19・事件の顛末
事件から丸一日が経ち多くのことがわかり、その一方で謎も増えた。
まず、魔獣の群れが現れた原因は、オーバンが割った水晶で間違いないそうだ。魔王様が、破片に高度な魔法の痕跡があることを確認した。
問題はそれを誰が作ったかということだ。オーバンにはそんな技術も魔力もない。それに魔獣の出現に、心底驚いた表情をしていた。
だけど彼に入手経路を訊くのは、不可能だ。
王太子オーバンは魔獣の攻撃により死亡し、また反逆罪などのたくさんの罪状により王族から除籍され、一庶民として裁かれて遺体は野に捨てられた。
今回だけでなく、先日の魔獣襲撃はオーバンによるものらしい。現場にいて瀕死の怪我を負い、昨日意識を取り戻したばかりの近衛兵が、証言したのだ。『陛下を出迎えにきたオーバンの従者が、魔獣が現れる直前に水晶を誤って落として割り、焦っていた』、と。
この二回の魔獣襲撃で何人かの死者が出ている。たとえ陛下に愛されている王太子でも、厳罰に処すほかなかった。
――ということに、表向きはなっている。
事情聴取をする必要から、オーバンは何人もから治癒魔法を受け、一命を取り留めた。
だけど、怪我のショックからなのか記憶をなくし、発語もできない。しかも顔には大きな傷が残り、オーバンだとはまったくわからない容貌になってしまった。
彼は城の地下牢に秘密裏に幽閉された。記憶が戻るのを待つらしい。
本人からは知ることはできなかったが、オーバンの侍従やイザベル、捕らえた神官への聴取で、水晶は彼が誰かから買ったものだということが、わかった。
そしてオーバンは水晶は秘密の魔道具で、『魔力を注ぎながら口にした言葉は、水晶を割ったときにその場に居合わせたものにとって、真実になるもの』だと信じ込まされていたらしい。
でも専従侍従ですら、売主がわからないという。いつのまにかオーバンは手に入れていて、どのように入手したのかは頑として教えなかったそうだ。
これからはその売主を探さなければならない。
売主の目的は、恐らく国王暗殺だと思われる。それに十年前の件も同じ人間の仕業だとすれば、なぜ期間があいたのかとかの疑問も多い。
早急に解決しなければならなくて、だから、クリストフ様も協力することが決まったそうだ。彼の嘘を見抜ける力は、優れたものだから。
「ところで、どうして嘘がわかるのですか」
クリストフ様にそう尋ねると、目がすすすっとそらされた。
「誤魔化さないほうがいいですよ」とコンラートが言う。「この先のことを考えたら、絶対に」
「この先って?」
と尋ねると、コンラートが返事をするより早く、クリストフ様が
「エヴリーヌ嬢!」と私を呼んだ。
「フェンリルは狼系魔獣だから、人間より色々と発達していてわかるんだ」と、クリストフ様。
どういうこと?
説明されているようで、その実なにもわからない。
『わふん』とクリストフ様が吐息する。
「つまり、鼻が効くんだ」
「鼻ですか」
「そう。嘘をつくとき人間は緊張で汗をかくようだ。その匂いで、わかる」
「匂い……」
「決して、その、変な意味で言っているのではないぞ。嗅ぎたくなくても、わかってしまうのだ」
早口でそう言ったクリストフ様は、弱々し気な目をしている。
「女性からすれば、匂いを嗅がれるのは気持ち悪いだろう。だが、どうにもならないのだ」
「私もクリストフ様の匂いを吸いたいので、おあいこではないでしょうか」
「いや、積極的に吸いにいっているエヴリーヌ様のほうが微妙……」とコンラートが呟く。
確かに。
「嫌ではないか?」と不安そうに尋ねるクリストフ様。
「ええ」
「よかった!」
『わふん』と可愛い声をだして、クリストフ様は安心したかのようにしっぽを振った。
とても可愛い。
「もふもふしても、いいですか?」
どうぞとの返事にあごの下に抱きつき顔をうずめる。
嘘に関することよりも、彼に質問しなくてはいけないことがある。
陛下が提案した結婚について、知っているかどうかを。
でも、どうしてなのか、ドキドキしてしまって訊くことができない。
たぶん、私は『エヴリーヌと結婚するつもりなんて微塵もないよ』と言われることが、嫌なのだ。




