第三話 『絶望』
「貴方は生きるのよ、レオン……」
「あー? あぅー!」
「カルラ、後は僕に任せてくれ。君の帰りをいつまでもここで待っているから……」
「ええ、頼んだわ、クライス」
そう言い残し、彼女は家に帰ることはなく、白髪の赤子は母の声をいつまでもも待っていた。
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「見込みある奴が本当にいない……」
この世界が平和すぎるからということもあるが、あまりに才能を持つ者が少ない。
もちろん、才能を持たなくても努力でのし上がることはできるが、今回の敵は努力して、そこに更に才能がないと勝てない相手だ。
言い方はキツイが、一定の才能が無ければ頂点へと至ろうと目指すことすら不可能なのだ。
最低でも、『王剣』を目指せるほどの才が無いと、勝てないだろう。
世界中を歩き回り、弟子を探し始めてもう三年。一向にそういった者を見かけない。
稀に強者を見かけるが、そういう人にはすでに『型』ができてしまっている。
いくら矯正しようと、身体がその『型』に慣れすぎているため、俺の『型』に合わせようとしても、身体が馴染まないのだ。
だから選ぶなら子供。それも戦う意志を持つ子。
ここは【テラント大陸】の北東、【氷帝国ウルストラ】。
気候がほぼ毎日極寒のせいで、凍死や、餓死する者達が一番多い国であるのに、そこに追い討ちをかけるようにすぐ西には【魔帝国】が存在し、【アルメズカ王国】と同じく戦争の最前線でもあった。
そのせいで、年間の死者数は万を優に超えていた。
一応最前線のため、強者の才能を持つ者が産まれていないかなと思い、俺はこの国で冷気に震えながらも探していた。
吹雪の中、少し明かりが灯っているのが見えた。およそ五Kくらい先だろうか。地図によると、小さい村があるという。
村人は数十人程度しかおらず、発展もあまりしていないらしい。
とりあえず見ておくかと思い、俺は足を進めるのであった。
何が起きているのかさっぱり分からない。いや、理解したくなかった。
叔父さんが真っ赤であって、真っ黒だ。それしか分からない。分かりたくない。
「……? 叔父さん?」
「レッ……オン……。逃げな……さいっ! ……早く!!」
「ほら、ぼうや。貴方の家族が燃えているわよ? 今どんな気持ちなの? ねぇねぇ?!」
おじさんの横には布面積が少ない服を来ている褐色のお姉さんがいて、お姉さんはおじさんの肩に指先を当てていた。
指先からは紫色の何かが出て、叔父さんへと流れている。
「貴方も一緒に紅くなりましょう? そうすればきっと同じところに行けるわよ」
お姉さんがそう言った後、叔父さんは僕の目の前に倒れた。
何度も何度も呼びかけてみるが、ピクリとも反応してくれない。
僕はおじさんが『死んだ』という事実に気づいてしまい────否すでに最初から気づいていて、瞳が涙で潤ってくる。
その間にもお姉さんはゆっくりと僕に近づいてくる。
「や、やだ……」
「大丈夫。貴方の甘美な悲鳴を聴かせてもらうだけだから。ちょっと苦しいだけよ」
お姉さんは指先に紫色の何かを出して、それを変質させた。新たに指先にあったのは炎。とっても小さい灯火だが、僕には分かる。
あれは恐ろしいものだと。
叔父さんを燃やしたように、僕も真っ赤に染めようとしていると。
逃げようとするが、ここは僕の家の中。後ろは壁であり、逃げる隙間などどこにもなく、ただただ死を待つしかない。
早く痛みが終わって欲しいとしか思わない。
「【獄炎灯】─────」
「じゃあな」
お姉さんが僕に近づいて炎を放とうとしたその瞬間、お姉さんの突き出していた腕と、首が瞬時に落とされた。
僕はその事実に気づくまで数十秒かかり、ぽかんとしていた。
「大丈夫か? 少年。遅れてすまない」
僕の目の前にいるのは黒髪のお兄さん……いや、おじさん?
