些細差異とオレ
ちょっと前の時間の話をしよう。
ロアから連絡を受けた直後の話だ。
携帯越しにロアから事情を聞いたオレは、暫く考えた。
デュランが何かしようとしているなら、何処かにそのヒントが無かったか。
何か、違和感のある、ほんの些細でも良い、普段とは何か違いのある言動をしていなかったか。
ただでさえ忘れっぽい頭をグリグリ振り絞って考えた。
考えて、一つだけ思い当った。
天壇を出た後。あのタイミングで出た話だ。
それは、服。
あの着替えの話が出た時点で、何かおかしいって気付かなきゃならなかったんだけどね。
だってあのタイミングでスパッツの話とか、変だろ。
オレ朝からずっと女装してたんだし、今更日も半分以上過ぎた時点でそんな話持ち出して来るとか意味分からんし。大体オレから要求した訳じゃない。話を持ち出したのはデュランからだ。
まぁ、デュランが着替えたいとも言ってたし、生足晒すとかどんな羞恥プレイだとか思ってたので深く考えずに頷いてしまったがここでもう一つ変なことが起こってる。
デュランが着替えたいと思う。
うん、まぁ確かに鼻水とかつけちゃったしね。握りジワ満載だったしね。
でもここで思い出して欲しい。
デイジーさん謹製のあの服、普通の服じゃないのだ。
デュランは元々色気……もとい魔力過剰で垂れ流しなうえに、その色気……じゃない魔力に普通の人があてられるとメロメロ……じゃなくて正気を失ったり、体が変になったり、最悪死ぬみたいな歩く十八禁……というか災害なのだ。
うん、つまり居るだけで青少年の情操教育に害になる、と。
……違う違う。
仕切り直し。
曰く、そこに居るだけで他の存在を歪ませる。それが魔王デュラン。
だからこそ今は人形に入って力を抑えてる。それでも、漏れ出る可能性がある分についてフォローするのがデイジーさんの服だ。
いわく、あの服はデュランから外に魔力が漏れるのを防止する効果がある特殊な生地で出来てるらしい。
だからデュランは安心して町中を歩けるし、オレんちに来た時も数年前の物でもデイジーさんの服を着ていた。その後もずっとそうだ。着替えさせられるのは嫌がってたけど、必ずきっちり、デイジーさんの服を着てた。
それが急に着替えるとか言いだして、しかも量販店で購入。
オレよりもずっと自分の力が周囲に及ぼす影響に神経質になってて、オレにだって襟首摘まむ以上のことは極力避けてたデュランが、何の対策も施して無い服に着替えるなんて。
とはいえ、ことの異常さに気付いたのはロアと話した後でしたけどね。
あの時は他のことでいっぱいいっぱいで、せいぜいがちょっと違和感程度だったし。
で、問題は何で着替えなきゃならなかったのか、ですよ。
服が汚れて気分が悪いとか、嘘じゃないだろうけど本題じゃないだろう。
じゃあ、魔力を垂れ流しにしなきゃならない理由があった?
それとも、着替えにかこつけてオレを少し別行動にさせる理由があった……これっぽいな。
そうじゃなければ、デュランだけ着替えてオレはその辺で待ってるんでも良かったんだ。それをわざわざ、スパッツの話を持ち出してオレを一時的に引き離した。
問題はその間に何をしていたのか、ってことだけど。
良く考えろ。他に何か可笑しいことはなかったか?
