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近頃は物騒なので番犬を飼います(書籍版は「わたしの番犬は過保護です。」に改題:〈上〉〈下〉発売中)  作者: 五十鈴 りく
本編

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22/46

22◆Bradley

 ルーシャを迎えに行った途端、あのストーカー野郎に会った。

 ただし、別人かと思うほど大人しく、牙の抜けた小動物のようになっている――と思ったのも束の間、ルーシャとレーンが背を向けた時にだけ顔つきが薄暗くなった。


 ルーシャの祖母の知り合いで、墓に参りたいらしい。

 本当に大した知り合いではなかった。ルーシャから見て赤の他人でしかない。

 なんだ、そんな程度か、とさらにほっとした。


 けれど、それにしてはブラッドに何者だとしつこく訊いてきたり、のん気にほっとしている場合ではないような気もする。


 ルーシャが行くと言う以上、仕方がないからブラッドも墓地までついていった。数歩離れて見ていた方が危険を察知しやすく、とっさに動けると思い、ブラッドだけ墓から少し離れた。

 それで、離れて見ていると――。


 祖母の知り合いでしかないジャックに、ルーシャはブラッドにするようにして微笑みかけるのだ。


 大好きだった祖母の知り合いが墓に参りに来てくれたのが嬉しいのか。そうでなくとも、失礼な態度を取るわけにいかないのはわかる。


 それにしても、ちょっと距離が近すぎるような。

 ほとんど他人という間柄にしては気を許すのが早くないかと。


 ブラッドとは打ち解けるまでに何日もかかったのに、ジャックが相手だとルーシャはすぐに警戒を解いた。

 なんでだと問いたいが、ジャックのあの顔がプラスに働いていると考えるのが妥当だろう。


 ――女が好きそうな顔ではある。けれど、ルーシャがそんなものに釣られるとは思わなかった。

 いや、決まった相手のいない女だったら当然なのか。とてもモヤモヤした。




 ただし、そのモヤモヤをルーシャに悟られるのだけはいけない。

 とにかくその日は平常心を保っていた。

 別れ際、ジャックはルーシャの頭越しに陰険な目を向けてきたが、ブラッドは取り合わなかった。


「ジャックさんって綺麗な顔をしてるのに、すごく大人しくて人見知りみたい」


 ルーシャはそんなことを言っていたが、果たしてそうだろうか。


「人見知り、な」


 喧嘩を売られた覚えしかないブラッドには猫を被っているようにしか見えなかった。

 もう来るなとだけ祈っておく。


 まさかそれがバレたということはないだろうが、不意にルーシャの視線が刺さった。


「どうした?」

「え? 何が?」


 ルーシャはそんなことを言ってとぼけたが、何か気になることがあるのは間違いない。

 まさか、ジャックみたいなのが()()()なブラッドの好みなのかと考えてるとしたらゾッとする。そうでないことをさらに祈った。



     ◆



 モヤモヤするので、結局それを吐き出せるのはロトくらいのものである。レーンは論外だ。

 別に愚痴を聞いてほしいわけではない。ルーシャに近づいてくる不審人物がいるということを報告するのは義務だ。


『――ジャック・ストーカーか。名前が……』

「俺の前とルーシャの前とでは態度が違いすぎる」

『彼女に気があるのなら仕方ないな』

「はぁ? ほとんど喋ったこともなさそうなのに?」

『そこは本人にしかわからん』

「まあ、ヤツが何を考えてるか知らないが、ルーシャの方はばあさんの知り合いってだけで警戒心ゼロなんだ」

『ほぅ?』

「最初、俺には毛を逆立てた猫みたいだったのに、あいつのことはすんなり受け入れてニコニコ笑って話してた。……なんだ、この差は? 俺は苦労したのに、あいつはルーシャの信用を勝ち得るのにばあさんの名前出しただけって、なんだ?」


 自分で言っておきながら、思い出したらイライラした。

 一緒に過ごしてルーシャの笑顔が増えるにつれ、ブラッドなりに達成感のようなものが芽生えていたのだ。

 その苦労を知らないジャックと同等かと思うと納得しかねる。


『ブラッド、お前、どうした?』


 冷静に突っ込まれた。

 そんなことを言われるくらいには変だったのかもしれない。それを今、自覚した。


「いや、ごめん。なんか自分でもよくわからない」


 正直に言った。そうしたら、ロトが低い声で笑っていた。


『なあ、お前はミリアムが他の男に笑いかけたくらいでガタガタ言う男じゃなかったはずだ』

「……それと比べるのは違うんじゃないか?」

『何が違う? お前はミリアムがすることならなんだって許して、受け入れて、嫉妬とは無縁だったじゃないか』

「嫉妬って?」

『気づいてないのか? お前のソレ、嫉妬心だぞ』


 はぁあ? と、自分が出したとも思えないような声を上げ、ブラッドはいつもの木から手を放していた。よって、通信は強制的に切れてしまうのだが、今日はもう再開しようと思わなかった。


 ジャックのことは報告したし、問題はない。

 このまま続けると、ロトがさらに余計なことを言いそうだから嫌だというわけではない。


 マトモそうに見えてもロトはレーンと兄弟なのだから、時々トチ狂ったことを言い始めても仕方がないのかもしれない。

 そうだ、こうして話をするだけで現状を見ていないから、適当なことを言う。

 ――もし仮にあれがミリアムだったら。


「…………」


 ミリアムは誰にでも愛想がいい。誰に笑いかけようと、いつものことだ。

 そんなことにいちいち反応していられない。

 ルーシャはそうではないから、気になる。それだけだ。


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