僕がわかった事実はあの怖いお姉さんよりも、もっと恐ろしい存在だということのみ。
あんな大きな剣を持っているのだ。僕を殺すことなんて簡単だ。
「だ、だれ……?」
「意外と有名じゃなかったか………、俺の名前は─────」
おじさんが名を名乗ろうとしたその瞬間、僕達の足元が急に爆ぜた。僕は痛いのが怖くて、咄嗟に目をつぶったがお兄さんが僕を抱えて、なんとびっくり家の天井を突き破って脱出してしまった!!!
まるで夢を見ているような超常的な現象であった。
……夢であって欲しかった。だが、僕の頬に残る火傷の痛みがそれを否定していた。
おじさんは近くの林の木へと僕を降ろした。
「後一人いるな……。どこだ…?」
僕が空中で見た光景は最悪だった。
村は真っ赤に燃え上がり、家族とも言える人々はすでに黒焦げと化している。
見たくも無いものを見てしまった僕は、その場で吐いてしまった。
「?! 大丈夫か?! 直ぐに安全なとこに連れてってやるからな?」
「……うん」
「俺は近くを探してくるから、何かあったら大声で呼んでくれ!」
「え? やだよ!! 近くにいてよ!! 怖いよ!!」
何を言い出すかと思ったらおじさんはこの場を離れると言うのだ。話からはまだ一人先程のお姉さんのような悪い人がいるのだと僕でも分かる。
それなのに僕を一人にしようとするのだ。
「大丈夫だよ。何かあったらすぐに駆けつけるからな。まぁ、一応これだけ持ってろ」
そう言っておじさんは僕に剣を渡してきた。剣は見たことはあるが、持ったことなど一度もなく、その重さに驚いていた。
おじさんは剣を手渡して、目にも止まらぬ速さでどこかへと言ってしまった。必死に止めようとしたが、すでにその場におじさんはいなかった。
なんで?
どうして?
また不安になるじゃないか。
次に黒焦げにされるのなんて僕に決まってる!!
僕はそう心で叫びながら、周囲を見渡す。
目の前には燃え盛る炎だが、後ろの林の中はとても暗くて冷たい風が僕の頬を撫でた。
─────何か嫌な予感がする。
そう思った僕は剣を持って立ち上がり、暗い林を見詰める。
じっと。
じっと。じっと。
じっと。じっと。じっと。
じっと。じっと。じっと。じっと。
僕の耳に入った音は微かに木の葉が潰される足音。
「っ?! だれ?!」
「あっれェーーっ? なァーーんでばれちゃったのかなァーーっ??」
暗い中から出てきたのは褐色のお姉さん。
お姉さんの頭からは角のような、お尻からは尻尾のようなものが生えていた。
黒い衣装を来ていて、隠している面積より、露出させている方が多かった。
胸元を大きく開き、その豊満な胸からはもんもんとした空気が漂う。
僕の鼻をかぐわしい匂いが通り、ふわふわとした感かくに陥る。
なぜだかあたまもぼんやりとしてきたようなきがする
「でェーーモっ。まァーーだ、子供っ。かわいそーーニっ。知り合イっ、友達っ、家族っ。みィーーんな殺されちゃったァっ! アハッ!!!」
「…だれ?」
「私は貴方を護りに来たァーーノっ! 一緒に来なイっ?」
あきらかにあやしいかっこう、あやしいことば。
ついていくわけがないのだが─────なぜだか、からだはおねえさんへとよせられていた。
めせんはおねえさんのむねへとくぎづけになり、ほかのものなどがんちゅうになかった。
「ほォーーラっ。おいでっ? お姉ちゃんの、あったかァーーっいお胸に飛び込んデっ?」
「………うん」
そのことばのとおりにぼくはすこしずつ、すこしずつおねえさんのむねへとちかづいていき─────
「さァっ! さァっ!!」
おねえさんはあやしくほほえみながら、ぼくのことをずっとみてくる。
おねえさんのうつくしいむねにぼくのゆびさきがふれた、そのしゅんかん。
「『竜海断』!!」
「?!?! ラル────、ウギャァァアアアア?!?!?!」
「っ?!?! おじさん?! あれっ、僕……?」
「ごめんな。囮にしちゃって」
僕のふわふわや、ぼんやりとした思考は正常に戻り、目の前の光景に唖然としていた。
目の前のお姉さんが右腕を失っていたからだ。だが、少しずつ再生しているようにも見える。
ていうか、囮……?
