第四話 『時計は進む』
「名前はなんて言うんだ?」
「……レオン・アルグレイス…です」
「…………やっぱ【龍】の系譜かぁーーー」
「?」
俺はあの戦いの後、少年────レオンと共に自分の家に向かい、彼を住まわせた。
もう彼の村は全焼してしまったからな。
生き残りも一応探したが、全て焼死体としてしか残っていなかった。
それにしても、【龍】か………。
……やっぱりこの子かな。
「なぁ、少─────レオン」
「なんですか?」
「………まずは敬語辞めないか? ムズムズして、なんか嫌なんだが………」
「貴方は僕の命の恩人です! これだけは曲げません!!」
「そ、そうか………」
まだ七歳なのによく出来ている。
それに彼は家族を殺された。
それなのによく平常心でいられるなとも思った。
「……なぁ、俺が【魔王】を倒したって言ったら信じるか?」
「………信じます。グリムバル達が貴方について色々言ってましたし」
「………じゃあ、そんな俺が世界がまた地獄へと変わるって言ったらどうする?」
「?! ………どういう事ですか?」
俺は事の顛末を話し始めた。
【魔王】を倒して平和になった後、新たな敵の卵が見つかったこと。
今の俺はかなり衰弱していて、卵が孵化するまでには更に弱くなること。
新たな敵ら強大過ぎて、平和な今には勝てる者がいないこと。
俺が─────最強の器を探していること。
「…………なるほど」
「そんでな。俺はお前が、最強の器だと確信してる」
「……? なんでですか?」
「…………お前が俺の弟子になり、世界を救うために協力してくれるなら教えてやる」
正直、とても酷だなと自覚していた。
彼は家族を失い、拠り所が無いから俺の所にいるだけ。居場所さえ見つければ、わざわざこんな所にいる必要は無い。
日銭を稼ぎ、穏やかに暮らせるのだ。今の時代は。
それなのに、俺は彼に戦いを強いているのだ。
ただの幼い少年に、世界の荷を負わせようとしている。
はっきり言って最悪だ。【英雄】なんて言われているが、やっていることは屑の所業でしかない。
傷心中の彼に拠り所を作ってあげたのは俺だ。だからこそ、純粋な彼はお礼だからと言って、この提案を受けてしまうかもしれない。
俺は実際、この提案を彼に受けて欲しくなかった。
まあ、受けて欲しいと頼んでいるのは他でもない俺なのだが。
「……………」
「……どうだ? やりたいって………思うか?」
「………はい」
聞きたくなかった答えに、俺は悲しくなった。
こんな少年を戦へと連れていかないといけないのだ。
本来、戦うべきは大人達。だが、その誰もが達成できないほどの強大な相手。
俺の心は更に複雑と化した。
「っ──────!。 ……どうしてだ?」
「………貴方に鍛えてもらえば、母さんを取り戻せると思ったからです」
「──────!!」
俺の先程考えとは的外れな回答が出てきて、驚いた。
『母さん』。おそらく、その女性は─────
「………グリムバルに、母さんは食べたと言われました」
「…………………」
「その瞬間、僕は怒りに囚われ、殺されそうになった。………でも、ラルクさん、貴方が自分の瞳を失ってまで、僕を助けてくれた」
俺は自分の右目に巻かれている包帯に左手を添えた。
右目の視界は何も見えない。
ちなみに、奴の鎌には猛毒が付着していたらしく、戦闘後はまじで痛かった。
「ラルクさんも………大切な人を奴に食われたんですよね?」
「…………あぁ」
「でも、貴方は奴を殺すというより、『取り戻す』想いが強かった」
「……………」
「……………まだ、生きているんですよね? その、大切な人も………僕の母さんも」
「…………本当にお前のお母さんが奴に食われたならな」
俺がそう言った瞬間、彼の瞳に確かな炎が宿った気がした。
家族を失って辛いはずなのに、悲しさを一切見せなかった。
「……じゃあ、決まりです。貴方に鍛えてもらって────いつか奴を討つ。そのまま、母さんと一緒に過ごせる世界を護る為に、その敵を倒します」
「………本当に良いのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
「このまま適当に生きても、それは僕にとって死んでいると同義です」
俺は彼が全く子供には見えなかった。
これは憶測にすぎないが、彼のおじさんがとても凄い人だったのだろう。
そこら辺にいる大人なんかよりもずっと芯が出来ていて、立派だ。
俺なんか彼女を失った時は………いや、辞めておこう。思い出したくない。
………俺が【英雄】……か。
