、確かに人だった。それも……ただの人だ。
その人の形をした何者かは玉座に頬杖をついて座っており、見下すように話す。
「誰かと思えば……Sランク冒険者様じゃねェか……あん?どうりで下の野郎どもは瞬殺されるわけだ」
「……お前はいったい、何者だ?」
ビーネがそう問うと、その人物はにやりと笑って返した。
「俺ァ、ここのダンジョンのボスをやっている。クスイだ」
金色の髪をし、額に十字の傷。人間の年齢で例えるのなら二十代後半から三十代前半と言った所だ。
しかし惑わされてはいけない。こいつは人の形をした魔物……もっというなら……。
「魔人か」
「ご名答……俺達上位魔人はダンジョンのボスを担っている。初めての客がテメェらでよかったぜ」
玉座から立ち上がり、大剣を自分の肩にかける魔人。
レイは視線をビーネの方に向けて小声で簡潔に話した。
「こいつは強いです。きっと担っているダンジョンの誰よりも……我儘を承知でいいますが、俺の動きに合わせてください」
「わかった」
ビーネは迷わず即答した。こいつの強さは見ただけでわかる。今まで対峙した冒険者、魔物とは比べ物にならない強さをしているとすぐわかったからだ。そしてレイは今まで以上に真剣な表情で話す姿を見て、ビーネは固唾を呑み込む。
(こいつ……覚えがあると思ったらあれだ。俺が魔王時代に一人だけ特別にって作った魔人にそっくりだ……俺が殺さねぇと脅威になりかねない。我ながらいい作り物をするな)
感心してる場合ではないのだが、レイがいつも以上に真剣なのはいつかに作った自分のおもちゃがここまで暴れているという嬉しい感情と、申し訳ないという感情が込み上げてきていたのだ。
だが運がいいことにこいつは俺が元魔王だってことを知る由もない。
にやりと笑みを浮かべ、大剣を持っていない方の手でひょいっと動かしたのと同時にレイは走り出した。
(速ェ……だが————)
一気に懐に侵入したレイ。しかし……クスイは不敵な笑みを浮かべながら大剣を普通のサイズの剣に縮小させて斬りかかった。
「なるほどな……その剣は変幻自在って事か」
「……いいね!お前!」
レイの動きに合わせるように動いていたビーネ。剣を振りかざしたクスイの背後を取った。
ギィィィイイイイン————
金属音が鳴り響き、クスイとビーネの剣がぶつかる。
直後、クスイは剣を持っていた手を離す。不思議なことに剣は地面に落ちるのではなく触れていないのに威力が増してビーネの剣を押していた。
(いったい……これは————)
そう思ったのもつかの間、逆の手をクスイは振りかざしビーネを吹き飛ばす。
壁に激突し、すぐに態勢を立て直すビーネ。
「……重力魔術の使い手か……」
「こんなもんかァ?」
「いいや、ここからだな」
タイミングを見計らうような走り出し、クスイは大剣を再度手にして振りかざす。
レイは同時に魔術を展開。
「水魔術!?」
(なんだ……足が重い……!?ただの水魔術じゃねェな)
クスイがそう思考した直後……自分の体が押しつぶされるような感覚に陥り、跪いてしまう。
「てめェ……舐めてンのか?」
「重力勝負でもしようか」
「……クソがッ!」
重力をかけられ、自分で重力をかけ帳消しにしようとするクスイ。
この時、もうすでにレイの術中にハマっていた
(俺の重力魔術が……効かねェだと?)
「てめェ……なにィしやがった!?」
「足元をよく見ろ」
どうして水魔術を発動させていたのか。
クスイが視線を地面に向けてその答えがようやくわかった。
「渦巻!?」
「そうだ。俺は最初の一瞬しか重力魔術を発動してない。お前は自分で負荷をかけ、渦巻がどんどん大きくなっていった。自業自得ってやつだな」
「……ッ、ふざけンじゃねェ!」
咆哮を上げながら大剣を投げ、無理やり動こうとするクスイ。
レイは不敵な笑みを向けながら左手の人差し指を立てる。
瞬間……凄まじい音を出しながら雷が放出され、クスイの腹部を貫通した。
「……ガハッ」
吐血しながら地面に倒れこむ。
「やった……のか?」
ビーネは困惑しながらも口にする。しかしレイは分かっていた。
「いいえ、まだです」
魔人は形態というものを持っている。
そう簡単に死ぬ奴らではないというのはレイ自身が分かっている。
レイはビーネの方に視線を向け、警戒するように呼び掛けた。
「ビーネさん!構えて下さ————」
「……レイ!」
「おい……俺ァまだ死んでねェぞ?何よそ見してンだァ?」
目にも留まらぬ速さで接近したクスイ……振りかざした大剣がレイに直撃してしまう。
レイはこの攻撃が避け切れないと分かっていたため、ビーネにハンドサインを送る。
そのおかげでビーネはすぐに切り替えることが出来、レイが吹っ飛ばされた直後に走り出していた。
「貴様!」
「ハッ……来たな!女剣士!」
一秒にも満たない時間で無数の斬撃を飛ばしあう二人。
かわし、接近するが……クスイは笑いながらビーネの攻撃をいなし続けていた。
(……くっ、私ではダメなのか。レイみたいな戦い方はできない。私にできることは……)
刹那……今までの速さを優に超えるスピードで剣をふるう。
(こいつ、一気に速度が上がって……?)
大剣を盾のように扱い、ビーネの攻撃をいなすのだが……ビーネはすぐ、ぴたりと止まった。
「……?」
クスイは何をしているのかわからない様子でビーネを見ていたが、何かを察したクスイは構えを取る。
警戒するようにビーネを見るクスイ。次の瞬間ビーネは笑みを浮かべる。
「何を笑っていやがる」
「君の負けだ」
「アアァン!?」
ビーネは剣を鞘にしまい、構えを取る。
手を翳しながら唱えた直後、数多の斬撃がクスイを襲った。
「……風斬神空撃」
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