「あまりにもそいつが出てこないからな。お前一人にすればおびき寄せられるだろうと思って」
ちなみに最後の最後まで待ってたのは油断させるためな。とおじさんは付け加えた。
確かに目の前のお姉さんはとても狡猾そうにも見えた。
あの容姿だと、おそらく本で読んだ『サキュバス』という種族の魔人だろうか。
「ッッッ────。……久しぶりねェーーっ! ラァーールクっ!! また、お姉さんと遊びたくなっちゃったのォーーっ?」
「なわけあるかよ。俺はリメルア一筋だ」
「あらぁーーっ? そォーーっんな彼女さんも【死神】の奴に食べられちゃったんでしょォ?」
「─ ─ ─ ─」
なんだろう。おじさんが怖く見えた。
目の前のお姉さんなんかよりも全然恐ろしい。底がまるで見えない深海のような────
「じゃァ、私で一晩どォーーっ?! 貴方なら第二の魔王様にぴィーーったり!! あァーーっんな、使えない女のことなんて忘れて私と一緒に夜を──────」
ブシャッ!! と、聞きたくない音が聞こえた。
目の前のお姉さんの足と、残っていた左腕が一瞬にして消え去ったのだ。
絶叫を目の前であげているお姉さんを余所目に、おじさんはとても冷たい目を彼女へと送っていた。
それはどこまでも深い、虚無のように暗かった。
「おじさん……?」
「────おい」
「ひっ……」
おじさんが彼女に声をかけると、震えていた。
その絶対零度の声に僕でさえも漏らしそうなくらいの覇気を感じた。
「────さっさと再生しろよ。お前確か『魔帝之席』の第七席だろ? 腑抜けてんじゃねぇぞ? さっさと立てよ」
「ッッッ!!! ラルクゥゥゥ!!!!」
目の前のお姉さんは口調を変えて、おじさんに対する激情を露わにした。
瞬時に足と腕を生やして、背中から翼を生やし、空へと飛び上がった。
「死ねッッッ!!! 『暗闇皇帝』ッッッ!!」
彼女がそう言った次の瞬間、周囲が暗闇に満たされて視界に何も映らなくなってしまった。
僕はいつの間にか落としていた剣を一応手に取り、周囲を警戒しておくが、何やら向こうの方でとんでもない甲高い音がれんぞくしていた。
「死ねッ!! 死ねッ!! よくも魔王様をッッッ!!!!」
「──お前みたいなブサイクよりも、メラルドの方が圧倒的だな。どれもあいつの足元にも及んでない」
サキュバスは連続して自らの爪を敵にぶつけようとするが、いとも簡単に男にいなされてしまう。
「ッッッ────!!! うるさいッッッ!!! 私が次の魔王になるのよッッッ!!!!」
「──あぁ?」
おじさんが怪訝な声を発した次の瞬間、視界が晴れて目の前の光景に唖然とする。
お姉さんの胴体が二つに分かれていたのだ。
おそらく暗闇が晴れたのは、おじさんが『斬った』からなのだと理解してしまった。
「お前如きがメラルドを穢してんじゃねぇぞ? カスが」
そう言っておじさんはお姉さんの頭がある方の身体を蹴り飛ばした。
圧倒的過ぎて見るに堪えない。虫と、魔物? いいや、そんな違いなんてもんじゃすまないほどおじさんは『格』が違った。
彼だけが別次元に存在していた。
「じゃあ、そろそろ死んでくれ」
「?!?! いヤっ! いヤっ!! いヤっっ!!! 死にたくなイっ!!」
「はぁ……お前みたいなふざけた魔人は久々にみるよ。なんで『第七席』に入れたのか不思議なくらい弱いしな」
「ッッッ!!! 【死神】ッッッ!!! 助けてッッッ!!」
「?!」
彼女が『死神』というナニかに助けを求めたその瞬間、彼女の真隣で蒼い魔法陣が輝き、僕の瞳に人影が映り込む。
おじさんはその人物に対して目を見開いていた。
「────────ぁ」
「? ふむ、全くしょうがない子ですね。『カルネ』さん。早く乗りなさい」
「し、【死神】ィ……」
「オヤ? 貴方ハ…………? ………! アァ! 懐かしいでスネ! 何年ぶりでしょウカ?! ラルク・アルカナムさん!!」
「……………お前……………は……………………」
珍しく、おじさんが固まっていた。いや、呆然として動けていないだけだった。
魔法陣から現れた不思議な男はまるでピエロのような装飾を自らに施しており、素顔がまるで分からなかった。
