Ⅴ
にこやかに見送ったサンダーは、くるっと回ってジョルジュに向き合う。
なにやら楽しそうだ。
「あんな説明じゃあ、誰とも契約結べないねぇ……。君もそう思うでしょ」
馬鹿だなぁ、と嬉しそうににやっと笑う。
ジョルジュも最もな意見に思わずうなずいた。
「君、最近ここにきたの?」
砂に座り込んで、サンダーが聞く。
「まぁ……はい」
「へぇ……じゃあ、ヴァルハラの話とか、あんまり聞かないんだ……」
知名度低いね、とサンダーは笑う。
「そういった兵士は皆、激戦の中でしょうから」
父が脳裏に浮かび、少し、悲しくなる。
「まぁ、そうだよね。じゃあ君、本当になんにもしらないんだね」
からかってたんじゃないんだ、とサンダーは呟く。そして、説明、しても良い? と、ジョルジュに問う。
良いですよ。と、ジョルジュが答えると、サンダーは、ありがと。と礼を言い、座りなよ、と促した。
渋々砂の上に座ると、風が砂を飛ばした。
「……オレも説明下手なんだけど、エドよりはマシだと思うから。
ヴァルハラはね、戦死した兵士の心が休まるようにと女神さまが作った場所なんだ。確か。うん。そうだったはず。
最初は勇敢な戦士の心が集められたんだよね。
でも、最近は、美しい心とか、綺麗な心とか、そんな兵士も選ばれてる。女神さまが、その美しさに魅せられたから、って誰かがいってた。
誰の心を連れていくとかは、リストがあって……
オレ達は、そのリストに載ってる兵士の心と契約を結ぶんだ。
兵士の意見の尊重、ってね」
「それで僕が」
砂埃が舞う。
「そういうこと。君の心、綺麗だよ」
二コッと、サンダーが笑う。
ここが戦場であると思えない微笑みだった。
「じゃあ、最初の質問に戻るけど。
君はどうしたい?
まぁ、君にとって、死なないのが一番なんだろうけど……。
ヴァルハラも、オレは良いところだと思うけど、人それぞれだし、そんなにいいことばかりじゃない。
きっとここと同じような生活をするんだと思うな。
戦争の起きる前のね。
人々が普通に暮らして、時には騒いでさ。
逆に、冥界に行けば、この世のものとは思えない生活が待っている。すごく綺麗なところらしいよ。オレは行ったことないけどね。静かなところだって」
「…………」
無言。急にそんなことを言われたって。
第一、冥界とヴァルハラの区別がつかない。
どうだっていうのだ。どちらに行ったって、余り変わりはないないじゃないか。なにが変わるというのだ。
結局のところ、死んだ後のことを今話されたって、そんなに簡単に決められるわけがない。
女神さまとやらも、酷な人だ。
そう、ジョルジュは思う。
でも、一つだけ。もし決定するきっかけがあるとしたら、それは……
なかなか決められない、というよりは、意味がわからなくて混乱しているジョルジュに、サンダーは思い出したように言った。
「あ、そういえば……君のお父さんも、契約しているよ。まだ、来てはいないけどね」
「ぁ……」
……家族。きっと、どちらか選べというのなら、それは家族がいるところ。
涙が自然と溢れてくる。二カ月間、戦場にいて、自分はよく耐えた。
最初にホームシックになったのは、何日目だっただろうか。
「……契約を、します」
ジョルジュが答えた時、サンダーはもう、エドワードと同じ、黒い翼を露わにしていた。
エドワードのものより、少し灰色に近い。
「オッケー! 決定だね。
オレは特に契約書とか書かないから、承諾をくれるだけでオッケーだよ。
じゃあ、戦死したとき……っていうのもなんか変だけど、迎えに来るね! またね」
一瞬で空に飛び立つ。エドワードと同じ、黒い翼。どうやら、サンダーはその答えだけを聞きたかったらしい。急いでいたのか、すぐに見えなくなる。進行方向は、エドワードと同じ方向。
「父さんも契約を……」
父が生きていると知って、また会えることを知って、ジョルジュの心に光がさした。
あと一つでこの章は終りです……