オレは既に脱いで畳んだワンピをじっくり眺める。
……で、気がついた先があの「マフラー」だったのですよ。
タイミング的にも服屋に寄った後。
季節外れな、太くて大きくてもっふもふなマフラー。
大体、オレの恰好はくどいようだが朝からあの女装姿のまんまで、夕方になれば寒いのは分かってる。なら、あの時服買いに立ちよった時にスパッツだけじゃなくて上着なり買えば良かったんだ。デュランがそれに気付いてないはずが無い。
それなのに、あのタイミングでまるで偶然みたいに渡してきた。
きっかけはオレだけど、デュランならあそこでオレが「寒っ!」ってなることを見越してただろうし、ならなくても「寒いだろう」とか適当なことを言って巻いてしまえば良い。
そう考えるとマフラーは良いチョイスだ。
手っ取り早いし。
それに、
「隠し易い」
厚手のマフラーの編み目の間から、掌サイズより一回り小さいスティック状のものを取り出してオレは呟く。
見た感じ、恐らくメモリースティックとかその類だろう。今時こんな分厚いの売って無いけど。
デュランの本当の目的はおそらくコレだ。
何に使うのかは分からないけど、確かデュランがメンテナンスだとかブローチだとか言ってたからその関係だろうな。デュランが途中でリタイアしても、ブローチだけは回収してくれって言われてるし。
えーと、確かこんな感じの話だったはずだ。
『その時になれば分かるはずだ。分からなければ俺の所持品全てを処分してくれれば良い。元よりあまり持ち歩いていないからな。判別が出来ない状態ならお前は放置してかまわないから、代わりにデルギウスに連絡を取って残骸の回収に来るよう依頼して欲しい』
……ふむ。
これをデイジーさんに渡せってことか?
いや、待て。
可笑しい。
なら何で今デュランはホテルを出て行方をくらませてるんだ?
そもそも渡したなら渡したと言わなくちゃ、オレが気付かないでこのままセントラルを出てく可能性がある。そしたら、もう一度回収してデイジーさんのところに持ってくまでに時間のロスが出来る。
いや、それ以前に、だ。
何で今これをオレに渡す必要があるんだ? 自分でやればいいじゃないか。
じわじわ湧きあがって来る嫌な予感を覚えつつ、オレはもう一度頭の中を整理する。
デュランは今どこに居るか分からない(チェックアウトはしてたからホテルには居ない。ロアも検索出来ない)。
デュランは昼間の時点で、オレにこのブローチとやらを渡す計画を立てていた。
オレは前にこのブローチをデイジーさんに渡すようにデュランから頼まれている。
デュランはオレに気付かれないように、これをオレに渡していた。
……幾つか疑問がある。
これは多分デュランが持ってないと、てゆうかオレが持ってても意味無いのに何でオレに渡したのか。考えられるのはオレが探査系の魔法に引っかからないから隠し場所として丁度良かったってことか。でも、隠してる間は当然これは使えない。
それに、問題はそこだけじゃない。
オレはこれを渡されたことを知らされてない。それで、気付かなかった時どうするつもりだったんだ? ……それとも、気付かせる自信があった?
黙ってオレにこれを託して、後でそれを気付かせる自信があった。
そして、デュランは今、居ない。
『お前が失われなくて良かった』
『俺のせいで消えかけた』
後悔と、罪悪感。
『場合によってはお前達よりも、為すべきことを優先するだろう』
使命感。
『分かった。後で俺が片付けておこう』
決意。
目的の為ならオレを消すことだって厭わない、と言ったデュラン。
それはきっとデュランの本音だ。
でも、デュランが真っ先に犠牲に選ぶとしたら、それは誰だ? オレか。他の人か。
それとも。
「……ロアが居なけりゃ、明日の朝までオレはデュランの不在に気付かなかった。気付いたら、多分今と同じ順序でコレを探り当ててた」
敵の狙いはデュランと、これだ。
その二つさえ片付いたならオレ達なんて敵にとってはどうでも良いものになるんだろう。
当然その後の事なんて気にしない。
つまり、油断と隙が生まれる。
そして、目的の為には手段も犠牲もいとわないと言ったデュラン。その犠牲は、誰?
「ロア、居場所分かった」
あの馬鹿。
一人で片付けて―――独りで、殺される気だ。
「貴方が壊したそれはダミーです。本物はこっち」
握ったままのそれを見せつけながら言うオレに、デュランが眼を細める。
紫色の眼。
今あいつがどう思ってるかなんて、オレには分わからない。
でも、言ったでだろ? 最初に。
「お邪魔します」って。
そう。
邪魔しに来たよデュラン。
あんたを独りで、こんな場所で死なせてなんかやらなねぇよ。




