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八話 未来へ


 瑞稀が怪異と対峙していた頃、葵もまた向き合わなければいけない問題と対峙していた。


「母さん、どうしてここへ?」


 周囲に人影を従えた九条葵の母親がそこにはいた。

両手は呪いに冒されて黒く染まっており、顔の一部まで侵食を進めている。


「葵、あなたは生贄なのよ。ただ黙って命令に従ってあそこにいればいいの」


「断る。僕はもう自由に生きるんだ」


「母親に対して、なんて生意気なの‼ 【石狩王帝いしかりおうてい】様に逆らうのなら、あなたなんて息子じゃない‼」


 家族と戦いたくない。でも僕は、僕の夢を掴みたい。その為に必要ならば、何が何でもそこを押し通る。


「何を今さら! 好きにしろ!」


 ずっと僕を見てこなかったくせに、今さら息子扱いをやめるというのは変な話だ。家族じゃないと言うのなら、なおさら僕の好きにさせてもらおうか。


「もう逃げない。諦めない。僕の運命は、僕が決めるッ!」


 今まで見ようとしなかった自分の未来を見据え、僕は覚悟を決めた。


「かごめかごめ、籠の中の鳥は」


 唄を歌い始めると、僕は大きな籠の中にいた。その中に彼はいた。能面をつけた存在は、ずっと僕のそばにいてくれた。辛いときは何度もこの籠の中で蹲った。ここにいると、何故か寂しくなかったから。何か分からないままの存在と共有していた時間は確かにあった。


 でも今改めてここに来ると、瑞樹さんの言っていた彼の正体が分かった気がする。


「後ろの正面だ〜れ」


 唄が終わる。だがいつもと違い、籠が崩れて中にいる僕の方へ倒れてきた。慌てて逃げようとするが、間に合わない。その時、彼は僕のもとに近づいて、落ちてくる金属から庇ってくれた。


 ふと上を見ると、彼はこちらを覗いていた。そして、能面が少しずれたかと思うと、その隙間から人の顔が見えた。


「僕のことをずっと見守っていてくれたんだね、


 能面の下には父さんの顔があった。その表情は憎しみに満ちたものではなく、満足そうにこちらを見つめていた。


「今までありがとう」


 僕の言葉に反応するかのように、父さんは微笑んだ。


 悲劇、僕達の感動的な場面を汚すように、人影が四方から襲う。しかし、父さんが空間を裂いたかと思うと、その隙間にすべての影が吸い込まれていった。その場に残ったのは、僕と父さんと、そして母さんだけだ。


「二人ともごめん。僕、行くね」


 僕の背後で、母さんは父さんに身を寄せていた。きっとこれで大丈夫。後は僕のやり残したことをするだけだ。だから母さん、また今度しっかり話をしよう。


 これからの話を今度こそ。


 ***


「よしッ、結界は間に合った‼」


 葵の戦いが終わり、無事に結界が再展開されていくか、私は対峙する【お陰様】から視線を向ける。人影は今なお生み出されており、攻撃は果てしなく続いている。


 今度はこちらから攻めようと、隠していた手札を取り出そうとした。私の切り札は異空間に閉まってある銃だ。


「え、使えない?」


 本来、銃使用のための妖力を今の私は持っているはずだった。しかし、一度目の【お陰様】と対峙した時、能面の気配に反射的に銃を取り出したことで、それがまだ回復し切っていなかった。


 誓いが私の最優先事項に切り替わり、命すら厭わない覚悟で祓おうした、その時だった。


 部屋を埋め尽くすほどの人影が一斉に私を押し寄せる中、突如として目の前に現れたのは村の近くで見つけた地蔵だった。


「やはりお天道様はずっと見てくれているらしいね」


 地蔵が輝きを灯して消えたかと思うと、それに触れた人影が全て消滅していく。私の力とは違う、神の力であるそれは、触れた私にも影響を与えた。


「これで使える」


 無くなっていた妖力は地蔵によって回復され、それにより銃を取り出すことに成功する。


「少年、後は私に任せておけ」


 ────誓いは果たすさ。


 答え合わせは済んだ。取り込んだ生贄を自らの使役し、影として操る能力が【お陰様】の能力だ。村の人に現れた症状も、この怪異の能力の一部だろう。だからあの影に御札は効かなかったのだ。本体ではなく分身だったから。


「策を弄したみたいだが、残念だな。彼は一度これを見ている」


 慣れた手つきで回転式拳銃のシリンダーを確認すると一発だけ入っている。


 これで十分だ。さぁ、フィナーレといこうじゃないか。


「少年、使命も運命も私が全て断ち切ってやる。だから、生きろ!」


 引き金を引くと同時に、瑞樹の回転式拳銃から本像に向けて一発の弾丸が放たれた。


「穿て‼」


 黄金の輝きを携えたそれは瑞樹を囲んでいた影を照らして消滅させていく。


 九条葵の今を、生きることを、夢を阻んだそのすべての元凶である【お陰様】は、瑞樹の夢の前に敗北を決した。


 怪異の消滅を確認した瑞稀は銃をしまうと、煙草を取り出して口に咥える。仕事終わりの最高の一服、マッチを使って火をつけた煙草の煙は、怪異消滅の煙に巻き込まれて消えていく。


 この仕事についてからつくづく思うのだ、命の危機を感じてから吸う煙草は格別だと。割に合わない仕事を続ける理由の何割かは、これな気がする。


 私は異常者だ。


 だからこそ、私はこの仕事が大好きだ。


【葵の父について】

子供の頃に起きた父の死は葵のせいではありません。本当に不幸な事故です。彼の能力が発動する(した)のは誰かに危機が迫ったときだけなので、無関係なのです。


ただし、今まで自分の歌で誰かを傷つけた事があったため、葵は呪われていると思っていました。


昔の能力では、今のように何かが現れるとかではなく、単純に小さな怪我をさせるくらいしか起きていません。


本当に余談ですが、メンタルが減らっていないときの母親はまともでした。

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