中央到着とオレ
青い空をカッターナイフで縦半分に切り取って鈍色に着色した、そんな感じの巨大な金属っぽい壁。
そこから四方八方に複雑に伸びる同じ色の「枝」。
文字通りこの木なんの木巨大な木、な形をした世界最古の建造物――世界樹、ユルグシラドルの内側が世界の中心、セントラルだ。
最高裁判所とかDDD本社とか、そういう司法・武力の最高峰だけじゃなくて、世界共通貨幣を生み出すドラウプニル中央造幣局や、世界中のありとあらゆるものを動かしたり動かさなかったりやったりやらなかったりする為のエネルギーのほぼ百パーセントを生み出している古代遺産【永久時計】がある世界経済の中心でもある。
以上、パンフレットより。ただし一部表現改変済み。
「でも駅の事載って無い……」
「ナカちゃん落ち込まないで……」
「穴場スポットと言う事で良いのではありませんか?」
「穴でスポットだと穴ぼこだらけっぽくねぇ?」
「穴だらけというのはお前の知識の話か?」
最後のセリフが誰かは一々説明するまい。当然ヤツだ。
「ちなみに、この場合のスポットは場所……穴場スポットという名称で重なっているのは場の方だ」
「あ、そうなんだ」
「そうだ」
でも、穴スポットっていうと落とし穴っぽい響きになるよな。
そんな話をしながらオレ達はアサギを降りて、プラットホームに立つ。
普通の駅とは雰囲気が違うなーと思うのは、継ぎ目のない足元のせいかもしれない。
今の空模様がダイレクトに出るって話は聞いてたけど、マジで宙に浮いてるみたいに見えるな、この床。
高所恐怖症の奴が来たらこの場で泣きだすんじゃなかろうか?
オレは高いトコ好きだから良いけどさ。むしろ鼻歌とか歌っちゃいそうだぜ。ふふん。
……や、歌わねぇよ? さすがに。
……ホントだってば。ホント。
上を見上げると足元と鏡映しに青空が透けて見える。
空が半球になって、その下に星が配置されてるってのは今更言うまでも無い話だが、本当にこうやってここから見上げると空が弧を描いてるのが良く分かる。
五月初旬の空は優しい色をしていて、そこに水をたっぷり含ませた絵筆ですーっと引いたみたいな白い雲があっちからこっちへかかっている。
それの手前に更に雲があって、その手前がここの駅の天井だ。
ラグビーボールかレモンをスパッと横に切ったみたいな楕円形の天井は透明で、紫外線バッチコイ! な勢いで光を通過させてる。ま、実際紫外線は透過してねぇんだけどさ。
その間に細く細く白い線が見える。
あれが屋根の骨組。
肋骨みたいな構造が天井とその下で向かい合ってる。
屋根の表面に沿って円弧を描く骨と、その反射みたいに内側に向かって円弧を描く骨。
天上の空と足元の空と。
二重、三重の水鏡。
足元からふわーっと浮かびあがって、空でも飛べそうな、重量が揺らいでいきそうな感覚。
ま、オレのような素人のガキがこれを表現しきるなんて、それこそ役不足だろうけど。
「うぉ……すっげー……」
や、何かやっぱテレビで見るのと違うなぁ……。
「オレ、この旅が終わったらここに住むんだ……」
「どんなフラグか少々判断に迷うが、結論から言えば無理だ」
子供の夢ってのはこうやって無神経な大人によって破壊されるもんである。
良いよ、無理って知ってるし。
ミレイ最高。
「本当に綺麗ね……」
「綺麗なだけじゃねぇってのがミレイ式って感じだよなぁ……あんなに光が入る作りなのにすっげー頑丈らしいぜ。どんな計算したらあんなもん思いつくんだろ」
屋根があって壁があるって事は、世界よりはずっと狭い空間のはずだろ?
