Ⅳ
黒い……翼?
蝙蝠のような翼と言えばよいだろうか。
前に本に乗っていた、悪魔の翼とでもいうべきだろうか。
少し恐ろしくなって、数歩下がる。
顔が引きつっていたのか、エドワードは一瞬怪訝な顔をしたが、さほど気にしていないのか、特に何も言わなかった。
先刻の不自然な上着の膨らみとは、これのことだったのだろう。今は、膨らみなど無く、すっきりとしていた。
上着にしまっていたため、調子が悪いのか、鳥のようにパタパタと翼を揺らす。
やがて、はあッ、とため息をつくと、呆れた表情を作って口を開いた。
「早くしろよ。俺はもう行きたいんだ。さっきから、ボーっとしやがって」
唐突に来て、捲し立てておいて、何を言っているんだ。
流石にジョルジュも腹が立って、言い返す。
「じゃあ、僕に何をしろというのですか? さっきから話を聞いていれば、あなた方の言うことはめちゃくちゃじゃないですか。
だいたい、選ばれたとか、何を言っているのです?
ヴァルハラに行くとか、行かないとか。
意味が解りません」
それまで静かに聞いていたジョルジュに急に言い返されたのに驚いたのか、感心したのか。
エドワードは一つ、小さなため息をついた。
「俺たちが聞いているのは、な。お前がもしもこの地で命を落とした時に、お前の心はどこへ行きたいのかってことだ。ヴァルハラへ行くのか、冥界へ行くのか、はたまた無に帰るか……」
「はあ……」
「わかんねぇかなぁ? 俺に説明は向いてねえな。ここまで知識がないとは思わなかったしな……。ハズレだな。違うやつ探しに行くか……。あとは頼んだ。サンダー」
エドワードは、はぁ……とため息をつき、何やらぶつぶつ言いながら踵を返した。
オーケー、とサンダーがにこやかに手を振るのを舌打で返し、
翼を開くと、黒い雲へ飛び立った。
短気なのか、面倒くさがり屋なのか。
彼の説明で解る人はいるのだろうか、とジョルジュは思う。
大空を飛ぶ姿は、鷹の様。獲物を狙うスピードでエドワードの飛ぶ姿はすぐに見えなくなった。
むむむ……六つになりそうです




