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一投入根とオレ

「どういう、ことです」

「まだ分かんないんですか? デュランに嵌められたってことですよ」


 貴方も、オレも。

 ちょっと苦い気分になりながらオレは、握りしめたちっぽけな銀色の直方体を見つめる。

 確かにさっきアールアーレフさんが高笑いしながら踏み付けまくってた奴にこれは似ている。サイズも色も良く似ている。

 でも、オレはこれがなんだか分かってる。


「そもそも、壊されちゃまずい物が殴ったぐらいのことでポーンと落ちるところに入ってるとか変でしょう? 何かの拍子にうっかり落とした。警察届け出なきゃ、みたいな話で済まない物なのに。そんなに叩けば出て来るホコリかビスケットみたいなのが本物だと思いますか?」

「……」

「ま、デュランが持ってれば本物だろうと思うのは無理はないですけどね」


 オレは手にもったそれをぷらぷらさせる。


「ちなみにこれはデュランから貰ったマフラーの中に隠してありました。多分、デュランの計画じゃ貴方達がそれを壊して安心して撤退した後に使う予定だった……あー、や、さっきなんでしたっけ? 先にデュランが死ぬと自動発動するんでしたっけ? それなら、貴方が今そのダミーを壊して、それからデュランを殺せばデュランの計画通り……ってとこですかね」

「……本物と言う証拠がありませんね」

「勿論推測ですけど、確認するのは簡単ですよ」


 オレは言って、デュランを指す。


「殺してみれば良いじゃないですか」

「……」

「それで、これが発動すればそれはダミー。発動しなければそっちが本物」


 あえて挑発するけれど、これに乗らないのは分かってる。

 だって発動したら困るのは向こうだ。

 どれだけオレのハッタリが嘘っぽかろうが、万が一を考えればこど○チャレンジってな調子で挑戦チャレンジ出来ることじゃないのは分かり切ってる。

 それに嘘と切って捨てることが出来ない程度には彼女の胸には疑惑の種をまいておいてある。


 案の定、アールアーレフさんは動かなかった。


 それは、まず第一の賭けにオレが勝ったことを意味していた。

 でも気は抜けない。

 これはまだ出発点だ。


 動かなかった。それはつまり、次は、


「えぇ、えぇ、良いでしょう。そちらの戯言たわごとに付き合ってあげましょう。それで、仮にそれが本物だとして、貴方はそれをどうする気ですか?」


 こちらの持ち札に対して相手の興味が移るってことだ。

 同時に、それを持ってる障害であるオレに、標的が変わる。

 オレはプラプラと握ってる手を揺らしながら、「そうですね」とちょっと間を置く。その隙に一瞬だけデュランを確認する。

 ……生きているかどうか、この距離じゃ分からない。

 魔王の生命力にかけるしかない。

 それに。良く分からないけどオレには変な確信があった。

 オレがこの(・・・・・)()()()、デュランは絶対にねない(・・・)

 死なないじゃない。

 死ねない。

 あの人間びいきの甘すぎる魔王様が、オレをこの場に残して自分だけ先にくたばることなんて、きっとできない。

 独りきりならさっさと命なんか手放すかもしれないけれど、誰かが、オレが、ここに居る間にオレを残して死ぬことなんてきっとない。

 だからあいつはまだ絶対に生きてる。


「とりあえず、オレが持っててもしょーもないんで、デュランに渡します」

「……何を言っているのですか?」

「オレが持っててもオレ自身が危険なだけですし。ちょっと前まではオレ自身にも内緒でしたし、アールアーレフさんは目の前のデュランっていう疑似餌にパックリ食い付いてたんで良かったんですけど、ネタばらししちゃいましたしね」


 疑似餌の辺りでアールアーレフさんの視線がまた険しくなったけど気にしない。

 目つきの険しさじゃ負ける気しねぇし。

 ……気、気にしないもん。


「そうなると、オレが持ってる意味はもう無いってわけです。ならとっととノシつけてデュランにお返しするのがオレの為ってもんでしょう」

「私に渡す、という方法もありますよ?」

「あー、それは無理ですね」

「どうして?」

「オレって結構根に持つんです。例えば、良くも殺しかけてくれたなー、とか」


 ニンマリ。

 笑ったオレにアールアーレフさんは「そんなことはどうでも良いでしょう」とあっさり抜かしやがった。

 むっとしたけどそれを押し殺してオレはただ一言「それを決めるのはオレですよ」と返す。


「貴方の意見とかどうでも良いんです。どうでも良いんです。くだらない。貴方が何を考えてようが、何をしようがオレには関係ない。ただ、貴方をオレは嫌いなんですよ。嫌いだから渡さない。嫌いだから邪魔をする。意志に反する……シンプルでしょう?」

「意味が分かりませんね」


 アールアーレフさんは本当に意味が分からないようだった。


「何故私に協力しないのですか? むしろ喜ぶべきことでしょう。お前達ごとき点にも満たない屑でしかない、背景でしかない者がご主人様のお役にたてるのですよ? 殺されかけた? そんなことはどうでもいいではありませんか。むしろ、素晴らしいことでは無いですか? 生死にも何ら意味の無い、存在する価値も無かったはずのお前達に死ぬことの意味を与えてあげたのですよ? 何故私をそれで嫌いだなどと言うのですか? 感謝を捧げるべきです。お前達は自分の意志で動いているなどと言う傲慢な思い違いをしているだけ。一体どこにお前達が自分の意志で動いているという証拠があるのですか? ただ日々繰り返して増殖しては死滅してゆく、何の意味も無い、砂粒にも満たない。それが、死ぬことで初めてあの方のお役にたてるのです。光栄ではありませんか」


 ……えーと?

 何か物凄い勢いで色々喋ってるけど、殆ど意味が分からない。

 前に言ってることの意味を考えてる間に後の言葉がやってきて、聞き逃して更に意味不明だ。うん、とりあえず、分からないことが分かった。

 分からないことが分かるってのは大事なことだってじいちゃんも言ってたし。

 あれだ、これは進歩ですね。成程全く分からない。

 で、結論としては。


「貴方の言ってることは意味が分からないし、オレには興味が無いです」

「……えぇ、理解しろと言う方が無理でしょう。所詮貴方の階位は最低辺であって私とは違うのですから」

「同じなんてぞっとしない話ですしね。で、結論として貴方にはオレは味方しない」

「味方? 思い上がりも甚だしいですね。貴方は私と肩を並べられるとでも思っているのですか? 滑稽も際立たしいですね。貴方は私の味方にもなれない、そして敵にすら足りない」

「だから、言ったでしょう。貴方なんてどうだって良いんです。どうでも良いんです。どーでも」


 オレはプラプラ振ってた動作を止めて、言う。


「オレはデュランの味方だから。ただそれだけですよ」

「あ、は!」


 今の笑い方はオレで言う「ぷぷー」って言う奴ですね。ほほぅ。

 ま、良いけど。

 オレは一歩、片足を後ろに引く。聞き足の右。右手は後ろに振りかぶる。



 投球姿勢。



「オレは今からコレ(・・)をデュランに向かって投げます」


 オレの言葉にアールアーレフさんが眼をみはる。


「オレが持ってても意味無いですしね。ざっと見た感じ距離十、ってとこですか。ま、これでおしまいです。御愁傷様でした」

「きさ……」


 最後まで待たないで、オレは腕を前へ、デュランへ、伸ばす。

 投げる。


「行け!」



 音響室にオレの声が響くと同時に、床を強く蹴る音がした。


 

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