でも、狭いのに息苦しくない。
ふわーってしてるのに、広がりすぎて怖いって感じもしない。
丁度良いサイズ、初めての場所なのに昼寝したくなるような場所。
それを作っちゃうミレイはやっぱすげぇよ。
クールだ。
駅のホームっていうより、これだけで一つの家って感じ。
「ホーム、ホーマイ、ホーメスト」
「それは、何かの詠唱ですか?」
「早口言葉かしら?」
どっちもハズレです。残念、ボッシュート。ちゃらっ、ちゃら、らーん。
「そんなに騒ぐようなもんか?」
あ、耳鳴りが。
「耳鳴りじゃねぇ……おい、お前年上に対する礼儀ってのがジパング人はしっかりしてるんじゃないのか?」
「格上に払う敬意なら用意してますが」
「……一瞬ちょっとカッコ良いとか思っちゃったじゃないか」
え? どこが?
「しかし、今時こんな合成画像ぐらいで騒ぐなんて天然記念物並みの存在だな」
「合成画像が珍しいんじゃありませんー」
あ、でも歩くたびに足元にウォータークラウンが出来るのは結構楽しい。
そっか、これ水面のつもりなんだ。
だから、上の荷物運搬用通路を通ってゆく荷物からの影が泳ぐ魚の形になるようにしてるのかぁ……成程。
「……」
手を伸ばしてみたら波紋が広がって、魚型の影は揺らいで消えてしまった。
「おおおー」
「……何やってんだ?」
「アポロ黙れ、邪魔」
「アドルフだって言ってるだろ……お前、意地でも最後まで覚えない気だろ」
や、覚えてるけどこの良さが分からない奴の名前を呼ぶ気は無い。
お前なんてアポロで充分だ。
こういう演出とか端々まで気ぃ配って、しかもお掃除メンテナンスまでばっちりフォローしながらきちっと建物の中に一つの世界を作っちゃうミレイのセンスが良いんであって、別に「映像技術スゲェ!」みたいな話はしてねぇんだよ。
「おい、チビ。チビスケ。ちみっ子。おいって」
オレの名前もチビでもちみっこでもねぇよ。ましてオイじゃねぇ。
テメェ、人に言うなら自分がまずまともに呼びやがれ。
ってことで、三百六十度で無視対象決定。
「……」
「なぁ、オイってば」
「……」
「……アドルフ」
オレの態度に見かねたのか、デュランがアドルフを呼びつけてオレから引きはがしてくれた。
うん、今だけはお前にちょっとぐらい感謝してやっても良いと思うぞ、デュラン。
偶には役に立つじゃないか、残念美形の分際で。
はー、これでやっとミレイに浸れる。
体はミレイで出来ている、ってな感じ。
ちなみに血潮は多分牛乳で、心は防弾チョッキだと思う。
もしくは銅四十グラム、亜鉛二十五グラム、ニッケル十五グラム、照れ隠し五グラムに意地九十七キロ。
勿論、照れ隠しと言うのはウソだ。これお約束。
……あれ、ミレイ成分が消えている。
カリウムの取り過ぎだろうか。
そんな事を考えながらしゃがみこんで、空色の波紋疾走(つってもただの映像効果だけど)で遊んでたオレの肩をヴィーたんがポンと優しく叩いた。
何?
首を捻って見上げたオレにヴィーたんが静かに時計の文字盤を指す。
大分時間が経過してた。
「……」
「……」
「……ここに住んじゃダメ?」
「ダメです」
笑顔で宣言したヴィーたんに、未練がましく床に張り付いてたオレは泣く泣く諦めた。
さよなら、ミレイ。感動をありがとう! そして、また会おう!
【作者後記】
やっとこさ目的地にたどり着きました。長かった……。
どうも、今晩は。尋です。
ご来訪ありがとうございます。
拍手ありがとうございます。
いつも訪れて下さってる皆様に感謝を。
うっかり迷い込んだ貴方に幸運がありますように……あと、できればここに迷い込んだ事を幸運と思って貰えますように(後半が自分用になっているぞ……)。
時間的に滑り込みセーフなので、さくっと後記を切り上げます。
まだまだ、これからです。
作者拝