だが、雰囲気はそれとは全く違くて、『恐い』というより、『怖い』だった。
摩訶不思議過ぎて、全く未知過ぎて─────
「ハイ! ワタシでスヨ!! 元『魔帝之席』、『第一席』に座らせていただいていた『グリムバル・ジャスパー』。【死神】と呼ばれる者─────」
目の前で、赤い液体が飛び散った。
あの一瞬で、おじさん────ラルクさんはグリムバルと呼ばれる男の首を飛ばしたのだ。
だが、僕には何故か奴が死んだようには思えなくて────
「ハハッ!! surprised!!! まさか一瞬で首を斬るトハ!! 流石魔王様を倒したというだけはありますネェ!!」
「【死神】……?」
「あぁ、カルネさん。貴方は【龍】の回収をしてきてくだサイ。ワタシも長くは持ちませんカラ」
「わ、分かったわよ………」
お姉さん────カルネはオドオドしながらも翼を羽ばたかせて僕の方へと飛んでくる。
僕もビクビクしながら剣を構える。
おじさんの方を少しだけ見てみるが、わかる。確実に苦戦しているのだ。
グリムバルは明らかに避けに徹していて、攻めきれていないという状況。こっちに助けに来てくれる可能性は殆どないだろう。
「……。さて、ぼォーーヤっ! こっちにこない? 来れば一生好きな事できるわよ?」
「………好きな事?」
「そう! 例えば、このカラダを好きに出来たり……」
そう言って、カルネは自分の胸をこれでもかと言うほど強調してくる。
だが、少年は全く興味無さそうに彼女に目線を合わせる。
「僕がカルネを………倒す!!」
「えェーーっ?! できるのォーーっ?! お姉さん、貴方の叔父さんよりも何百倍も強いのよォーーっ?」
「関係ない! 倒す!!!」
「ふぅん。まぁ、もう終わってるんだけど」
「え───────」
カルネの言葉の直後、彼女の右目が妖しく輝き出した。
それだけで、身体が動かなくなり、なぜだかくらくらとしてくる。
「ざァーーんねんっ! 『魔眼』を知らないほど世間知らずなのねェーーっ! これで貴方は私の『虜』。さぁ、一緒に行きましょ」
「────────は───」
はい。とそう言おうとしたのに、なぜだか言葉が出てこなかった。
ていうか、急に周りの音が消えた。カルネの声や、周囲の炎の音、おじさんとグリムバルの戦闘音すらも聞こえない。
『─────汝、其を受けよ』
「………?? 誰……?」
『………其は【龍】を司るモノ』
ぼんやりとしているが、自分の後ろに巨大なナニかがいるように思えた。まるで自分の視界が全方向に広がったかのような不思議な感覚。
『─────汝、其を受けよ』
「其を受けよ………? どういう意味?」
『……………』
「……………………??????」
『…………はぁ…、我を受け入れろ』
真面目な雰囲気から一転。とても面倒くさそうに【龍】を司るモノは答えた。
「受け入れる…?? どういうこと……?」
『………。我の力を貸してやると言っているのだ』
「ああ! なるほど!! じゃあ貸して!!!」
『…………少しは疑うことを覚えよ』
その呆れた言葉を最後に、ぼんやりとした謎の存在は消え、周囲の音が戻った。
白昼夢のような感覚だった。
ていうか、本当に夢だと思ったが、自分の掌を見て驚いた。
謎の紋章が刻まれていたのだ。ここからなにか不思議な力も感じる。
それはとても懐かしいようで、知らない感覚だった。
「?! 『妖艶』が聞いていない……?」
「カルネ。お前達は僕の家族を殺した。なら、お前も死ぬべきだ」
「何を────っ?!」
いつの間にか僕は剣を振りかぶり、彼女の頬を裂いていた。
ありえない速度。子供のはずなのに信じられないといった顔をカルネはしていた。
「?!?! まさか【龍】がっ……、?!」
「喋ってる暇なんてあるの?」
その言葉と共に僕は彼女の首を落とした。
呆気ない最期。
だが、それは人間や、魔人が幾度となく通ってきた道。
何も珍しくは無い。
圧倒的な力量差があっただけなのだ。
「あっ!! 早くラルクさんを助けに行かないと!!」
そう思った僕は、おじさんの元へと走り出す。
カルネの死体に目もくれず。