「……そうか。分かった。これからよろしくな」
「! はい!!」
俺達は堅い握手を交わし、お互いに笑顔を見せるのであった。
───────否、一人は嘘の笑顔であった。
⊂⊃<>⊂⊃<>⊂⊃<>
「ぐっ………」
「一旦休憩にするか?」
「いえ………もう一回お願いします!!」
鍛え始めて十年。
あの少年も、もう十七歳だ。
あの頃の小さい姿が目に浮かぶ。
「ぐうっ………」
「だから言ったろ? 『魔剣』如き皆使えるから、あんま意味ないんだよ」
この世界での戦闘方法は主に二つ。
武器を持って相手に近づき、相手を斬ったり、穿ったりするか、『魔法』で遠距離から攻撃して、近づけなくするか。
武器には大体金属が取り付けられている。
その部分の色は大体銀色。だが、この世界では色を変えられる。
─────いや、少し違うか。色を自分の力で変質させるのだ。
銀の────とりあえず剣で例えようか。
銀の刀身から、紫の刀身へ。
紫の刀身から黄金の刀身へ。
黄金の刀身から白の刀身へと変えられる。
色が変わる事に剣の威力はどんどんと増していく。
それぞれの色の状態には名前がついている。
紫の刀身は『魔剣』。
黄金の刀身は『王剣』。
白の刀身は『天剣』。
それぞれへと至るにはきちんとした条件がある。
現状で、一般の冒険者の十分の一が『魔剣』状態だ。
昔は全然『王剣』もいたのだが、既にそう言った者達は続々と引退している。
まあ、肉体の全盛期は二十代前半から三十代前半。
時代も戦いの時代じゃなくなったしな。
『天剣』────この状態の者は世界に一握りの者達だ。
だが、かつての【頂点】『アルバート・クレセリア』はこう説いた。
『天剣へと至りし者すら若葉に過ぎない。真なる強き者は天をも越し、自らの剣へと昇華させる』
『天剣』よりも、上の位があるのだ。
俺が持つ白銀の剣、『破魔』もそうだ。
………いや、おそらく世界で俺だけだろう。
『絶剣』。
この領域に至った者は現状俺しかいない。
なぜならどこの国の『禁書庫』にも載っておらず、冒険者や、国の騎士達すら至れていない。
だが、俺は思う。
かつてのアルバートも俺と同じ領域なのではないか………と。
条件は────まあ、大体察しはついてる。
ちなみにレオンはまだ『魔剣』までしか行けていない。
それでも、今の平和な時代に『魔剣』にいけるだけでも凄いことだ。
「ハァ………ハァ………。ちょっとキツイ…」
「分かりました! ちょっと水を飲みに行ってきます!!」
「おう………」
そろそろ駄目そうだと、俺は思った。
命を受けてから既に十六年。
あの時ですら全盛期の半分程度しかなかったが、今の俺はもう本当にヤバい。
技術はあっても、身体能力がソレに追いつかないのだ。
右目と、右腕を失い………全盛期になんて全く及ばない。
まあ、こうなることは分かっていたことだ。
だから、彼を育ててる。
「ラルク師匠!! もう一戦お願いします!!」
「分かった。……休んだんだから、元気いっぱいだよな?」
「えーと……、疲れがまだあるって言うか……なんて言うか………」
「…………。元気そうだな! いくぜ?」
「え、ちょ、ちょっとぉぉぉ?!?!」
「問答無用!!!」
彼が世界を救えるかなんて分からない。
彼がどこまでの想いを持つかによって、全ては決まる。
なら、俺も応えようじゃないか。
世界の命運は彼に託されている。
彼は母を助け、平和な世界で暮らしたいと、そう想っている。
俺だって、リメルアを救って、平和な世界でそろそろ気ままに暮らしたい。
そのためには、彼を限界まで鍛え上げて、敵を討つ。
それしかもう、手がない。
終末の時計は刻々と進んでいる。
だが、希望の秒針だって、少しずつ歩んでいるんだ。
もう一度、世界を救ってやるよ。
〜〜〜元世界最強の俺が弟子を育てようと思う〜〜~
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これにて、一応プロローグは完結ですが…………好評であれば、続きを書きます!
『叙事詩の進行』よりは短くする"予定"です笑
今回のお話の主人公は、ラルクと、レオンの二人。
ラルクは自分の最愛を救い、平和な世界で暮らすために。
レオンは自分の母親を救い、平和な世界で暮らすために戦います。
対する敵は、元『魔帝之席』の残党+新たな敵の卵。
戦力差はラルクが衰弱しているため、圧倒的に『魔』が有利ですが…………まあ、一応主人公なんで、なんとかなりますよ! きっと!笑
この作品が好評になることを願ってます!!
では!!