⊂⊃<>⊂⊃<>⊂⊃<>
「『龍連斬』────!」
「fantastic!!! 流石、魔王様を倒しただけの事はアル!!」
「そういうお前は避けてねぇでさっさと来いよ!」
ああ……戦いで一番侵してはいけない禁忌を行っている。
冷静さをかき、殺意と、憤怒で頭を一杯にしている。
「いやぁー、ワタシの仕事は【龍】を連れてくることなんでスヨ。でも、カルネさんが死んじゃったんで、もう戦う意味は無いんデス」
「ああ?!」
「だから、貴方みたいなバケモノを相手にしている暇は無いんでスヨ─────『迅雷撃』」
「『龍命覇』!!」
目の前に迫り来る電撃をいとも容易く斬断し、奴に肉薄する。
そのまま首や、四肢を飛ばすが、尚も生命を奴は保っていた。
「お前ッ────」
「あらアラ! 【英雄】ともあろうお方がしてはいけない顔をしてますネェ!! ………いやー本当に美味でしタヨ!! 彼女────リメルアさんは!!!!」
「─ ─ ─ ─」
死ねよ──
死ね──
死んでくれ───
俺の目の前に現れないでくれ───
お前の面を見ると反吐が出る──────
「─────『天龍解放』───」
「オォ!! beautiful!! その姿が【龍】の『現し身』でスカ!!」
ラルクの髪の毛と、瞳は紅蓮のように紅く染まった。
それは美しい赤とは到底言えず、激情をそのまま反映したような色だった。
「『天龍────」
「無理でスネ。『転換』──」
「────?!?!」
俺が技を奴に放とうとしたその瞬間、奴が少年と位置を入れ替えた。
このままでは、彼に俺の技が当たってしまうと思い、技を中断する。
「がっっっっ──────」
「?! ラルクさん?!」
急に目の前にラルクさんが現れたかと思ったら、彼は僕に剣を振り下ろした。
だが、僕だと気づいたのか、急に剣を止めた。止めてしまったと言った方が正しいかもしれない。
ラルクさんはその場に倒れ、蹲ってしまったのだ。
「チィ………、もう身体が駄目か………」
「オォ! なント! もう【龍】を知覚しているのでスカ?!?!」
「?! がっ─────」
倒れたラルクさんの上に急に転移してきたグリムバルはそのままラルクさんを蹴り飛ばして、どこかに吹き飛ばした。
この場には僕とグリバルしかおらず、お互いに見つめあっていた。
でも、僕は分かってしまった────
勝てない。絶対に勝てないと分かった。
力を得たからかもしれないが、目の前の敵がどの程度か推し量れるようになった。
結果、勝率は絶望的とも分かり、僕の表情は恐怖に満ちる。
さっきのカルネなんかとは全然違うのだ。
あのラルクさんの攻撃を避けていた時点でバケモノ。それを僕が相手しなくてはならない。
「フム……。そこの少年。名前を聞かせてもらえまスカ?」
「…………レオン・アルグレイス」
「なるほど! だからでスカ! 懐かしい気配を覚えまシタ!」
「………?」
なぜだろう。なんだか嫌な気配がする。
「おそらく貴方の母上ですカネ? とぉーっても美味しかったんでスヨ! ご馳走様でシタ!」
「───────は?」
パンドラの箱を開けてしまったような気がした。
もう────遅かった。
「ン? だから言ってるじゃないでスカ。貴方の母上はワタシが─────」
奴が言葉を言い終える前に、勝手に腕が動き、無意識に剣を振るっていた。
こいつが……こいつが…………
「お前が……母さんを…………?」
「弱ッタ!!!」
その言葉と同時に奴はどこからか取り出した鎌を、僕の首へと振り下ろす。
母さんを殺した宿敵と知った僕は、その事実を知った衝撃で動けずに─────
「危ないっ!!!」
「え────────」
殺される──かと思ったが、いつの間にか僕はラルクさんの腕の中に抱かれ、空に放り出されていた。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
「ら、ルクさん…? 目が………」
「っ────。大丈夫だ! 気にすんな!! こんくらいどうってことない!」
彼の右目が奴の鎌によって斬られていたのだ。
おそらく僕を助け出す瞬間に斬られてしまったのだろう。
彼は僕を抱きながら、近くの土へと受け身を取りながら転がった。
「ハァ……ハァ……【死神】…まだ終わってねぇぞ……」
「horrible!! 貴方の脳ごといこうとしたのでスガ………避けられてしまいましタネ」
グリムバルの手からは鎌は消えており、その代わり彼の足元には蒼い魔法陣が出来ていた。
「あ………? おい、待てよ」
「流石に魔力を使い過ぎまシタ。お呼びもかかっていまスシ………今日のところはここらで失礼しまスネ」
「逃げんなよ─────」
「では、さようナ─────がっっっっ?!?!」
奴が消えようとした、その瞬間、首以外の全てが飛び散った。
奴は流石に驚いたのか、驚愕の瞳をラルクさんへと向けていた。
「マジでスカ? 本当に危なかったデス」
「逃がさねぇぞ?」
「っ───────」
これではもうどちらが怖いかなんて分からない。
絶対零度のラルクさんの声と、全く未知の恐怖を与えるグリムバルの雰囲気。
どっちもどっちだ。
僕だって今すぐにでも奴を殺したい気持ちでいっぱいだが、先程のように足手まといになってしまってはいけないと思い、その場に留まっている。
「デハーーー。さようナラーー!」
「待て────」
「いいんでスカ? 後ろを見なイデ?」
「あぁ?! ………。───────────」
「ラルク? どうしてそんな怖い目をしているの?」
「リメル─────。────────────ッッッ!!!! 死神ィィィィ!!!!!!!!!!!」
ラルクさんは急に誰もいない後ろを振り返り、固まった。
まるで時でも止まったかのような表情。
だが、何かに気づいたのか、グリムバルの方を振り返りながら、今までで一番の激昂を奴に捧げる。
その間にグリムバルは転移しようとして─────
「ま、待て!!」
「さようナラ。ラルクさん。そして…………【龍】」
その言葉を最後に──────奴は消えた。
何も出来なかった自分を、僕は呪った。
みんな死んでしまった。いなくなってしまった。
しかも、奴らの言い方からして────僕のせいで。
呆然と立ち尽くす僕の目線の先には、泣き崩れるラルクさんの姿があった。
大剣を傍に突き刺し、大粒の涙を零していた。
そんな彼に対して、僕は──────
「ごめん………ごめん、リメルア…………今が………今がチャンスだったのに…………また『救えなかった』」
「ラルクさん………?」
「ごめん、ごめん、ごめん………やっぱり、俺は駄目なんだよ。あの日と何にも変わってない………」
「ラルクさん………」
「【魔王】を倒しても………変わってない……」
「ラルクさん………!」
「約束……したのに……今なら出来たのに………また、同じ事を………」
「───ラルクさん!!!!」
僕の呼びかけにやっと応じてくれた彼は、ゆっくりと僕の方を向いた。
彼の瞳と髪の色はいつの間にか黒へと変色していた。
「貴方に過去、何があったかは分かりません………」
「……………………」
「でも、『救えなかった』なんて言わないでください!!」
「……………ごめんな、少年。今の言葉は君に対して言ったわけじゃ───────」
「貴方は僕を『救った』んです!!!!」
「…………………」
「自分の片目を失ってまで、見知らぬ僕を救ってくれたんです。また『救えなかった』? もう一度救いに行けばいいじゃないですか!!!!」
「……………………!」
「今回は『僕』を救えたんです!! つまり貴方の勝ちなんですよ!!! 前回は救えなかった……でも、今回は、『僕』という命を救えた!!!」
「─────君は………」
「なら! 次に相対した時に、『救え』ばいいんです。今回は勝てたんです!! あいつの負けです!! 僕を連れて行けなかった!!」
「……………そうだな。こんなんで項垂れてちゃ駄目だ」
そう言って、ラルクさんはやっと立ち上がってくれた。
「少年…、君は何歳?」
「? 七歳ですけど………」
「そっか。俺よりも歳下なのにずっとすごいよ。君は」
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